「妻(夫)に手伝ってもらっているし、給与を払って経費にすれば節税になるんじゃないか」
開業したばかりの人が一度は考える話です。実際、青色申告なら家族への給与を全額経費にできる制度があります。制度名は青色事業専従者給与。
ただし、ここには必ずセットで消えるものがあります。配偶者控除・配偶者特別控除です。ここを知らずに走ると、「経費は増えたのに手取りは減った」という結果になりかねません。条件・手続き・損益の見方を順に整理します。
この記事の結論
– 専従者給与を1円でも払うと、その配偶者について配偶者控除・配偶者特別控除は使えない
– 条件は5つ。特に「その年を通じて6ヶ月を超えて“専ら”従事」が厳しい(他に勤務がある人・学生は原則NG)
– 届出は青色事業専従者給与に関する届出書。原則3月15日、1月16日以後の開業などは2ヶ月以内
– 事業の所得が大きい人ほど有利、小さい人ほど配偶者控除のほうが得になりやすい
| # | 条件 | 注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 青色申告者と生計を一にする配偶者・親族 | 別居でも生活費を送っていれば「生計を一」に当たる場合がある |
| 2 | その年12月31日時点で15歳以上 | 高校生・大学生は年齢を満たしても「専ら従事」で引っかかる |
| 3 | その年を通じて6ヶ月を超える期間、事業に専ら従事 | 年の途中の開業などは「従事できる期間の2分の1超」で判定 |
| 4 | 「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出済み | 原則3/15。1/16以後の開業や新たに専従者を持った場合は2ヶ月以内 |
| 5 | 届出書に記載した範囲内で、労務の対価として相当な金額 | 過大な部分は経費にならない |
最大の関門は3の「専ら従事」です。他にパートや正社員の仕事をしている配偶者は、原則として専従者になれません。 「たまに手伝ってもらう」程度も対象外です。ここは形式ではなく実態で見られます。
これが本題です。専従者給与を支払うと、その配偶者は「控除対象配偶者」から外れます。つまり、
「給与を経費にできて、配偶者控除も使える」という二重取りはできません。だから判断は「経費にできるか」ではなく、消える控除より大きな効果が出るかという比較になります。
| 状況 | 判断の目安 |
|---|---|
| 事業の所得が大きく、自分の税率が高い | 有利になりやすい。所得を分散させる効果が大きい |
| 配偶者が実際に毎日事業を手伝っている | 前提を満たす。記録を残して進める |
| 配偶者に他の給与収入がある/学生 | そもそも不可(専ら従事の要件を満たさない) |
| 事業が赤字、または所得が小さい | 不利になりやすい。配偶者控除のほうが得なことが多い |
| 少額(月数万円)だけ払いたい | 要注意。配偶者控除38万円を失うので、逆効果になり得る |
| 世帯の国民健康保険料が気になる | 税だけで判断しない。世帯の所得合計で保険料が動く |
ざっくりした感覚としては、「配偶者控除で消える38万円分の節税額」を、給与を出すことによる所得分散の効果が上回るか。事業所得が小さいうちは、無理に専従者給与を出さないほうが素直です。
条文は「労務の対価として相当であると認められる金額」と定めています。実務では次のように考えます。
そして、必ずやっておくべきことが3つあります。
「利益が出たから年末にまとめて調整」は最も危険なパターンです。届出額の範囲内であること、毎月支払っていること、記録があること。この3点が揃っていれば説明できます。
なお、金額を決めるときは扶養控除等申告書を提出してもらえば、月額の給与が一定額未満なら源泉徴収税額は0円になります(源泉徴収税額表の甲欄。ラインとなる金額や給与所得控除・基礎控除の額は税制改正で変わるため、最新の税額表・国税庁の案内で確認してください。2026年時点でも直近の改正で金額が動いています)。
開業と同時に決めているなら、開業届・青色申告承認申請書と3枚まとめて出すのが一番ラクです(申請書の書き方)。
白色申告でも、家族の労働をまったく考慮できないわけではありません。事業専従者控除として、配偶者は86万円、その他の親族は1人50万円を控除できます(ただし「事業所得等÷(専従者の数+1)」が上限)。
金額を自分で設計したいなら青色、手間をかけたくないなら白色の控除——という整理です(青色と白色の違い)。
Q. 途中で給与額を上げたいときは?
届出書に記載した金額の範囲を超えるなら、変更届出書を出してから支給します。届出額を超えた部分は経費になりません。
Q. 子どもに手伝ってもらう場合は?
12月31日時点で15歳以上であることに加え、学校に通っている間は「専ら従事」に当たらないのが原則です。夜間学校で昼間は専従、といった例外的な取り扱いはありますが、慎重な判断が必要です。
Q. 配偶者は扶養から外れますか?
税の扶養(配偶者控除)は専従者給与を払った時点で使えなくなります。社会保険の扶養は別の基準で判定されるので、保険者や社労士に確認してください。
Q. 賞与も出せますか?
届出書に賞与の支給期と金額の基準を記載していれば可能です。記載がない賞与は経費になりません。
Q. 専従者給与を払うと消費税は関係しますか?
給与は消費税の課税対象外(不課税)です。外注費として払う場合とは扱いが違うので、家族への支払いを「外注費」にするかどうかは別問題として検討します(経費の線引き一覧)。
Q. 結局、いくら払うのが正解?
一般解はありません。事業の所得・配偶者の他の収入・国保料まで含めて数字を入れてみるのが唯一の方法です。専従者給与は届出が絡むので、初年度に決める前に一度相談するのが安全です。
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