出張旅費規程の作り方──出張の定義・規程・実態の記録・日当の金額、4つとも要る
法人の節税で、費用対効果がいちばん高いのが出張日当です。
理由は単純で、会社では損金になり、受け取る社長側では所得税が非課税だからです。役員報酬なら所得税・住民税・社会保険料がかかります。日当にはかかりません。しかも消費税は課税仕入れになります。
個人事業主には、これができません。自分が自分に日当を払っても、債務が確定しないからです(出張旅費・日当は経費にできる?個人事業主に「出張旅費規程」が使えない理由)。法人にして初めて開く箱です。
ただし「規程を作れば通る」ではありません。4つとも揃って初めて成立します。
この記事の結論
- 根拠は所得税法9条1項4号(旅費の非課税)と所得税基本通達9-3
- 9-3は判定に当たって2つを見るとしている。(1)役員と使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれた基準か (2)同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当か
- つまり規程(基準)と金額(相当性)の両方が問われる。片方だけでは足りない
- 通常必要と認められる範囲を超える部分は給与所得になる(通達9-4)
- 規程には出張の定義を書く。これがないと「どこからが出張か」が決まらない
- 実態の記録(出張報告書・旅程・訪問先)がなければ、規程は絵に描いた餅
- 役員だけ突出して高い設定はほぼ通らない。9-3(1)が正面から否定している
1. なぜ日当は非課税なのか
所得税法9条1項4号は、「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした場合等に支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」を非課税としています。
日当は、出張に伴って余分にかかる費用(食事代、通信費、諸雑費)をまとめて渡すもの、という位置づけです。実費精算しなくてよいのは、細かい実費を1つずつ集めるより、定額で渡すほうが合理的だからです。
だから「通常必要な範囲」を超えれば、超えた部分は非課税ではなくなります。通達9-4は、超える部分の金額は給与所得の収入金額に算入すると明記しています。
2. 通達9-3が見ている2つのこと
所得税基本通達9-3は、範囲内かどうかの判定に当たって次の2つを勘案するとしています。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
この2つが、実務のすべてです。
(1)は「基準」の話。役員も使用人も同じ考え方で決められた基準が要る、ということです。役員だけ1日3万円、社員は2,000円、という規程はここで落ちます。役職ごとに差をつけること自体は問題ありませんが、バランスが説明できる差でなければなりません。
(2)は「金額」の話。同業種・同規模の相場から離れていないかを見ます。ここで「規程に書いてあるから」は理由になりません。規程は自社で作れるものだからです。
3. まず「出張の定義」を決める
規程の作成でいちばん抜けやすいのが、これです。どこからが出張なのかを決めていないと、日当を出す根拠がありません。
一般的には次の要素で線を引きます。
| 要素 | 決め方の例 |
|---|---|
| 距離 | 勤務地から片道◯km以上(50km、100kmなど) |
| 時間 | 往復に◯時間以上を要するもの |
| 区域 | 同一市区町村内は出張としない、など |
| 区分 | 日帰り出張/宿泊出張/海外出張で日当を分ける |
近距離の移動まで「出張」にして毎日日当を出す形は、実質的に給与の分割払いと見られます。日常的な移動(通勤や近隣の営業)とは区別できる線を引いてください。
4. 規程に書く項目
出張旅費規程は法令で様式が決まっているわけではありません。ただし通達9-3(1)の「基準」として機能させるには、次の項目が要ります。
- 目的と適用範囲(役員および全従業員に適用する、と明記する)
- 出張の定義(距離・時間・区域)
- 旅費の種類(交通費・宿泊費・日当)
- 役職ごとの金額表(代表取締役/取締役/部長/一般、など)
- 交通機関と等級(グリーン車・ビジネスクラスの可否を役職別に)
- 宿泊費の扱い(定額支給か実費上限か)
- 海外出張の扱い(別表にすることが多い)
- 精算の手続きと期限(出張報告書の提出、いつまでに精算するか)
- 施行日と改定履歴
規程は株主総会または取締役会で承認し、議事録を残してください。「いつから有効な規程か」が示せないと、あとから作ったものと区別できません。
5. 金額はどう決めるか
通達9-3(2)が「同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額」と言っている以上、自社の希望額から決めるのではなく、外の相場から決めるのが筋です。
参考になる資料としては、民間の調査(産労総合研究所の「国内・海外出張旅費に関する調査」など)や、公務員の旅費(国家公務員等の旅費に関する法律の別表)があります。公務員の日当は職位に応じて定められており、「公的な基準として説明できる」という点で使い勝手があります。
金額を決めるときの注意は3つです。
- 役員と従業員の差を大きくしすぎない。倍率で言えば数倍が限界です。10倍の差は9-3(1)で説明できません
- 一人社長の会社でも、従業員を雇ったときに同じ規程が適用できる金額にしておく。「社長だけ」の規程は、そもそも(1)の要件を満たしません
- 日当と実費精算を二重取りしない。日当は食事代・諸雑費をカバーするものなので、別途食事代を実費精算すると重複します
6. 実態の記録がなければ、規程は効かない
規程を整え、金額を相場に合わせても、その出張が実際にあったことを示せなければ意味がありません。税務調査で最初に確認されるのはここです。
残すもの:
- 出張報告書(日付、行き先、目的、訪問先と面談者、成果)
- 旅程(交通機関、出発・到着時刻)
- 裏付け(交通機関の領収書、宿泊の領収書、先方からのメール、名刺、現地の写真)
- 精算書(日当の計算根拠、支給日)
日当そのものには領収書が要りませんが、出張の事実を示す資料は要ります。「規程があるから毎月◯回分の日当を支給」という形で、報告書も旅程もない状態が最も危険です。
なお、電車代や宿泊費のような公共交通機関の利用については、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる類型があります。出張旅費の扱いは 電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らない を参照してください(3万円未満の公共交通機関、および従業員等に支給する出張旅費のうち所得税が非課税となる範囲)。
7. 消費税の扱い
日当は、課税仕入れとして仕入税額控除の対象になります。出張に伴う食事代・諸雑費に充てられるものと考えるからです。
ただし海外出張の旅費・日当は、原則として課税仕入れになりません(国外での役務提供にあたるため)。国内出張と海外出張で消費税の扱いが分かれるので、規程でも精算でも分けておいてください。
8. やってはいけない形
実際に否認・指摘の対象になりやすいのは、次のような形です。
| 形 | 何が問題か |
|---|---|
| 役員だけに、社員の10倍の日当 | 通達9-3(1)の「全てを通じて適正なバランス」に反する |
| 規程がなく、社長の判断で都度支給 | 基準がないので範囲内かどうかを説明できない |
| 出張報告書も旅程もない | 出張の事実そのものを示せない |
| 近所への移動に毎日日当 | 出張の定義がないか、定義が実態と合っていない |
| 日当を出しつつ、食事代も実費精算 | 二重取り。重複部分は給与 |
| 家族を同伴し、その旅費も会社負担 | 法人税基本通達9-7-8で役員への給与 |
| 観光目的の旅行を「視察」として全額計上 | 9-7-7・9-7-9で業務外部分は給与 |
海外の視察旅行については 社長個人の支出を、どこまで会社に寄せられるか の「旅行」の項に、通達9-7-6以下の整理があります。
9. 現場でやること
- 出張の定義を決める(距離・時間・区域)
- 役職別の金額表を作る。外部の調査や公務員の旅費を参照して水準を決める
- 規程を作り、株主総会または取締役会で承認して議事録を残す
- 出張報告書のフォーマットを作る。日付・行き先・目的・訪問先・成果の5項目でよい
- 精算のルールを決める(月末締め・翌月◯日払い、など)
- 国内出張と海外出張を分けて処理する(消費税の扱いが違う)
- 年に一度、金額が相場から離れていないか見直す
まとめ
- 日当は会社の損金+受け取る側は所得税が非課税+消費税は課税仕入れ。法人だけが使える箱
- 根拠は所得税法9条1項4号と所得税基本通達9-3
- 9-3は(1)全役員・使用人を通じたバランスのある基準 (2)同業種・同規模の相場との比較の2つを見る
- 通常必要と認められる範囲を超える部分は給与所得(通達9-4)
- 規程には出張の定義を必ず書く。これがないと何も始まらない
- 役員だけ高額の規程は9-3(1)で落ちる
- 規程があっても、出張報告書と旅程がなければ事実を示せない
- 海外出張の旅費・日当は原則として課税仕入れにならない
この記事の主な根拠(出典)
- 所得税法9条1項4号(旅費の非課税)
- 所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)/9-4(非課税とされる旅費の範囲を超えるものの所得区分)/9-5(非常勤役員等の出勤のための費用)
- 法人税基本通達9-7-6〜9-7-10(海外渡航費)
- 消費税法30条7項ただし書、消費税法施行令49条1項1号(帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる場合=3万円未満の公共交通機関、出張旅費等)
- 国家公務員等の旅費に関する法律 別表(日当・宿泊料の額)
- ※金額の相当性は業種・規模により異なります
- ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります
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