節税しすぎると詰む場面|融資・住宅ローン・控除の切り捨てを数年先から逆算する
節税がうまくいくほど、所得は小さくなります。
そして所得は、税金の計算にだけ使われるものではありません。融資、住宅ローン、クレジットカード、賃貸の入居審査——世の中の多くの場面で、あなたの信用は「確定申告書に書かれた所得金額」で測られます。
節税は無条件に善ではありません。数年以内の予定から逆算して、どこまで落とすかを決めるものです。
この記事の結論
– 融資・住宅ローンは確定申告書3年分の所得金額で見られる。落としすぎると借りられない
– 所得控除・税額控除は繰り越せない。所得が小さいと使い切れずに消える
– 青色申告特別控除65万円も、所得が無ければ無駄になる
– ふるさと納税の限度額は所得に比例して下がる
– 住宅ローン控除は所得税が0なら意味がない
– 国民年金は定額。所得を下げても将来の年金額は減らない(これは法人の役員報酬の話)
– 国保料・保育料は下がる——これはメリット側
– 判断軸は「3年以内に、所得を見せる予定があるか」
何が起きるのか
節税で所得を圧縮したときに影響するものを、下がると困るものと下がると得なものに分けて整理します。
| 所得を下げると | 内容 |
|---|---|
| 困る | 金融機関の融資審査(日本政策金融公庫・信用金庫・銀行) |
| 困る | 住宅ローンの借入可能額 |
| 困る | クレジットカード・自動車ローンの審査 |
| 困る | 賃貸物件の入居審査 |
| 困る | 所得控除・税額控除の切り捨て |
| 困る | ふるさと納税の限度額 |
| 得 | 国民健康保険料 |
| 得 | 保育料(住民税所得割で決まる) |
| 得 | 高等学校等就学支援金・各種の所得制限のある給付 |
| 変わらない | 国民年金の受給額(定額) |
① 融資と住宅ローン
ここがいちばん実害が大きいところです。
金融機関は、個人事業主の返済能力を確定申告書の所得金額で判断します。売上ではありません。
| 審査で見るもの | 一般的な扱い |
|---|---|
| 提出書類 | 確定申告書の控え(3期分)、青色申告決算書 |
| 見る数字 | 所得金額(+減価償却費を足し戻すことはある) |
| 住宅ローンの目安 | 年収(所得)の5〜7倍程度、返済比率25〜35%以内 |
| 事業融資 | 直近の所得と、事業の継続性・返済原資 |
経費で所得を200万円に抑えていた人が、3,000万円の住宅ローンを申し込む——これは通りません。
そして厄介なのは、過去は変えられないことです。今年から所得を出しても、審査で見られるのは3期分。方針を変えてから3年かかります。
| いつ借りたいか | いつから所得を出すか |
|---|---|
| 3年後 | 今年から |
| 来年 | 間に合わないことが多い |
「家を買う」「物件を買う」「設備投資で借りる」——この予定があるなら、節税より所得を作るほうが先です。
なお、経営セーフティ共済のように必要経費になるものは所得を直接下げますが、小規模企業共済・iDeCoは所得控除なので、決算書上の所得(事業所得)は下がりません。金融機関が見るのが事業所得なら、同じ節税額でも見え方が違います(小規模企業共済とiDeCo、どっちを先に)。
② 控除は繰り越せない
所得税の計算は、次の順番で進みます。
収入 − 必要経費 = 事業所得
事業所得 − 青色申告特別控除
(− 繰越損失)
− 所得控除(基礎・社会保険料・生命保険料・小規模企業共済等・扶養…)
= 課税所得 → 税率 → 税額 − 税額控除
所得が小さいと、下のほうにある控除が使い切れずに消えます。そして控除は翌年に繰り越せません(繰り越せるのは純損失だけです)。
| 消えるもの | 年間の目安 |
|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円(65万円の条件) |
| 基礎控除 | 数十万円 |
| 社会保険料控除(国保・年金) | 実額(数十万円になることも) |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 最大84万円+iDeCo |
| 生命保険料控除・地震保険料控除 | 最大12万円+5万円 |
| 扶養控除・配偶者控除 | 38万円〜 |
たとえば所得控除の合計が180万円ある人が、経費を積んで事業所得を100万円まで落としたとします。80万円分の控除がまるごと無駄になります。
そして掛金は現金で払っています。小規模企業共済に月7万円積んでも、控除しきれなければ「ただ現金が拘束されただけ」です。所得が低い年は、掛金を減額するという判断もあります。
③ ふるさと納税・住宅ローン控除
| 制度 | 所得が低いと |
|---|---|
| ふるさと納税 | 限度額が下がる。超えた分は自己負担(ふるさと納税の限度額) |
| 住宅ローン控除 | 税額控除なので、所得税が0なら控除しても0。住民税からの控除にも上限がある |
| 配当控除・外国税額控除 | 同じく税額が無ければ意味がない |
税額控除は「税金から直接引く」ため、税金がゼロなら効果もゼロです。住宅ローン控除を受けている年に所得を落としすぎると、控除枠を捨てることになります。
④ 「年金が減る」は個人事業主には当てはまらない
節税のデメリットとしてよく挙げられるのが「将来の年金が減る」です。個人事業主については、これは誤りです。
| 保険料 | 将来の受給額 | |
|---|---|---|
| 国民年金(第1号) | 定額(所得に関係なく同額) | 定額(納付月数だけで決まる) |
| 厚生年金(会社員・法人役員) | 報酬に比例 | 報酬に比例 |
個人事業主が加入するのは国民年金です。所得をいくら下げても、将来受け取る老齢基礎年金は変わりません。遺族基礎年金・障害基礎年金も同じく定額です。
「節税すると年金が減る」は、法人化して役員報酬を下げた場合の話です。個人事業主の段階では気にしなくてかまいません(法人化は年収いくらから得?)。
※ただし、付加年金・国民年金基金・iDeCoは自分で上乗せする制度なので、掛けていれば増えます。これは所得とは別の話です。
⑤ 逆に、下がると得なもの
正直に書きます。所得を下げて得をする場面もあります。
| 効き方 | |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 総所得金額等が基礎。所得が下がれば保険料も下がる(国民健康保険料は下げられるか) |
| 保育料 | 住民税の所得割額で決まる。下がれば安くなる |
| 各種の所得制限がある給付・支援金 | 対象になりやすくなる |
ここで効くのは、所得控除ではなく必要経費です。国保料・保育料の基礎になる「総所得金額等」は、所得控除を引く前の金額だからです。
| 事業所得を下げるか | 国保料に効くか | |
|---|---|---|
| 必要経費(経営セーフティ共済・設備投資) | 下げる | 効く |
| 青色申告特別控除 | 下げる | 効く |
| 所得控除(小規模企業共済・iDeCo・生命保険料) | 下げない | 効かない |
「iDeCoに入れば国保が下がる」と説明されることがありますが、誤りです。
判断のしかた——3年先から逆算する
やることは1つです。これから3年以内の予定を先に書き出してください。
| 予定 | 方針 |
|---|---|
| 住宅を買う・借り換える | 所得を出す。節税は最小限に |
| 事業融資を受ける(設備・運転資金) | 所得を出す。3期分見られる |
| 賃貸物件を買う(不動産投資) | 所得を出す。融資が前提 |
| 子どもが保育園に入る | 所得を下げるほうが保育料は安い |
| 特に予定がない | 手元に現金が残る節税から(節税をやる順番) |
| 数年内に大きな設備投資 | 所得を下げすぎない。資金を残す |
そのうえで、下げ方の順番を守ります。現金が出ていかない節税(未払計上・貸倒引当金・青色申告特別控除)から使い、現金が出ていく節税(経費を使う・共済を掛ける)は最後です。詳しくは節税をやる順番を参照してください。
この記事は所得金額が税務以外の場面にどう影響するかの一般的な説明です。融資・住宅ローンの審査基準は金融機関ごとに異なり、公開もされていません(所得以外に、信用情報、勤続・事業年数、自己資金、担保評価、団体信用生命保険の加入可否などが総合的に見られます)。保育料の算定方法・所得制限の基準は市区町村の条例で定まり、自治体によって異なります。年金の受給見込額は「ねんきんネット」または年金事務所でご確認ください。この記事は特定の金融商品や借入れを勧めるものではありません。
やってはいけない「節税」
念のため書いておきます。次のものは節税ではなく、脱税です。
- 事業と関係のない支出を経費に入れる
- 架空の外注費・給与を計上する
- 売上を除外する(現金売上を計上しない)
- 実体のない未払費用・在庫の除外
見つかれば、本税に加えて過少申告加算税(または重加算税35〜40%)と延滞税がかかります。重加算税の対象になれば、青色申告の承認が取り消されることもあります。そうなると65万円控除も繰越控除も失います。
そして税務調査で否認されると、融資の場面でも修正申告後の数字を出すことになります。節税しすぎのリスクどころではありません。
よくある質問(FAQ)
Q. 融資を受けたいのですが、今年から所得を出せば間に合いますか。
金融機関にもよりますが、3期分を見るのが一般的です。1期分だけ良くても「たまたま」と見られます。少なくとも2期は必要と考えてください。日本政策金融公庫の創業融資は事業歴が短くても対応しますが、既に事業歴がある場合は申告書を見られます。
Q. 減価償却費は足し戻してもらえると聞きました。
金融機関によっては、返済原資の計算で「所得+減価償却費」を使うことがあります。ただし保証はされません。減価償却は現金が出ていかない経費なので、この点では有利ですが、当てにして所得を落とすのは危険です。
Q. 所得を出すと税金が増えます。それでも出すべきですか。
「借入で得られるもの」と「増える税金」を比べてください。3,000万円の住宅ローンや事業拡大の資金は、数十万円の税金より価値が大きいことがほとんどです。逆に、当面借りる予定がないなら節税を優先します。
Q. 赤字にすればいいという話も聞きます。
赤字は繰り越せますが(純損失の繰越控除)、所得控除は繰り越せません。赤字の年は控除がまるごと無駄になります。また、赤字の申告書では融資はまず通りません。
Q. クレジットカードの審査にも影響しますか。
します。事業用カードは所得と事業年数を見られます(個人事業主のカード審査)。
Q. どのくらいの所得を目安に出せばいいですか。
借入希望額から逆算します。住宅ローンなら借入額 ÷ 6〜7 を所得の目安に、返済比率が年収の25〜35%以内に収まるかを確認してください。正確な判断は金融機関に事前相談するのが確実です。
Q. 保育園に入りたいので所得を下げたいです。
保育料は下がりますが、入園の選考(点数)は就労状況で決まるのが一般的で、所得の多寡では決まりません。保育料だけを目的に所得を落とすなら、その額と失う控除額を比べてください。
まとめ
- 所得は税金以外の場面でも使われる。融資・住宅ローンは3期分の所得
- 方針転換には3年かかる。借りる予定があるなら今年から所得を出す
- 所得控除・税額控除は繰り越せない。所得が小さいと消える
- 青色申告特別控除65万円も無駄になる
- ふるさと納税の限度額が下がる。住宅ローン控除は税額が0なら効かない
- 国民年金は定額。個人事業主は「年金が減る」を気にしなくてよい
- 国保料・保育料は下がる。ただし効くのは必要経費と青色控除で、所得控除ではない
- 判断軸は「3年以内に所得を見せる予定があるか」
- 所得税法22条・87条ほか(所得金額・所得控除の順序。所得控除は繰り越せない)
- 所得税法70条(純損失の繰越控除。繰り越せるのは純損失であって所得控除ではない)
- 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除。所得金額を限度とする)
- 国民年金法(第1号被保険者の保険料は定額。老齢基礎年金の額は納付月数により決まる)
- 国民健康保険法・地方税法(保険料の所得割の算定基礎は総所得金額等。所得控除前の金額)
- 国税通則法65条・68条(過少申告加算税・重加算税)/所得税法150条(青色申告の承認の取消し)
- ※2026年時点の制度に基づきます。融資・保育料の基準は各金融機関・各自治体の定めによります
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この記事は「5 お金を出す節税は、出口まで見てから」の詳細です。
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