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更新日 2026-07-26 起業時の知識第54回

開業届を出したら終わり?税務署とは別に都道府県へ出す「事業開始等申告書」の話

開業のとき、多くの人はこの2枚を出して終わりにします。開業届青色申告承認申請書。どちらも提出先は税務署です。

ところが、開業の届出にはもう1系統あります。都道府県に出す「事業開始等申告書」です。

この書類、驚くほど知られていません。税務署の窓口でも案内されないことがあります。出し忘れたまま何年も事業を続けている人が普通にいます。

この記事の結論
– 開業の届出は国(税務署)と地方(都道府県・市区町村)の2系統ある
– 都道府県へ出すのは「事業開始等申告書」。個人事業税のための届出
名称も期限も都道府県ごとに違う(15日以内・1か月以内・2か月以内などの幅がある)
– 出し忘れても事業税が消えるわけではない。確定申告のデータで把握されるため、実害は小さい
– ただし非課税の業種であることを先に伝えられない、通知が届かないなどの不利益はある
– 開業時だけでなく、廃業・移転・屋号変更のときも同じ様式で届け出る

開業の届出は「国」と「地方」の2系統ある

まずここを分けて理解してください。混乱の原因はほぼこれです。

提出先 主な書類 何のためか
税務署(国) 開業届、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、青色事業専従者給与に関する届出書 所得税・源泉所得税のため
都道府県 事業開始等申告書(名称は自治体により異なる) 個人事業税のため
市区町村 償却資産申告書(1月31日まで・該当者のみ) 固定資産税(償却資産)のため

税務署に出した情報は、そのまま都道府県へ回ります。だから「出さなくても事業税は来る」のですが、制度としては別々の届出です。税務署の書類の出し方は開業届はe-Tax・郵送・窓口のどれが一番ラクかにまとめています。

事業開始等申告書とは何か

個人事業税は都道府県が課す地方税です。国税とは根拠法が違い、地方税法とそれを受けた各都道府県の税条例で運用されています。

その条例の中に「事業を始めたら申告してください」という規定があり、そのための様式が事業開始等申告書です。目的は課税資料の把握——つまり「この人が管内で事業を始めた」と都道府県に知らせることです。

個人事業税そのもの(誰が課税されるのか、いくらか)は8月に届く「個人事業税」の納付書は払うべき?で詳しく整理しています。この記事は、その入口の届出の話です。

名前も期限も、都道府県ごとに違う

ここが厄介なところです。国税の書類は全国共通ですが、この届出は自治体ごとに様式も名称も期限も違います

項目 実態
名称の例 事業開始等申告書/事業開始申告書/個人事業開始申告書 など
提出先 事務所・事業所の所在地を管轄する都道府県税事務所(東京23区内は都税事務所
期限の例 開始の日から15日以内1か月以内2か月以内 など幅がある
様式 各都道府県のサイトからダウンロード。窓口・郵送・電子申請(eLTAX)に対応する自治体もある
手数料 無料

たとえば東京都は「事業開始(廃止)等申告書」を事業開始の日から15日以内としています。他の道府県はこれより長い期限を定めていることが多く、一律ではありません

自分の期限を調べる方法はひとつだけです。「〇〇県 事業開始等申告書」で検索し、県の公式サイトで確認する。ここは推測が効きません。

出さないとどうなるのか

正直にお答えします。実害はそれほど大きくありません。

理由は単純で、確定申告書のデータが都道府県に回るからです。確定申告書の第二表に「事業税に関する事項」という欄があるのは、この受け渡しのためです。だから届出を出していなくても、課税されるべき人には納税通知書が届きます

では、なぜ出すのか。出さないことで起きる不利益は次のとおりです。

出さないと 何が起きるか
非課税業種の申し出ができない ライター業など法定70業種に当たらない可能性がある人が、その旨を先に伝える機会を失う
都道府県からの案内が届かない 減免・猶予・様式の案内などが送られてこない
条例上は違反にあたる 罰則規定を置く条例もある(実務上、届出漏れだけで科されることは通常ない)
廃業時に困る 開始の届出がないと、廃業の届出も出しにくく、廃業後も課税資料が残ることがある

つまり「出さないと重い罰がある」ではなく、出しておくと自分の言い分を先に伝えられるという性格の書類です。特に業種の判定が微妙な仕事の人は、出しておく価値があります。

開業届そのものを出していない場合の話は開業届を出さないとどうなる?にまとめています。

この記事で扱う範囲について
事業開始等申告書は各都道府県の税条例に基づく届出です。名称・様式・提出期限・提出先・罰則の有無は都道府県ごとに異なり、本記事に挙げた期限はあくまで例です。実際に提出する際は、必ず所管の都道府県税事務所または都道府県の公式サイトで、現在の様式と期限をご確認ください。また個別の事業が法定業種に当たるかどうかの判断は都道府県税事務所が行います(2026年時点の制度に基づく記事です)。

市区町村にも出すものがあるか

「県に出すなら市にも出すのか」とよく聞かれます。個人事業税については市区町村への届出は不要です。個人事業税は都道府県の税だからです。

ただし、市区町村に出すものが別にあります。

書類 出す人 期限
償却資産申告書 1月1日時点で、事業用の機械・器具・備品・看板・内装などを持っている人 毎年1月31日
事業所税の申告 一定規模以上の事業所を持つ人(対象都市は限られる) 事業年度に応じて

償却資産申告は、パソコン1台だけといった規模なら該当しないことも多いのですが、内装工事をした店舗や、機械を入れた工房では対象になります。この税金の位置づけは個人事業主に「後から来る税金」一覧で全体像とあわせて確認してください。

いつ・どこに・何を出すか

手順にすると3ステップです。

  1. 都道府県のサイトで様式を探す(「〇〇県 事業開始等申告書」で検索)
  2. 書く(氏名・住所・屋号・事業所の所在地・事業の種類・開始年月日。開業届の控えを見ながら書けば5分)
  3. 出す(郵送・窓口・電子申請。控えが欲しい場合は、郵送なら返信用封筒を同封)

事業の種類の欄は、開業届の「職業」欄と食い違わないように書いてください。両方の書類が同じ人の同じ事業を指していると分かる状態にしておくのが大事です。職業欄の書き方は開業届の「職業」「事業の概要」は何て書く?を参考にしてください。

廃業・移転・屋号変更のときも同じ様式

この様式は「開始(廃止)等」という名前が示すとおり、開始のときだけのものではありません

  • 廃業したとき——出さないと、都道府県側は事業が続いていると認識したままになります
  • 事務所を他の都道府県へ移したとき——移転先で新たに、移転元では廃止の届出が必要になることがあります
  • 屋号・事業の種類を変えたとき——変更の届出をします

とくに廃業の届出は忘れられがちです。税務署には「個人事業の開業・廃業等届出書」を出したのに、都道府県には何も言っていない——これがよくある形です。

優先順位としては「3番目」でいい

最後に、実務的な優先順位をはっきりさせておきます。開業時に出す書類の中で、この届出の重要度は高くありません。

順位 書類 期限を逃したときの損
1位 青色申告承認申請書 その年は白色。最大65万円の控除を1年分まるごと失う
2位 給与支払事務所等の開設届出書 源泉徴収の手続きが始められない
3位 事業開始等申告書 実害は小さいが、非課税の申し出ができない
4位 開業届 遅れても実害は小さい

青色申告承認申請書の期限だけは、何を措いても守ってください(青色申告承認申請書の提出期限)。この記事の届出は、その次に「そういえば出していなかった」と気づいたときに出せば十分間に合います。

よくある質問(FAQ)

Q. 開業から3年経っています。今から出せますか。
出せます。期限を過ぎていても受け付けてもらえるのが通常です。開始年月日は実際の開始日を書いてください。過去にさかのぼって課税されるかどうかは、届出の有無ではなく所得の内容で決まります。

Q. 開業届を出せば、都道府県にも自動で伝わりませんか。
確定申告のデータは都道府県へ回るので、課税に必要な情報は伝わります。ただし届出そのものが不要になるわけではありません。制度としては別々です。

Q. 自分の仕事は個人事業税の対象外だと思います。それでも出しますか。
むしろ出すことをおすすめします。届出の「事業の種類」欄で自分の仕事の実態を先に伝えられるためです。非課税かどうかの判断は都道府県税事務所が行います。

Q. 副業の規模でも出す必要がありますか。
条例上は事業を開始した人が対象です。ただし雑所得として申告する規模であれば、実務上は求められないことが多いです。判断に迷う場合は都道府県税事務所に確認してください。

Q. 引っ越して住所が変わりました。何か出しますか。
自宅を事業所としている場合は、事業所の所在地が変わることになります。同一都道府県内なら変更の届出、他県へ移るなら移転元と移転先の両方への届出が必要になることがあります。

Q. 提出したかどうか分からなくなりました。
都道府県税事務所に電話で照会できます。二重に出しても問題は起きないので、分からなければもう一度出すという判断でも構いません。

Q. 開業時に出す書類の全体像を知りたいです。
開業時に必要な手続き・提出書類開業の全体マップに、順番と期限をまとめています。

まとめ

  • 開業の届出は国(税務署)と地方(都道府県)の2系統。都道府県には事業開始等申告書を出す
  • 名称も期限も自治体ごとに違う。15日以内から2か月以内まで幅があるので、県のサイトで確認する
  • 出し忘れても事業税は確定申告のデータで課税されるので実害は小さい
  • ただし非課税業種であることを先に伝える機会を失う。業種の判定が微妙な人ほど出す価値がある
  • 市区町村には償却資産申告(1月31日)が別にある。内装や機械がある人は要注意
  • 廃業・移転・屋号変更のときも同じ様式で届け出る。廃業の届出漏れがいちばん多い
この記事の主な根拠(出典)

  • 地方税法72条の2(事業税の課税客体)/各都道府県の税条例(事業開始等の申告の様式・期限・提出先)
  • 地方税法383条ほか(償却資産の申告)/各市区町村の案内
  • 所得税法229条(個人事業の開業・廃業等届出書)/144条・147条(青色申告の承認申請)
  • 各都道府県税事務所・都税事務所の「事業開始等申告書」案内ページ、国税庁タックスアンサー「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です。名称・期限・様式は都道府県ごとに異なり、改定されることがあります

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