電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らない──帳簿だけで引ける10類型と、摘要欄に何と書くか
インボイス制度で「3万円未満なら領収書がなくてもいい」という以前の取扱いは廃止されました。その代わりに、そもそもインボイスをもらえない取引について、帳簿だけで引ける類型が定められています。
こちらは少額特例と違って期限がありません。令和11年に少額特例が終わったあとも、この10類型は残ります。
この記事の結論
- 帳簿だけで引ける取引は10類型(令和8年5月時点)。期限のない恒久的な扱い
- 帳簿に足すのは①該当する旨 ②相手方の住所又は所在地の2つ
- 住所が要るのはごく一部。電車・自販機・郵便・出張旅費・通勤手当は書かなくてよい
- 3万円の判定は「1回の取引」の税込価額。新幹線を4人分まとめて買うと52,000円で判定され、保存が必要になる
- 特急・急行・寝台料金は対象。入場料金・手回品料金は対象外
- 3万円以上でも、回収される乗車券なら帳簿だけで引ける
- セルフレジ・自動券売機・コインパーキング・ネットバンキングは「自販機」ではない
- 通勤手当は所得税の非課税限度を超えても対象。出張旅費は逆に、所得税の非課税範囲内でしか対象にならない
- 海外出張の旅費は、原則として課税仕入れにならない
1. 「3万円未満なら領収書はいらない」は廃止された
まず前提を揃えます。インボイス制度の前は、①3万円未満の課税仕入れ ②請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由があるときは、帳簿だけで引けました。この2つはインボイス制度で廃止されています。
昔の感覚のまま「3万円未満だから領収書はなくていい」と処理していると、一般課税では引けません。領収書が出なかったときの所得税側の対応は領収書をなくした・もらい忘れた経費にまとめました。この記事は、その消費税側を掘り下げたものです。
2. 帳簿だけで引ける10類型
現在、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるのは次の取引です(令和8年5月時点)。
| # | 類型 | 金額基準 |
|---|---|---|
| ① | 公共交通機関(船舶・バス・鉄道)による旅客の運送 | 3万円未満 |
| ② | 簡易インボイスの記載事項が記載され、使用の際に回収される入場券等 | ─ |
| ③ | 古物商が登録事業者でない者から買い受ける古物 | 棚卸資産に限る |
| ④ | 質屋が登録事業者でない者から取得する質物 | 棚卸資産に限る |
| ⑤ | 宅地建物取引業者が登録事業者でない者から買い受ける建物 | 棚卸資産に限る |
| ⑥ | 特定金属くず買受業の届出をした事業者が登録事業者でない者から買い受ける特定金属くず | 棚卸資産に限る。令和8年9月1日以後 |
| ⑦ | 登録事業者でない者から買い受ける再生資源・再生部品 | 棚卸資産に限る |
| ⑧ | 自動販売機・自動サービス機からの購入等 | 3万円未満 |
| ⑨ | 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス | 郵便ポストに差し出したものに限る |
| ⑩ | 従業員等に支給する出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当 | 通常必要と認められる部分 |
③〜⑦は「棚卸資産」に限られます。同じ古物商でも、自分で使う固定資産や消耗品として買ったものは対象外です。中古物件を買って賃貸に回す場合も同じで、ここは事故が起きるところです。
⑥は令和8年度改正で加わりました。特定金属くずは③⑦の対象から外され、金属盗対策法の届出をしている事業者だけが帳簿のみで引けます。届出がなければ引けません。金属くずを扱う事業者は、届出の有無が控除の可否を分けます。
3. 帳簿に足すのは2つ。ただし住所はほとんど要らない
いつもの帳簿の記載事項(相手方の氏名・取引年月日・内容・支払対価の額)に加えて、次の2つが必要です。
- 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
- 仕入れの相手方の住所又は所在地
そして2は、ほとんどの場合に免除されています。
| 住所の記載 | 対象 |
|---|---|
| 要らない | ①公共交通機関/②入場券等のうち3万円未満のもの/③〜⑤で古物営業法・質屋営業法・宅建業法により帳簿に相手方の氏名・住所を記載することとされていないもの/⑥で金属盗対策法により本人特定事項の確認を行うこととされていないもの/⑦で事業者以外の者から受けるもの/⑧自販機/⑨郵便/⑩出張旅費・通勤手当 |
| 要る | ②の入場券等のうち3万円以上のもの/③〜⑤で業法上その帳簿に相手方の氏名・住所を書くことになっているもの/⑥で本人確認を行うもの/⑦で事業者から受けるもの |
日常の経費でいえば、電車・バス・自販機・ATM・郵便・出張旅費・通勤手当は、住所を書く必要がありません。ここを勘違いして相手先の住所を集めようとすると、無駄な事務が生まれます。
なお、古物商の場合は古物営業法上の古物台帳(税込1万円以上の取引が対象)に取引年月日・品目・特徴・相手方の住所氏名などを書くことになっています。古物台帳と、「該当する旨」を書いた総勘定元帳を合わせて保存すれば要件を満たします。この古物台帳は、帳簿の保存期間にわたって保存しておく必要があります。
4. 摘要欄に何と書くか
「該当する旨」は、その取引がどれに当たるかが分かる表現であれば足ります。国税庁が示している書き方はこうです。
| 取引 | 摘要欄の記載例 |
|---|---|
| 3万円未満の電車・バス | 「3万円未満の鉄道料金」 |
| 自動販売機での購入 | 「自販機」 |
| ATMの手数料 | 「ATM」 |
| 3万円以上の入場券等(回収されるもの) | 「○○施設 入場券」+相手方の住所 |
| 古物商の買取り | 「古物」 |
| 出張旅費・日当 | 「出張旅費等」 |
実務では、摘要欄の書き方を先にルール化しておくのがいちばん確実です。「JR運賃 公共交通機関」のように定型文を決めて、入力する人が迷わないようにしておきます。会計ソフトの摘要辞書に登録してしまうのが早いです。
具体的には、こういう書き方になります。
- 会議用の飲み物を自販機で20本(1本150円)購入 →「自販機 飲料※」3,000円(※は軽減税率対象品目)
- 施設の入場券を4枚(1枚2,000円)購入して使用 →「○○施設入場券」8,000円
5. 3万円の判定は「1回の取引」
3万円未満かどうかは、1回の取引の税込価額で判定します。切符1枚ごとでも、月まとめの合計でもありません。
国税庁が挙げている例が分かりやすいところです。東京〜大阪の新幹線の大人運賃が13,000円のとき、4人分をまとめて購入すれば52,000円で判定され、公共交通機関特例の対象外になります。この場合はインボイスの保存が必要です。
一方、自販機や入場券のほうは、こう判定します。
| ケース | 判定 |
|---|---|
| 自販機で飲料(1本150円)を20本、合計3,000円購入 | 1回の商品購入金額(150円)で判定 |
| ○○施設の入場券(1枚2,000円)を4枚、合計8,000円購入して使用 | 1回の使用金額(8,000円)で判定 |
この「1回の取引で判定する」考え方は、1万円未満の少額特例と同じです。少額特例のほうは1万円未満の領収書にインボイスは要らないにまとめました。
6. 特急料金は対象、入場料金は対象外
同じ駅で払うお金でも、扱いが分かれます。
| 項目 | 公共交通機関特例 |
|---|---|
| 運賃 | 対象 |
| 特急料金・急行料金・寝台料金 | 対象(旅客の運送に直接的に附帯する対価) |
| 入場料金(駅構内に入るためのもの) | 対象外 |
| 手回品料金 | 対象外 |
そして、3万円以上でも帳簿だけで引ける場合があります。鉄道事業者から簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が書かれた乗車券の交付を受け、その乗車券が改札で回収される場合です。この場合は②の回収特例に当たるので、摘要欄に「乗車券等」と書けば足ります。「3万円以上の新幹線代は必ずインボイスが要る」わけではありません。
7. 自販機に見えて、自販機でないもの
⑧の自動販売機・自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われ、その機械装置のみで完結するものをいいます。
| 自販機特例の対象になる | 対象にならない |
|---|---|
| 自動販売機の飲食料品 | スーパーのセルフレジ(機械は精算だけをしている) |
| コインロッカー | 自動券売機(券の発行と、実際のサービスの提供が別) |
| コインランドリー | コインパーキング(同上) |
| 金融機関のATMの入出金・振込手数料 | ネットバンキング(機械装置で資産の譲渡等が行われていない) |
コインパーキングは自販機特例の対象外ですが、駐車場業として簡易インボイスを交付できます。精算機から出てくる領収書に登録番号が入っていれば、それを保存すれば引けます。ネットバンキングの振込手数料は自販機特例に当たらないので、原則として簡易インボイスが要ります——ただしここには実務的な逃げ道があり、振込手数料を引かれたときの消費税に書きました。
8. 出張旅費と通勤手当で、所得税との関係が逆になる
⑩は「通常必要と認められる部分」に限られます。この「通常必要」の意味が、出張旅費と通勤手当で逆になります。
| 消費税で帳簿のみ保存が認められる範囲 | |
|---|---|
| 出張旅費・宿泊費・日当 | 所得税が非課税となる範囲内(所基通9-3による判定)。それを超える部分は対象にならない |
| 通勤手当 | 通勤に通常必要と認められればよく、所得税の非課税限度額を超えているかどうかは問わない |
つまり通勤手当は、所得税で課税されている部分でも、消費税では帳簿だけで引けます。逆に日当を相場よりかなり高く設定すると、所得税で給与課税されるだけでなく、消費税でも帳簿のみ保存の対象から外れます。
出張旅費・日当そのものの考え方(個人事業主本人には日当が出せないことなど)は出張旅費・日当は経費にできる?に、通勤手当を含む給与まわりの判定は外注費か給与かにあります。
9. 誰の分まで対象になるか
「従業員等」の範囲でつまずくところを整理します。
| ケース | 扱い |
|---|---|
| 概算払いの出張旅費 | 対象 |
| 実費精算の出張旅費 | 対象(領収書を集めていても、通常必要な範囲なら帳簿のみでよい) |
| 会社が用務先へ直接払っているものと同視できる実費精算 | 対象外。通常の課税仕入れとして、インボイスの保存が要る(3万円未満の電車代などは別途、帳簿のみでよい) |
| 派遣元・出向元へ払うもの | 対象外。人材派遣の対価なので派遣元のインボイスが要る |
| 派遣元が預かってそのまま派遣社員に渡すことが契約で明らかな場合 | 対象 |
| 内定者(内定通知を受け入社誓約書を出しているなど、労働契約が成立していると認められる者) | 対象 |
| 採用面接に来た人の交通費 | 対象外。まだ従業員等ではない |
| 海外出張の旅費 | 原則として課税仕入れに該当しない(そもそも引けない) |
海外出張は「帳簿だけで引ける/引けない」以前の話です。国内取引ではないので、課税仕入れになりません。ここは金額が大きくなりやすいので、処理を間違えると影響も大きくなります。
10. 少額特例と、どちらを使うのか
紛らわしいので整理しておきます。
| 少額特例 | この10類型 | |
|---|---|---|
| 対象者 | 基準期間1億円以下等の事業者だけ | 規模を問わない |
| 対象 | 税込1万円未満の課税仕入れ全般 | 10の類型に当たる取引 |
| 期限 | 令和11年9月30日まで | 期限なし |
| 帳簿の追加記載 | 不要 | 「該当する旨」が必要(住所は多くの場合不要) |
1万円未満の電車代なら、どちらでも引けます。少額特例が使える規模なら摘要欄の記載も要らないので、そちらのほうが楽です。そして令和11年10月以降は、この10類型だけが残ります。摘要欄のルールは、いまのうちに決めておくと移行が楽になります。
範囲注記:この記事は消費税の仕入税額控除の要件を扱っています。個々の取引の判定は取引の実態・業法上の義務によって変わるため、実際の処理は所轄税務署または関与税理士に確認してください。古物営業・質屋営業・特定金属くず買受業の許可や届出そのものは所管の警察・行政庁の所管です。この記事は2026年8月時点の制度に基づきます。
まとめ
- 「3万円未満なら領収書不要」は廃止済み。代わりに10類型がある
- この10類型に期限はない(少額特例は令和11年9月30日で終わる)
- 帳簿に足すのは①該当する旨 ②相手方の住所。住所は、電車・自販機・郵便・出張旅費・通勤手当では不要
- 摘要欄は「3万円未満の鉄道料金」「自販機」「ATM」のように定型化する
- 3万円は1回の取引で判定。新幹線4人分まとめ買いは52,000円で判定される
- 特急料金は対象、入場料金は対象外。3万円以上でも回収される乗車券なら帳簿のみでよい
- セルフレジ・自動券売機・コインパーキング・ネットバンキングは自販機ではない
- 通勤手当は所得税の限度超えでも対象。出張旅費は所得税の非課税範囲内だけ
- 内定者は対象、採用面接者は対象外。海外出張は原則そもそも課税仕入れにならない
- ③〜⑦は棚卸資産限定。自分で使う資産として買ったら対象外
この記事の主な根拠(出典)
- 消費税法30条7項、消費税法施行令49条1項、消費税法施行規則15条の4(帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合)
- 令和5年国税庁告示第26号(帳簿に相手方の住所又は所在地の記載を要しない課税仕入れ)
- 消費税法施行令70条の9第2項(適格請求書の交付義務が免除される取引)
- 消費税法基本通達1-8-12(公共交通機関特例の3万円未満の判定は1回の取引の税込価額)/1-8-13(特急料金・急行料金・寝台料金は対象、入場料金・手回品料金は対象外)/1-8-14(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
- 消費税法基本通達11-6-4(出張旅費等)/11-6-5(通勤手当)/所得税基本通達9-3(旅費の非課税の範囲)/所得税法施行令20条の2(非課税とされる通勤手当)
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問104・問110(帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合と帳簿への記載事項。令和8年5月改訂)/問43・問44・問47・問105・問110-2/問106(古物商等)/問107-2(実費精算の出張旅費等)/問107-3(派遣社員等や内定者等)/問108(通勤手当)
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」「消費税法改正のお知らせ(令和8年4月)」(特定金属くず特例の創設。令和8年9月1日以後に行う課税仕入れ)
- 古物営業法16条・18条(古物台帳)/消費税法施行令71条2項(帳簿の保存期間)
- ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります
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