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更新日 2026-07-31 税務調査

税務調査とは何か──確率は下がり、当たると重くなった。中小企業・個人事業主のための全体像【2026年版】

「うちみたいな小さい会社に、税務調査なんて来ないでしょう」

そう考えている経営者の方は多いと思います。確率だけを見れば、その感覚は間違っていません。法人税の実地調査は年5万4千件、稼働法人約280万社で割ると実調率は約2%。単純計算で50年に1回です。

問題は、その先です。

この記事の結論

  • 調査に入られる確率は下がったが、1件あたりの追徴額は上がった。法人税・消費税の追徴税額は3,407億円で直近10年最高1件あたり634万円(蔵書時代の178万円の3.5倍)
  • 「簡易な接触」が急増している。税務署から何か言われる確率は、実調率よりはるかに高い
  • 選定はランダムではない。国税庁はAI予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出していると公式に公表している
  • 分かれ道はタイミングと書面の2つ。加算税は調査通知の前に自主修正すれば0%、通知後・予知前は5%、予知後は10%、仮装隠ぺいなら35%
  • 納税者にも権利がある。とくに質問応答記録書への署名は法律上の義務ではない

この記事は、税務調査という制度の全体像を1本にまとめた入口です。個々の論点は、各記事に分けて解説していきます。

1. 数字で見る、いまの税務調査

国税庁が公表している令和6事務年度の数字です。古い本やサイトに載っている数値とは、かなり違います。

項目 かつて(平成29事務年度) いま(令和6事務年度)
法人税の実地調査件数 9.8万件 5万4千件
法人税の実調率 約3.2〜3.7% 約2%
法人税の非違割合 約74% 約78%
法人税・消費税の追徴税額 3,407億円(直近10年最高)
1件あたり追徴税額(法人税+消費税) 178万円 634万円
源泉所得税 1件あたり追徴 63万円(直近10年最高)
所得税の調査等件数 62万件 73万6千件(実地4万7千+簡易な接触68万9千)
所得税の追徴税額 1,431億円(過去最高)
相続税の実地調査 1万2,576件 9,512件
相続税 1件あたり追徴 623万円 867万円

読み方は「確率×金額」です。

回数が減ったのは、平成25年の国税通則法改正で調査手続が厳格化され、調査官1人あたりの処理件数が月4〜5社から月2〜3社程度へ落ちたからです。その分、調査官は1件に時間をかけられるようになりました。

「調査に来られる確率は下がったが、来たときは深く掘られる」──これが現在の構図です。

2.「うちには来ない」が危険な3つの理由

実調率2%という数字を「来ない」と読んではいけない理由が3つあります。

① 実調率は平均値であって、あなたの確率ではない。
日本ではアメリカ型のコンピュータ無作為抽出は採られていません。異常値のある会社の実際の確率は、平均の何倍にもなります。逆に、税務署単位で相対的に大口の法人は3〜4年に1度の循環的な調査対象として扱われます。

② 「簡易な接触」を数えていない。
法人税・消費税の簡易な接触(文書照会・電話連絡・来署依頼)は8万5千件で、実地調査の1.6倍。所得税では簡易な接触68万9千件に対し実地調査4万7千件で、接触の94%は簡易な接触です。「税務署から何か言われる確率」は、実調率よりはるかに高いのです。

③ 当たったときの金額が上がっている。
1件あたり634万円。ここに延滞税と加算税が乗ります。

3. 税務調査には種類がある

「税務調査」とひとくくりに語られますが、法令上の種類区分はなく、実務上の呼び分けです。

種類 内容
強制力 強制調査(査察) 国税局査察部が裁判官の令状により行う。いわゆる「マルサ」
任意調査 税務署・国税局が質問検査権により行う。中小企業に来るのはほぼこちら。ただし拒否には罰則があり「間接強制」と呼ばれます
事前通知 予告調査 原則。電話で日程を打診→調整→事前通知
無予告調査 法律上の要件に該当する場合のみ。現金商売が典型
深度 一般調査 通常2名・2〜3日。中小法人の標準
着眼調査 資料の分析から短期間で臨場。1〜2日
特別調査 高額・悪質見込み。3名以上・数週間〜1か月
簡易な接触 文書照会・電話・来署依頼。近年最も増えている
方法 内部(机上)調査 署内で申告書・資料・ホームページ・SNSを確認
内観・外観調査 客を装って来店、店舗周辺の視察
反面調査 取引先・銀行・従業員・官公署への照会

金融機関調査は拒めません。 調査官は「金融機関調査証」を呈示して、預金・融資・手形小切手まで閲覧できます。

4. どうやって調査先が選ばれるのか

(1)システムによる抽出
KSK(国税総合管理システム)が全国の税務署・国税局をネットワーク化し、申告書・法定調書・支払調書・死亡情報を一元管理しています。そして令和6事務年度からは、AI予測モデルが公式に稼働しています。調査必要度の高い法人を抽出し、想定される不正パターン(売上/原価/経費)まで判定したうえで、調査官が最終判断する運用です。

実際に「原価(外注費)」と判定された法人に臨場し、取引実態のない外注費を把握して追徴約3億6千万円という事例が公表されています。

(2)資料せん
取引先から提出された取引資料です。「きわどい取引は、まず資料を切られている」と考えてください。調査官は資料せんを最初から出さず、最終局面の決め手に取っておくのが常道です。

(3)選ばれやすいシグナル

  • 売上・粗利率に大きな変動がある
  • 3期比較で原価率が動いている
  • 社長借入金が増えている
  • 累積赤字の解消が近い、あるいは黒字転換した直後
  • 申告書だけで分かる別表のミス
  • 過去に重加算税を課されている

いちばん安い防御策は、事業概況書に変動理由を書いておくことです。「売上が3割落ちたのは主要取引先の工場移転による」と一行あるだけで、調査官の「なぜ?」が一つ消えます。

5. 調査には季節がある

国税の事務年度は7月1日から翌年6月30日まで。7月上旬に人事異動があります。ここから調査の季節性が生まれます。

時期 動き
7〜8月 新体制で調査に着手
9〜11月 最盛期
12月 年内に終わらせたい心理が働く
2〜3月 確定申告期。個人の調査はほぼ止まり、法人も減る
4〜6月 事務年度末。未処理案件を抱えた調査官が焦る時期

もう一つ。調査官には「争点整理表」の作成義務があり、調査着手後3か月経過で作成が必須になります。だから3か月を超えそうな案件は調査官にとって負担です。ここに交渉の余地が生まれます。

6. 事前通知から終了までの流れ

段階 内容
1. 事前通知 原則として、実地調査の前に日時・場所・目的・税目・課税期間・帳簿書類等が通知されます(顧問税理士がいれば税理士にも)
2. 日程調整 その場で日程を決める必要はありません。合理的な理由があれば変更を求められます
3. 準備期間 通知から臨場まで通常10〜14日。ここで何をするかで結果が変わります
4. 臨場調査 通常2〜3日。1日目午前は概況ヒアリング、午後から金額の大きい科目の証憑チェック
5. 検討・照会 反面調査・銀行調査が入ることがあります
6. 調査結果の説明 是認通知、または非違の内容の説明と修正申告の勧奨
7. 終了 修正申告に応じるか、更正処分を受けるかを選びます

臨場前に自主的に修正申告をすると、加算税が変わります。ここが最初の分岐点です。

7. 加算税は「タイミング」で倍変わる

同じ申告漏れでも、いつ直したかで納税額が変わります。

タイミング 過少申告加算税
調査の通知が来る前に自主的に修正 不適用(0%)
通知後、更正等を予知する前 5%(50万円超の部分10%)
調査で指摘されてから 10%(50万円超の部分15%)
仮装・隠ぺいがあった 重加算税35%(無申告に代えるものは40%)

さらに、無申告の場合は300万円超で30%という区分が令和5年度改正で加わりました(古い本はすべて「15%/20%」の2区分です)。

延滞税も乗ります。とくに重加算税の事案では延滞税の計算期間の特例が適用されないため、長期間分がまるまる乗ります。「自主的に直せば実質半分」と言われる主な理由がこれです。

→ 加算税は税率が細かく、加重措置・軽減措置もあります。詳しくは 加算税早見表 にまとめました。

8. 納税者に認められている権利

調査は一方的なものではありません。押さえておくべき権利が6つあります。

  1. 事前通知を受ける権利(無予告調査は法律上の要件を満たす場合に限られます)
  2. 日程変更を求める権利(合理的な理由がある場合)
  3. 税理士に立ち会ってもらう権利
  4. 調査理由の説明を求める権利
  5. 提示と提出は違う──帳簿を「見せる」ことと「預ける(留置き)」ことは別です。留置きには同意が必要で、返還を求めることもできます
  6. 質問応答記録書への署名は義務ではない──税法に規定のない行政文書です

とくに6番。国税庁が職員向けに作成している「質問応答記録書作成の手引」自体が、署名を強要してはならないと定めています。この一点を知っているかどうかで、最終的な納税額が変わることがあります。

→ 詳しくは 質問応答記録書にサインを求められたら をご覧ください。

9. 調査官が見ている科目

限られた日数で成果を出す必要があるため、調査官が見る場所はある程度決まっています。

科目 よく見られる点
売上 期ズレ(決算期前後の計上時期)、除外、値引・返品の仮装
仕入・外注費 架空・水増し、外注費か給与か、期末の在庫との整合
人件費 架空人件費、親族への給与の実態、決算賞与の要件
交際費 公私混同、1人1万円基準の記載要件、参加人数の水増し
修繕費 資本的支出との区分。「○○改修一式」の請求書
棚卸資産 除外・評価減の根拠
役員給与 定期同額・事前確定届出・過大性
消費税 課税・非課税・不課税の区分、インボイスの保存
源泉所得税 給与認定、経済的利益、報酬の徴収漏れ

このうち中小企業で最大の論点が「外注費か給与か」です。給与と認定されると、消費税の控除否認と源泉所得税の徴収漏れが同時に来ます。

外注費か給与か──判定5要素と、否認されたときのダブル追徴

10. 平時にやっておく10のこと

調査対策の9割は、調査が来る前に終わっています。

  • [ ] 事業概況書に、売上・原価率の変動理由を書く
  • [ ] 契約書・請求書・納品書・領収書を、取引ごとに紐づけて保存する
  • [ ] 電子取引データを、検索要件(取引年月日・金額・取引先)で抽出できる状態にする
  • [ ] 交際費は、日付・相手方の氏名と関係・参加人数・金額・店名を記録する
  • [ ] 外注先とは業務委託契約書を交わし、請求書は相手方から受領する
  • [ ] 現金出納帳の残高と実際の現金を合わせておく
  • [ ] 社長個人の支出と会社の支出を分ける
  • [ ] 期末前後の売上・仕入の計上時期を確認する
  • [ ] 税務代理権限証書を提出しておく(令和6年4月以後の様式では「調査の通知・終了の際の手続に関する同意」欄が統合されました)
  • [ ] 疑問点は、調査が来る前に顧問税理士へ確認しておく

まとめ

  • 法人税の実地調査は5万4千件・実調率約2%まで低下。一方で追徴税額は3,407億円で直近10年最高1件あたり634万円
  • 「簡易な接触」が急増しており、実地調査だけを警戒すれば済む時代ではない
  • 選定はランダムではない。AI予測モデル+KSK+資料せんで調査必要度の高い先が抽出される
  • 事務年度は7月〜翌年6月9〜11月が最盛期。調査官は着手後3か月で争点整理表の作成義務を負う
  • 加算税は通知前0%/通知後・予知前5%/予知後10%/仮装隠ぺい35%無申告は300万円超で30%
  • 納税者の権利は6つ。とくに質問応答記録書への署名は法律上の義務ではない
  • 対策の9割は平時に終わる。事業概況書への変動理由の記載が、最も安い防御策
この記事の主な根拠(出典)

  • 国税通則法74条の9〜74条の11(事前通知・調査終了の際の手続)、74条の7(提出物件の留置き)、65条〜68条(加算税)
  • 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」
  • 国税庁「税務行政の現状と課題」(実調率)、「税務調査手続に関するFAQ」(一般納税者向け)
  • 財務省「加算税制度の概要」
  • 国税庁「質問応答記録書作成の手引」(職員向け)
  • ※2026年時点の制度・統計に基づく記事です。統計は事務年度ごとに更新されます

次に読む

👉 加算税早見表──同じ申告漏れで納税額が倍変わるタイミングの話
👉 外注費か給与か──判定5要素と、否認されたときのダブル追徴
👉 質問応答記録書にサインを求められたら
👉 外注費に源泉徴収は必要?
👉 保存期間は7年?5年?帳簿と書類の早見表

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