
経理のAI活用の全体像
ここで使うのは、ChatGPTのような「質問に答えるAI」ではありません。「このレシート30枚を一覧表に」と頼むと、一覧表のファイルができて返ってくる。そういう作業するAIです。実務に入れるまでの手順は、次の5つです。
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はじめての方へ ── このページに出てくる言葉(11語)
- チャットAI
- 聞くと、答えの文章が返ってくるAI。ChatGPTや、ブラウザで使うClaudeがこれにあたります。返ってきた文章を自分のファイルに移すのは、人の仕事です。
- 作業するAI
- 頼むと、できあがったファイルが返ってくるAI。手元のファイルを読んで、書き換えるところまでやります。Claude Codeがこれにあたります。
- 転記
- 紙や画面に書いてある数字を、そのまま別の表に書き写すこと。手順が毎回同じで、元の紙と見比べれば間違いに気づけます。
- 突き合わせ
- 入金のデータと請求のデータを見比べて、済んだものと残っているものを分ける作業。消し込みとも呼ばれます。
- 学習(再学習)
- 入れた情報を教材にして、AIそのものを作り直す工程。その場の会話で読むこととは別の話で、読んだからといって作り直しに使われるとは限りません。
- ダミーデータ(架空データ)
- 本物の代わりに使う、架空の名前と数字。列の並びや桁の感じは本物のまま残すので、本物と同じように動きます。
- ダミー化
- 顧客名や口座番号を架空の値に置き換えること。同じ人はいつも同じ架空名にそろえるのがこつです。
- 頼み方(プロンプト)
- AIに渡す指示の文章。目的・前提・出したい形を書き足すほど、返ってくるものが狙いに近づきます。
- ハルシネーション
- AIが、事実でないことを本当のように書いてしまうこと。ありそうな出典や条文が、そのまま作り話になっている場合があります。
- 答え合わせ
- 出てきたものが合っているかを、別のやり方でもう一度確かめること。合計を電卓で出し直す、原本と1件だけ見比べる、など。
- 一次情報
- 自分で手を動かして確かめた、元になる情報。人から聞いた話の要約ではないもの。
AIを実務に使うとき、多くの人はいきなり「やらせてみる」から始めます。それでうまくいかないのは、たいていAIの性能のせいではありません。何を任せるか、顧客の情報をどう守るか、出てきた答えをどう確かめるか。この3つを決めていないからです。
1と2は最初に一度だけ。3と4は任せるたびに毎回。5は、そこまで来てからで十分です。
1ChatGPTとの違いを知る
ChatGPTとの違いを知り、まず自分のパソコンで動く状態にする
ChatGPTに「この支払いは何費?」と聞くと、答えが文章で返ってきます。ここで使うAIは、その先までやります。手元のファイルを読んで、書き換えて、作業を終わらせるところまでです。
- 聞くと、答えの文章が返る
- 例:「この支払いは何費?」→ 勘定科目の候補が返る
- ファイルには触れない。表への転記は自分でやる
- 頼むと、できあがったファイルが返る
- 例:「このレシート30枚を一覧表に」→ 一覧表ができている
- 読む・書く・繰り返す作業を、AIの側でやる
経理では、調べる時間より手を動かす時間を減らしたいはずです。実務を任せるなら「作業するAI」を使います。
頼むときの言葉は、ふつうの日本語で足ります。ファイルを書き換えるような影響のある操作の前には、そのつど人に許可を求める作りになっているので、知らないうちに進んでいることはありません。
導入はエンジニアでなくてもできます。つまずくところはだいたい決まっているので、順番どおりに進めれば越えられます。最初の一歩はファイルの整理あたりが手頃です。壊れて困るものがなく、結果がひと目で分かるからです。
もっと詳しく(1本)
2任せていい仕事を決める
「任せていい仕事」と「任せてはいけない仕事」を、使う前に分けておく
仕分けるときは、次の2つを見ます。間違えたときに取り返しがつくかと、正しいかどうかを自分で確かめられるか。この2つで、任せていい仕事と、そうでない仕事に分かれます。
任せる前の判定
手順が毎回同じか × 間違えても取り返しがつくか
出てきたものを見て、間違いに気づけるか──
気づける仕事でも、経費にするかどうかの判断と、署名・押印・申告のボタンは人の側に残します。
- 文面の下書き(督促状・お知らせ)
- ファイルの整理・リネーム
- 転記・突き合わせ・集計
間違っても、見れば気づいて直せる
- 経費にするかどうかの判断
- 署名・押印・申告ボタン
- 正しいか確かめる手段がないもの
間違いに気づけない仕事は、直せない
たとえば請求書の転記は任せられます。元の請求書と見比べれば、間違いに自分で気づけるからです。同じ理由で、確かめようのないものは任せられません。
文面を下書きする案内文・督促状
言い回しを整えるところまで任せて、出すかどうかは自分が決めます。
確かめ方 読み直して、直したいところだけ書き換える
数字を突き合わせる入金・請求・明細
数字を写す、2つの表を見比べる、合計を出す。手順が毎回同じ仕事です。
確かめ方 合計と件数を、別のやり方でもう一度出す
ファイルを整える並べ替え・名前つけ
決めた形に名前をそろえて、フォルダに振り分けます。壊れて困るものがありません。
確かめ方 元のフォルダと、枚数を見比べる
「AIに作ってもらう」ものと「自分で作る」ものも、分けて決めておきます。自分が中身を読めないものは、あとで直せません。
もっと詳しく(1本)
3顧客の情報を渡さずに作る
練習用の架空データで作り、完成してから本物を通す
まず、よくある誤解から確かめます。「AIに入れた情報は学習される」は、使っているサービスと契約によって変わります。その場の会話で読むことと、AIそのものを作り直す学習に使うことは、別の工程です。
そのうえで実務では、練習用の架空データ(ダミーデータ)で作って、完成してから本物を通すやり方をおすすめします。顧客名や口座番号を架空の値に置き換えることを、ダミー化と言います。流れはこうです。
- 架空データを用意する名前も金額も架空でいい。中身は架空、列の並びと桁の感じは本物のままにします。ここを崩すと、本物で動かなくなります。
- 架空データのまま組み立てる試行錯誤はぜんぶこの段階で済ませます。何度やり直しても、漏れて困るものがありません。
- 完成してから、本物を通す渡すのは仕上げの1回だけ。何をどこまで渡したか、自分で把握できます。
組み立てている間、AIに渡っているのは架空の名前と数字だけです。守り方を難しく考える前に、そもそも渡さない作り方にするほうが簡単です。
顧客の名前と数字は、本物のまま渡しません。判断の基準を「学習されないから大丈夫」に置くと、規約が変わるたびに判断をやり直すことになります。学習に使われなくても、通信・保存・人によるレビューといった経路は残ります。そもそも渡さなくても作れる形にしておくほうが、確実です。
4頼み方と確かめ方を覚える
目的・前提・出力の形を先に伝える。出てきた答えは、別のやり方で必ず確かめる
AIへの頼み方は、プロンプトとも呼ばれます。同じAIでも、これで結果は変わります。そして、出てきたものをそのまま使えるかどうかは、頼んだ時点でほぼ決まっています。
- 目的を伝える何のための作業か。「未回収の一覧を作る。督促状の下書きに使う」まで言います。
- 前提と材料を渡す使うファイル、決まっているルール、触ってほしくないもの。いつの時点の話かも書き添えます。
- 出力の形を指定する表か文章か。列の並びやファイル名まで決めて渡します。
- 別のやり方で答え合わせする合計を電卓や表計算でもう一度出す。1件抜き出して原本と見比べる。
答え合わせは最後の手順ですが、省いてはいけません。AIは、それらしく間違えるからです。
桁がひとつ違う。似た名前を取り違える。書いていない前提を勝手に補う。ありそうな出典を作ってしまう。この4つが定番で、どれも見た目は整っているので、読むだけでは気づけません。事実でないことを本当のように書くこの現象は、ハルシネーションと呼ばれます。
合計は、別のやり方でもう一度出します。電卓でも表計算でも構いません。桁ちがいと取り違えは見た目が整っているので、読み返すだけでは止まりません。出典や条文が出てきたときは、自分でその文書を開いて確かめます。
もっと詳しく(3本)
5面倒な作業を1つ任せてみる
毎月繰り返している面倒な作業を1つ選び、AIに任せてみる
読むだけでは身につきません。最初の1つは、次の3つがそろうものから選びます。
- 毎月くり返している。一度きりの作業を任せても、手間のほうが上回ります
- 間違えても取り返しがつく。下書き・一覧・突き合わせなど、出す前に人が見るもの
- 正しいかを自分で確かめられる。合計や件数で答え合わせできるもの
督促状を下書きする出す前に人が見る
入金と請求の残りを出して、そこから文面まで下書きします。
向いている人 家賃や請求を自分で管理している人
入金と請求を突き合わせる件数で確かめられる
誰の入金が済んで、誰が残っているかを一覧にします。
向いている人 通帳の明細を毎月見ている人
明細を一覧にする元の紙が残る
レシートや明細を、日付・相手・金額の表にまとめます。
向いている人 領収書の入力に時間がかかっている人
最初に任せるなら、督促状の下書きが手頃です。入金データと請求データを突き合わせて、誰にいくら残っているかを出し、文面まで下書きする。分担はこうなります。
- 入金データと請求データの突き合わせ
- 誰にいくら残っているかの一覧づくり
- 督促状の文面の下書き
- 出すかどうかの判断
- 文面の最終確認
- 送る
判断とハンコは、最後まで人の側に残す
出すかどうかの判断は自分がして、手を動かす部分だけを任せる。この形が、いちばん失敗しません。2章で決めた分け方を、そのまま使います。
3つがそろう作業が見つからなければ、まだ始めなくて構いません。完璧な仕組みは要りません。一度作ってしまえば、次からは直すだけで済みます。
+やり方をメモに残す
一度作った仕組みは、使わないでいると作り方を忘れます。半年後に直そうとして、自分が何をしたのか分からない、ということが普通に起きます。
対策はひとつで、やったことを、そのままメモに残しておくことです。何をどう頼んで、どこを直したか。うまくいった頼み方は、次から呼び出せる形で残しておけます。
書き残す先は、メモ帳でもブログでも構いません。自分のための手順書になり、同時に、誰かの役に立つ一次情報にもなります。半年後に直すとき、最初に読むのは自分です。

- 毎月くり返している作業を、3つ書き出す一度きりの作業は、任せても手間のほうが上回ります。5 面倒な作業を1つ任せてみる
- その3つに、間違いの見つけ方を書き添える合計で見るか、原本と見比べるか。書けなかったものは、まだ任せません。2 任せていい仕事を決める
- 残った1つを、架空データで作ってみる顧客の名前と数字は、仕上げの1回まで渡さないで済みます。3 顧客の情報を渡さずに作る
このコースの続きはこちらです。
税務調査
調査はどう始まり、何を見られるのかを、知らずに損をしないように説明します。
このページは制度の一般的な説明です。実際の判断は個別の事情によって変わります。