個人情報を渡さずにAIで業務を作る|ダミーデータ生成の手順とチェックリスト
税理士・不動産業がAIを実務に使ううえで、外せない前提があります。顧客・入居者・家族の個人情報を、そのままAIに渡さないことです。これは「念のため」ではなく、守秘義務を負う士業にとっての基本動作です。
ではどうやって、個人情報を渡さずに実務を組み立てるのか。答えがダミー化です。この記事は、ダミーデータを作って業務を回すための実務手順と、送信前チェックリストをまとめたリファレンスです。
この記事の結論
– 守秘情報は「規約が許すか」以前に、士業の守秘義務として素のまま渡さない。
– ダミー化のコツは、中身(名前・金額・口座)は架空に、構造(項目・並び・関係)は本物のまま残すこと。
– 手順は「①洗い出す → ②置換ルールを決める → ③一貫して置換 → ④本物との対応表は手元に隠す → ⑤結果を本物に戻す」。
– 送信前チェックリストを1枚持っておけば、うっかり流出をほぼ防げる。
ダミー化は「情報を守る」ための手順です。AIが作った処理や集計を本物のデータに適用したあとは、必ず人が検算し、税額・申告にかかわる部分は税理士が確認してください(2026年時点の情報です)。
なぜ「規約が許すから大丈夫」で済ませないのか
AIサービスの規約には、入力データを学習に使う/使わないの方針が書かれています(この誤解は「「AIに情報を学習される」の誤解を解く」で扱います)。しかし士業にとって重要なのは、規約の内容とは独立に、守秘義務があるという事実です。
- 規約は改定されます。運用も国やプランで変わります(2026年時点)。
- 通信・保存・第三者連携など、規約以外の経路のリスクもゼロにはできません。
- そもそも「外部サービスに顧客情報を送ってよいか」は、規約ではなく自分の職業倫理と契約で判断すべき問題。
だから結論はシンプルです。素のまま渡さない。渡すのはダミーだけ。 これを基本動作にすれば、規約がどう変わっても守りは崩れません。
ダミー化の考え方:中身は架空、構造は本物
データを「ぐちゃぐちゃに壊す」ことは、やってはいけません。それではAIが仕事をできません。目指すのは、個人が特定できる中身だけを架空に差し替え、業務に必要な構造は本物のまま残すことです。
| 要素 | 本物 | ダミー化の方針 |
|---|---|---|
| 氏名・法人名 | 実名 | 架空名に一貫して置換(Aさん→「入居者001」など) |
| 口座番号・住所・電話 | 実データ | 架空の形式だけ整えた値に置換 |
| 金額 | 実額 | 桁感・比率を保った架空値(例:全体を一定倍率でずらす) |
| 日付 | 実日付 | 相対関係を保った架空日付(月末・入金日の間隔は維持) |
| 項目名・並び・関係 | 実構造 | そのまま残す(ここを壊すと業務にならない) |
「入居者Aの家賃が入居者Bより高い」「月末締め翌月払い」といった関係性が保たれていれば、AIは正しく処理を組み立てられます。「誰の・いくら・どこ」という特定情報だけを守ります。
手順:ダミー化の5ステップ
①個人情報を洗い出す
そのデータのどこが「特定につながる情報」かを印つけします。氏名・法人名・住所・電話・口座・物件名・顧客固有の金額など。「これは架空にすべきか?」を全項目に問うのがこの段階です。
②置換ルールを決める
洗い出した項目ごとに、置換の方針を1つに決めます。置換ルールを決める際に大事なのは一貫性。同じ人はいつも同じ架空名に、金額は同じ倍率で、というルールを崩さないこと。バラバラに置換すると、AIが関係を読み違えます。
③一貫して置換する
ルールに沿って、実際に差し替えます。件数が多いときは、「ダミー化そのものをAIに頼む」手も有効です。ただしその場合も、渡すのは「架空データの作り方の指示」であって、本物の個人情報ではありません。たとえば「入居者20名分の家賃精算表を、次の構造で架空データとして作って」と頼み、AIに一から架空データを生成させます。
④本物との対応表は手元に隠す
「入居者001=本物の田中さん」という対応表(変換表)は、AIに渡さず自分の手元だけに持ちます。この表があるから、AIが作った処理を最後に本物へ戻せます。対応表こそが最重要の秘密です。
⑤結果を本物に戻す
AIにはダミーで処理を組み立ててもらい、完成した処理・集計ロジックを、手元で本物のデータに適用します。こうすれば「AIには一度も本物を見せていないのに、本物の成果物ができる」状態になります。
送信前チェックリスト(コピーして使う)
AIに何かを貼り付ける・見せる前に、毎回このリストを通してください。
- [ ] 氏名・法人名は架空に置き換えたか
- [ ] 住所・電話・口座・マイナンバー等の識別情報は消したか/架空にしたか
- [ ] 金額は桁感・比率を保った架空値になっているか
- [ ] 物件名・顧客固有の呼称は残っていないか
- [ ] ファイル名・シート名・メモ欄に実名が紛れていないか
- [ ] 本物との対応表は、AIに渡すデータに含まれていないか
- [ ] Chrome連携等で「ログイン済みの本番画面」を不用意に見せていないか
特に見落としやすいのがファイル名・シート名・欄外メモです。表の中身だけ気にして、ファイル名に実名が残っているケースは驚くほど多いです。
具体例:家賃精算表をダミー化する
たとえば自主管理の家賃精算表をAIに集計させたいとき。
- 入居者名を「入居者001〜020」に一貫置換、物件名を「物件A〜C」に置換。
- 家賃額は全体を同じ倍率でずらします(大小関係・合計比率は保ちます)。
- 入金日は「月末締め・翌月○日入金」の間隔を保った架空日付に。
- 「入居者001=◯◯様」の対応表は手元のメモに保存し、AIには渡しません。
- AIには架空の精算表で「入金漏れ抽出」「月次集計」の手順を作らせ、その手順を手元で本物に適用。
これでAIは一度も本物を見ずに、本物の精算作業を助けてくれます。
よくある質問
Q. 全部ダミー化するのは手間では?
A. 最初のルール作りだけは手間です。しかし一度ルールと対応表の型を作れば、以降は使い回せます。毎月くり返す業務ほど、初回のダミー化が効いてきます。
Q. AIにダミーデータを作らせるのは安全?
A. 安全です。渡すのは「架空データの作り方」だけで、本物の個人情報は一切渡していません。むしろ手作業で置換するより、抜け漏れが減ることもあります。
Q. 少しくらいなら本物を見せてもいい?
A. 守秘の基本として、「少しくらい」を作りません。判断に迷う情報は、含めない側に倒してください。
Q. 対応表はどこに保管する?
A. AIに渡らない、自分が管理する場所です。パスワードやマイナンバー等の機微情報は、そもそもAIにも平文で扱わせない運用にしてください。
まとめ
士業のAI活用は、「本物を渡さず、ダミーで組み立て、手元で本物に戻す」が基本形です。中身は架空・構造は本物、という原則を守り、送信前チェックリストを毎回通します。これだけで、規約の変更に振り回されず、守秘義務を守りながらAIの生産性を取り込めます。
・ダミー化を基本動作とする方針は、税理士・士業の守秘義務という一般原則にもとづく筆者の実務運用です
・AIサービスのデータ取り扱いは提供各社の規約により異なります。規約は必ず自分で最新版を確認してください(2026年時点)
※本記事は情報を守るための一般的手順であり、個別の契約・規約解釈を保証するものではありません(2026年時点の情報です)。
※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。
次に読む
「AIに情報を学習される」の誤解を解く:士業が知っておくべきデータの扱い
AIに渡せる業務・渡せない業務の分け方:士業のための仕分けリファレンス
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この記事は「3 顧客の情報を渡さずに作る」の詳細です。
AIに仕事を任せる前に、決めることが3つあります。コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。
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