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更新日 2026-07-25 起業時の知識第38回

配偶者を青色事業専従者にすべき?専従者給与の条件・届出と「配偶者控除が消える」落とし穴

「妻(夫)に手伝ってもらっているし、給与を払って経費にすれば節税になるんじゃないか」

開業したばかりの人が一度は考える話です。実際、青色申告なら家族への給与を全額経費にできる制度があります。制度名は青色事業専従者給与

ただし、ここには必ずセットで消えるものがあります。配偶者控除・配偶者特別控除です。ここを知らずに走ると、「経費は増えたのに手取りは減った」という結果になりかねません。条件・手続き・損益の見方を順に整理します。

この記事が扱う範囲
解説するのは所得税・住民税の取り扱いです。国民健康保険料・年金・社会保険の扶養の判定は自治体や年金事務所・社労士の領域なので、金額の試算をするときは「税だけで判断しない」ことを前提にしてください。実際の金額は所得や自治体で変わるため、最終判断は数字を入れて確認するのが安全です。

この記事の結論
– 専従者給与を1円でも払うと、その配偶者について配偶者控除・配偶者特別控除は使えない
– 条件は5つ。特に「その年を通じて6ヶ月を超えて“専ら”従事」が厳しい(他に勤務がある人・学生は原則NG)
– 届出は青色事業専従者給与に関する届出書。原則3月15日、1月16日以後の開業などは2ヶ月以内
事業の所得が大きい人ほど有利、小さい人ほど配偶者控除のほうが得になりやすい

青色事業専従者給与の5つの条件

# 条件 注意点
1 青色申告者と生計を一にする配偶者・親族 別居でも生活費を送っていれば「生計を一」に当たる場合がある
2 その年12月31日時点で15歳以上 高校生・大学生は年齢を満たしても「専ら従事」で引っかかる
3 その年を通じて6ヶ月を超える期間、事業に専ら従事 年の途中の開業などは「従事できる期間の2分の1超」で判定
4 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出済み 原則3/15。1/16以後の開業や新たに専従者を持った場合は2ヶ月以内
5 届出書に記載した範囲内で、労務の対価として相当な金額 過大な部分は経費にならない

最大の関門は3の「専ら従事」です。他にパートや正社員の仕事をしている配偶者は、原則として専従者になれません。 「たまに手伝ってもらう」程度も対象外です。ここは形式ではなく実態で見られます。

最大の落とし穴:配偶者控除38万円が消える

これが本題です。専従者給与を支払うと、その配偶者は「控除対象配偶者」から外れます。つまり、

  • 配偶者控除(原則38万円)……使えない
  • 配偶者特別控除……使えない

「給与を経費にできて、配偶者控除も使える」という二重取りはできません。だから判断は「経費にできるか」ではなく、消える控除より大きな効果が出るかという比較になります。

有利になりやすいケース/不利になりやすいケース

状況 判断の目安
事業の所得が大きく、自分の税率が高い 有利になりやすい。所得を分散させる効果が大きい
配偶者が実際に毎日事業を手伝っている 前提を満たす。記録を残して進める
配偶者に他の給与収入がある/学生 そもそも不可(専ら従事の要件を満たさない)
事業が赤字、または所得が小さい 不利になりやすい。配偶者控除のほうが得なことが多い
少額(月数万円)だけ払いたい 要注意。配偶者控除38万円を失うので、逆効果になり得る
世帯の国民健康保険料が気になる 税だけで判断しない。世帯の所得合計で保険料が動く

ざっくりした感覚としては、「配偶者控除で消える38万円分の節税額」を、給与を出すことによる所得分散の効果が上回るか。事業所得が小さいうちは、無理に専従者給与を出さないほうが素直です。

金額の決め方:「労務の対価として相当」がすべて

条文は「労務の対価として相当であると認められる金額」と定めています。実務では次のように考えます。

  • 同じ仕事を他人に頼んだらいくら払うか(求人の時給・月給の水準)
  • 業務内容・従事時間(記帳、請求書作成、電話対応、現場作業など)
  • 保有資格や経験

そして、必ずやっておくべきことが3つあります。

  1. 業務内容と従事時間を記録に残す……業務日誌やタイムカードで足りる
  2. 必ず口座振込で支払う……現金手渡しは実態の証明が弱くなる
  3. 賃金台帳・源泉徴収簿を作る……給与としての形式を整える

「利益が出たから年末にまとめて調整」は最も危険なパターンです。届出額の範囲内であること、毎月支払っていること、記録があること。この3点が揃っていれば説明できます。

なお、金額を決めるときは扶養控除等申告書を提出してもらえば、月額の給与が一定額未満なら源泉徴収税額は0円になります(源泉徴収税額表の甲欄。ラインとなる金額や給与所得控除・基礎控除の額は税制改正で変わるため、最新の税額表・国税庁の案内で確認してください。2026年時点でも直近の改正で金額が動いています)。

手続きの流れ(3ステップ)

  1. 青色事業専従者給与に関する届出書を提出……原則3/15、1/16以後の開業や新たに専従者を有することとなった場合はその日から2ヶ月以内。給与の金額・支給期・仕事の内容を記載する
  2. 給与支払事務所等の開設届出書を提出(開設から1ヶ月以内)……あわせて、支払う人が常時10人未満なら源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を出すと納付が年2回になり、事務がぐっと楽になる
  3. 毎月支払う……扶養控除等申告書を書いてもらい、賃金台帳に記録。年末には年末調整を行う

開業と同時に決めているなら、開業届・青色申告承認申請書と3枚まとめて出すのが一番ラクです(申請書の書き方)。

白色申告の場合:事業専従者控除(配偶者86万円)

白色申告でも、家族の労働をまったく考慮できないわけではありません。事業専従者控除として、配偶者は86万円、その他の親族は1人50万円を控除できます(ただし「事業所得等÷(専従者の数+1)」が上限)。

  • 届出は不要、実際に給与を払う必要もない
  • ただし金額は固定で、青色のように実額を経費にすることはできない
  • こちらも配偶者控除との併用は不可

金額を自分で設計したいなら青色、手間をかけたくないなら白色の控除——という整理です(青色と白色の違い)。

よくある質問(FAQ)

Q. 途中で給与額を上げたいときは?
届出書に記載した金額の範囲を超えるなら、変更届出書を出してから支給します。届出額を超えた部分は経費になりません。

Q. 子どもに手伝ってもらう場合は?
12月31日時点で15歳以上であることに加え、学校に通っている間は「専ら従事」に当たらないのが原則です。夜間学校で昼間は専従、といった例外的な取り扱いはありますが、慎重な判断が必要です。

Q. 配偶者は扶養から外れますか?
税の扶養(配偶者控除)は専従者給与を払った時点で使えなくなります。社会保険の扶養は別の基準で判定されるので、保険者や社労士に確認してください。

Q. 賞与も出せますか?
届出書に賞与の支給期と金額の基準を記載していれば可能です。記載がない賞与は経費になりません。

Q. 専従者給与を払うと消費税は関係しますか?
給与は消費税の課税対象外(不課税)です。外注費として払う場合とは扱いが違うので、家族への支払いを「外注費」にするかどうかは別問題として検討します(経費の線引き一覧)。

Q. 結局、いくら払うのが正解?
一般解はありません。事業の所得・配偶者の他の収入・国保料まで含めて数字を入れてみるのが唯一の方法です。専従者給与は届出が絡むので、初年度に決める前に一度相談するのが安全です。

まとめ

  • 青色事業専従者給与は家族への給与を全額経費にできる制度。ただし条件は5つで、「6ヶ月超・専ら従事」が最大の関門
  • 払った時点で配偶者控除・配偶者特別控除は消える。二重取りはできない
  • 事業の所得が大きいほど有利、小さいほど配偶者控除のほうが得
  • 届出は原則3/15、1/16以後の開業などは2ヶ月以内。給与支払事務所等の開設届出書と納期の特例もセットで
  • 白色は事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円)で届出不要・金額固定
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法57条1項・2項(青色事業専従者給与/届出)、同3項(白色の事業専従者控除)
  • 所得税法2条1項33号(控除対象配偶者から青色事業専従者等を除く)
  • 所得税法施行令165条(事業に専ら従事する期間の判定)
  • 国税庁タックスアンサー「青色事業専従者給与と事業専従者控除」「配偶者控除」
  • 国税庁「給与所得の源泉徴収税額表」「[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続」
  • ※2026年時点の制度に基づく。給与所得控除・基礎控除の額は改正で変わるため最新の案内で確認

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