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更新日 2026-08-06 法人の決算と申告

事務所の礼金は、その年の経費にならない──5年で落とす「税法固有の繰延資産」の話

事務所を借りて、礼金40万円と仲介手数料20万円を払いました。この2つ、税務上の扱いはまったく違います。

  • 礼金40万円 → 繰延資産。原則5年で償却する
  • 仲介手数料20万円支払った事業年度の損金でよい

同じ日に同じ不動産会社へ払っていても、こうなります。根拠も、それぞれ別のところにあります。

繰延資産は決算調整事項なので、決算書に償却費を計上しなければ損金になりません。そして減価償却資産とは金額基準も償却の考え方も違うので、混ざったまま処理されている決算書をよく見ます。

この記事の結論

  • 繰延資産は2種類ある。会社法上の5つ(創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費)は随時償却税法固有のもの(礼金・負担金など)は月数按分
  • 20万円未満で即時損金にできるのは、税法固有のほうだけ(法令134は法令64①二の費用に限る)
  • 判定単位がある。公共的施設等は一の設置計画ごと、権利金等は契約ごと(法基通8-3-8)
  • 建物の賃借に際して払った仲介手数料は、支払った日の属する事業年度の損金でよい(法基通8-1-5(注))
  • 「支払手数料」で全額落としていても、償却限度額までは損金になる(法基通8-3-2)。加算するのは超過分だけ
  • 解約・滅失があった事業年度で、未償却残額を全額損金(法基通8-3-6)
  • 繰延資産ではないが5年で落ちるものがある=繰延消費税額等(法令139の4)。大家の会社ほど当たりやすい
  • 明細書は別表十六(六)

1. 繰延資産は2種類ある

条文は「資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く」と断ったうえで、6つの号を並べています(法令14①)。

区分 中身 償却
会社法上の繰延資産(1〜5号) 創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費 随時償却(額の範囲内で、いくらでも計上できる)
税法固有の繰延資産(6号) 公共的施設・共同的施設の負担金、資産を賃借するための権利金・立退料、役務提供を受けるための権利金、広告宣伝用資産の贈与、その他自己が便益を受けるための費用 支出の効果の及ぶ期間で月数按分

6号だけ「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」という条件が付いています。効果が1年未満なら、そもそも繰延資産ではありません。

償却限度額の条文も2つに分かれています。会社法上のものは「その繰延資産の額(既にした償却額を控除した金額)」=上限が残額そのものなので、好きな年に好きなだけ落とせます(法令64①一)。税法固有のものは「繰延資産の額÷支出の効果の及ぶ期間の月数×当期の月数」です(同②)。創立費や開業費を初年度に全額落とすのも、10年寝かせてから落とすのも、法人では自由です。

2. ★20万円未満で落とせるのは、片方だけ

「繰延資産は20万円未満なら経費」と覚えている方が多いのですが、条文には限定が付いています。

内国法人が、第64条第1項第2号(均等償却を行う繰延資産)に掲げる費用を支出する場合において、当該費用のうちその支出する金額が20万円未満であるものにつき、その支出する日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、損金の額に算入する(法人税法施行令134条)。

「64条1項2号に掲げる費用」=税法固有の繰延資産だけです。もっとも、会社法上の繰延資産はそもそも随時償却なので、20万円の規定を持ち出すまでもなく全額落とせます。金額基準が効くのは6号のほうだけ、と理解すれば足ります。

減価償却資産の10万円未満と混同しないでください。繰延資産は20万円未満です。

そして、何をひとかたまりとして20万円を判定するかも決まっています。

20万円未満かどうかは、公共的施設等の負担金については一の設置計画又は改良計画につき支出する金額(2回以上に分割して支出する場合には、その支出する時において見積られる支出金額の合計額)、権利金等・役務提供の権利金については契約ごとに支出する金額広告宣伝用資産の贈与についてはその支出の対象となる資産の1個又は1組ごとに支出する金額により判定する(法人税基本通達8-3-8)。

分割払いで小さく見せることはできません。見積総額で判定します。

この20万円も、消費税の経理方式で判定が変わります。免税事業者は税込で判定するので、税抜19万円の礼金でも20万円以上になります。

3. 償却期間の表

税法固有の繰延資産の償却期間は、通達が表で定めています(法基通8-2-3)。

種類 償却期間
公共的施設(専ら自己が使用するもの) その施設・工作物の耐用年数の7/10
公共的施設(それ以外) 耐用年数の4/10
共同的施設(共同の用・協会等の本来の用。建設又は改良に充てられる部分) その施設の耐用年数の7/10
同(土地の取得に充てられる部分) 45年
商店街のアーケード・日よけ・アーチ・すずらん灯 5年(耐用年数が5年未満ならその年数)
建物を賃借するための権利金等(原則) 5年(契約期間が5年未満で、更新時に再び権利金が要ることが明らかならその賃借期間)
同(建設費の大部分に相当し、存続期間中賃借できる状況) 建物の耐用年数の7/10
同(借家権として転売できるもの) 賃借後の見積残存耐用年数の7/10
電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 機器の耐用年数の7/10(賃借期間を超えるときは賃借期間)
ノウハウの頭金等 5年
広告宣伝用資産の贈与 耐用年数の7/105年を超えるときは5年
スキー場のゲレンデ整備費用 12年
出版権の設定の対価 存続期間(定めがなければ3年)
同業者団体等の加入金 5年
職業運動選手等の契約金等 契約期間(定めがなければ3年)
公共下水道に係る受益者負担金 6年(法基通8-2-5)

償却期間に1年未満の端数があるときは、切り捨てます(同表(注)2)。耐用年数22年の建物の7/10は15.4年→15年です。

月数のほうは逆で、1月未満の端数は1月とします(法令64④)。年数は切り捨て、月数は切り上げです。

表にないものは、固定資産を利用するために支出したものはその固定資産の耐用年数、契約に当たり支出したものはその契約期間を基礎として、適正に見積もった期間によります(法基通8-2-1)。

太陽光の系統連系工事負担金は15年です。国税庁は「繰延資産に該当し、その償却期間は15年として差し支えない」と回答しています(「電気ガス供給施設利用権」の耐用年数に準じたものです)。★同じ回答のなかで、「電力会社の所有物となる電気供給設備の工事費用を負担するものであり、自社が所有する太陽光発電設備に対する支出ではないため、これを固定資産の取得価額に含めることはできない」とも述べています。設備代に含めて償却している例をよく見ます。

4. ★大家と借り手に効くもの

不動産まわりだけを抜き出すと、こうなります。

支出 扱い
礼金・権利金(返還されない) 繰延資産。原則5年
敷金・保証金のうち返還される部分 資産(差入保証金)。繰延資産でも経費でもない
敷金のうち返還されない部分(償却) 繰延資産
建物の賃借に際して支払った仲介手数料 支払った日の属する事業年度の損金でよい(法基通8-1-5(注))
更新料 契約期間で償却(1年未満なら支出時の損金)
公共下水道の受益者負担金 6年(8-2-5)
商店街のアーケード等の負担金 5年
街路の簡易舗装・街灯・がんぎ等、主として一般公衆の便益に供される簡易な施設の負担金 繰延資産としないで支出年度の損金にできる(法基通8-1-13)

仲介手数料の扱いが、購入と賃借で逆になります。不動産を買ったときの仲介手数料は取得価額に算入必須ですが、借りたときの仲介手数料は損金です。通達がそれぞれ別に置かれています。

共同的施設の負担金には注意書きがあります。共同的施設の相当部分が貸室に供される等、協会等の本来の用以外の用に供されているときは、その部分に係る負担金は協会等に対する寄附金になります(法基通8-1-4)。組合会館の建設負担金を出したら、その建物の一部がテナントに貸されていた──という場合です。

同業者団体の加入金にも例外があります。その構成員としての地位を他に譲渡できることになっている加入金出資の性質を有する加入金は繰延資産になりません。その地位を譲渡するか脱退するまで損金になりません(法基通8-1-11(注))。

5. ★「支払手数料」で落としていても、限度額までは損金

決算で礼金の処理が漏れていた場合、どう直すかの話です。

法人が、繰延資産となるべき費用を支出した場合において、その全部又は一部を償却費以外の科目をもって損金経理をしているときにおいても、その損金経理をした金額は「償却費として損金経理をした金額」に含まれる(法人税基本通達8-3-2)。

全額を「支払手数料」で費用処理していても、償却限度額までは損金として通ります。別表四で加算するのは限度額を超えた部分だけです。40万円の礼金(5年償却・期首から12か月)なら、限度額は8万円。加算するのは32万円で、これが留保として別表五(一)に残り、翌期以降に8万円ずつ認容されていきます。

科目名を直す必要はありません。必要なのは別表の調整です。

6. ★解約したら、残りを全部落とせる

これは逆に、取り忘れると損をする規定です。

繰延資産とされた費用の支出の対象となった固定資産又は契約について滅失又は解約等があった場合には、その滅失又は解約等があった日の属する事業年度において当該繰延資産の未償却残額を損金の額に算入する(法人税基本通達8-3-6)。

事務所を移転して前の契約を解約したら、礼金の未償却残額はその期に全額損金です。別表五(一)に残っている加算額も同時に解消します。

移転費用と一緒に処理されがちですが、別表を見ないと気づきません。事務所を移した年は、繰延資産の残高を必ず確認してください。

開始のタイミングにも決まりがあります。繰延資産となるべき費用が固定資産を利用するためのもので、その固定資産の建設等にまだ着手されていないときは、建設等に着手した時から償却します(法基通8-3-5)。負担金だけ先に払っても、工事が始まるまで償却は始まりません。

7. ★繰延資産にならないもの

「何年かで落とすもの」に見えて、繰延資産ではないものがあります。

もの 扱い 根拠
固定資産を取得するための借入金の利子 ★繰延資産に該当しない(使用開始前の期間分でも) 法基通8-1-2(注)
前払費用 繰延資産から除外されている 法令14①
資産の取得に要した金額とされるべき費用 同上。取得価額へ 法令14①
負担金の総額を未払金に計上して償却する できない。ただし分割払期間がおおむね3年以内なら可 法基通8-3-3
長期分割払の公共的施設・共同的施設の負担金(償却期間以上の期間にわたり、おおむね均等額で、工事着工後に徴収開始) 支出した事業年度の損金にできる 法基通8-3-4
セールスマン・ホステス等の引抜料、仕度金 支出年度の損金にできる 法基通8-1-12(注)

「まだ払っていないのに繰延資産に計上して償却する」はできません。分割払いの総額が確定していてもです(3年以内の短期を除く)。支出したかどうかが基準です。

8. ★繰延資産ではないが、5年で落ちるもの

最後に、賃貸業を営む会社ほど当たりやすいものを1つ。繰延消費税額等です。

税抜経理をしていて、課税売上割合が80%未満の事業年度に、資産に係る控除対象外消費税額等が生じた場合、次のようになります(法令139の4)。

場合 扱い
課税売上割合が80%以上 全額をその事業年度の損金(損金経理が要件)
80%未満でも、棚卸資産に係るもの特定課税仕入れに係るもの/★20万円未満のもの 全額をその事業年度の損金
上記以外 繰延消費税額等として60か月で償却。初年度は1/2

住宅の家賃は非課税売上なので、居住用物件を持つ会社は課税売上割合が80%を切りやすいです。そこで建物や設備を買って税抜経理をしていると、控除できなかった消費税が5年払いの資産になります。支出したのは買った年なのに、損金は5年に分かれます。

明細書は別表十六(十)「資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」です。繰延資産の別表十六(六)とは別の用紙になります。

範囲注記:借地権の設定に伴う権利金は、ここでいう繰延資産ではなく借地権(非減価償却資産)として扱われます。土地の賃貸借は建物の賃借と扱いが異なるので、同族間の土地の貸し借りを設計するときは個別に確認してください。この記事は建物・機器の賃借と、施設の負担金を扱っています。

9. まとめ

  • 繰延資産は会社法上の5つ(随時償却)税法固有のもの(月数按分)に分かれる
  • 20万円未満の即時損金は税法固有のほうの話判定は設置計画ごと・契約ごと(8-3-8)
  • 礼金・権利金は原則5年。賃借の仲介手数料は支払った年の損金(8-1-5注)
  • 敷金の返還される部分は資産、返還されない部分だけが繰延資産
  • 簡易な施設の負担金は支出年度の損金にできる(8-1-13)
  • 「支払手数料」で全額落としていても、限度額までは損金。加算は超過分だけ(8-3-2)
  • 解約・滅失の事業年度で未償却残額を全額損金(8-3-6)。事務所移転の年は残高を見る
  • 未払計上して償却はできない(8-3-3)。着手前は償却が始まらない(8-3-5)
  • 繰延消費税額等は繰延資産ではないが60か月償却。居住用物件を持つ会社は当たりやすい
  • 明細書は別表十六(六)、繰延消費税額等は別表十六(十)
この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税法32条(繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法)/法人税法施行令14条1項(繰延資産の範囲)/64条(繰延資産の償却限度額。1項1号と2号の違い、4項の月数)/134条(繰延資産となる費用のうち少額のものの損金算入)
  • 法人税基本通達8-1-2(注)(借入金の利子)/8-1-4(共同的施設。本来の用以外は寄附金)/8-1-5(1)と(注)(建物を賃借するための権利金等・仲介手数料)/8-1-11(注)(同業者団体等の加入金)/8-1-12(注)(引抜料・仕度金)/8-1-13(簡易な施設の負担金の損金算入)
  • 法人税基本通達8-2-1(効果の及ぶ期間の測定)/8-2-3(繰延資産の償却期間の表。(注)2の1年未満切捨て)/8-2-5(公共下水道に係る受益者負担金は6年)
  • 法人税基本通達8-3-2(償却費以外の科目で損金経理した場合)/8-3-3(分割払の繰延資産)/8-3-4(長期分割払の負担金の損金算入)/8-3-5(償却の開始の時期)/8-3-6(滅失・解約等があった場合の未償却残額)/8-3-7(計算単位)/8-3-8(20万円未満の判定単位)
  • 法人税法施行令139条の4(資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入。1項の課税売上割合80%、2項3号の20万円未満、3項の60か月と1/2)
  • 国税庁 質疑応答事例「太陽光発電設備の連系工事負担金の取扱いについて」(繰延資産に該当し、償却期間は15年として差し支えない。自己の設備の取得価額には含められない)/国税庁タックスアンサーNo.5462(公共的施設などの負担金)
  • 国税庁 申告書別表 十六(六)「繰延資産の償却額の計算に関する明細書」/十六(十)「資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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