一人で入ったカフェ代は経費になる?──「業務上必要」をどう説明するかで決まる境界線
「相手がいる打ち合わせなら経費、一人で入ったなら経費にならない」。カフェ代の話でよく聞く線引きです。
ただ、法令にそう書かれているわけではありません。一人で入ったカフェ代が経費になるかどうかに一律の答えはなく、その支出が業務についてどう必要だったのかを、記録で説明できるかどうかで決まります。
必要経費とは何か、生活のための支出とどこで分かれるのか、経費にすると税金がいくら減るのかという土台は経費とは何か──ただの出費との違いは「収入を得るため」かどうかにまとめています。この記事は、その土台を一人のカフェ代という1つの場面に当てはめたものです。
この記事の結論
- 一人のカフェ代を経費にできるかどうかを一律に決める規定はありません。所得税法37条の「業務について生じた費用」にあたるかを、支出ごとに見ることになります
- 生活と混ざる支出は家事関連費。業務上必要な部分が50%を超えるか、50%以下でもその部分を明らかに区分できるなら必要経費に算入できます(所得税法施行令96条、所得税基本通達45-2)
- 分かれ目は相手がいたかどうかではなく、そこにいる必要があったか。打ち合わせ、移動の合間、取材や調査で、説明の中身が変わります
- 飲食代のうち食事の部分は事業をしていなくても発生する支出と重なるため、業務分を区分する説明が重くなります
- 「一人5,000円まで会議費」は法人の交際費の話で、個人事業主には当てはまらない。しかもその金額は令和6年4月1日以後の支出について1万円に上がっています
- 記録に残すのは誰と・何のために・何をしたかの3点。レシートへの書き足しと帳簿の摘要を対にしておきます
- 説明できなければ所得が増え、過少申告加算税と延滞税が上乗せされます
1. 一人のカフェ代に、一律の正解はない
まず前提の確認です。国税庁が「カフェ代は経費になる/ならない」と名指しで示した基準はありません。判断に使えるのは、必要経費の一般的なルールだけです。
そのため、この論点を「経費にできます」と断定することはできませんし、「一人だからできません」と断定することもできません。できるのは、どういう場面なら、何を説明することになるのかを先に把握しておくことです。説明の材料は、支出した後には作れません。
2. 出発点は所得税法37条──「業務について生じた費用」か
所得税法37条1項は、必要経費に算入すべき金額を2つに分けています。売上原価その他その総収入金額を得るため直接に要した費用と、その年における販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用です。
カフェ代が売上原価にあたることはまずありません。後半の「業務について生じた費用」のほうを見ます。つまり問いは、その1杯の支出が、業務を進めるうえで生じたものだと説明できるかに絞られます。
ここで「相手がいたか」は、判断そのものではなく説明のしやすさに効く要素です。相手がいれば、誰と何の話をしたかという形で業務との結びつきを示しやすくなります。相手がいなければ、別の形で示します。それだけの違いです。
3. 生活と混ざるなら、家事関連費として区分する
所得税法45条1項1号は、家事上の経費とこれに関連する経費で政令で定めるものは必要経費に算入しないと定めています。政令にあたる所得税法施行令96条は、家事関連費のうち必要経費に入れられるものを次のように書いています。
| 施行令96条1号 | 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合の、その部分に相当する経費 |
| 施行令96条2号 | 青色申告の承認を受けている人について、取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費 |
「主たる部分」の中身は所得税基本通達45-2に書かれています。業務の遂行上必要かどうかは、その支出する金額のうち業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかで判定する。ただし、必要な部分が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その金額を必要経費に算入して差し支えない、とされています。
カフェ代に当てはめると、こうなります。休憩や食事という生活の面と、そこで仕事をしたという業務の面が同じ1枚のレシートに混ざっています。だから「全部が経費」か「全部が経費でない」かではなく、業務にあたる部分を区切って説明できるかという問いになります。
通達45-1は、区分の判定にあたって業務の内容、経費の内容、家族および使用人の構成、資産の利用状況などを総合勘案するとしています。1回ごとの支出を切り離して眺めるのではなく、その人の働き方全体のなかでどう位置づくかを見る、という書き方です。
4. 場面ごとに、何を説明することになるか
同じカフェ代でも、説明に使える材料は場面ごとに違います。判定の結論ではなく、何を用意することになるかという視点で整理します。
| 取引先や見込み客との打ち合わせ | 相手が誰か、何の案件かを示す。相手方の名前と用件が記録に残るため、業務との結びつきは説明しやすい |
| 訪問と訪問のあいだの待ち時間 | その日の訪問予定と時間を示す。外にいなければならない事情が予定表と結びつくため、なぜそこにいたかの説明が立てやすい |
| 取材・調査・視察としての利用 | 何を調べるために入ったかと、その結果できたもの(記事、企画書、仕入れの検討メモなど)を示す。成果物と支出が対応していると説明になる |
| 事務所や自宅があるのにカフェで作業した | なぜそこでなければならなかったかを示すことになる。移動の途中、来客対応、回線や工事の事情など、場所を変えた理由が要る |
| 買い物や私用のついでに立ち寄って休憩した | 業務と生活のどちらの色が濃いかを見る。生活寄りなら、家事上の経費として計上しない判断になる |
下の2つは、上の3つより説明の負担が重くなります。ただし重い=経費にできない、ではありません。通達45-2のただし書きが示しているのは、業務にあたる部分を区分して示せるなら算入して差し支えないということです。逆に、上の3つでも記録が何も残っていなければ、説明は成り立ちません。
5. ドリンクと食事で、説明の重さが変わる
1枚のレシートにドリンクと食事が並んでいるとき、この2つは性格が違います。
食事は、事業をしていなくても摂るものです。つまり家事上の経費と重なる度合いが高く、業務にあたる部分を区分する説明がその分だけ重くなります。一方でドリンク1杯は、そこで作業や打ち合わせをするために席を使う対価という説明が立てやすい支出です。
そこで実務では、レシートのうちドリンクの部分だけを業務分として計上し、食事の部分は計上しないという組み立てをとることがあります。これは「食事は経費にできない」という規定があるからではなく、施行令96条の「明らかに区分することができる」を満たしやすい形にしているということです。
相手がいる打ち合わせで軽食を伴った場合は、飲食の目的が打ち合わせにあったことを、相手と用件の記録で示します。この場合も、記録が無ければ一人の食事と外形は変わりません。
6. 「一人5,000円まで会議費」は、個人事業主の話ではない
カフェ代の説明でよく持ち出される「一人当たり5,000円以下なら会議費」という基準がありますが、これは2つの意味で当てはまりません。
- そもそも法人の制度です。この金額基準は交際費等の損金不算入制度(租税特別措置法61条の4)のもので、国税庁の説明も「法人が」その得意先などに対する接待等のために支出するもの、という書き方になっています。個人事業主の必要経費には交際費の枠という考え方がなく、所得税法37条と45条で判断します
- 金額も古いままです。交際費等から除外される飲食費の基準は、令和6年3月31日以前の支出は1人当たり5,000円以下でしたが、令和6年4月1日以後の支出については1万円以下に引き上げられています
したがって、個人事業主が「5,000円以内だから会議費として大丈夫」と考えるのは、根拠のない安心です。金額の多寡は業務上必要かどうかの判断に直接は関係しません。個人事業主の交際費の考え方は接待交際費に上限はある?個人事業主は青天井、でも否認される線引きにまとめています。
あわせて、勘定科目の選び方で経費かどうかが決まるわけでもありません。会議費にするか旅費交通費にするか雑費にするかは集計上の分類であって、必要経費にあたるかは条文で決まります。同じ性質の支出は同じ科目に入れておくと、あとから説明しやすくなるという程度の話です。
7. 記録に何を残すか──誰と・何のために・何をしたか
施行令96条2号は「取引の記録等に基づいて」と書いています。記録が無ければ、区分できるという主張そのものが立ちません。残すのは次の3点です。
- 誰と。相手がいたなら会社名と氏名。一人なら「単独」とだけでも書いておきます
- 何のために。案件名や目的。「〇〇社との見積り打ち合わせ」「〇〇の記事の取材」のように、業務のどこにつながるかがわかる書き方にします
- 何をしたか。その場でやったこと。企画書の作成、資料の確認、次の訪問までの待機など
書く場所は、レシートの余白への書き足しと、帳簿の摘要欄です。両方に同じ内容が入っていると、証憑と帳簿が対になります。予定表や訪問記録、そこで作った成果物のファイル日時とも突き合わせられるようにしておくと、説明はさらに具体的になります。証憑そのものの扱いは領収書とレシート、経費にするならどっち?保管のコツと証拠の考え方へ。
消費税の側にも触れておきます。課税事業者が仕入税額控除を受けるには原則としてインボイスと帳簿の保存が要ります。ただし基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる少額特例があります。対象は令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う課税仕入れです。カフェ代はこの範囲に収まることがほとんどですが、これは消費税の話であり、所得税で必要経費になるかどうかとは別に判断します。詳しくは1万円未満の領収書にインボイスは要らない──ただし2029年9月30日で終わる「少額特例」の話へ。
8. 説明できなかったときに起きること
計上した金額が必要経費として認められなければ、その分だけ所得が増えます。所得が増えれば所得税・住民税・個人事業税が増え、さらに次の負担が乗ります。
- 過少申告加算税。調査の事前通知より前に自分で修正申告すればかかりません。事前通知の後は5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%)、調査を受けた後や更正の後は10%(同じく超える部分は15%)です
- 延滞税。本来の納期限からの利息にあたるもので、修正申告書を提出した日までの分を併せて納めます
1回のカフェ代は数百円です。ただし週に何度も続けば年間では相当な額になり、そこで問われるのは1件ごとの可否よりも区分の考え方そのものになります。同じ性質の支出を同じ基準で処理し、その基準を説明できる状態にしておくほうが、1件ずつ悩むより結果的に楽です。調査の全体像は税務調査とは何か──確率は下がり、当たると重くなったにあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 一人で入ったカフェ代は経費にできますか
できるともできないとも、一律には言えません。所得税法37条の「業務について生じた費用」にあたるかを支出ごとに見て、生活と混ざるなら所得税法施行令96条により業務上必要な部分を区分できるかを見ます。判断の中身は、その日そこにいた必要をどう説明するかです。
Q. レシートに「打ち合わせ」と書いておけば経費になりますか
その一言だけでは足りません。誰との、何についての打ち合わせだったかまで書いて、はじめて業務との結びつきが示せます。相手方の名前と用件が入っていない記録は、あとから見ると一人での飲食と区別がつきません。
Q. 一人分のランチ代はどう考えればいいですか
食事は事業をしていなくても発生する支出と重なるため、業務にあたる部分を区分する説明が重くなります。実務でドリンク分だけを計上する組み立てをとることが多いのは、施行令96条の「明らかに区分することができる」を満たしやすいためです。
Q. カフェで作業する日が多いのですが、まとめて按分できますか
家事関連費の区分は取引の記録に基づくものなので、根拠のない一律の割合を後から掛けるのは避けたほうがよいです。働き方として外での作業が業務上必要だと言えるなら、その必要性と実績を記録として積み上げていきます。考え方は家賃・電気・ネット・スマホは「何割」経費に?家事按分の割合をゼロから決める手順が参考になります。
Q. 勘定科目は会議費と雑費のどちらにすればいいですか
どちらでも、必要経費にあたるかどうかは変わりません。科目は集計上の分類です。ただし同じ性質の支出は同じ科目にそろえておくと、あとから「この科目はこういう支出です」と説明できるようになります。
まとめ
- 「一人だから経費にならない」も「打ち合わせなら必ず経費」も、条文の言い方ではない。37条の業務について生じた費用にあたるかを個別に見ます
- 混ざっているものは、区切って示す。50%を超えるか、50%以下でも明らかに区分できるかが施行令96条と通達45-2の判断枠組みです
- 相手の有無より、そこにいた必要のほうが本体。移動の合間、取材、来客対応など、事情を予定表や成果物と結びつけます
- 食事の部分は説明が重くなる。ドリンク分を区分する組み立てが、区分の要件を満たしやすいです
- 5,000円という数字は使わない。法人の交際費の基準であり、しかも令和6年4月1日以後は1万円に変わっています
- レシートに、誰と・何のために・何をしたかを書き足す。帳簿の摘要にも同じ内容を入れて対にします
- 基準を先に決めて、同じ性質の支出は同じ扱いにそろえる。1件ずつ悩むより説明が通りやすいです
この記事の主な根拠(出典)
- e-Gov法令検索 所得税法(第37条 必要経費、第45条 家事関連費等の必要経費不算入等)(業務について生じた費用、家事上の経費が必要経費にならないこと)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(第96条 家事関連費)(必要経費に入れられる家事関連費の1号・2号の要件、取引の記録等に基づくこと)
- 国税庁 所得税基本通達 45-1、45-2(家事関連費)(主たる部分の総合勘案、業務上必要な部分が50%を超えるかどうか、50%以下でも区分できる場合)
- 国税庁 タックスアンサー No.2210 必要経費の知識(家事関連費が必要経費になる範囲の説明)
- 国税庁 タックスアンサー No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算(法人の制度であること、令和6年4月1日以後は1人当たり1万円以下)
- 国税庁 少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要(税込1万円未満、令和5年10月1日から令和11年9月30日まで、対象となる事業者の規模)
- 国税庁 タックスアンサー No.2026 確定申告を間違えたとき(過少申告加算税の割合、延滞税)
- ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります
次に読む
経費とは何か──ただの出費との違いは「収入を得るため」かどうか
家賃・電気・ネット・スマホは「何割」経費に?家事按分の割合をゼロから決める手順
接待交際費に上限はある?個人事業主は青天井、でも否認される線引き
領収書とレシート、経費にするならどっち?保管のコツと証拠の考え方
個人事業主の経費、どこまでOK?迷う費目を「できる・できない・家事按分」で一覧化
この記事は「2 共通の節税(個人事業でも法人でも)」の詳細です。
使える節税を、37項目のチェックリストにしました。コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。
- 資格取得費・セミナー代・書籍代|「新しい資格」がNGになる理由
- スーツ・服・美容代は経費になる?否認される理由と、認められる例外
- 12月に年払いへ切り替えて経費を前倒しする|短期前払費用
- 回収できない売掛金|貸倒損失の3要件と青色の貸倒引当金5.5%
- 使っていない機械・パソコンを経費で落とす|除却損と有姿除却
- 災害・盗難にあったら|事業用資産は必要経費、自宅と家財は雑損控除
- 少額減価償却資産が30万円未満→40万円未満へ|2026年4月1日以後の取得
- 中古の車・機材の耐用年数|簡便法と「4年落ち」の本当の話
- 小規模企業共済・iDeCoの「出口」|10年ルール・19年ルール
- 経営セーフティ共済|年240万円が全額経費、ただし出口で課税
- 繰り延べただけの節税は、いつ税金が戻ってくるのか|3つの出口
- 攻めの節税|広告費・人材・設備。売上を増やす費用に回す
筆者(宍倉)が、経理・業務のAI自動化を一緒に試す90分のオンラインモニターを募集中です。かんたんな業務を1つ選んで、その場でAIに任せてみます。参加費は無料です。
業務・経理のAI自動化 モニター→中小企業の経理担当・社長向け | オンライン90分×1回 | 枠が埋まり次第終了このコースには2つの入口があります。目的に合うほうから読んでください。