源泉徴収とは何が引かれているのか──報酬をもらう側の対象範囲・税率10.21%・確定申告での精算
請求書は30万円で出したのに、振り込まれたのは269,370円だった。差額の30,630円はどこへ行ったのか。
それは取引先が抜いたのではなく、あなたの代わりに国へ納めた税金です。源泉徴収は所得税と復興特別所得税の前払いで、引かれすぎていれば確定申告で戻り、足りなければ追加で納めることになります。
この記事の結論
- 報酬から引かれるのは所得税および復興特別所得税だけ。住民税や社会保険料は含まれない
- 対象は法律で決まっている。原稿料、デザイン料、講演料、著作権の使用料、弁護士・税理士等の報酬などが並ぶ
- 税率は10.21%。同じ人に1回に支払われる金額が100万円を超える部分は20.42%
- 同じ仕事でも取引先によって引かれたり引かれなかったりする。従業員に給与を払っていない個人事業主からの支払いは対象外
- 請求書で報酬額と消費税額を分けて書いておけば、消費税を除いた金額を対象にできる
- 引かれた分は確定申告で精算する。必ず戻るわけではなく、所得が多ければ追加で納める
- 支払調書は本人に渡す義務がない。届かなくても、自分の請求書と入金記録から集計する
- 人を雇う側に回ったら、給与支払事務所等の開設届出書を1か月以内に出す
1. 源泉徴収は、支払う側が先に預かって納める仕組み
源泉徴収とは、報酬や給与を支払う人が、支払いの際に所得税を差し引いて、翌月10日までに国へ納める仕組みです。差し引く義務を負う人を源泉徴収義務者といいます。
ここで押さえておきたいのは、引かれているのが所得税および復興特別所得税だけだという点です。住民税は市区町村が別に課税するもので、報酬から天引きされることはありません。社会保険料も引かれません。「税金全般が引かれている」と思っていると、あとで住民税の納付書が届いたときに二重取りされたように感じてしまいます。
復興特別所得税は、所得税額に2.1%を上乗せするものです。平成25年から令和19年(2037年)までの各年分が対象とされています。報酬の税率が10%ではなく10.21%という半端な数字なのは、この2.1%が乗っているからです。
2. どんな報酬が源泉徴収されるのか
対象は所得税法204条1項に列挙されています。自分の仕事が当てはまるかどうかは、この並びで確認します。
| 1号 | 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み、デザインの報酬、放送謝金、著作権や工業所有権の使用料、講演料など |
| 2号 | 弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士などの業務に関する報酬 |
| 3号 | 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 |
| 4号 | プロ野球選手、モデル、外交員、集金人、検針人などの報酬 |
| 5号 | 映画、演劇、テレビ放送などへの出演・演出・企画の報酬 |
| 6号 | ホステス等の業務に関する報酬 |
| 7号 | 役務の提供を約することにより一時に取得する契約金 |
| 8号 | 広告宣伝のための賞金、馬主が受ける競馬の賞金 |
フリーランスに関係が深いのは1号です。ライターの原稿料、イラストの報酬、デザイン料、講演料、写真やイラストの使用料などがここに入ります。名目が謝金、取材費、調査費、車代であっても、実質が報酬と同じものなら対象になります。通常必要と認められる範囲の旅費や宿泊費も原則として含まれますが、支払者が交通機関やホテルへ直接支払った分は除いて差し支えないとされています。
逆に、この列挙に入っていない仕事は源泉徴収されません。Webサイトの制作費でも、デザイン料に当たる部分と、プログラムの開発費に当たる部分では扱いが変わります。ここは支払う側が判断するところなので、請求書の内訳を分けて書いておくと相手が困りません。
3. 税率は10.21%、100万円を超える部分は20.42%
1号などの報酬にかかる税率は、所得税10%に復興特別所得税を上乗せした10.21%です。ただし、同じ人に1回に支払われる金額が100万円を超える場合、その超える部分については20%に上乗せした20.42%になります。
| 支払金額が100万円以下 | 支払金額 × 10.21% |
| 支払金額が100万円超 | (支払金額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円 |
150万円の原稿料なら、(150万円 − 100万円)× 20.42% + 102,100円 = 204,200円が差し引かれます。100万円という区切りは年間合計ではなく、1回の支払いごとの判定です。支払いが分かれれば前払いの額も変わりますが、動くのは前払いの額だけで、最終的な税額は確定申告で同じところに着地します。
なお、司法書士、土地家屋調査士、海事代理士の報酬や、外交員、集金人、ホステス等の報酬、広告宣伝の賞金などは、一定額を差し引いた残額に10.21%を掛ける形になり、100万円超の区分もありません。自分がここに当たるなら、計算式が違うことを覚えておきます。
4. 引かれる取引先と引かれない取引先がある
同じデザインの仕事なのに、A社は引いてきてB個人事業主は引いてこない。これはどちらかが間違えているとは限りません。
所得税法204条2項2号は、1号から5号、7号、8号の報酬について、給与等について源泉徴収義務を持つ個人以外の個人から支払われるものは対象外としています。言い換えると、こうなります。
| 取引先が法人 | 対象の報酬なら源泉徴収される |
| 取引先が個人で、従業員に給与を払っている | 源泉徴収される |
| 取引先が個人で、従業員がいない(給与を払っていない) | 源泉徴収されない |
国税庁も、会社員が確定申告のために税理士へ報酬を払っても源泉徴収は不要である、という例を挙げています。ひとり社長の法人から仕事を受ければ引かれ、ひとりで働く個人事業主から受ければ引かれない。振込額が案件ごとに違う理由の多くは、これです。
引かれなかったからといって、その報酬が非課税になるわけではありません。前払いがない分、確定申告のときにまとめて納めることになります。
5. 請求書にどう書くか
源泉徴収の対象になる報酬は、消費税等を含めた金額が原則です。ただし、請求書等において報酬・料金の額と消費税額等が明確に区分されている場合には、報酬・料金の額のみを源泉徴収の対象としても差し支えないとされています。
つまり、請求書を次のように分けて書いておけば、税抜の金額で計算してもらえます。
| デザイン料 | 300,000円 |
| 消費税(10%) | 30,000円 |
| 小計 | 330,000円 |
| 源泉徴収税額 | △30,630円 |
| お振込金額 | 299,370円 |
税込の330,000円を対象にすると33,693円になるので、3,063円だけ手元に入る金額が変わります。前払いが増えるだけで最終的な税額は変わりませんが、資金繰りには効きます。書き方ひとつなので、消費税を分けて書く習慣にしておきます。
源泉徴収税額を請求書に書くかどうかは、義務ではありません。ただ、書いておくと支払う側の計算間違いが減り、差額の問い合わせも起きにくくなります。
6. 引かれた分は確定申告で精算される
源泉徴収された税額は、確定申告書の「源泉徴収税額」の欄に集計して書きます。1年間の所得から計算した本来の所得税額と突き合わせて、多く納めていれば還付、足りなければ追加で納付です。
ここは旧来の説明でよく雑に書かれるところなので、正確に書きます。源泉徴収されたお金が必ず戻ってくるわけではありません。報酬が年間700万円で経費が少なければ、10.21%の前払いでは足りず、申告のときに不足分を納めます。戻ってくるのは、経費や所得控除を差し引いた結果、本来の税額が前払い分より小さかったときだけです。
還付になる場合、確定申告書の提出義務がない人でも申告すれば還付を受けられます。この還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。過去の年で書き忘れた源泉徴収税額があるなら、まだ間に合う可能性があります。
集計を落とすと、そのまま損になります。取引先ごとに「請求額・源泉徴収税額・入金額」を並べた一覧を作り、入金のたびに埋めていくのがいちばん確実です。
7. 支払調書は、送ってもらえるとは限らない
年明けに支払調書が届く取引先と、届かない取引先があります。届かないほうが不親切なのではなく、そもそも本人へ交付する義務がありません。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書は、所得税法225条1項により支払者が税務署へ提出する書類です。提出範囲は、弁護士や税理士等の報酬、原稿料等であれば、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるものとされています。
一方、支払を受ける本人への交付が義務付けられているのは、同条2項に挙げられたごく限られたものだけで、報酬の支払調書はそこに含まれていません。給与のほうは、源泉徴収票を本人に交付することが所得税法226条ではっきり義務付けられています。給与の源泉徴収票は届くのに報酬の支払調書は届かないのは、この差です。
したがって、支払調書が届くのを待って確定申告を始める必要はありません。自分の請求書控えと通帳の入金額から集計すれば足ります。むしろ、支払調書が来ないから申告できないと止まってしまうほうが問題です。
8. 支払う側に回ったとき(人を雇う、外注する)
事業が育つと、今度は自分が源泉徴収義務者になります。順番はこうなります。
- 給与の支払いを始めたら、給与支払事務所等の開設届出書を出す。開設の事実があった日から1か月以内に、所轄税務署へ提出します
- 毎月、源泉徴収税額表で税額を引く。給与の額と扶養親族等の数から求めます。金額を自分で決めるものではありません
- 翌月10日までに納付する。給与も報酬も、原則はこの期限です
- 納期の特例を検討する。給与の支払を受ける者が常時10人未満であれば、申請書を出して承認を受けることで、1月から6月までの分を7月10日、7月から12月までの分を翌年1月20日にまとめて納付できます
この納期の特例には、旧来の解説でよく誤って書かれている点が2つあります。1つは対象者で、常時2人以下ではなく常時10人未満です。もう1つは対象となる税額の範囲で、給与と退職手当のほかは、弁護士、税理士、司法書士などの報酬から源泉徴収した分に限られます。ライターやデザイナーへ払う原稿料・デザイン料は納期の特例の対象外なので、承認を受けていても翌月10日までに納めます。ここを取り違えると、納期の特例を受けているつもりで納付が遅れます。
外注先への支払いが源泉徴収の対象になるかどうかは、あなたが給与を払っているかどうかで変わります。従業員も専従者もいない個人事業主のうちは、デザイン料や原稿料を払っても源泉徴収は不要です。人を雇った月から、その判断が変わることになります。
よくある質問(FAQ)
Q. 取引先が源泉徴収を忘れていました。あとから請求されますか
源泉徴収して納付する義務は支払う側にあります。そのため税務署は支払う側に納付を求め、支払う側があなたに差額を請求してくるという流れになります。受け取ったお金をそのまま使ってしまうと、あとで返す形になりかねません。対象になりそうな報酬なのに満額で振り込まれたら、確定申告のときに自分で納めるお金として置いておくのが安全です。
Q. 会社員をしながら副業で報酬をもらっています。源泉徴収されていれば申告は不要ですか
不要にはなりません。源泉徴収は前払いにすぎず、精算していない状態です。給与以外の所得の合計額が一定額を超えれば確定申告が必要になりますし、超えない場合でも申告すれば納めすぎた分が戻ることがあります。
Q. 消費税は源泉徴収の対象になりますか
原則としては消費税等を含めた金額が対象です。ただし、請求書等で報酬・料金の額と消費税額等が明確に区分されていれば、報酬・料金の額のみを対象として差し支えないとされています。請求書で分けて書いておけば、その分だけ手取りが増えます。
Q. 源泉徴収された金額が、自分の計算と1円ずれています
消費税を含めた金額で計算しているか、税抜で計算しているかで差が出ます。300,000円に消費税30,000円なら、税抜対象は30,630円、税込対象は33,693円です。どちらで計算したのかを取引先に確認すれば、たいていはここで説明がつきます。
Q. 支払調書がもらえません。どうやって金額を確認しますか
自分の請求書控えと通帳の入金額から逆算します。請求額と入金額の差が源泉徴収税額です。取引先に「今年の源泉徴収税額の合計を教えてほしい」と依頼することもできますが、応じる義務はないので、自分の記録で作れるようにしておくのが確実です。
まとめ
- 引かれているのは所得税と復興特別所得税だけ。住民税や社会保険料は別で来ると考えておく
- 自分の仕事が所得税法204条1項の列挙に当たるかを確認する。原稿料、デザイン料、講演料、著作権の使用料などが対象
- 税率は10.21%、1回の支払いが100万円を超える部分は20.42%で計算する
- 取引先が法人か、給与を払っている個人かで源泉徴収の有無が変わる。引かれなかった分は自分で納める前提で置いておく
- 請求書は報酬額と消費税額を分けて書く。税抜の金額を対象にしてもらえる
- 取引先ごとに請求額・源泉徴収税額・入金額の一覧を作り、入金のたびに埋める
- 支払調書は待たない。本人への交付義務はないので、自分の記録から集計して申告する
- 人を雇ったら、給与支払事務所等の開設届出書を1か月以内に出す。納期の特例は常時10人未満が条件で、原稿料やデザイン料は対象外
この記事の主な根拠(出典)
- 国税庁 タックスアンサー No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(対象となる報酬の範囲、消費税等を区分記載した場合の取扱い)
- 国税庁 タックスアンサー No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき(10.21%と20.42%、102,100円を加える計算式、謝金や車代・旅費の扱い)
- 国税庁 タックスアンサー No.2502 源泉徴収義務者とは(給与について源泉徴収義務を持たない個人が支払う報酬は源泉徴収不要)
- 国税庁 タックスアンサー No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例(翌月10日、常時10人未満、7月10日と翌年1月20日、対象となる報酬の限定)
- 国税庁 タックスアンサー No.7431 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の提出範囲と提出枚数(弁護士・税理士等の報酬、原稿料等は年間5万円超で税務署へ提出)
- 国税庁 タックスアンサー No.2030 還付申告(納めすぎの還付、翌年1月1日から5年間提出できること)
- 国税庁 A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(事実があった日から1か月以内に提出)
- e-Gov法令検索 所得税法(204条の対象範囲と2項2号の除外、205条の税率、216条の納期の特例、225条の支払調書と交付対象、226条の源泉徴収票の交付義務)
- e-Gov法令検索 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興特別所得税の税率2.1%、令和19年分までの課税、源泉徴収の期間)
- ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります
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