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更新日 2026-08-13 経理と確定申告

帳簿は何のためにつけるのか──財産と儲けが同じ取引から出てくる仕組みと、65万円控除とのつながり

「帳簿は税務署に出すためのものだから、会計ソフトに任せておけばいい」。そう考えて、自分の決算書を一度も読まないまま何年も過ぎてしまう人がいます。

帳簿は提出物というより、自分の商売の状態を映す道具です。1件の取引を左と右に分けて書いていくと、いま何を持っているか(貸借対照表)と、1年でいくら儲かったか(損益計算書)が、同じ帳簿から同時に出てきます。

この記事の結論

  • 帳簿をつける目的は財産と儲けを同時につかむこと。この2つは別々に数えるものではなく、同じ取引から出てくる
  • 1件の取引を借方(左)と貸方(右)に分けて記録するやり方を複式簿記という。難しいのは名前だけで、やっていることは左右に分けて書くこと
  • 事業所得・不動産所得・山林所得のある人は、白色申告でも記帳と帳簿の保存が義務。青色申告の人だけの話ではない
  • 令和8年分の確定申告までは、複式簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を期限内に出せば青色申告特別控除55万円、e-Taxで送れば65万円。簡易な記帳だけだと10万円にとどまる
  • 令和9年分の確定申告からは75万円・65万円・10万円の3段階に変わり、書面で申告した場合の上限は10万円になる
  • 会計ソフトを使えば、複式簿記は仕訳を入力するだけで成立する。簿記検定に受かる必要はない
  • 青色申告の帳簿は7年保存が基本。売上の帳簿がないと、申告漏れが見つかったときの加算税が重くなる

1. 帳簿は税務署のためではなく、自分の商売を見るためにつける

帳簿をつける動機は、たいてい「確定申告で必要だから」から始まります。それは間違いではありませんが、それだけだと、1年に一度の作業に時間を使って何も持ち帰らないことになります。

事業をやっている人が本当に知りたいのは、次の2つです。

  • いま、いくら持っているのか(現金、預金、まだ回収していない売掛金、機材、そして返さないといけない借入金)
  • この1年で、いくら儲かったのか(売上から経費を引いた残り)

この2つを出すことが、帳簿の目的です。国税庁のパンフレットにも、帳簿の記帳は税金の計算のためだけでなく、事業経営の合理化・効率化の検討にも役立つと書かれています。

そして儲けのほうは、簡単に見えて意外と出しにくい数字です。通帳の残高が増えていても、それは借入金が入っただけかもしれません。逆に、残高が減っていても、機材を現金で買っただけで儲かっている年もあります。お金の増減と儲けは別物なので、両方を同時に追いかける仕組みが必要になります。

2. 帳簿をつけること自体が、法律で決まっている

「青色申告にしていないから帳簿はいらない」という理解は誤りです。事業所得、不動産所得または山林所得を生ずべき業務を行うすべての人に、記帳と帳簿等の保存が義務づけられています。所得税の申告が必要ない人も対象です。

白色申告の場合は、取引の年月日、相手方の名称、金額などを帳簿に記載します。1件ずつではなく日々の合計金額をまとめて書くような簡易な方法でもかまいません。青色申告の場合は、年末に貸借対照表と損益計算書を作れる正規の簿記によるのが原則ですが、現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳などを備えて簡易に記帳するやり方も認められています。

保存期間は次のとおりです。

青色申告の帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳など) 7年
青色申告の決算関係書類(損益計算書、貸借対照表、棚卸表など) 7年
青色申告の現金預金取引等関係書類(領収書、預金通帳など) 7年(前々年分の事業所得・不動産所得の金額が300万円以下なら5年)
青色申告のその他の書類(請求書、見積書、契約書、納品書など) 5年
白色申告の法定帳簿(収入金額や必要経費を記載した帳簿) 7年
白色申告の任意帳簿・請求書・領収書などの書類 5年

加えて、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、扱いが厳しくなりました。売上げに関する帳簿を保存していなかった場合や、帳簿の売上げの記載が不十分だった場合には、申告漏れに対する過少申告加算税・無申告加算税の割合に5%または10%が上乗せされます。帳簿をつけないことには、はっきりとした金銭的なペナルティがついています。

3. 財産と儲けは、同じ1件の取引から同時に出てくる

ここが簿記の中心です。取引は1件でも、そこには必ず2つの顔があります。

たとえば、12万円の仕事を納品して、代金を現金で受け取ったとします。

  • 財産の顔:手元の現金が12万円増えた
  • 儲けの顔:売上が12万円立った

同じ1件の出来事を、財産の側と儲けの側から見ているだけです。だから、この2つを同時に書き留めておけば、財産の記録と儲けの記録が同時に積み上がっていきます。逆に片方しか書かないと、あとからもう片方を復元できなくなります。

今度は、10万円の機材を現金で買った場合です。

  • 財産の顔:現金が10万円減り、代わりに機材という財産が10万円増えた
  • 儲けの顔:この時点では儲けは動かない(使う年数に応じて減価償却費として費用になる)

通帳だけを見ていると「10万円減った、損した」と感じますが、財産の総額は減っていません。お金の出入りと儲けを分けて見られるようになることが、帳簿をつける実利です。

4. 左と右に分けて書く、それだけが複式簿記の中身

複式簿記という言葉は身構えさせますが、決まりはひとつです。1件の取引を、左(借方)と右(貸方)に同じ金額で書き分ける。それだけです。

どちらに書くかは、次の対応で決まります。

左(借方)に書く 資産が増えた/負債が減った/費用が発生した
右(貸方)に書く 資産が減った/負債が増えた/収益が発生した

さきほどの例をあてはめると、こうなります。

  • 12万円の売上を現金で受け取った → 左:現金 120,000/右:売上 120,000
  • 事務所の家賃3万円を現金で払った → 左:地代家賃 30,000/右:現金 30,000
  • 銀行から100万円借りた → 左:普通預金 1,000,000/右:借入金 1,000,000

どの取引も、左と右の金額が必ず同じになります。この「必ず釣り合う」という性質が、あとで記録の抜けを見つける手がかりになります。左右の合計が合わないときは、どこかの取引を片方しか書いていないか、金額を打ち間違えているかのどちらかです。

なお、左右のどちらに書くかを覚えるより先に、「この支出はどの科目に入れるのか」で手が止まる人のほうが多いはずです。そこは次の記事にまとめてあります。

5. 仕訳から決算書までは、集計して分けるだけ

日々の記録が決算書になるまでの道のりは、思ったより単純です。

  1. 仕訳:取引を1件ずつ、左と右に分けて記録する
  2. 総勘定元帳:仕訳を勘定科目ごとに集めて、科目別の残高を出す
  3. 試算表:全科目の残高を1枚に並べ、左右の合計が一致するか確かめる
  4. 決算書:試算表を、資産・負債・元入金の行は貸借対照表へ、収益・費用の行は損益計算書へ振り分ける

つまり決算書は、新しく作るものではなく、1年分の仕訳を集計して2枚に分けただけのものです。

この2枚がつながっていることは、国税庁の様式そのものから確かめられます。所得税青色申告決算書(一般用)の4ページ目にある貸借対照表を見ると、負債・資本の部の下のほうに「青色申告特別控除前の所得金額」という欄があります。1ページ目の損益計算書で計算した儲けが、そのまま貸借対照表に入ってくる作りになっています。

同じ様式には、開業時などに入れる「元入金」について、「期首の資産の総額」から「期首の負債の総額」を差し引いて計算する、という注記もあります。財産の記録と儲けの記録が別々のものではないことが、書式の上でも見て取れます。

6. 複式簿記で記帳すると、青色申告特別控除の入口に立てる

複式簿記が推奨されるいちばん現実的な理由は、税額に直結するからです。青色申告特別控除は、所得金額からそのまま差し引ける控除で、令和8年分の確定申告までは次の3段階になっています。

10万円 下の2つの要件に当てはまらない青色申告者
55万円 事業としての事業所得または不動産所得があり、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳し、そこから作った貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添えて、翌年3月15日の申告期限までに提出すること
65万円 55万円の要件に加えて、e-Taxで申告書等を期限までに送信するか、仕訳帳・総勘定元帳について優良な電子帳簿の要件を満たして保存し届出書を出すこと

10万円と65万円の差は55万円です。所得税と住民税を合わせた実効的な負担率が20%なら、それだけで年11万円前後の差になります。複式簿記は、資格のためではなく、この差を取りに行くための条件です。

注意点として、現金主義による所得計算の特例を選んでいる人は、55万円・65万円の控除を受けられません。また、還付申告であっても、期限(翌年3月15日)までに出さないと55万円・65万円の適用は受けられません。

7. 令和9年分から、控除額の分かれ道が変わる

ここは旧来の解説記事と食い違うところなので、切り分けて書きます。令和9年分の確定申告からは、青色申告特別控除の枠組みが次のように変わります。

10万円 簡易な記帳による青色申告者。ただし、事業所得または不動産所得(事業として行われているもの)について、前々年分の収入金額が1,000万円を超える場合は適用できない
65万円 正規の簿記の原則により記帳し、確定申告書と青色申告決算書(貸借対照表を含む)のデータを、申告期限までにe-Taxで送信すること
75万円 65万円の要件に加えて、優良な電子帳簿の保存またはデジタルシームレス保存を行い、あらかじめ届出書を提出すること

変わる点をまとめると、次の3つです。

  • 55万円の区分が無くなる。令和8年分までは書面申告でも55万円が使えましたが、令和9年分以後は書面で申告した場合の上限が10万円になります
  • 最高額が75万円になる。ただし優良な電子帳簿かデジタルシームレス保存が条件で、どちらも事前の届出書が必要です
  • 簡易な記帳の10万円に、規模の線が引かれる。前々年分の収入金額が1,000万円を超える人は、簡易簿記のままだと控除が0円になります

売上が1,000万円に近づいている人ほど、早めに複式簿記とe-Taxへ移しておいたほうが安全です。会計ソフトを入れて記帳の型を作るのに、数か月はかかります。

8. 会計ソフトを使えば、複式簿記は「入力するだけ」になる

複式簿記と聞くと、総勘定元帳や試算表を手で作る場面を思い浮かべるかもしれませんが、いまは違います。会計ソフトに仕訳を入力すれば、総勘定元帳への転記も、試算表の集計も、損益計算書と貸借対照表への振り分けも自動で行われます。国税庁自身も、記帳にあたっては会計ソフトの利用を勧めています。

銀行口座やクレジットカードと連携させれば、入出金の明細が自動で取り込まれ、あとは科目を確認するだけ、という状態にできます。複式簿記を身につけるというより、複式簿記の形で記録が残る道具を使う、と考えたほうが実態に近いはずです。

そのうえで、人が判断するところは2つだけ残ります。この支出は事業のものか、家事のものか。そして、どの勘定科目に入れるか。ここはソフトが代わりに決められません。次の記事で、科目の決め方を整理しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 簿記検定に受からないと、複式簿記で記帳できませんか

いいえ。青色申告特別控除の要件は「正規の簿記の原則により記帳していること」であって、資格の保有ではありません。会計ソフトに取引を入力していけば、出来上がるのは複式簿記の帳簿です。検定は理解を助けますが、条件ではありません。

Q. 白色申告なら、帳簿はつけなくていいですか

つけなければなりません。事業所得・不動産所得・山林所得を生ずべき業務を行うすべての人に記帳義務があり、所得税の申告が必要ない人も対象です。白色は簡易な方法で記載できるという違いがあるだけで、記帳そのものを免除されているわけではありません。

Q. 貸借対照表と損益計算書、どちらを先に見ればいいですか

まずは損益計算書で1年の儲けを見て、次に貸借対照表で「その儲けがどこに化けたか」を見る順番が分かりやすいはずです。利益が出ているのに現金が残っていない年は、売掛金や在庫、機材の購入、借入金の返済にお金が回っています。それが見えるのが貸借対照表です。

Q. 帳簿と領収書は、何年とっておけばいいですか

青色申告なら帳簿と決算関係書類は7年、請求書・見積書・契約書・納品書などは5年が基本です。白色申告なら法定帳簿が7年、その他は5年です。なお、消費税の課税事業者が仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等は、上記にかかわらず7年です。

Q. 途中から複式簿記に切り替えられますか

切り替えられます。ただし青色申告特別控除の55万円・65万円は「その年の取引を正規の簿記の原則により記帳していること」が要件なので、年の途中から始めた場合は、その年の期首にさかのぼって入力し直す必要があります。年明けに気づいたなら、前年分は10万円で締めて、当年分から整えるほうが現実的です。

まとめ

  • 帳簿の目的を「財産と儲けの両方を出すこと」と置き直す。通帳の残高だけを見ていても、儲けは分からない
  • 1件の取引を左と右に分けて書く。複式簿記の中身はこれだけで、左右が釣り合うことが記録の抜けを見つける手がかりになる
  • 白色申告でも記帳と保存は義務。売上の帳簿がないと加算税が5%または10%上乗せされる
  • 青色申告なら、複式簿記+期限内提出+e-Taxで65万円を取りに行く。簡易な記帳のままだと10万円にとどまる
  • 令和9年分から75万円・65万円・10万円の3段階になり、書面申告の上限は10万円に下がる。前々年分の収入金額が1,000万円を超える人は、簡易簿記だと控除が0円になる
  • 会計ソフトを入れて、口座とカードを連携させる。複式簿記の形の帳簿は、入力すれば自動で出来上がる
  • 帳簿は7年、請求書などは5年保存する。保存場所を最初に決めておくと、あとで探し回らずに済む

この記事の主な根拠(出典)

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この記事の位置づけ

この記事は「2 仕訳が決算書になるまで」の詳細です。

確定申告は、2種類の書類を作る作業です——コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。

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