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更新日 2026-07-31 税務調査

外注費か給与か──税務調査で「給与」と認定されると、消費税と源泉のダブル追徴になる

税務調査で、中小企業がいちばん大きな金額を取られる論点は何か。外注費と給与の区分です。

理由は単純で、否認されると2種類の税金が同時に来るからです。

この記事の結論

  • 外注費なら消費税の仕入税額控除ができ、源泉徴収も不要。給与と認定されると、両方がひっくり返る
  • しかも源泉所得税は過去3年分について決定処分+不納付加算税10%が乗る
  • 判定は形式ではなく実態。契約書に「業務委託」と書いてあっても意味はありません
  • 軸は5要素(代替可能性/時間的・場所的拘束/指揮監督/不可抗力時の報酬請求権/材料・用具)
  • 「本人が確定申告しているから問題ない」は通りません。源泉徴収義務は支払う側の義務です
  • インボイス制度で前提が変わりました。外注先が免税事業者なら「外注費だから全額控除」は成り立ちません

1. なぜ最大論点なのか──ダブルパンチの構造

同じ100万円を職人さんに払うとして、それが外注費か給与かで扱いはこう変わります。

外注費(請負) 給与(雇用)
消費税 課税仕入れ(仕入税額控除の対象) 不課税(控除できない)
源泉所得税 原則不要(所得税法204条に列挙された報酬を除く) 必要
社会保険 対象外 対象になり得る

給与と認定されると、

  1. 消費税の仕入税額控除が否認される(消費税の追徴)
  2. 源泉所得税の徴収漏れが確定する(源泉の追徴)

という2つが同時に来ます。しかも源泉所得税は過去3年分について決定処分を受け、不納付加算税10%が乗ります。

国税庁はここを重点的に見ています。令和6事務年度の資料では、AI予測モデルが「原価(外注費)」と判定した法人に臨場し、取引実態のない外注費を把握して追徴約3億6千万円という事例が公表されています。

2. 判定の5要素

判定基準は、消費税法基本通達などで整理されている次の5つが軸です。

# 要素 外注費(請負)寄り 給与(雇用)寄り
1 他人による代替可能性 他の人に代わってもらえる 本人でなければならない
2 時間的・場所的な拘束 拘束されない。出来高で算定 時間・日数で算定される
3 指揮監督 受けない 受ける
4 不可抗力で成果物が滅失したときの報酬請求権 請求できない(危険は自己負担) 請求できる
5 材料・用具の供与 自前で用意する 会社が支給する

この5つを全部満たさないとダメ、という話ではありません。総合判断です。ただし、2と3が給与寄りだと、かなり厳しくなります。

3. 調査官が実際に見る20項目

実務では、もっと細かいところが見られます。列挙します。

  • 契約書の有無と内容
  • 代替性があるか
  • 請求書があるか。誰が作ったか
  • 指揮命令の実態
  • 業務の責任は誰が負うか
  • 材料の支給
  • 空間的・時間的な拘束
  • 労働保険・社会保険の扱い
  • 組織図に名前があるか
  • 役職があるか
  • 有給休暇があるか
  • 福利厚生の対象か
  • 通勤手当が出ているか
  • 住宅手当
  • 賞与
  • 退職金
  • 会社の名刺を持っているか
  • 在庫管理をさせているか
  • その人が自分の使用人を使っているか
  • 最低保障があるか

「会社の名刺を持っている」「組織図に名前がある」「通勤手当が出ている」──この3つは、外注だと主張しても説得力を失います。

4. どうやって見つかるのか──実例

① 同じ現場の他の職人との比較
Cさんは出来高で査定され、作業着代・駐車場代・協力会費を自己負担していた。Dさんは毎月定額50万円で、諸費用は会社負担、日報には残業や休日出勤の記載があった。→ Dさんだけが給与と認定されました。社内に「明らかな請負」と「実質雇用」が混在していると、対比されて弱いほうが落ちます。

② 日報の残業時間の記載
「残業3時間」と書いてあれば、時間で管理していた証拠になります。

③ 従業員の希望で外注に切り替えたケース
「手取りを増やしたい」という本人の希望で外注費処理にしたが、同じ仕事をしているBさんは給与のまま。→ 矛盾を突かれます。

5.「本人が確定申告しているから大丈夫」は通らない

これはよく聞く反論ですが、通りません。

源泉徴収義務は支払者の義務であり、受け取った人が申告しているかどうかとは無関係です。相手が申告して所得税を納めていても、支払者の徴収漏れは徴収漏れとして処理されます。

課税には2つのルートがあると理解しておいてください。

ルート 内容
出口課税 発注側(支払う側)の段階で外注費を給与と認定し、源泉徴収を決定する
入口課税 相手先の所轄税務署へ資料を回付し、受け取った側を更正・決定する

支払った側で否認されれば、受け取った側にも波及し得るということです。取引先との関係にも影響します。

6. 認められた例もある

もちろん、きちんと整えていれば認められます。

得意先の元役員を受け入れたケースでは、次の要素が揃っていたことで、事業所得(支払手数料=課税仕入れ)として認められました。

  • 業務委託契約書で業務範囲が明確になっている
  • 指揮監督を受けていない
  • 業務実績報告書が作成されている
  • 貸与したPCの破損について弁償責任がある(=危険を自分で負っている)

最後の「弁償責任」が効いています。リスクを自分で負っているかどうかが、請負と雇用を分ける本質だからです。

ただしこのケースでも、業務内容が経営改善や診断といったものであれば、報酬として源泉徴収が必要になる点には注意が必要です(所得税法204条)。

→ どの報酬に源泉徴収が要るのかは 外注費に源泉徴収は必要? で扱っています。

7. 証拠が弱くても、直ちに否認はできない

一方で、調査官の側にも制約があります。

発注書も契約書もなく、手書きの領収書が1枚あるだけ、しかも領収書の住所が間違っている──そういう状態でも、それだけを理由に否認する(とくに更正処分をする)のは簡単ではありません。課税庁の側にも立証責任があるからです。

とはいえ、大口・悪質なものが放置されることはありません。「証拠が弱ければ大丈夫」ではなく、「証拠を揃えておくほうが圧倒的に安い」と考えてください。

8. インボイス制度で前提が変わった

ここは、少し前の解説書には書かれていない重要な変化です。

外注先が免税事業者(インボイス発行事業者でない)の場合、適格請求書がないので仕入税額控除は経過措置の割合に限られます。

期間 控除できる割合
令和8年9月30日まで 仕入税額の80%
令和8年10月1日〜令和11年9月30日 仕入税額の50%

つまり、「外注費なら全額控除できる」という前提そのものが崩れています。外注費か給与かの区分で得られる消費税上のメリットは、相手がインボイス発行事業者かどうかで変わるようになりました。

さらに注意点があります。経過措置を適用するには、「80%控除(50%控除)の特例を受ける課税仕入れである旨」を帳簿に記載していなければなりません。記載がないと、経過措置すら使えません。これは調査での新しい指摘ポイントです。

※令和8年度税制改正大綱では、この経過措置を2年延長し(令和13年9月末まで)、控除率を段階的に縮減して終了する方向が示されています。大綱段階の情報を含むため、成立後の条文でご確認ください。

9. 揃えておくべきもの

調査対策としてやることは、はっきりしています。

  • [ ] 業務委託契約書を交わす。業務の範囲・対価の算定方法・瑕疵担保責任を明記する
  • [ ] 請求書は相手方から受領する。こちらで作らない(自社で作成した請求書は、それだけで雇用を疑わせます)
  • [ ] 道具・材料を相手方に負担させる
  • [ ] 工事の受注から完成引渡しまでの進捗を管理する帳票(日報・出面帳)を備え付ける。ただし残業時間を書かせない
  • [ ] 組織図・座席表・名刺・有給・通勤手当の対象から外す
  • [ ] 報酬は出来高で算定する。月額固定・最低保障を避ける
  • [ ] 相手方がインボイス発行事業者かを確認し、免税事業者なら帳簿に経過措置の旨を記載する
  • [ ] 社内で「請負」と「雇用」が混在していないか点検する

10. 業種別に見られやすいところ

業種 重点
建設業 架空・水増し外注費(キックバックの原資)、未成工事支出金の完成振替、重層発注(A社→B社への素通しは隠ぺい仮装と見られます)
IT・Web エンジニアの外注費か給与か、研究開発費の資産計上漏れ
運送 傭車費と給与の区分、燃料費・車両費の負担
美容・整体 面貸し・業務委託の実態

未成工事支出金も、外注費とセットで見られます。工事完成日の操作や工事間の原価付替えは、工期の進捗と工事別原価率のアンバランス、工事日報・出面帳との不整合で発覚します。

なお、水増しは粉飾なので減額更正はされず、そのまま放置されて青色欠損金が期限切れになるというリスクもあります。

まとめ

  • 給与と認定されると、消費税の控除否認+源泉所得税の徴収漏れというダブルパンチ。源泉は過去3年分+不納付加算税10%
  • 判定は形式でなく実態。軸は5要素(代替可能性/時間的・場所的拘束/指揮監督/不可抗力時の報酬請求権/材料・用具
  • 調査官は約20項目を見る。名刺・組織図・通勤手当は特に効く
  • 発覚のきっかけは、同じ現場の他の職人との対比/日報の残業記載/社内での処理の矛盾
  • 「本人が確定申告しているから」は通らない。課税は出口・入口の2ルートある
  • 認められた例では、業務範囲の明確化・指揮監督なし・実績報告書・弁償責任が揃っていた
  • インボイス制度で「外注費なら全額控除」は成り立たない。免税事業者からの仕入れは経過措置の割合まで。帳簿への経過措置の記載も必要
  • 対策は、契約書・相手方作成の請求書・道具の自己負担・出来高算定・社内制度からの除外
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法28条(給与所得)/183条(源泉徴収義務)/204条(報酬・料金等に係る源泉徴収)
  • 消費税法2条1項12号(課税仕入れ)、消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)
  • 国税通則法67条(不納付加算税)/70条(更正・決定の期間制限)
  • 平成28年改正消費税法附則52条・53条(免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置。80%・50%控除と帳簿への記載要件)
  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(AI予測モデルの活用と調査事例)
  • 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」、タックスアンサー「給与所得者と事業所得者の区分」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です。令和8年度税制改正大綱の内容を含む部分は、成立後の条文でご確認ください

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