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更新日 2026-08-04 法人の決算と申告

決算で税金を動かせるのは「決算まで」──申告書を書く段階でできることは、ほとんどありません

「決算が終わってから節税策を教えてください」と言われることがあります。答えは残酷で、期末を過ぎた時点で、税額を動かす手段はほとんど残っていません。

理由は制度の作りにあります。法人税には、「確定した決算で費用として経理していること」を条件に損金算入を認める項目が並んでいて、これを申告書の側で後から取り返す道がないからです。

この記事の結論

  • 決算調整事項=会社の決算で費用にしていなければ、あとから別表四で減算しても損金にならないもの。減価償却費、貸倒引当金の繰入、少額減価償却資産、貸倒損失など
  • 申告調整事項=申告書の別表で調整するもの。うち必須的調整事項(やらないと更正される)と任意的調整事項(書かないと権利を失う)に分かれる
  • ★覚え方は非対称。会社が損をする方向の調整は税務署が待ってくれるが、会社が得をする方向の調整は自分で取りに行かないともらえない
  • 「決算で減価償却費の計上を忘れたので申告書で減算する」という救済は存在しない
  • 赤字の年に償却を止めるのは可能。ただし止めた分を翌期にまとめて取り戻すことはできない

1. 3種類ある

法人税の調整は、次の3つに分かれます。

種類 いつやるか やらないとどうなるか
決算調整事項 確定した決算までに、費用・損失として経理する 損金にならない。申告書では取り返せない
必須的調整事項 申告書(別表四)で必ず調整する 更正処分を受ける
任意的調整事項 申告書に記載して初めて適用される 自分から権利を捨てることになる

このうち、期限が「決算まで」なのは1つ目だけです。ここを取り違えることが、法人の決算でいちばん高くつきます。

2. 決算調整事項──期末を過ぎたら手遅れになるもの

損金経理(=確定した決算で費用または損失として経理すること)が要件になっているものの主なリストです。

  • 減価償却資産の償却費
  • 繰延資産の償却費
  • 災害等の特定の事由が生じた場合の資産の評価損
  • 貸倒引当金勘定への繰入額
  • 少額の減価償却資産の取得価額(10万円未満の即時損金、20万円未満の一括償却、中小企業者等の特例)
  • 少額の繰延資産(20万円未満)の支出費用
  • 切捨債権以外の貸倒損失
  • 一定の要件を満たす業績連動給与
  • 交換により取得した資産の圧縮額

このほか、剰余金の処分により積立金として積み立てる方法でもよいものがあります(特別償却準備金、圧縮積立金、国庫補助金等の特別勘定、各種準備金)。ただしこちらも「その事業年度の決算確定日までに積み立てること」が条件です。

「忘れたので申告書で」は通りません

会社の決算で減価償却費を計上し忘れたから、申告書の別表四で減算する──これは認められません。この一点だけでも、決算前に固定資産台帳を突き合わせる理由になります。

逆に言うと、赤字の年に減価償却を計上しない、という選択は可能です(法人の減価償却は「限度額まで」の任意償却なので)。金融機関への見え方を理由にこの選択をする会社もあります。

★ただし条件があります。止めた分の償却不足額を、翌期にまとめて取り戻すことはできません。償却は「取らなければ後ろにずれるだけ」であって、「あとでまとめて取り返せる」ものではありません。耐用年数の最後で一気に落ちるわけでもなく、単純に償却の終わりが延びるだけです。

3. 任意的調整事項──書かないと権利を失うもの

逆に、申告書に記載して初めて適用される項目があります。有利な取扱いが多く、書き忘れると自分で権利を捨てることになります。

  • 青色申告に係る繰越欠損金の損金算入(別表七(一))
  • 受取配当等の益金不算入(別表八(一))
  • 所得税額控除(別表六(一))──預金利子等から引かれた源泉所得税を法人税から差し引くもの
  • 研究開発税制その他の法人税額の特別控除
  • 各種の特別償却・税額控除(適用額明細書の添付も要件)
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の特例(明細書の添付が要件)
  • 一括償却資産(確定申告書への一括償却対象額の記載が要件)
  • 中小法人の軽減税率適用額明細書の添付が必要)

★見落とされやすいのが適用額明細書です。租税特別措置を使うときに添付する1枚で、中小法人の軽減税率15%にも必要です。「税率のことだから自動で計算されるはず」と思っていると、添付漏れで特例が飛びます。

★もう一つが所得税額控除です。預金利子や配当から引かれている源泉所得税は、別表六(一)に書けば法人税額から控除されます(引ききれなければ還付されます)。金額は小さいことが多いですが、書かなければ戻りません。

4. 必須的調整事項──やらないと更正されるもの

こちらは「やらないと税務署から直される」側です。

  • 減価償却超過額
  • 引当金の繰入限度超過額
  • 損金不算入の役員給与
  • 寄附金・交際費等の損金不算入額
  • 益金に計上する還付金
  • 損金に計上した法人税等

これらは会社が得をする方向ではないので、書き忘れても税務署は困りません。困るのは会社のほうです。

5. 覚え方は「非対称」

3種類を並べ直すと、構造が見えてきます。

会社が損をする方向の調整は、税務署が待ってくれる。
会社が得をする方向の調整は、自分で取りに行かなければならない。

  • 加算を忘れれば、税務署が更正して直す(=待ってくれる)
  • 減算を忘れれば、そのまま。税務署は「これ、引き忘れていますよ」と教えてくれない

だから決算・申告のチェックは、「加算漏れ探し」より「減算漏れ・添付漏れ探し」に時間を使うほうが割に合います。

6. では、期末までに何をするのか

決算調整事項が「期末まで」である以上、打ち手は期末3か月前から動かすことになります。期末を過ぎたら使えなくなるものの代表例です。

打ち手 期末までに完成させておく事実
設備投資 取得だけでなく事業の用に供していること。期末に納品されただけで稼働していないものは対象外
少額減価償却資産の特例 取得+事業供用+損金経理。明細書の添付も要件
決算賞与の未払計上 支給額の各人別の通知、通知した事業年度終了の日の翌日から1か月以内の支払、その事業年度での損金経理
不良債権の整理 書面による債務免除など、事実の完成が期末までに要る
除却・廃棄 期末までに実際に処分すること。帳簿から落とすだけでは不可
共済等への加入・前納 期末までに払い込みが完了していること

「事業の用に供した日」は否認の常連です。期末に駆け込みで買った機械が、実際には翌期になってから動き始めているのに、取得日を供用日にしていないか。ここは調査で必ず見られます。

なお、設備投資や共済の多くは「節税」ではなく「繰延べ」です。即時償却は今期の税金を減らす代わりに、翌期以降の償却費がなくなります。手元の現金は先に出ていきます。この点は個人事業向けですが 節税の優先順位 の考え方がそのまま使えます。共済の出口の課税は 経営セーフティ共済 にまとめてあります。

7. 「利益が出ていないのに税金が出た」と言われたら

決算調整と申告調整を理解すると、この言葉の意味が分かります。

会計上の当期純利益と、法人税の所得金額は別物です。会計で費用にしたものが税務では損金にならない(交際費、役員給与、引当金の繰入など)と、利益がゼロでも所得はプラスになります。

この足し引きの全体が「別表四」という1枚の計算書に収まっています。次の記事で扱います。

まとめ

  • 調整は3種類。決算調整事項/必須的調整事項/任意的調整事項
  • 期限が「決算まで」なのは決算調整事項だけ。申告書では取り返せない
  • 損金経理が要件になるのは、減価償却費・貸倒引当金の繰入・少額減価償却資産・貸倒損失・資産の評価損など
  • 赤字の年に償却を止めるのは可。ただし止めた分は翌期にまとめて取り戻せない
  • 任意的調整事項は書かないと権利を失う。繰越欠損金、所得税額控除、少額減価償却資産の特例、軽減税率15%(適用額明細書)
  • ★覚え方は非対称。損をする方向は待ってくれる、得をする方向は取りに行く
  • 決算のチェックは「減算漏れ・添付漏れ探し」に時間を使うほうが割に合う
  • 期末までの打ち手は、いずれも「期末までに事実が完成していること」が要件。とくに事業供用日
この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税法31条(減価償却資産の償却費)/33条(資産の評価損)/52条(貸倒引当金)/57条(欠損金の繰越し)/68条(所得税額の控除)
  • 法人税法施行令133条(少額減価償却資産)/133条の2(一括償却資産)
  • 租税特別措置法42条の3の2(中小法人の軽減税率)/67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の特例)
  • 租税特別措置の適用額の記載がない場合等の特例に関する法律(適用額明細書)
  • 国税庁タックスアンサー「減価償却」「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です。租税特別措置は適用期限と金額基準が繰り返し改正されているため、適用前に当年の内容をご確認ください

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