回収できない売掛金は、いつ落とせるのか──法人の貸倒れは3つのルートしかない
「もう払ってもらえそうにない」という感触では、貸倒損失は落とせません。法人税で貸倒れが認められるのは3つの場合だけで、しかも3つとも要件と手続が違います。
そしてもう1つ、貸し倒れていない債権についても、期末に一定額を先に損金にできる制度があります。貸倒引当金です。こちらは使える法人が限られているうえに、中小法人だけが選べる有利な計算方法があります。
個人事業主の場合は回収できない売掛金をあきらめる前ににまとめています。この記事は法人の場合の話です。
この記事の結論
- 貸倒損失は法律上(9-6-1)/事実上(9-6-2)/形式上(9-6-3)の3ルートだけ
- ★法律上の貸倒れだけは損金経理が要らない。残り2つは決算で費用にしていないと落とせない
- ★形式上(1年以上)は売掛債権限定。通達が「貸付金その他これに準ずる債権を含まない」と明記している
- ★たまたま1回だけ取引した相手にも使えない。通達は不動産取引を例に挙げている
- 「備忘価額1円」は通達に書かれていない。1円は実務の慣行
- ★貸倒損失が否認されても、明細書を後から出せば貸倒引当金に乗り換えられる(法基通11-2-2)
- 貸倒引当金を使えるのは資本金1億円以下の法人などに限られる(法法52①)
- 中小法人は法定繰入率を選べる。★割賦販売小売業等は7/1,000(13/1,000は令和3年3月31日以前に開始した事業年度の話)
- ★100%グループ内の債権は、個別評価も一括評価も対象外(法法52⑨二)
1. 貸倒損失の3つのルート
| ルート | 認められる事実 | 落とせる金額 | 損金経理 |
|---|---|---|---|
| 法律上の貸倒れ(法基通9-6-1) | ①更生計画認可の決定・再生計画認可の決定 ②特別清算に係る協定の認可の決定 ③債権者集会の協議決定・行政機関や金融機関等のあっせんによる契約 ④債務超過の状態が相当期間継続し弁済を受けられない相手への書面による債務免除 | 切り捨てられた金額/債務免除額 | ★不要(その事実の発生した日の属する事業年度に損金算入) |
| 事実上の貸倒れ(法基通9-6-2) | 債務者の資産状況・支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった | ★全額(一部だけは不可) | 必要 |
| 形式上の貸倒れ(法基通9-6-3) | ①取引を停止した時以後1年以上経過(担保物がある場合を除く) ②同一地域の売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がない | 売掛債権の額から備忘価額を控除した残額 | 必要 |
★損金経理が要るかどうかが、3つで違います。法律上の貸倒れは通達が「貸倒れとして損金の額に算入する」と書いていて、会社が決算で費用にしていなくても損金になります。一方、事実上・形式上は「損金経理をすることができる」「損金経理をしたときは、これを認める」という書き方で、決算で費用にしていなければ落とせません(決算調整事項)。
事実上の貸倒れには、さらに2つ条件があります。担保物があるときは処分した後でなければ計上できず、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできません(9-6-2の注)。
2. ★形式上の貸倒れは「売掛債権」限定
3つのなかでいちばん使いやすいのが「1年以上」ですが、ここが最も誤解されています。
売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。)
通達本文の定義です。★回収不能の貸付金を「1年経ったから」と処理することはできません。立替金や仮払金も同じです。
もう1つ、通達の注書きに重要な制限があります。
取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。
★1回きりの取引先には使えません。工務店が一般のお客様の住宅を1棟だけ請け負った未収請負金が典型で、これは1年経っても9-6-3では落とせません。
「取引の停止」の起算点にも注意が要ります。その後に新しい債権が発生していれば「取引があった」ことになるため、起算点は最後に債権が発生したときまで動きます。「3年前から放置していた」と思っていても、途中で1回だけ売っていれば1年の数え直しです。
なお「備忘価額1円」は通達に書かれていません。通達の文言は「備忘価額を控除した残額」だけで、1円とするのは実務の慣行です。
3. 書面による債務免除は一発勝負
法律上の貸倒れのうち、会社が自分から動けるのは④の書面による債務免除だけです。だからよく使われるのですが、要件を外したときの傷がいちばん深いのもこれです。
要件は「債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること」。
★「相当期間」の目安は、おおむね1年以上とされています。これは貸倒引当金の側の通達(法基通11-2-6)の言葉ですが、実務ではこの水準で判断します。
そして、ここが一発勝負である理由です。
債務免除をすると、期末には債権そのものが存在しません。そのため、貸倒損失が否認されても貸倒引当金に振り替えるという救済が効きません。
不渡りが出た直後に慌てて免除通知を出す、というのがいちばん危ない動き方です。「相当期間継続し」の事実が積み上がるのを待つほうが安全です。
4. ★否認されても救済がある(ただし債権が残っている場合)
逆に、貸倒損失は先送りしないほうが有利です。理由は救済規定があるからです。
確定申告書に明細書が添付されていない場合であっても、それが貸倒損失を計上したことに基因するものであり、かつ、申告書の提出後に明細書が提出されたときは、その貸倒損失の額を個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れとして取り扱うことができる(法基通11-2-2)。
つまり、9-6-2で全額を落としたつもりが否認されても、明細書を追加提出すれば「個別評価の貸倒引当金」に乗り換えられます。根拠は法法52④(明細の記載がないことにやむを得ない事情があると認めるときは適用できる)です。
★ただし、この救済には条件があります。通達の注に「疎明資料の保存がある場合に限られる」と書かれています。資産状況・支払能力を調べた記録が何も残っていなければ、乗り換えもできません。
破産手続の終結・廃止は債権者に通知されないことが多く、気づかないうちに計上時期を逃します。動けるうちに動いたほうが、救済も効きます。
5. 貸倒引当金を使える法人は限られている
ここからはまだ貸し倒れていない債権の話です。
貸倒引当金を繰り入れられるのは、次の法人だけです(法法52①)。
- 普通法人のうち資本金の額または出資金の額が1億円以下のもの(★大法人(資本金5億円以上等)による完全支配関係があるものと大通算法人を除く)、または資本・出資を有しないもの
- 公益法人等・協同組合等
- 人格のない社団等
- 銀行・保険会社その他これらに準ずる法人
- 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人
★資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の親会社の100%子会社なら使えません。同族の資産管理会社でグループを組んでいる場合は、同族会社の判定とは別に、この線も見てください。
繰入れは決算調整事項です。決算で繰り入れていなければ、申告書で減算することはできません。そして繰り入れた金額は、翌事業年度に全額を益金に戻します(法法52⑩)。いわゆる洗替えで、効果が出るのは初めて計上した年と、債権が増えた年だけです。
6. 個別評価と一括評価
貸倒引当金は2つに分かれ、それぞれ別に計算します(法基通11-2-1の2)。個別評価の繰入超過額を一括評価のほうに回す、といったことはできません。
個別評価金銭債権(法令96①)の主な事由と繰入限度額です。
| 事由 | 繰入限度額 |
|---|---|
| 更生計画認可の決定等により弁済猶予・賦払弁済 | その事由が生じた事業年度後5年以内に弁済される金額以外の金額 |
| 債務超過の状態が相当期間継続し事業好転の見通しがない | 取立て等の見込みがないと認められる金額 |
| 更生手続開始の申立て等(手形交換所等の取引停止処分を含む) | 50% |
| 一定の外国の政府・中央銀行等に対する債権 | 50% |
★手形交換所の取引停止処分があれば、それだけで50%を引き当てられます。「まだ回収できるかもしれない」段階でも動けるのが個別評価の強みです。
一括評価金銭債権の繰入限度額は、原則が次の式です。
期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 × 貸倒実績率(小数点以下4位未満切上げ)
7. 中小法人は法定繰入率を選べる
中小法人等は、実績率に代えて法定繰入率を使えます(措法57の9)。有利なほうを選べます。
| 業種 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業及び小売業(飲食店業・料理店業を含み、割賦販売小売業を除く) | 10/1,000 |
| 製造業(電気業・ガス業・熱供給業・水道業・修理業を含む) | 8/1,000 |
| 金融業及び保険業 | 3/1,000 |
| 割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業及び個別信用購入あっせん業 | ★7/1,000 |
| その他の事業 | 6/1,000 |
判定するのはその法人の営む主たる事業です(措令33の7④)。
★割賦販売小売業等の率は7/1,000です。書籍やWeb記事で13/1,000と書かれているものがありますが、13/1,000は令和3年4月1日前に開始した事業年度の率です。
★適用除外事業者(前3年平均所得15億円超)は法定繰入率を使えません(措法57の9①)。通算グループ内のいずれかが適用除外事業者に該当する場合も同じです。
不動産賃貸業は「その他の事業」で6/1,000です。売掛金・未収家賃の残高が1,000万円あれば60万円。現金は1円も出ていきません。
8. ★法定繰入率で見落とす2つの控除
法定繰入率を使うときは、分母から2種類の債権を落とす必要があります。
① 実質的に債権とみられない金銭債権(措令33の7②)
その債務者から受け入れた金額があるため、その全部又は一部が実質的に債権とみられない金銭債権
同じ相手に対して債権と債務の両方があるものです。
| 債権 | 相手方に対する債務 |
|---|---|
| 売掛金・受取手形 | 買掛金・支払手形 |
| 完成工事未収入金 | 未成工事受入金 |
| 貸付金 | 借入金 |
| 従業員貸付金 | その従業員からの預り金 |
| 未収地代家賃 | 受入保証金 |
★不動産賃貸業は最後の行が効きます。未収家賃がある入居者から敷金を預かっていれば、その分は債権とみられない部分になります。控除を忘れると繰入超過です。
なお平成27年4月1日に存する法人は、平成27年4月1日から平成29年3月31日までに開始した各事業年度の実績による簡便計算も選べます(措令33の7③)。
② 完全支配関係がある他の法人に対する金銭債権
★100%グループ内の会社に対する売掛金・貸付金は、個別評価も一括評価も対象外です(法法52⑨二)。法定繰入率のほうにも同じ除外があります(措法57の9①)。親子会社間・兄弟会社間の債権を入れたまま計算していないか、ここは必ず見てください。
9. 申告書に付けるもの
| 何を | 別表 |
|---|---|
| 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金 | 別表十一(一) |
| 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金 | 別表十一(一の二) |
法法52①②は、確定申告書に繰入額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用されます(同③)。ただし記載がなかったことにやむを得ない事情があると認めるときは、税務署長が適用できるという宥恕があり(同④)、これが§4の乗り換えの根拠になっています。宥恕を前提に組み立ててはいけません。
なお、法定繰入率を使うときは適用額明細書にも記載します。
範囲注記:この記事は回収不能になった債権の税務上の取扱いを扱っています。売掛金の回収そのもの──内容証明の作成代理、支払督促・少額訴訟の申立て、債権譲渡、相手方との交渉代理──は弁護士(または認定司法書士)の業務で、税理士が代理して取り立てることはできません。債務免除通知の法的な効果や書面の書き方についても弁護士にご確認ください。
まとめ
- 貸倒損失は法律上/事実上/形式上の3ルートだけ。★損金経理が要らないのは法律上だけ
- ★形式上(1年以上)は売掛債権限定。貸付金・立替金には使えない
- ★たまたま1回の取引先にも使えない。通達が不動産取引を例に挙げている
- 「取引の停止」の起算点は最後に債権が発生したときまで動く。「備忘価額1円」は慣行
- 書面による債務免除は一発勝負。債権が消えるので引当金に振り替えられない
- ★債権が残っていれば、否認されても明細書の後出しで個別評価に乗り換えられる(疎明資料があること)
- 貸倒引当金は資本金1億円以下の法人など限定。★大法人の100%子会社は使えない
- 中小法人は法定繰入率を選べる。★割賦販売小売業等は7/1,000
- ★実質的に債権とみられない金額と★100%グループ内債権を分母から落とす
- 別表十一(一)/十一(一の二)。明細の記載が適用要件
- 法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)/9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)/9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ。売掛債権の定義と、たまたま取引を行った債務者に係る注書き)
- 法人税法52条(貸倒引当金。1項の適用法人、2項の一括評価、3項の明細記載要件、4項の宥恕、9項2号の完全支配関係がある他の法人に対する金銭債権の除外、10項の益金算入)/法人税法施行令96条1項
- 法人税基本通達11-2-1の2(個別評価と一括評価は別に計算)/11-2-2(貸倒損失の計上と個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ)/11-2-4(裏書譲渡をした受取手形)/11-2-6(相当期間の意義)
- 租税特別措置法57条の9(中小企業者等の貸倒引当金の特例)/租税特別措置法施行令33条の7第2項・第3項・第4項(実質的に債権とみられない金銭債権、基準年度による簡便計算、業種別の法定繰入率)
- 国税庁タックスアンサーNo.5500・No.5501/「法人税等各種別表関係(令和7年4月1日以後終了事業年度等分)」別表十一(一)・十一(一の二)
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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