独立して国民年金だけになると、多くの人が漠然と不安になります。そして調べ始めると、付加年金・国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済と選択肢が並び、どれから手をつければいいのか分からなくなります。
この記事は順番だけを決めます。商品の中身の比較ではなく、限られたお金をどこから入れるかという話です。
先に結論から言うと、いちばん最初にやるべきことは新しい制度に入ることではなく、「未納をなくす」ことです。 そして次が月400円の付加年金。この2つが片付いてから、はじめてiDeCoや共済の話になります。
この記事の結論
– 減る額は報酬比例部分の計算式で概算できる。「平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数」
– 減るのは老齢年金だけではない。障害・遺族の保障も薄くなる(障害厚生年金には3級がある)
– 順番は①未納をなくす(免除・猶予の申請)→ ②付加年金 → ③小規模企業共済 → ④iDeCo →(終身がほしいなら)国民年金基金
– 付加年金は月400円で、2年受け取れば元が取れる。コスパはこれが最強
– ただし付加年金と国民年金基金は同時加入できない。基金に入るなら付加年金は選べない
– 未納と免除・猶予はまったく違う。未納は受給資格期間にも入らない
厚生年金をやめると失うのは、報酬比例部分の積み上がりです。老齢厚生年金の報酬比例部分は、おおよそ次の式で計算されます(2003年4月以降の期間)。
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
たとえば、平均標準報酬額が40万円で、厚生年金に20年(240ヶ月)加入していた人なら、
400,000円 × 5.481 ÷ 1000 × 240ヶ月 = 約52万6千円(年額)
これが、老齢基礎年金に上乗せされる分です。月に直すと約4万4千円。
ここで大事なのは、すでに加入していた20年分は消えないということです。独立しても、その分は将来ちゃんと受け取れます。減るのはこれから先の期間が積み上がらないという部分です。
だから独立した年齢によって影響はまったく違います。40歳で独立して65歳まで25年間国民年金だけなら、同じ条件で会社員を続けた場合と比べて年間60万円以上の差が出る計算になります。逆に55歳で独立するなら、影響は小さいということです。
自分の正確な見込額は「ねんきんネット」で確認できます。 概算の式は当たりをつけるためのもので、実際の額は加入期間の報酬水準や2003年3月以前の期間の有無で変わります。
見落とされがちな部分です。厚生年金と国民年金では、老齢以外の保障にも差があります。
| 保障 | 国民年金(第1号) | 厚生年金(第2号) |
|---|---|---|
| 老齢 | 老齢基礎年金のみ(40年満額で年80万円台・毎年度改定) | 老齢基礎年金+報酬比例の老齢厚生年金 |
| 障害 | 障害基礎年金(1級・2級のみ) | 障害基礎年金+障害厚生年金。3級があるうえ、一時金の障害手当金もある |
| 遺族 | 遺族基礎年金(子のある配偶者または子が対象) | 遺族基礎年金+遺族厚生年金(子がいない配偶者も対象になる場合がある) |
| 保険料 | 定額(毎年度改定・月1万7千円台) | 報酬比例(労使で折半) |
| 保険料の税務 | 全額が社会保険料控除 | 全額が社会保険料控除(給与から控除) |
障害の欄の「3級」が実務上とても大きい差です。障害厚生年金には3級があり、比較的軽い障害でも対象になりえます。障害基礎年金は1級・2級だけなので、同じ状態でも国民年金だけでは支給されないケースがあります。
独立すると、この保障の薄さを民間の保険や貯蓄で埋めるという考え方が出てきます。ただしまずやるべきは公的年金の穴を埋めることです。順番の話に入ります。
新しい制度に入る前に、これです。未納の1ヶ月は、どんな上乗せでも取り返せません。
| 状態 | 受給資格期間(10年)への算入 | 老齢基礎年金の額への反映 | 後から納められるか |
|---|---|---|---|
| 納付 | 算入 | 満額に反映 | — |
| 全額免除 | 算入される | 2分の1が反映(2009年4月以降の期間) | 10年以内に追納可 |
| 一部免除(4分の3・半額・4分の1) | 算入される | 免除割合に応じて反映 | 10年以内に追納可 |
| 納付猶予(50歳未満) | 算入される | 反映されない | 10年以内に追納可 |
| 未納 | 算入されない | 反映されない | 2年で時効。それ以降は納付不可 |
表の右3列を見比べてください。免除も猶予も「申請すれば受給資格期間に入る」のに、未納だけは何も残りません。しかも2年で時効になり、後から払うこともできなくなります。
お金がないときにやるべきことは、払わないことではなく、申請することです。免除・猶予は前年の所得を基準に審査されますが、失業した場合の特例があり、離職票などを添えて申請すれば前年所得を審査から外せる仕組みがあります。独立初年度は使える可能性が高いので、退職後14日の壁で触れた切替の窓口で必ず相談してください。
追納は10年以内にできます(3年度目以降は加算額がつきます)。資金に余裕が出た年に追納する——これが最初の上乗せです。新しい制度に入るより先に、ここを埋めます。
第1号被保険者だけが使える制度です。国民年金保険料に月400円を上乗せして納めると、受給時に「200円 × 納付月数」が年金額(年額)に加算されます(国民年金法87条の2、44条)。
計算してみます。20年(240ヶ月)納めた場合。
2年受け取れば元が取れます。 そして3年目以降は一生プラスです。しかも付加保険料も全額が社会保険料控除なので、税負担が減る分を考えると回収はもっと早くなります。
これほど分かりやすく有利な制度は他にありません。上乗せの検討は、ここから始めるのが合理的です。手続きは市区町村の窓口で、申し出た月から納付が始まります。
注意点は3つ。
| 制度 | 掛金の上限 | 所得控除の種類 | 途中で資金化 | 受け取り |
|---|---|---|---|---|
| 付加年金 | 月400円 | 社会保険料控除 | 不可 | 老齢基礎年金に加算(終身) |
| 小規模企業共済 | 月1,000〜70,000円 | 小規模企業共済等掛金控除 | 契約者貸付あり | 廃業・解約時等。240ヶ月未満の任意解約は元本割れ |
| iDeCo | 月5,000〜68,000円(国民年金基金・付加保険料と合算) | 小規模企業共済等掛金控除 | 原則不可(60歳まで) | 原則60歳以降 |
| 国民年金基金 | 月68,000円(iDeCoと合算) | 社会保険料控除 | 原則不可 | 終身年金が基本(1口目) |
表で押さえるべき点が3つあります。
① 控除の種類が2つに分かれる
付加年金と国民年金基金は社会保険料控除、小規模企業共済とiDeCoは小規模企業共済等掛金控除です。どちらも全額控除なので節税額は同じですが、申告書の記入欄が別です。集計のときに混ぜないでください(所得控除チェックリスト/使える所得控除の確認)。
② iDeCoと国民年金基金の上限は合算で月68,000円
両方に満額入れることはできません。付加保険料もこの合算の枠に関係します。
③ 付加年金と国民年金基金は同時加入できない
国民年金基金の1口目には付加年金に相当する終身年金が含まれているため、重複できません。つまり「まず付加年金」という順番は、国民年金基金に入らない前提の話です。
では基金を選ぶべき人はどういう人か。終身で受け取れる確定給付がほしい人です。iDeCoは自分で運用して残高を受け取る仕組みなので、長生きしたときに尽きる可能性があります。基金は終身年金なので、そこが違います。ただし途中で資金化できないという制約は強いです。
なぜ小規模企業共済がiDeCoより先かは、資金化の欄を見れば分かります。共済には契約者貸付があり、掛金の範囲内で借入ができます。iDeCoは60歳まで出せません。資金繰りが安定していない時期は、引き出せる可能性を残しておくほうが強い——この理由だけです。共済とiDeCoの比較は小規模企業共済とiDeCo、どっちを先にに詳しく書きました。
制度に入らずに年金を増やす方法があります。繰下げ受給です。
増額は一生続きます。事業を続けていて65歳時点で収入がある人なら、繰下げは非常に強い選択肢です。掛金も手数料もかからない上乗せなので、上乗せ制度を検討する前に、この選択肢があることを知っておいてください。
ただし繰下げには注意点もあります。受け取り開始が遅いほど、早く亡くなった場合の総受給額は少なくなります。また加給年金など一部の給付は増額の対象になりません。判断は年金事務所で見込額を出してから行ってください。
Q. 結局いくら払えばいいのですか。
金額よりも順番です。①未納をなくす(申請する)→ ②付加年金の月400円 → ③手元資金と納税資金を確保 → ④共済を月1万円から。ここまでで月1万円台です。iDeCoや基金は、この土台ができてから考えれば十分です。
Q. 付加年金と国民年金基金、どちらを選ぶべきですか。
金額の小ささと回収の速さでは付加年金、終身の確定給付という安心では基金です。ただし基金は途中でやめて資金化することが原則できないため、開業初期には重い選択になります。まず付加年金で始めて、事業が安定してから基金を検討するという順序が現実的です(基金に入る際に付加年金は納付できなくなります)。
Q. 免除を受けると年金が減ると聞きました。それでも申請すべきですか。
はい。全額免除でも2分の1が反映され、受給資格期間にも算入されます。未納は0で、しかも受給資格期間にも入りません。免除>未納は例外なく成り立ちます。追納すれば満額に戻せます。
Q. 国民年金の未納が学生時代にあります。今から払えますか。
通常の納付は2年で時効です。ただし学生納付特例や納付猶予の申請をしていた期間であれば、10年以内なら追納できます。申請をしていなかった未納期間は追納できません。ねんきんネットや年金事務所で自分の記録を確認してください。
Q. 40年(480ヶ月)に足りません。増やせますか。
60歳以降に任意加入して480ヶ月まで納めることができます。満額に近づけたい人には有効な手段です。年金事務所で不足月数を確認してください。
Q. 配偶者の分はどうなりますか。
あなたが厚生年金を外れると、扶養だった配偶者も第3号から第1号になり、定額保険料が発生します。付加年金も配偶者は別に申し出が必要です。詳しくは退職後の健康保険3択の年金の項へ。
Q. 個人年金保険はどうですか。
生命保険料控除(個人年金保険料控除)の枠で控除されますが、控除の上限額が小さいため、全額控除の付加年金・共済・iDeCoとは効率が違います。順番としては後になります。なお本記事は特定の商品の推奨を行いません。
👉 小規模企業共済とiDeCo、どっちを先に
👉 退職後の健康保険は国保・任意継続・扶養の3択
👉 退職後14日の壁:国保・国民年金の切り替え実務
👉 所得控除チェックリスト:漏れやすい控除
👉 使える所得控除を確認する