事業主が亡くなったときのインボイス──「4か月」で登録が切れる。遺産分割より先に片づける手続がある
事業をしていた親が亡くなった。相続の話が始まる前に、4か月の時計が動きます。
★インボイスの登録は、相続人には自動で引き継がれません。遺産分割の議論をしている間に期限が来ると、事業を続けているのにインボイスを出せなくなります。
この記事の結論
- 相続人は「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出する
- ★★この届出書に「相続により事業を承継した旨」を記載する必要がある。書かないとみなし登録の取扱いを受けられない
- みなし登録期間=相続のあった日の翌日から、①相続人が登録を受けた日の前日 ②★死亡日の翌日から4か月を経過する日 のいずれか早い日まで
- この期間は★被相続人の登録番号を、相続人の登録番号とみなす
- ★そのあとも続けるなら、みなし登録期間中に相続人自身の登録申請書を出す。通知が期間終了後に届いた場合は、その日まで期間が延びる
- ★★被相続人が出した課税事業者選択届出書・簡易課税制度選択届出書・課税期間特例選択届出書の効力は、相続人に及ばない
- 納税義務は、被相続人の基準期間の課税売上高でも判定する
1. 4か月の時計
★みなし登録期間は、次のように決まります。
相続のあった日の翌日から、
① 相続人がインボイス発行事業者の登録を受けた日の前日
② 被相続人が死亡した日の翌日から4か月を経過する日
のいずれか早い日まで
この期間は、事業を承継した相続人が被相続人の登録番号を記載したインボイスを交付できます。
★4か月です。相続の実務では、財産の把握も遺産分割協議も、まだ何も終わっていない時期にあたります。
なお、登録の効力そのものは、死亡届出書の提出日の翌日または死亡日の翌日から4か月を経過した日のいずれか早い日に失われます。
2. ★★届出書に、一言書く
みなし登録期間の取扱いを受けるには条件があります。
★「適格請求書発行事業者の死亡届出書」に、相続により事業を承継した旨を記載する必要があります。
書き忘れると、被相続人の登録番号を使えません。事業を続けていても、その日から先の請求書にインボイスとしての効力がなくなります。
もうひとつ、混同しやすい点があります。
| 書類 | 何のためか |
|---|---|
| ★適格請求書発行事業者の死亡届出書 | インボイスの登録を失効させるため。みなし登録期間の起点になる |
| 個人事業者の死亡届出書 | 消費税の納税義務者が亡くなったことの届出 |
名前が似ていますが別の書類です。
3. みなし登録期間のあと、どうなるか
事業を続ける相続人が、そのあともインボイスを発行したいなら、★みなし登録期間中に自分の名前で登録申請書を提出します。
★登録通知がみなし登録期間の終了後に届いた場合は、その通知が届いた日までみなし登録期間が延びます。空白期間は生じません。
一方で、★みなし登録期間が過ぎてから申請すると、その間はインボイスを交付できません。
登録するときの立場も分かれます。
| 相続人の立場 | 登録申請書の書き方 |
|---|---|
| 免税事業者(被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円以下) | ★登録希望日を記載できる |
| 課税事業者(同 1,000万円超) | ★登録希望日は記載できない。登録を受けた日からインボイス発行事業者になる |
4. ★被相続人の届出書は、引き継がれない
ここは事故になりやすいところです。
★被相続人が提出した「消費税課税事業者選択届出書」「消費税課税期間特例選択届出書」「消費税簡易課税制度選択届出書」の効力は、事業を承継した相続人には及びません。
親が簡易課税だったから自分も簡易課税、にはなりません。相続人が適用を受けたいなら、自分の名前で改めて届出書を出す必要があります。
★逆にいえば、親が簡易課税を選んでいても、相続人は本則課税を選べます。承継した年に大きな修繕や設備投資があるなら、ここは検討する価値があります。届出書の効力の話は昔出した簡易課税の届出書は、まだ生きているにまとめました。
5. 納税義務の判定
相続人自身の売上が小さくても、免税になるとは限りません。
相続があった年
| 被相続人の基準期間の課税売上高 | 相続人の納税義務 |
|---|---|
| 1,000万円超 | ★相続があった日の翌日からその年の12月31日まで、免除されない |
| 1,000万円以下 | その年は免除される(相続人が課税事業者を選択している場合を除く) |
相続があった年の翌年・翌々年
★被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高の合計が1,000万円を超えるかで判定します。
未分割のとき
★相続財産が実際に分割されるまでの間は、各相続人が共同して事業を承継したものとして扱われます。被相続人の基準期間の課税売上高に法定相続分を乗じた金額を、各相続人の基準期間の課税売上高として判定します。
6. 順番
| いつ | やること |
|---|---|
| 死亡後すみやかに | ★「適格請求書発行事業者の死亡届出書」に「相続により事業を承継した旨」を記載して提出 |
| 同時期 | 個人事業者の死亡届出書を提出 |
| ★4か月以内(みなし登録期間中) | 事業を続けるなら、★相続人自身の名前で登録申請書を提出 |
| 同時期 | 被相続人が出していた届出書を洗い出す。効力は引き継がれないので、必要なものは自分の名前で出し直す |
| その年のうち | 納税義務の判定(被相続人の基準期間の課税売上高を確認する) |
| その年の12月31日まで | 簡易課税を使うなら簡易課税制度選択届出書(消費税の届出書カレンダー) |
★遺産分割の結論を待つ必要はありません。事業を承継して現に営んでいる相続人が、先に手続を進めます。
範囲注記:この記事は相続に伴う消費税・インボイスの手続を扱っています。相続人の確定、遺産分割協議、相続登記は弁護士・司法書士の業務範囲です。相続税の申告期限(10か月)とは別の期限なので、混同しないでください。この記事は2026年8月時点の制度に基づきます。
まとめ
- みなし登録期間=相続のあった日の翌日から、相続人の登録日の前日または死亡日の翌日から4か月を経過する日の早い日まで
- ★★死亡届出書に「相続により事業を承継した旨」を書かないと、みなし登録の取扱いを受けられない
- 「適格請求書発行事業者の死亡届出書」と「個人事業者の死亡届出書」は別
- ★続けるならみなし登録期間中に自分の名前で登録申請。通知が遅れた分は期間が延びる
- 免税事業者なら登録希望日を書ける。課税事業者は書けない
- ★★被相続人の課税事業者選択・簡易課税・課税期間特例の届出書は引き継がれない
- 納税義務は被相続人の基準期間の課税売上高でも判定する。未分割なら法定相続分で按分
- 消費税法57条の3第1項・2項(適格請求書発行事業者の死亡届出書と登録の効力)/同3項(みなし登録期間。被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす)/消費税法施行令70条の6(みなし登録期間の延長)/消費税法10条(相続があった場合の納税義務の免除の特例)
- 国税庁「インボイス制度において事業者の方が留意すべき事項(個人14)相続によりインボイス発行事業者の事業を承継しましたが、どのような手続きが必要でしょうか?」(死亡届出書に相続により事業を承継した旨を記載する必要がある旨、みなし登録期間中に登録申請書を提出した場合の期間の延長、みなし登録期間経過後の課税事業者・免税事業者の判定と登録希望日の可否)
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問15(相続。令和5年10月改訂)
- 国税庁タックスアンサー No.6602(相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について。被相続人が提出した課税事業者選択届出書・課税期間特例選択等届出書・簡易課税制度選択届出書の効力は相続人に及ばない旨、相続があった年・翌年・翌々年の判定、未分割の場合の法定相続分による按分)
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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