「経費を増やせば税金が減る」は半分ウソ|1万円使って戻るのは税率分だけという話
12月になると、必ず相談されます。「今年は利益が出そうなので、何か買って経費を使いたい」。
気持ちはよく分かります。ただ、その前に一度だけ確認してほしい算数があります。
1万円の経費で減る税金は、1万円ではありません。その人の税率分だけです。所得税率5%の人なら、減る税金は1,500円。残りの8,500円は、単に手元から出ていっただけです。
この記事の結論
– 経費1万円で減る税金は 1万円 ×(所得税率+住民税10%+事業税5%)。フルでも半分以下
– 必要なものを買うなら得、不要なものを買うなら損。判定はこれだけ
– 所得控除は経費と同じ効き方、税額控除だけが「1円=1円」で効く
– 「経費を使う節税」は最後の手段。先にやるべきものが6つある
– 経費にならないものを経費にするのは節税ではなく過少申告。加算税で逆に増える
まず算数:経費1万円で税金はいくら減るか
個人事業主にかかる税金のうち、利益(所得)に連動するのは3つです。
| 税金 | 税率 | 補足 |
|---|---|---|
| 所得税 | 5〜45% | 課税所得の大きさで階段状に変わる |
| 住民税 | 一律10% | 所得割。ほぼ全員同じ |
| 個人事業税 | 3〜5% | 法定70業種のみ。事業主控除290万円あり |
経費を1万円増やすと、この3つの計算のもとになる所得が1万円減ります。つまり減る税金は「1万円 × 合計税率」です。
| 課税所得の目安 | 所得税率 | 合計(+住民税10%+事業税5%) | 1万円の経費で減る税金 |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 20% | 2,000円 |
| 195万円超〜330万円 | 10% | 25% | 2,500円 |
| 330万円超〜695万円 | 20% | 35% | 3,500円 |
| 695万円超〜900万円 | 23% | 38% | 3,800円 |
| 900万円超〜1,800万円 | 33% | 48% | 4,800円 |
※事業税がかからない業種(法定70業種に該当しない場合)は、それぞれ5%引いてください。該当業種は8月に届く「個人事業税」の通知にまとめています。
※所得税には別途、復興特別所得税(所得税額の2.1%)がかかります。
一番税率の高い層でも、戻ってくるのは半分以下です。
開業したばかりで課税所得が200万円くらいの人なら、10万円のものを買っても税金は2万5,000円しか減りません。7万5,000円は普通に減った現金です。
だから判定はひとつしかない
以上をふまえると、年末の買い物の判断基準はとてもシンプルになります。
その支出は、税金のことを一切考えなくても「買う」と言えるか。
言えるなら買ってください。税金が減るぶんだけ、確実に得をします。
言えないなら買わないでください。手元のお金が減るだけです。
「どうせ税金で取られるくらいなら使ってしまおう」は、税率が100%の世界の発想です。実際には最大でも48%なので、使わずに納税したほうが手元には多く残ります。
| 経費を10万円使う | 使わない | |
|---|---|---|
| 減る税金(税率25%) | −2万5,000円 | 0円 |
| 出ていく現金 | −10万円 | 0円 |
| 手元の残り | −7万5,000円 | −2万5,000円 |
「節税した」と感じるのは左側ですが、お金が多く残るのは右側です。
必要なものを買ったなら左側でよいのです。ここが混同されがちなところです。
効き方が違う3つの箱
もう一段だけ、仕組みの話をします。税金が決まる順番はこうなっています。
売上 − 必要経費 = 所得
所得 − 所得控除 = 課税所得
課税所得 × 税率 = 税額
税額 − 税額控除 = 納める税金
減らせる箱が3つあります。効き方がまったく違います。
| 箱 | 例 | 効き方 |
|---|---|---|
| 必要経費 | 仕入・家賃の按分・通信費 | 所得を減らす → 税率分だけ効く |
| 所得控除 | 国民健康保険料、国民年金、小規模企業共済、iDeCo、医療費控除、ふるさと納税 | 課税所得を減らす → 税率分だけ効く |
| 税額控除 | 住宅ローン控除、(該当すれば)寄附金特別控除 | 税額から直接引く → 1円が1円効く |
つまり経費と所得控除は同じ効き方です。「経費にならないから損」と思いがちですが、所得控除に入るなら効果は変わりません。
そして税額控除だけが別格です。1万円の税額控除は、1万円まるごと税金を減らします。経費の3〜5倍効きます。使える人は必ず使ってください(入れ忘れると損する所得控除チェックリスト)。
「同じ支出でも扱いが3つに分かれる」問題
もうひとつ、混同されやすいところです。支払った先が同じでも、税務上の箱は違います。
| 支出 | 箱 | 効き方 |
|---|---|---|
| 事業用のパソコン | 必要経費(または減価償却) | 税率分 |
| 国民健康保険料・国民年金 | 所得控除(経費ではない) | 税率分 |
| 小規模企業共済・iDeCo | 所得控除(経費ではない) | 税率分 |
| 経営セーフティ共済 | 必要経費 | 税率分 |
| 生命保険料 | 所得控除(上限あり) | 税率分・上限あり |
| ふるさと納税 | 所得控除(寄附金控除) | 実質2,000円負担の別制度 |
| 所得税・住民税そのもの | どこにも入らない | 0 |
とくに最後の2行。所得税と住民税は経費になりません(個人事業税と固定資産税は経費になります)。「税金を払ったから経費」は間違いです。
小規模企業共済とiDeCoは「経費にならないなら意味がない」と誤解されがちですが、所得控除なので効き方は経費と同じです。詳しくは小規模企業共済とiDeCo、どっちを先にを読んでください。
「経費を使う節税」は最後にやること
ここまでの話をまとめると、節税にはお金が出ていかないものと出ていくものがあります。
| 種類 | 例 | 手元のお金 |
|---|---|---|
| お金が出ない | 青色申告特別控除、漏れていた経費を拾う、家事按分の見直し | 減らない |
| お金が戻る | 小規模企業共済、経営セーフティ共済(解約時に戻る) | 一時的に拘束 |
| お金が出る | 備品を買う、広告を打つ、交際費を使う | 減る |
上から順にやるのが鉄則です。下から手をつける人が非常に多いのですが、順番を逆にすると、税金は減っても資金繰りが苦しくなります。
やる順番は節税をやる順番——お金が出ていかないものからで7ステップに整理しました。
節税と脱税の境目
最後に、線引きの話です。
節税は、制度の中で有利な選択をすること。青色申告を選ぶ、経費の漏れを拾う、共済に入る。すべて合法です。
脱税(および過少申告)は、事実と違う申告をすること。「経費にならないものを経費に入れる」はこちら側です。
境目は感覚ではなく、事実かどうかで決まります。
| やっていること | 判定 |
|---|---|
| 事業で使った分を、根拠を持って按分して計上 | 節税 |
| プライベートの飲食を「打合せ」として計上 | 過少申告 |
| 家族に払っていない給料を計上 | 仮装 |
| 使っていない部屋を按分に入れる | 過少申告 |
| 売上の入金を1件、帳簿から落とす | 仮装隠蔽 |
否認されたときのコストは想像より大きいです。
| ペナルティ | 割合 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 10%(一定額超は15%) |
| 無申告加算税 | 15%(一定額超は20%以上) |
| 重加算税 | 35%(無申告なら40%) |
| 延滞税 | 年率は毎年告示。納付が遅れた日数分 |
さらに青色申告の承認が取り消される(所得税法150条)と、65万円の控除も赤字の繰越しも失います。数万円の経費のために背負うリスクではありません。
判断に迷う費目は経費にできるもの・できないもの一覧と一人カフェ代を経費にする「境界線」で、考え方の型を確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字なのですが、経費を増やす意味はありますか。
所得税・住民税の面では意味がありません。すでに税額はゼロです。ただし青色申告なら赤字(純損失)を3年間繰り越せるので、翌年以降の黒字と相殺できます。とはいえ、現金が出ていくことに変わりはありません。赤字の年に無理に買うのは避けてください。
Q. 「利益が出たら車を買え」と言われました。
車が事業に必要なら買ってください。ただし車は原則として一括では経費になりません(減価償却)。中古車なら耐用年数が短くなり早く落とせますが、それでも出ていく現金のほうが減る税金より多いという構造は変わりません。
Q. 消費税は考えなくていいですか。
課税事業者なら別枠で考えます。経費が課税仕入れであれば消費税の計算上も控除されるため、本則課税の人は効果が少し上乗せされます。ただし2割特例や簡易課税を使っている場合、経費を増やしても消費税は1円も減りません(売上だけで税額が決まるため)。ここは見落とされがちです。
Q. 家族に給料を払えば節税になりますか。
青色事業専従者給与の届出をしていれば経費にできます。ただし配偶者控除が消えるなど、差引きで損になる場合もあります。配偶者を青色事業専従者にすべき?で試算しています。届出なしで払っても経費になりません。
Q. 12月31日に買えば今年の経費ですか。
「その年に使った・引き渡しを受けた」ものが今年の経費です。12月に注文して1月に届いたものは来年です。カード払いは購入日が基準で、引落日ではありません。
Q. 領収書さえあれば経費にできますか。
できません。判定は「事業に必要だったか」です。領収書はその事実を裏づける資料にすぎません。逆に、領収書がなくても事実があれば経費にできる場合があります。
まとめ
- 経費1万円で減る税金は 税率分だけ。所得税5%の人なら2,000円、残り8,000円は出ていく
- 判定基準はひとつ。税金を抜きにしても買うと言えるか
- 経費と所得控除は同じ効き方。税額控除だけが1円=1円で効く
- 国民年金・共済・iDeCoは経費ではなく所得控除。効果は経費と同じ
- 所得税・住民税は経費にならない(個人事業税・固定資産税はなる)
- 節税はお金が出ないもの → 戻るもの → 出ていくものの順に
- 事実と違う計上は節税ではない。重加算税35%と青色取消しのリスク
- 所得税法37条1項(必要経費)/45条(家事関連費等の必要経費不算入。所得税・住民税が経費にならない根拠)/89条(税率)/150条(青色申告の承認の取消し)
- 地方税法72条の49の12ほか(個人事業税の税率・事業主控除290万円)
- 国税通則法65条(過少申告加算税)/66条(無申告加算税)/68条(重加算税)/60条(延滞税)
- 国税庁タックスアンサー「所得税の税率」「やさしい必要経費の知識」「加算税制度」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です。税率・加算税の割合は改正されることがあります
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