税務調査で見られるのは、申告書ではなく日ごろの帳簿です
連絡は、ある日ふつうにかかってきます。結果は、当日の受け答えより、日ごろの帳簿と、連絡からの1〜2週間の動き方で決まります。選ばれ方から決着までの流れを、このページで確かめられます。
コースの全体像を読む(約9分) →- 調査先に選ばれるランダムではありません。申告データの動きが例年や同業の平均から外れた先を、国税のシステムが選び出します。確率はおよそ100件に2件です。第1章
- 税務署から電話が来る(事前通知)原則は電話で日程の相談から始まります。予告なしに来るのは現金商売などの例外だけ。税理士に頼んでいれば、連絡は税理士に入ります。この電話が来た時点で、上乗せゼロで直せる道は閉じます。第2章
- 調査の日まで、およそ1〜2週間日程は相談できます。帳簿と領収書・請求書をそろえて、自分の申告を見直します。自分から直すなら、ここが最後の機会(上乗せ半分)第2章
- 調査当日(ふつう2人が来て、1〜3日)見られるのは申告書ではなく、その裏の帳簿と証拠書類です。世間話にも確認の意味があります。即答できないことは「確認して後日回答します」でかまいません。第3章
- 指摘事項のやりとり(数週間〜数か月)電話や追加資料の往復で論点を詰めます。指摘をその場で認める必要はありません。終盤に「質問応答記録書」への署名を求められることがあります。署名は義務ではありません。第4章
- 決着間違いがなければ、そのまま終わりです(申告是認)。直す場合は修正申告をして、足りなかった税金+ペナルティの税金+利息を納めます。第5章
下の第1章〜第6章で、この流れを順にくわしく解説します。結果をいちばん左右する「ふだんの帳簿」は第6章に。
1税務調査の実像をつかむ
思い込みではなく数字で、いまの調査を知る。自分が「選ばれやすいシグナル」に当たっていないかを見る
税務調査が来る確率は、いまは100件に2件ほど。そのかわり、当たったときに追加で払う税金は1件平均634万円と、この10年でいちばん重くなっています。調査の数を減らして、選んだ先を深く掘る方向に変わったためです。
調査は、税務署からの電話で始まるのが原則です。ある日いきなり来るのは、現金商売などの例外だけ。当日見られるのは申告書ではなく、その裏にある帳簿と、領収書・請求書などの証拠です。
選ばれやすいのは、売上や利益の動きが例年や同業の平均から大きく外れている人、そして無申告の人です。変動に理由があるなら、申告書類にひと言書いておくだけで、調査官の「なぜ?」が1つ消えます。
かつて(10年前)数多く回って、広く浅く
調査官が月4〜5件を回っていた時代。1件にかける時間は短めでした。
いま(令和6年度)選び抜いて、深く掘る
選ぶのは人ではなくシステム。申告データの動きが例年や同業の平均から外れた先を、AIの予測モデルが選び出します。
法人の実地調査。国税庁が公表している数字から。
- 来る確率は下がったが、当たったときの重さは3.5倍になった
- 選定はランダムではない。数字の動きを説明できない申告が選ばれやすい
- 実地調査のほかに、文書や電話での問い合わせ(簡易な接触)はもっと高い確率で来る
2連絡が来たら、調査の日までに備える
電話が来ても慌てない。日程を決め、書類をそろえ、調査の日より前に自分の申告をもう一度見直す
調査の連絡は、原則として税務署からの電話で始まります。そこで決まるのは、調査の日時・場所と、見られる税目・期間(ふつう過去3年分)。日程は相談できます。仕事の繁忙期や準備の都合があれば、遠慮なく動かしてかまいません。税理士に頼んでいれば、この電話は税理士に入ります。
電話から調査の日までは、ふつう1〜2週間。この期間はただの待ち時間ではなく、自分から直せる最後の期間です。帳簿と証拠書類をそろえ、調査官が見るのと同じ目で自分の申告を見直し、間違いに気づいたら調査の日より前に修正申告を出す。ここで直せば、上乗せは指摘されてからの半分で済みます(重さのしくみは第5章)。
逆に、この期間に絶対にやってはいけないのが、書類に手を入れることです。あとから作った契約書や書き換えた領収書は、間違いではなく「隠しごと」の扱いに変わる、いちばんの近道です。
- 日程を決める候補日は相談できます。仕事の都合、準備の時間、税理士の同席。理由があれば動かせます。
- 書類をそろえる帳簿、請求書・領収書、通帳、契約書、給与関係の書類。対象期間の分を、すぐ出せる状態にします。当日探し回らないためでもあります。
- 自分の申告を見直す売上の漏れやズレ、経費の中の私用のもの、人に払ったお金の扱い。調査官が見る場所と同じです(第3章)。
- 間違いを見つけたら、調査の日より前に直すここで修正申告すれば、上乗せは半分指摘を待つ理由は1つもありません。
- 日程は相談できる。準備が間に合わないまま当日を迎えるのが、いちばん悪い形
- この1〜2週間は、自分から直せる最後の期間。直せば上乗せは半分で済む
- 書類の書き換え・後づけ・破棄は絶対にしない。間違いより、隠したことのほうがずっと重い
3当日、どこを見られるかを知る
調査官が見る場所は決まっている。売上・経費・人件費の順に、自分の帳簿を同じ目で先に見ておく
当日は、あいさつと事業の説明から始まります。世間話に見えるやり取り──景気はどうですか、ご家族は──にも、生活費と申告額の釣り合いを見る意味があります。聞かれたことには正直に。ただ、聞かれていないことまで話す必要はありません。
本題で見られる場所は、だいたい決まっています。お金の入り(売上)は、漏れと計上のズレ。お金の出(経費)は、私用の混ざりと、人に払ったお金の扱いです。中でも、外注費として払っていたものが「これは給与です」と判定されると、源泉徴収すべきだった所得税と、引けなくなった消費税が同時に来ます。金額が大きくなりやすい代表例です。
その場で答えられないことは、「確認して後日回答します」でかまいません。あいまいな記憶で即答するほうが、あとで話が食い違って不利になります。
お金の入り(売上)で見られること
- 売上の計上漏れ──通帳・レジ記録と帳簿の突き合わせ
- 期ズレ──今期の売上を来期に回していないか
- 現金売上──日々の記録が残っているか
- 在庫──決算日の数え漏れ・書き漏れ
お金の出(経費)で見られること
- 私用の支出の混ざり──家族の食事・旅行・車
- 外注費と給与の線引き──働き方の実態で判定
- 家族に払った給与──仕事の実態との釣り合い
- 架空・水増し──請求書と実際の取引の突き合わせ
調査官はここを、帳簿と証拠書類の突き合わせで確かめます。同じ目で先に見ておくのが、いちばんの準備です。
- 世間話にも確認の意味がある。聞かれたことに正直に、聞かれていないことは話さない
- 高くつきやすいのは、人に払ったお金の扱い。外注費か給与かは、契約書の題名ではなく働き方の実態で決まる
- 即答できないことは「確認して後日回答します」。その場しのぎの答えがいちばん危ない
4指摘されたら、その場で認めない
指摘もお願いも、その場で決めない。「持ち帰って確認します」は調査の場で言っていい言葉
調査の終盤は、指摘事項のやりとりです。指摘されても、その場で認める必要はありません。事実関係を確かめてから答えれば十分で、納得できない指摘には、資料を添えて反論できます。
このやりとりの中で、「質問応答記録書」という書類にサインを求められることがあります。この署名は義務ではなく、断っても不利益な取り扱いを受けないという整理になっています。サインした記録書は、あとで重いペナルティ(重加算税)の証拠に使われることがあります。
決着のつけ方は2つあります。指摘に納得したら、自分で修正申告を出す。納得できなければ、税務署側の処分(更正)を受けて、不服申立てで争う道を残す。修正申告を出すと、その部分はあとから争えなくなります。
その場で使う言葉を、先に決めておく
- 質問応答記録書が出てきたら、調査官が重いペナルティ(重加算税=35%)を視野に入れているサイン
- 署名しなくても、ほかの証拠で課されることはある。うそをつくのではなく、決定的な証拠を自分から差し出さないという意味
- 納得できないまま修正申告を出さない。出したら、その部分はもう争えない
5直されたときの重さを知る
おかしいと気づいたら、指摘を待たずに自分から直す。それがいちばん安いと知っておく
申告の間違いが見つかると、足りなかった税金を払って終わりではありません。「ペナルティの税金」(加算税)が上乗せされ、利息にあたる延滞税も付きます。
この上乗せの率は、間違いの大きさではなく「いつ直したか」で決まります。同じ申告漏れでも、直すタイミングだけで納める額が大きく変わります。
同じ申告漏れでも、「いつ直すか」で上乗せが変わる
期限内に申告していた人の率。無申告だった場合は、これよりさらに重くなります。
- 調査の連絡が来る前に直せば上乗せゼロ。連絡のあとでも、調査の日までに直せば半分で済む
- 無申告はさらに重い(15〜30%)。ただし期限から1か月以内に自分から出せば、助かる余地がある
- 調査で帳簿を出せないと、さらに10%上乗せする仕組みがある。ペナルティの税金は経費にもならない
6ふだんの帳簿で、調査を軽くしておく
調査の重さは当日ではなく、ふだんの帳簿で決まっている。残すものを決めて、淡々と残す
ここまでの5章は、すべて「来てから」の話でした。でも、結果をいちばん大きく左右するのは、ふだんの帳簿と書類です。帳簿と証拠がそろっていれば、調査は突き合わせて確認して終わり。なければ、税務署側の見積もり(推計)で税額を決められても、文句を言いにくい状態になります。
残すものはシンプルです。帳簿と、請求書・領収書・通帳などの証拠書類を、原則7年。もらった書類だけでなく、自分が出した請求書の控えも対象です。メールやネット注文など、データで受け取ったものは、データのまま残します。
そして、やってはいけないことを、やらない。二重帳簿、書類の書き換え、架空の経費。この3つは「間違い」ではなく「隠しごと」の扱いになり、上乗せ35%、調査も過去7年分にさかのぼる世界に変わります。
ふだんからやっておくこと
- 帳簿は月に1回はつける。ためない
- 請求書・領収書・通帳は原則7年残す
- データでもらったものは、データのまま残す
- 現金商売は、日々の記録(レジ・出納帳)を残す
- 売上や利益が大きく動いた年は、理由をメモしておく
絶対にやらないこと
- 二重帳簿(本当の帳簿と、見せる帳簿を分ける)
- 領収書・契約書の書き換え、後づけ
- 架空の経費、架空の人件費
- 売上の一部を、最初から帳簿に載せない
- 調査が決まってから、書類を捨てる
右の列は「間違い」ではなく「隠しごと」の扱い。上乗せ35%に変わり、調査も過去7年分にさかのぼります。
- 帳簿と証拠書類が7年分そろっている。それだけで、調査の大半は「確認して終わり」になる
- 帳簿を出せない・出さないだと、ペナルティの税金がさらに10%重くなる仕組みがある
- 数字が大きく動いた年に理由のメモを残しておくと、そもそも選ばれにくくなる(第1章)
全6回をぜんぶ見る(公開順)
このコースの続きはこちらです。
法人の決算と申告
法人成りしたあとの決算・申告・役員報酬。個人事業とはルールが違います。