昔出した簡易課税の届出書は、まだ生きている──設備投資の還付が消える事故と、提出済みを確認する4つの方法
「10年前に一度出したかもしれません」
設備投資の還付申告を組み立てるとき、最初に確認するのがこれです。★簡易課税制度選択届出書は、出したまま放置すると永久に効き続けます。そして令和7年1月から、控えに収受日付印が押されなくなりました。
この記事の結論
- 簡易課税制度選択届出書は、★不適用届出書か事業廃止届出書を出さない限り効力が続く(消基通13-1-3)
- 基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた年は一般課税になるが、届出書が失効したわけではない
- 1,000万円以下になって免税事業者になった期間も、眠っているだけ
- ★★再び1,000万円超5,000万円以下になった課税期間から、自動的に簡易課税が復活する
- 結果、設備投資の年に還付が受けられないという事故が起きる
- ★令和7年1月から、申告書等の控えに収受日付印は押されない
- 確認方法は★e-Taxの受信通知/閲覧サービス/保有個人情報の開示請求/窓口のリーフレットの4つ
- ★相続では、被相続人が出した届出書の効力は相続人に及ばない
1. 通達が何を言っているか
消費税法基本通達13-1-3は、要約するとこうです。
簡易課税制度選択届出書を出した事業者が、
- 基準期間の課税売上高が5,000万円を超えて簡易課税を適用できなくなった場合
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下となって免税事業者になった場合
であっても、その後の課税期間で基準期間の課税売上高が1,000万円超5,000万円以下となったときは、その課税期間について再び簡易課税制度が適用される。
★「適用できなかった年がある」ことと「届出書が失効した」ことは別です。届出書を消すには、簡易課税制度選択不適用届出書を課税期間の初日の前日までに出すしかありません。
(令和6年の改正で、その課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は簡易課税の対象外とされました。国内で事業をしている限り、この例外は関係ありません。)
2. 事故は、こういう形で起きる
| 年 | 売上 | 状態 | 何が起きたか |
|---|---|---|---|
| 令和2年 | 3,000万円 | 簡易課税 | 届出書を提出(当時は有利だった) |
| 令和4年 | 6,000万円 | ─ | 売上が伸びる |
| 令和6年 | 6,500万円 | 一般課税 | 基準期間(令和4年)が5,000万円超なので簡易課税は使えない。★「届出書はもう関係ない」と思い込む |
| 令和7年 | 4,000万円 | ─ | 売上が落ちる |
| 令和9年 | 4,500万円 | ★簡易課税に自動復活 | 基準期間(令和7年)が1,000万円超5,000万円以下 |
| 令和9年 | ─ | ─ | ★★この年に3,000万円の建物を購入。還付になるはずが、簡易課税なので還付ゼロ |
★税理士職業賠償責任保険の支払事案でも、この形が単独で最も多いとされています。専門家が関与していても起きるということです。
防ぎ方はひとつです。大きな買い物を計画する年の前年12月31日までに、簡易課税制度選択不適用届出書を出しておく。そのためには、その前に「出しているかどうか」を知る必要があります。
3. ★令和7年1月から、収受日付印は押されない
これまでは、控えに押された収受日付印が「出した証拠」でした。
★令和7年1月から、国税庁は申告書等の控えへの収受日付印の押なつを行わないことにしました。対象は「国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他の書類のほか、税務署に提出されるすべての文書」です。届出書も含まれます。
当分の間の対応として、次の扱いがあります。
- 窓口で提出した場合、希望者に日付と税務署名を記載したリーフレットを渡す
- 郵送の場合、★切手を貼った返信用封筒を同封すれば、同じリーフレットを返送してもらえる
★郵送で届出書を出すときは、返信用封筒を入れておく。これだけで、提出日の記録が残ります。
なお国税当局は、金融機関や補助金・助成金の担当行政機関に対して「令和7年1月以降は収受日付印のある控えを求めない」よう周知を要請しています。
4. 提出済みを確認する4つの方法
| 方法 | できること | 費用・条件 |
|---|---|---|
| ★e-Taxの受信通知 | 提出者の氏名・受付番号・受付日時を確認。電子申請等証明書の交付請求もできる | 無料。個人はマイナンバーカード等の電子証明書が必要。★e-Taxで送信したものに限る |
| ★税務署の閲覧サービス | 過去に提出した届出書そのものを閲覧。提出事実・提出年月日の確認もできる | 無料。税務署の窓口での申請のみ |
| 保有個人情報の開示請求 | 提出した書類の内容を確認。写しの交付も可 | 手数料300円(オンライン申請200円)。写しの交付は1か月程度。★法人は利用できない |
| 窓口・郵送のリーフレット | 日付と税務署名の記録 | 無料。★これから出すもの限定 |
★紙で出した昔の届出書を探すなら、実質的に「閲覧サービス」一択です。
5. 閲覧サービスの中身
国税庁の事務運営指針で、内容が決まっています。
- 対象:申告書のほか、★各種申請書、届出書、請求書、報告書等
- 目的:申告書等を作成するにあたり過去の内容を確認する場合、または★提出事実・提出年月日を確認する場合
- 窓口:納税地を所轄する税務署の管理運営部門(設置がない署では総務課)
- 本人確認:運転免許証・個人番号カード・健康保険等の資格確認書など
- ★写真撮影ができる(デジタルカメラ・スマートフォン等でその場で確認できる機器。動画は不可。撮影内容を署員に確認させ、対象書類以外が写り込んでいたら消去する)
- ★コピーの交付は原則としてしない
- 代理人:税理士・弁護士・行政書士、配偶者・4親等以内の親族、法人の役員・従業員など。★税理士は税理士証票の提示+委任状(令和6年4月以降の税務代理権限証書の委任状欄に記載があれば、別途の委任状は不要)
★事前に税務署へ連絡しておくとスムーズです。書類が業務センターや外部書庫に保管されていることがあります。当日収受したものは、原則としてその日のうちは閲覧できません。
6. やめるときの期限
簡易課税制度選択不適用届出書を、やめようとする課税期間の初日の前日までに出します(個人事業者なら12月31日)。
- ★土日祝でも延びません(消費税の届出書カレンダー)
- ★2年の継続が必要。適用を開始した課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません
- 2割特例を使って一度も簡易課税を適用していなくても、この制限は変わりません
事業区分やみなし仕入率の話は簡易課税のみなし仕入率、自分は何種?にまとめました。
7. ★出したくても出せない期間がある
もうひとつの落とし穴です。
次に当たると、一定期間は簡易課税制度選択届出書そのものを提出できません(消法37③)。
- 課税事業者選択の2年継続期間中などに税抜100万円以上の調整対象固定資産を取得し、一般課税で申告した場合
- ★税抜1,000万円以上の高額特定資産を取得した場合
- 金または白金の地金等をその課税期間中に合計200万円以上取得した場合
★しかも、その資産を売却・廃棄しても制限は解けません(消基通1-4-15の2)。「買った翌年に売ったから元に戻る」はありません。
8. 相続では引き継がれない
逆のパターンです。★被相続人が提出した課税事業者選択届出書・課税期間特例選択等届出書・簡易課税制度選択届出書の効力は、事業を承継した相続人には及びません。
親が簡易課税だったから自分も簡易課税、にはなりません。相続人が適用を受けたいなら、自分の名前で改めて届出書を出す必要があります。
9. 事業廃止届出書は、まとめて消す
反対に、一度で全部消える書類があります。
★課税事業者選択不適用・課税期間特例選択不適用・簡易課税制度選択不適用・任意の中間申告の取りやめ・申告期限特例の不適用のいずれかに「事業を廃止した旨」の記載があれば、他の届出書についても提出があったものとして扱われます(消基通1-4-15)。消費税法57条1項3号の事業廃止の届出があった場合も同じです。
★便利な反面、意図しない特例まで一括で消えます。廃業手続の全体像は個人事業を廃業するときの税務手続にまとめました。
範囲注記:この記事は消費税の届出書の効力と確認方法を扱っています。閲覧サービスの運用は税務署によって細部が異なることがあるため、事前に所轄税務署に確認してください。この記事は2026年8月時点の制度に基づきます。
まとめ
- ★簡易課税制度選択届出書は、不適用届出書か事業廃止届出書を出すまで効力が続く
- 5,000万円超で眠り、免税期間も眠るだけ。★1,000万円超5,000万円以下に戻ると自動復活
- ★設備投資の年に還付が消える事故は、ここから起きる
- ★令和7年1月から、控えに収受日付印は押されない
- 確認は★e-Taxの受信通知/閲覧サービス/開示請求/リーフレットの4つ
- ★閲覧サービスは届出書も対象。写真撮影は可、コピーは不可
- 郵送で出すときは、返信用封筒を同封すると日付の記録が残る
- ★高額特定資産などを取得すると、届出書自体を出せない期間がある。売っても解けない
- ★相続では被相続人の届出書の効力は引き継がれない
- 消費税法基本通達13-1-3(簡易課税制度選択届出書の効力。5,000万円超となった場合・免税事業者となった場合も、その後1,000万円超5,000万円以下となったときは再び適用される)/13-1-3の5(恒久的施設を有しない国外事業者)
- 消費税法37条1項・3項・5項・6項(簡易課税制度、提出できない場合、不適用届出書と2年の継続適用)/消費税法基本通達1-4-15(事業廃止の届出の一体的な取扱い)/1-4-15の2(調整対象固定資産を処分しても制限は継続する)
- 国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」(対象は届出書を含むすべての文書。提出事実・提出年月日の確認方法として、e-Taxの受信通知と電子申請等証明書、申告書等情報取得サービス、保有個人情報の開示請求、税務署での閲覧サービス、納税証明書を掲げる)
- 国税庁「申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)」(対象文書に各種申請書・届出書・請求書・報告書等を含む。写真撮影の条件、コピーの交付は原則行わない、代理人の範囲と必要書類)
- 国税庁タックスアンサー No.6502(高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例。簡易課税制度選択届出書を提出できない期間)/No.6602(相続で事業を引き継いだ場合。被相続人が提出した届出書の効力は相続人に及ばない)
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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