振込手数料を引かれたときの消費税──返還インボイスは1万円未満なら要らない。ただし「引くこと自体」が禁止される取引がある
請求55,000円に対して、入金は54,120円。880円の振込手数料が引かれています。
経理では毎月起きることですが、消費税では「誰の課税仕入れなのか」から整理する必要があります。そして2026年からは、そもそも★引くこと自体が禁止される取引が出てきました。
この記事の結論
- ★★令和8年1月1日施行の取適法では、対象取引について、当事者間の合意があっても振込手数料を売手に負担させて代金から差し引くことが禁止されている
- 対象外の取引なら、処理は3パターン(①売上値引き ②代金決済上の役務提供の対価 ③立替払い)
- ★①なら、返還インボイスは1万円未満で交付義務が免除される。期限も規模の制限もない恒久措置
- 判定は返還した金額や、値引き等の対象となる請求・債権の単位ごとの減額金額
- ★軽減税率対象の売上に係る値引きなら、値引きも8%
- ★経理は「支払手数料」のままでもよい。ただし帳簿に対価の返還等である旨を書く必要があるので、コードを分ける
- 買手側の手数料:★ATMは帳簿のみでよい。窓口・ネットバンキングは簡易インボイスが要る
- ★★ただし、金融機関ごとに任意の1取引の簡易インボイスを1回もらえば、あとは通帳・明細で足りる
1. ★まず、その差引きは許されるのか
消費税の処理より先に確認することがあります。
令和8年1月1日から、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」になりました。そして国税庁のQ&Aにも、こう注記されています。
取適法の適用対象となる取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させ、代金から差し引くことは禁止されています。
★「うちは手数料は先方負担でお願いしています」という合意があっても、対象取引なら違反になります。これは消費税の話ではなく、代金支払いのルールの話です。
対象になるかどうかは、委託の種類(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・運送委託)と、発注側・受注側の資本金や従業員数で決まります。★令和8年施行の改正で、従来の資本金基準に加えて従業員数基準が入り、運送委託も対象に加わりました。判定は公正取引委員会・中小企業庁の資料で確認してください。
発注する側の実務としては、「対象取引かどうかを確認し、対象なら差し引かない」が出発点になります。以下は、対象外の取引についての消費税の話です。
2. 処理は3パターンある
同じ「880円が引かれた」でも、当事者間の契約関係によって3つに分かれます。
| # | 整理 | 売手から見ると | 買手から見ると |
|---|---|---|---|
| ① | 売上値引き(実務の主流) | 売上げに係る対価の返還等。★1万円未満なら返還インボイスは不要 | 仕入れに係る対価の返還等。手数料は自分の課税仕入れ |
| ② | 代金決済上の役務提供(支払方法の指定に係る便宜)を買手から受けた対価 | ★買手からのインボイスが必要。または仕入明細書を作って買手の確認を受ける | 手数料相当額が課税売上げになる |
| ③ | 買手が売手のために立替払いした | 買手が金融機関から受けたインボイス+買手が作成した立替金精算書の交付を受けて引く | 立替金の精算。金額は金融機関の手数料と同額でなければならない |
★②を選ぶと、売手にとってはインボイスをもらう手間が増え、買手にとっては課税売上げが増えます。③も書類のやり取りが要ります。だから実務では①がほとんどです。
★ただし③には抜け道があります。買手がATMで振り込んだ場合、そのATM手数料は自動サービス機の特例に当たるので、★買手が金融機関から受けたインボイスも立替金精算書も不要になります。この場合、売手は「差し引かれた金額が振込手数料であること」と「ATMでの振込みであること」を確認したうえで、帳簿のみの保存で引けます。
3. ★1万円未満なら、返還インボイスは要らない
①を選んだ場合、売手は原則として適格返還請求書(返還インボイス)を交付する義務を負います。返品・値引き・割戻しをしたときの書類です。
★しかし、税込1万円未満の対価の返還等については、この交付義務が免除されます。振込手数料相当額は普通1万円未満なので、★返還インボイスを出す必要はありません。
ここは押さえておく価値があります。
| 内容 | |
|---|---|
| 期限 | ★なし。恒久措置 |
| 規模の制限 | ★なし。売上1億円でも10億円でも使える |
| 手続 | なし |
★少額特例(1万円未満の仕入れでインボイス不要)は令和11年9月30日で終わりますが、こちらの1万円未満は終わりません。混同されやすいところです。少額特例は1万円未満の領収書にインボイスは要らないにまとめました。
インボイス制度が始まった当初は「振込手数料のたびに返還インボイスを出すのか」という話になり、実務が混乱しました。現在は、その必要はありません。
4. 1万円未満は、どの単位で判定するか
返還した金額や、値引き等の対象となる請求・債権の単位ごとに減額した金額で判定します。
| ケース | 判定 |
|---|---|
| 500,000円の請求に対し、買手が振込手数料相当額440円を引いて499,560円を支払(売手は440円を対価の返還等として処理) | ★1万円未満。交付義務は免除される |
| 400,000円の請求に関し、1商品当たり100円のリベートを後日支払(合計20,000円) | ★1万円以上。免除されない |
★請求額が50万円でも、減額したのが440円なら「440円」で判定します。元の請求額ではありません。
★この判定は税率ごとには分けません。値引きの中に10%対象と8%対象が混ざっていても、税率ごとの値引き額ではなく、請求・債権の単位ごとの減額金額で見ます。
5. ★軽減税率が絡むと、値引きも8%になる
見落とされやすい点です。
売上げに係る対価の返還等の適用税率は、その基となった売上げの適用税率に従います。
★食品を卸している事業者なら、その売上に係る振込手数料相当額の値引きは8%です。10%で処理すると税額がずれます。飲食料品と雑貨を両方扱っている場合は、どちらの売上に対する値引きなのかで分けることになります。
6. ★経理処理は「支払手数料」のままでもよい
会計上の科目を変えるかどうかで迷う話があります。結論から言うと、どちらでも構いません。
- 売上値引き(対価の返還等)として経理処理する → そのまま
- 支払手数料として経理処理したまま、消費税法上だけ対価の返還等として扱う → ★これも認められています
ただし後者の場合、★帳簿に「売上げに係る対価の返還等に係る事項」を記載する必要があります。適用税率ごとの区分も要ります。
★実務の落としどころは、会計ソフトで科目やコードを分けることです。「支払手数料(振込料負担)」のようなコードを別に用意して、通常の支払手数料と判別できるようにしておく——国税庁もこの対応を挙げています。
期の途中で処理方法を変えること自体は問題ありません。支払手数料で処理していたものを、対価の返還等の処理に変更しても差し支えないとされています。
売掛金の消込みそのものの回し方は請求書の入金チェックを月末5分で終わらせる型にまとめました。
7. 買手側──自分が払う振込手数料を引くには
今度は、自分が銀行に払う手数料の話です。
| 振込の手段 | インボイスの要否 |
|---|---|
| ★ATM | ★不要。自動サービス機に当たるので帳簿のみで引ける(摘要欄に「ATM」) |
| 金融機関の窓口 | 必要(振込金受取書等) |
| ★インターネットバンキング | ★必要。機械装置で資産の譲渡等が行われるわけではないので、自動サービス機に当たらない |
★ネットバンキングが「自販機扱いにならない」のは、直感に反するところです。画面で完結していても、サービス自体は機械が提供しているわけではない、という整理です。帳簿のみで引ける取引の全体像は電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らないにまとめました。
8. ★★ただし、1回もらえば足りる
「毎月何十件も振込があるのに、そのたびに簡易インボイスを取るのか」——ここには実務的な答えが用意されています。
★入出金や振込みが多頻度で、すべての簡易インボイスを保存するのが困難なときは、次の2つを保存すれば引けます。
- 金融機関ごとに発行を受けた通帳や入出金明細(個々の取引年月日と対価の額が分かるものに限る)
- その金融機関における任意の一取引(1回の入出金または振込み)に係る簡易インボイス
★2は、その金融機関が登録をやめないことを前提に、1回だけ取得・保存すれば足ります。毎月もらう必要はありません。
★さらに、金融機関から各種手数料に係るお知らせ(登録番号・適用税率・取引の内容が書かれたもの)を受け取った場合は、その1枚で簡易インボイスの保存に代えられます。
ネットバンキングで簡易インボイスが電子データで提供される場合も、★画面上でいつでも確認できる状態など一定の要件を満たすなら、毎回ダウンロードしなくても構いません。
そして——★基準期間の課税売上高が1億円以下などの事業者なら、少額特例で1万円未満の課税仕入れは帳簿だけで引けるので、そもそもこの対応自体が不要です。振込手数料はまず間違いなく1万円未満です。
9. 一度、契約を確認する
消費税の処理の前に、そもそも誰が負担する契約になっているのかを確認しておくと、毎月の判断が要らなくなります。
- 取適法の対象取引か——対象なら、差し引くこと自体ができません
- 対象外なら、契約書・取引基本契約に振込手数料の負担が書いてあるか
- 書いていないなら、★「振込手数料はご負担ください」と請求書に明記するか、値引き処理として運用を固定する
★買手が売手の了解なく差し引くケースもあります。その場合、消費税の処理を決める前に、負担の取り決めを確認するのが先です。請求書に何を書くかは個人事業主の請求書、最低限これだけにまとめました。
範囲注記:この記事のうち取適法(中小受託取引適正化法)に関する部分は公正取引委員会・中小企業庁の所管であり、適用対象の判定や個別事案の相談はそちらが窓口になります。税理士の業務範囲は消費税の処理までです。契約上の代金債権の回収は弁護士の業務範囲です。この記事は2026年8月時点の制度に基づきます。
まとめ
- ★★取適法の対象取引では、合意があっても振込手数料を売手に負担させて差し引くことが禁止されている(令和8年1月1日施行)
- 対象外なら①売上値引き ②代金決済上の役務提供 ③立替払いの3パターン。実務は①
- ★①なら1万円未満で返還インボイスの交付義務が免除される。期限も規模の制限もない恒久措置
- 判定は請求・債権の単位ごとの減額金額。50万円の請求から440円なら「440円」で見る
- ★軽減税率対象の売上に係る値引きは8%
- ★経理は支払手数料のままでもよい。ただし帳簿に対価の返還等の記載が要るのでコードを分ける
- 買手側:★ATMは帳簿のみ。窓口・ネットバンキングは簡易インボイスが要る
- ★★金融機関ごとに任意の1取引の簡易インボイスを1回もらえば、あとは通帳・明細で足りる
- 少額特例が使える規模なら、そもそもこの対応は要らない
- 消費税法57条の4第3項、消費税法施行令70条の9第3項2号(適格返還請求書の交付義務と、税込1万円未満の対価の返還等に係る交付義務の免除)/消費税法38条1項(売上げに係る対価の返還等)
- 消費税法基本通達1-8-17(1万円未満の判定は、返還した金額や値引き等の対象となる請求・債権の単位ごとの減額金額による)
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問29(売手が負担する振込手数料相当額。売上値引き/代金決済上の役務提供/立替払いの3類型。令和8年4月改訂。取適法の適用対象となる取引では合意の有無にかかわらず差引きが禁止されている旨の注記)/問30(経理処理の変更。令和8年4月改訂)/問28(1万円未満の判定単位)
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問103-2(金融機関の入出金手数料や振込手数料に係る適格請求書の保存方法。金融機関ごとの通帳・入出金明細と、任意の一取引に係る適格簡易請求書を併せて保存。令和7年6月改訂)/問47(自動販売機及び自動サービス機の範囲)/問94(立替金)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法・取適法。令和8年1月1日施行)/公正取引委員会「取適法特設サイト」
- 平成28年改正法附則53条の2(少額特例)
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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