国民健康保険料は下げられるか|iDeCoでは下がらない理由と、実際に効く5つの手段
個人事業主にとって、国民健康保険料は所得税より重いことがよくあります。
所得400万円・家族4人なら、年間で50〜60万円台になることも珍しくありません。しかも会社員時代のように会社が半分出してくれることはありません。
そして、ここで多くの人が信じている話があります。
「小規模企業共済やiDeCoに入れば、国保料も下がる」
これは誤りです。1円も下がりません。理由を知れば、何が効いて何が効かないかが一気に整理できます。
この記事の結論
– 所得割の基礎は「総所得金額等 − 43万円」。所得控除は引かれない
– だからiDeCo・小規模企業共済・生命保険料控除・扶養控除は国保料を1円も下げない
– 効くのは必要経費と青色申告特別控除、そして経営セーフティ共済
– 賦課限度額(上限)があるので、高所得者はそもそも所得を下げても変わらない
– 軽減(7割・5割・2割)は申請不要だが、確定申告をしていないと適用されない
– 非自発的失業者の軽減は会社都合退職なら必ず申請する
– 産前産後期間の免除(令和6年1月〜)は申請が必要
– 国保組合は所得に関係なく定額。所得が高い人ほど有利になりうる
– 世帯分離は逆効果になることがある
なぜiDeCoでは下がらないのか
国民健康保険料は、おおむね次の構成です(自治体により多少異なります)。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 所得割 | 所得に応じてかかる |
| 均等割 | 加入者1人あたり定額 |
| 平等割 | 1世帯あたり定額(採用しない自治体もある) |
このうち所得割の計算基礎が、次の金額です。
所得割の算定基礎 = 総所得金額等 − 基礎控除相当額(43万円)
ここに出てくるのは「総所得金額等」です。所得控除ではありません。
所得税の計算は、こういう順番でした。
収入 − 必要経費 = 事業所得
事業所得 − 青色申告特別控除 …………………★ここまでが「総所得金額等」
− 所得控除(社会保険料・生命保険料・小規模企業共済等・扶養・基礎)
= 課税所得
国保料が見るのは★の行までです。その下にある所得控除は、まったく関係ありません。
効くもの・効かないもの
| 手段 | 所得税 | 国保料 |
|---|---|---|
| 必要経費を計上する | 下がる | 下がる |
| 青色申告特別控除65万円 | 下がる | 下がる |
| 経営セーフティ共済(必要経費) | 下がる | 下がる |
| 純損失の繰越控除 | 下がる | 下がる |
| 小規模企業共済(所得控除) | 下がる | 下がらない |
| iDeCo(所得控除) | 下がる | 下がらない |
| 生命保険料控除・地震保険料控除 | 下がる | 下がらない |
| 扶養控除・配偶者控除 | 下がる | 下がらない |
| ふるさと納税 | 住民税が下がる | 下がらない |
| 医療費控除 | 下がる | 下がらない |
つまり——同じ「節税100万円」でも、必要経費で減らすのと所得控除で減らすのとでは、国保料への効き方がまったく違います。
青色申告特別控除65万円が国保料にも効くことは、あまり知られていません。65万円 × 所得割率(自治体により10%前後)で、年間6万円前後の差になります。65万円の要件を満たす手間は、十分に元が取れます(青色申告特別控除65万円の条件)。
経営セーフティ共済は必要経費なので国保料に効きますが、出口で課税されます(経営セーフティ共済)。小規模企業共済・iDeCoとの使い分けは小規模企業共済とiDeCo、どっちを先にを参照してください。
上限がある——高所得なら下げても無駄
国保料には賦課限度額(年間の上限)があります。医療分・後期高齢者支援金分・介護分でそれぞれ上限があり、合計すると年間100万円超の水準です(毎年度改定されるため、金額は自治体の案内で確認してください)。
すでに上限に達している人は、所得を多少下げても保険料は1円も変わりません。この場合、国保料を理由に節税する意味はありません。
逆に、上限をわずかに超えているなら、そこまで下げるのは無駄ということでもあります。自分がどの位置にいるかを、まず納付通知書で確認してください。
実際に効く5つの手段
① 軽減(7割・5割・2割)——申請不要、ただし申告は必須
世帯の所得が一定以下なら、均等割・平等割が7割/5割/2割軽減されます。
| 判定 | 世帯の総所得金額等の合計が一定額以下 |
|---|---|
| 7割軽減 | もっとも所得が低い層 |
| 5割軽減 | 加入者数に応じて基準額が上がる |
| 2割軽減 | 同上 |
基準額は毎年度改定され、加入者数によっても変わります。具体的な金額は必ず自治体の案内で確認してください。
重要なのは次の点です。
軽減の判定は自動で行われますが、世帯の全員が所得を申告していないと判定できません。
収入がなくても「住民税の申告(0円申告)」をしていないと、軽減が適用されないことがあります。赤字の年でも確定申告をする理由の1つがこれです。
② 非自発的失業者の軽減
倒産・解雇・雇止めなどの会社都合で退職した人は、前年の給与所得を30%として所得割を計算する軽減があります。
- 雇用保険受給資格者証の離職理由コードで判定
- 退職日の翌日の属する月から、翌年度末まで
- 申請が必要(市区町村の国保窓口)
軽減額が非常に大きいので、会社都合で辞めて独立した人は必ず確認してください(非自発的失業者の国保軽減)。
③ 産前産後期間の免除
令和6年(2024年)1月から、出産する被保険者の産前産後期間の保険料(所得割・均等割)が免除されます。
| 対象期間 | 出産予定月(または出産月)の前月から4か月間。多胎妊娠は3か月前から6か月間 |
|---|---|
| 手続き | 届出が必要(出産予定日の6か月前から提出可) |
| 所得制限 | なし |
申請しないと免除されません。該当する人は必ず届け出てください。
④ 減免——災害・所得の著しい減少
自治体には減免制度があります。
- 災害により資産に大きな損害を受けた
- 事業の廃止・休止、所得が著しく減少した
- 生活が著しく困難になった
「所得が著しく減少」の基準(前年比◯割減など)は自治体ごとに違います。売上が急減した年は、窓口で相談する価値があります。
⑤ 国保組合という選択肢
業種によっては、市区町村の国保ではなく国民健康保険組合に加入できます。
| 組合の例 | 対象 |
|---|---|
| 文芸美術国民健康保険組合 | デザイナー・イラストレーター・ライターなど(加盟する団体の会員であること) |
| 全国土木建築国民健康保険組合 | 建設・土木業 |
| 医師国保・歯科医師国保・薬剤師国保 | 各資格者と従業員 |
| 各種の同業者組合 | 業種による |
最大の特徴は、保険料が原則として定額(所得に関係なく一律)であることです。
| 市区町村の国保 | 国保組合 | |
|---|---|---|
| 保険料 | 所得に比例 | 原則定額 |
| 有利な人 | 所得が低い人 | 所得が高い人 |
| 加入条件 | 住所地で誰でも | 業種・団体加入などの条件あり |
所得が高い個人事業主にとっては、年間で数十万円の差になることがあります。加入資格があるかを一度調べてみてください(加入団体の年会費がかかる点は織り込んでください)。
法人化という選択肢
法人を作って役員になれば、協会けんぽ(健康保険・厚生年金)に加入します。
| 国民健康保険 | 協会けんぽ | |
|---|---|---|
| 保険料の基礎 | 前年の所得 | 役員報酬(標準報酬月額) |
| 負担 | 全額自己負担 | 会社と折半(実質は同じ財布だが経費になる) |
| 扶養 | 人数分の均等割がかかる | 扶養家族は保険料が増えない |
| 傷病手当金 | 原則なし | あり |
家族が多い人ほど、法人化で保険料が下がりやすいのがポイントです。国保は加入者1人ごとに均等割がかかりますが、協会けんぽは扶養家族が何人いても保険料は変わりません。
ただし、法人化には設立費用・維持費用・社会保険の強制加入といった別のコストがあります。判断は法人化は年収いくらから得?を参照してください。
国民健康保険は市区町村(および都道府県)が条例で定める制度です。保険料率・均等割額・平等割の有無・賦課限度額・軽減判定の基準額・減免の要件は、自治体ごとに、また年度ごとに異なります。この記事は共通する仕組みの説明であり、具体的な金額の判断は必ずお住まいの市区町村の国保窓口でご確認ください。軽減・減免・産前産後免除の適用可否、国保組合の加入資格の判定は、それぞれの保険者の権限です。任意継続・扶養との比較や、健康保険の給付内容そのものについては、協会けんぽ・各健康保険組合の所管です。
やってはいけないこと
世帯分離(同じ家に住みながら住民票の世帯を分ける)で国保料が下がる、という話があります。これは慎重に判断してください。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 下がる可能性 | 軽減判定は世帯単位なので、分けると判定に有利になる場合がある |
| 上がる可能性 | 平等割が世帯ごとにかかるため、2世帯分になって増えることがある |
| その他の影響 | 高額療養費の世帯合算ができなくなる、各種手続きが煩雑になる |
実態と異なる世帯分離はできません。生計を一にしているのに形式だけ分ける、というのは適切ではありません。
また、所得を意図的に少なく申告するのは当然ながら脱税です。国保料は下がっても、修正申告と加算税で取り返されます。
家族の分を払えば自分の控除になる
保険料そのものの話ではありませんが、忘れられがちな点です。
生計を一にする配偶者・親族の国民健康保険料・国民年金保険料を自分が払えば、自分の社会保険料控除になります(社会保険料は生計一の家族の分も控除できる)。
所得が高いほうがまとめて払うほうが、世帯全体の税金は安くなります。国保料は世帯主に請求が来るので、世帯主の控除にするのが自然です(所得控除の最終チェックリスト)。
よくある質問(FAQ)
Q. 独立1年目の国保料が高すぎます。何かできますか。
1年目は前年(会社員時代)の所得で計算されるため高くなります。会社都合退職なら非自発的失業者の軽減、それ以外なら任意継続との比較を検討してください(退職後の健康保険3択、独立したら健康保険はどうする)。仕組みは独立1年目、税金が一気に来る理由にまとめています。
Q. iDeCoに入ると国保が下がると聞きました。
下がりません。iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除という所得控除で、国保料の算定基礎(総所得金額等)には影響しません。所得税・住民税は下がります。
Q. 経営セーフティ共済なら下がるのですか。
下がります。掛金が必要経費なので事業所得そのものが減るからです。ただし解約時に事業所得の収入になるため、そのときは国保料も上がります。繰延べであることを忘れないでください。
Q. 分割で払うと安くなりますか。
なりません。納期が分かれるだけで総額は同じです。前納で割引がある自治体もありますが、国保では一般的ではありません(国民年金の前納割引とは別の話です)。
Q. 保険料を払えないときはどうすればいいですか。
放置しないで窓口に相談してください。分割納付、減免、徴収猶予といった対応があります。滞納すると短期被保険者証や資格証明書に切り替わり、医療費が一旦全額自己負担になります(保険証が届かないとき)。
Q. 40歳になったら上がりますか。
上がります。40歳から64歳までは介護分が加わります。誕生月から保険料が変わるので、資金繰りに入れておいてください。
Q. 保険料は経費になりますか。
なりません。所得控除(社会保険料控除)です。事業の必要経費ではないので、決算書には入れません。
まとめ
- 所得割の基礎は「総所得金額等 − 43万円」。所得控除は引かれない
- iDeCo・小規模企業共済・生命保険料控除・扶養控除は国保料を下げない
- 効くのは必要経費・青色申告特別控除・経営セーフティ共済・繰越損失
- 賦課限度額に達している人は、下げても意味がない
- 軽減(7割5割2割)は申告していないと適用されない
- 非自発的失業者の軽減と産前産後の免除は申請が必要
- 業種によっては国保組合が定額で有利
- 家族が多いなら法人化(協会けんぽ)で下がることがある
- 世帯分離は逆効果になることもある
- 家族の保険料を払えば自分の社会保険料控除になる
- 国民健康保険法76条・81条(保険料の賦課。市町村の条例で定める)
- 地方税法703条の5・国民健康保険法施行令29条の7(保険料の減額=7割・5割・2割軽減、賦課限度額。基準額は政令および条例による)
- 国民健康保険法施行令(非自発的失業者に係る所得割算定の特例。給与所得を100分の30として算定)
- 国民健康保険法76条の2(産前産後期間に係る保険料の免除。令和6年1月施行。出産予定月の前月から4か月間、多胎妊娠は3か月前から6か月間)
- 国民健康保険法17条・国民健康保険組合の規約(国保組合の加入資格・保険料)
- 所得税法74条(社会保険料控除。生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき保険料を支払った場合を含む)
- 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除。総所得金額等の計算上控除される)
- ※2026年時点の仕組みです。保険料率・軽減の基準額・賦課限度額は自治体および年度により異なります。必ずお住まいの市区町村の案内でご確認ください
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