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更新日 2026-08-05 法人の決算と申告

お金が1円も動かないのに、仕訳が要る──保険の契約転換・払済・失効・名義変更

保険の経理処理が漏れるのは、入ったときではありません。変えたときです。

理由ははっきりしています。現金が動かないからです。通帳にも出てこない、請求書も来ない、保険料の引落額すら変わらないことがある。それでも税務上は、その事業年度に益金や損金が立ちます。

「保障の見直し」「下取り」と呼ばれて手続だけ進み、決算では誰も気づかない——この形がいちばん多い。ここでは、現金が動かない変更を5つ並べます。

この記事の結論

  • 契約内容の変更があると、その時以後は変更後の内容で判定し直す(法人税基本通達9-3-5の2(注)5)。責任準備金の精算があれば、資産計上累積額の差額を変更時の益金・損金にする
  • 過去の事業年度に遡って修正申告をするものではない。調整は変更した期に一度で行う
  • 契約転換は、資産計上額のうち転換後契約の責任準備金への充当額を超える部分を、転換した期の損金にできる
  • 払済保険への変更は、原則として解約返戻金相当額と資産計上額との差額を益金・損金に算入する。例外に当てはまるときだけ、そのまま置いておける
  • 「失効なら経理処理はいらない」という通達はない。通達は「解除若しくは失効により契約が終了する時まで」資産に計上する、と書いている
  • 契約者配当は、通知を受けた日の属する事業年度の益金
  • 低解約返戻金型保険の名義変更は、令和3年7月1日以後の支給から封じられた(解約返戻金が資産計上額の70%未満なら、資産計上額で評価する)

※制度はいずれも2026年時点のものです。

1. ★まず「契約内容の変更」に当たるかを見る

保険料の資産計上の区分は、契約時の契約内容で決まります(「法人保険で節税」は令和元年6月に終わった)。だから契約の中身が変わったら、変わった時以後の期間は、変更後の内容で判定し直します。

判断の軸は「解約返戻率が動くかどうか」です。

★当たる(判定し直す) ★当たらない
払込期間の変更(全期払を短期払にするなど) 払込方法の変更(月払を年払にするなど)
特別保険料の変更 払込経路の変更(口座振替を団体扱いにするなど)
保険料払込免除特約の付加・解約 前納金の追加納付
保険金額の増額・減額や一部解約に伴う高額割引率の変更で解約返戻率が動く場合 契約者貸付
保険期間の延長・短縮 保険金額の減額(部分解約)
契約書に記載した年齢の誤りの訂正等で保険料が動く場合

「当たらない」側に、月払→年払や前納金の追加が入っているのが実務では効きます。資金繰りの都合でよく行われる変更ですが、これで区分を作り直す必要はありません。

契約の転換・払済保険への変更・契約の更新は、ここでいう「契約内容の変更」ではありません。別の通達で処理します(この記事の3・4)。

変更があったときの処理

保険料や保険金額が動くと、変更前の責任準備金相当額と、変更後の契約に必要な責任準備金相当額との過不足を精算するのが一般的です。税務でもこれに合わせます。

  1. 精算で追加払い・払戻しされる責任準備金相当額を、損金または益金に算入する
  2. 契約当初から変更後の内容だったとした場合の各期間の解約返戻率をもとに、最高解約返戻率の区分を判定し直す
  3. その区分で計算した契約当初から変更時までの資産計上累積額と、実際の累積額との差額を、変更時の益金または損金に算入する
  4. 変更後は、新しい区分で資産計上・取崩しを行う

この処理は変更した期に行うもので、過去の年度に遡って修正申告をするものではありません。

最高解約返戻率が85%以下で、区分そのものが変わらないときは、責任準備金の精算だけを処理する簡便な方法も認められています。また、変更で最高解約返戻率が低くなることが見込まれる場合に、事務が煩雑なのであえて判定し直さない、という扱いも認められています。

2. 契約転換──「下取り」と呼ばれるもの

いま入っている保険を、下取りに出す形で別の保険に切り替えるのが契約転換です。転換価格という言葉で説明されます。

処理はこうなります。

  • 資産に計上している保険料の額のうち、転換後契約の責任準備金に充当される部分(充当額)を超える部分は、転換した日の属する事業年度の損金に算入できる
  • 充当額に相当する部分は、転換のあった日に保険料を一時払いしたものとして、転換後契約の内容に応じて処理する

転換後が定期保険・第三分野保険なら、充当額(転換価格)の全額をいったん資産に計上します。そのうち各事業年度に対応する部分が「当期分支払保険料の額」になります。転換価格を前納金として扱う方式でも、一部一時払いとする方式でも同じです。

転換後に平準保険料も払うなら、それを合わせた額が当期分支払保険料の額になります。

転換のあった日が「保険期間の開始の日」です。資産計上期間・取崩期間はそこから数えます。ただし、最高解約返戻率が85%超になる場合でも、資産計上期間を最低5年とする補正の適用はありません。

転換は、いちばん気づきにくい変更です。「保障の見直し」と説明され、支払保険料が同じ額のまま続くこともあります。保険料の引落額を見ていても分かりません。

3. 払済保険への変更──原則は洗い替え

保険料の払込みをやめて、それまでの解約返戻金をもとに保障額の小さい保険に切り替えるのが払済保険です。

原則は、変更時の解約返戻金相当額と、資産計上額との差額を、変更した日の属する事業年度の益金または損金に算入します。資産計上額が解約返戻金の額に洗い替えされる、と考えると分かりやすいです。

例外は2つだけです。

例外 内容
養老保険・終身保険・定期保険・第三分野保険・年金保険(特約が付加されていないものに限る)から、同種類の払済保険に変更した場合に、本文の処理をせず、既往の資産計上額を、保険事故の発生や解約・失効で契約が終了するまで計上し続けているとき
変更前の保険の保険料の全額が、役員又は使用人に対する給与となる場合

①には「特約が付加されていないものに限る」という条件が入っています。特約が付いていれば、原則どおり洗い替えです。

払済保険を元の契約に戻した(復旧した)ときは、変更時に益金・損金に算入した金額を、復旧した日の属する事業年度で逆に戻します。変更後に損金算入した金額も、復旧した期の益金になります。

4. 失効──「処理しなくていい」とは、どこにも書かれていない

保険料を払わずに放置して契約を失効させる、という扱いが実務で見られます。解約すると解約返戻金が入って益金が立つので、それを避ける、という発想です。

しかし、失効を経理処理の対象外とする通達はありません。

養老保険の通達は、資産計上する期間について、「保険事故の発生又は保険契約の解除若しくは失効により当該保険契約が終了する時までは資産に計上する」と書いています。失効は、契約が終了する事由として明記されています。

失効させても、資産計上額を貸借対照表に置いたままにしてよいわけではありません。そして失効した契約は、復活の手続をとらなければ解約返戻金を受け取れる期間も限られます。利益の調整のために失効させるのではなく、解約して解約返戻金を受け取り、正しく経理処理するほうが結果的に整理が早いです。

自動振替貸付でしばらく契約が続いているケースもあります。保険料が引き落とされていないからといって、その時点で失効しているとは限りません。保険会社に契約の現況を確認してから処理してください。

5. 契約者配当は「通知を受けた日」

契約者配当は、その通知(据置配当については、積み立てた旨の通知)を受けた日の属する事業年度の益金に算入します。現金で受け取ったときではありません。

  • 死亡保険金・生存保険金の受取人がどちらも法人である養老保険などでは、資産計上している保険料の額から控除することもできます
  • 据置配当や未収の契約者配当に付される利子も、通知のあった日の属する事業年度の益金です
  • 契約者配当を増加保険の保険料に充てることになっている場合は、その保険料として各通達の定めによります

通知書は保険会社から郵送で来ます。決算のとき、保険関係の書類をまとめて見る習慣がないと落ちます。

6. 名義変更──令和3年に封じられた

「解約返戻金が低いうちに社長個人へ名義変更し、あとで高くなった返戻金を個人で受け取る」。この手法は、令和3年6月25日付 課個3-9ほかの所得税基本通達の改正で使えなくなりました。

保険契約等に関する権利を役員・使用人に支給したときの評価は、こうなります。

場合 評価額
原則 支給時解約返戻金の額(解約返戻金のほか、前納保険料や剰余金の分配額があればその合計額)
支給時解約返戻金の額が、支給時資産計上額の70%に相当する金額未満であるもの(法人税基本通達9-3-5の2の適用を受けるものに限る) 支給時資産計上額
復旧することのできる払済保険その他これに類するもの(元の契約が9-3-5の2の適用を受けるものに限る) 支給時資産計上額 + 払済保険への変更時に損金算入した金額

3行目は、2行目の抜け道をふさぐためのものです。低い解約返戻金の時期に払済保険に変更すると資産計上額まで下がってしまうので、変更時に落とした金額を足し戻して評価します。

適用は令和3年7月1日以後に行う支給からです。同日前に行った支給は従前どおりです。

この通達は、法人から他の法人へ名義変更した場合にも準じて取り扱われます。「個人に移すのがだめなら関係会社へ」とはなりません。

支給を受けた個人の側では、その評価額が給与所得(退職に伴うものなら退職所得)の収入金額になります。名義を書き換えるだけで税金がかかるのはここです。

📌 範囲注記
契約転換・払済保険への変更・復旧・名義変更ができるかどうか、手続に何が要るかは保険会社の約款と手続の領域です。責任準備金相当額や解約返戻金相当額の金額も、保険会社に出してもらう必要があります。この記事は「その手続をした結果、法人税と所得税の計算上どう処理するか」を扱っています。

7. 決算でやること

  1. その期に契約の変更がなかったかを、保険会社からの通知書と証券で確かめる
  2. 変更があったなら、「契約内容の変更」に当たるか当たらないかを1の表で振り分ける
  3. 当たるなら、責任準備金の精算額と、判定し直した資産計上累積額との差額を、その期の益金・損金にする
  4. 転換・払済・失効・名義変更は、別の通達で処理する。「契約内容の変更」の枠で考えない
  5. 契約者配当の通知書を探す。通知を受けた日で益金に立てる
  6. 名義変更をしたなら、支給時解約返戻金の額と支給時資産計上額の両方を保険会社から取り、70%の判定をする
  7. 生じた益金・損金は、別表四と別表五(一)にどう乗るかまで確かめる(別表四の留保欄は、そのまま別表五(一)へ引っ越す

まとめ

  • 契約内容の変更があったら、その時以後は変更後の内容で判定し直す。差額は変更した期の益金・損金。過去に遡らない
  • ★月払→年払、前納金の追加、契約者貸付、部分解約は「契約内容の変更」に当たらない
  • 契約転換は、充当額を超える部分を転換した期の損金にできる。転換した日が保険期間の開始の日
  • 払済保険は原則洗い替え。例外は「特約が付いていない同種類の払済保険で、資産計上額を置いたまま」と「保険料の全額が給与になる場合」の2つ
  • 失効を処理不要とする通達はない。通達は「解除若しくは失効により契約が終了する時まで」資産計上する、と書いている
  • 契約者配当通知を受けた日の益金。据置配当の利子も同じ
  • 低解約返戻金型の名義変更は令和3年7月1日以後の支給から封じられた。解約返戻金が資産計上額の70%未満なら資産計上額で評価。復旧できる払済保険は損金算入額を足し戻す
  • 法人から他の法人への名義変更にも準じて適用される
この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税基本通達9-3-4(養老保険に係る保険料)/9-3-5の2(注)5/9-3-7(保険契約の転換をした場合)/9-3-7の2(払済保険へ変更した場合)/9-3-8(契約者配当)
  • 所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)/令和3年6月25日付 課個3-9ほか「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について」(法令解釈通達)およびその経過的取扱い
  • 国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ」
  • 令和元年6月28日付 課法2-13ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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