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更新日 2026-08-04 法人の決算と申告

役員報酬を変えていいのは1年に1回、それも期首から3か月まで

個人事業のときは、生活費が必要になれば口座から引き出せばよかったはずです。法人になると、社長へのお金の支払いはすべて役員給与になり、損金になるものが3つに限定されます。

そして、いちばん基本の「定期同額給与」には、1年に1回しか動かせないという強い縛りがあります。

この記事の結論

  • 損金になる役員給与は3類型だけ(定期同額給与/事前確定届出給与/業績連動給与)。同族会社は業績連動給与を使えない
  • 定期同額給与の改定期限は、会計期間開始の日から3か月を経過する日まで。3月決算なら6月末
  • 手取額が同額でもよい。社会保険料の改定で額面が動いても、手取りが一定なら要件を満たす
  • 臨時改定事由(地位・職務の重大な変更)は増額・減額とも可。業績悪化改定事由は減額のみ
  • 「一時的な資金繰りの都合」「業績目標に届かなかった」は業績悪化改定事由に入らない
  • 登記簿に載っていなくても役員になる(みなし役員)。社長の家族への賞与は要注意

1. 損金になる役員給与は3つだけ

法人税法34条1項は、役員給与のうち損金算入されるものを次の3類型に限定しています。

類型 内容
定期同額給与 支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、各支給時期の支給額又は手取額が同額であるもの
事前確定届出給与 所定の時期に確定額を支給する定めに基づくもので、あらかじめ税務署に届け出たもの
業績連動給与 一定の指標に基づくもの。★同族会社は原則として要件を満たせない

これに加えて、役員退職給与使用人兼務役員の使用人分給与が損金算入されます。ただしいずれも、不相当に高額な部分と、事実を隠ぺい又は仮装して経理することにより支給する役員給与は損金不算入です。

中小同族会社にとって、実質的な選択肢は定期同額給与事前確定届出給与の2つです。

2. 改定できるのは、期首から3か月まで

定期同額給与を改定できるのは、その会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。

決算期 改定期限
3月決算 6月末
12月決算 3月末
9月決算 12月末

つまり、1年に1回しかチャンスがありません。「今期は儲かりそうだから、10月から役員報酬を上げよう」はできません。期中に増額して増額分を一括で支給する、というのも定期同額給与になりません。

だからこそ、期首の役員報酬を決めるときは、その期の着地見込みを立ててから決めることになります。決算・申告の全体の流れは 法人成り1年目の社長へ|全体マップ にまとめました。

★手取額が同額でもかまいません

見落とされがちですが、条文が求めているのは「支給額又は手取額が同額」です。

源泉所得税・社会保険料等を控除した後の手取額が同額である定期給与も、定期同額給与に該当します。社会保険料の改定で額面が動く場合でも、手取りが一定なら要件を満たします。

「毎年9月に社会保険料が変わって手取りが変わってしまうのが気持ち悪い」という会社にとっては、使える選択肢です。

3. 期中に変えられる2つの例外

期首から3か月を過ぎても改定できる場合が2つあります。

臨時改定事由(増額・減額とも可)

役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情です。通達が例示しているのは、社長の退任に伴う副社長の社長就任、合併に伴う職務内容の大幅変更などです。

「役職が変わった」という事実が必要で、仕事の量が増えた、という程度では足りません。

業績悪化改定事由(★減額のみ)

経営の状況が著しく悪化したことです。減額改定に限られます。

★ここが最も誤解されているところです。

「一時的な資金繰りの都合」や「単に業績目標値に達しなかったこと」は、業績悪化改定事由に含まれません。

国税庁の「役員給与に関するQ&A」が該当例として挙げているのは、次のような第三者との関係で減額せざるを得ない客観的事情です。

  1. 株主との関係上、経営責任として減額せざるを得ない場合
  2. 取引銀行とのリスケジュール協議において減額せざるを得ない場合
  3. 取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保するため、経営改善計画に役員給与の減額を織り込む場合

数値指標がまだ悪化していなくても、客観的状況から今後の著しい悪化が不可避であれば該当しうるとされていますが、利益調整の目的だけでは通りません。

4. 「不相当に高額」の2つの基準

役員給与のうち不相当に高額な部分は損金不算入です。判定は実質基準と形式基準のいずれか多い金額で行います。

基準 内容
実質基準 ①職務の内容 ②法人の収益 ③使用人に対する給料の支給の状況 ④同種の事業を営む事業規模が類似する法人の役員給与の支給の状況 に照らして相当と認められる金額を超える部分
形式基準 定款の規定又は株主総会等の決議により定めた限度額を超える部分

限度額を定款や株主総会で定めていない法人には、そもそも形式基準は存在しません。

逆に危ないのが、昔の議事録で定めた限度額が残っていて、それを超えているというケースです。「最近の議事録に支給限度額の決議がない」という会社は、過去に遡って決議がなされていないかを確認する必要があります。

なお、役員が90%以上の株式を有する同族会社では、実際に株主が集まっていなくても、役員が作成した議事録は実質的に株主総会が開催され決議されたものとみるべきとした裁決があります(平成5年4月19日裁決)。「議事録がある=決議がある」と扱われます。

5. 登記簿に載っていなくても役員になります(みなし役員)

同族会社の使用人のうち、一定の持株要件を満たし、かつ経営に従事している者は、登記上の役員でなくても法人税法上の役員として扱われます。社長の配偶者・子・親が典型です。

みなし役員に賞与を払うと、役員賞与として全額損金不算入になります。

判定の軸は「法人の事業運営上の重要事項に参画しているか」です。具体的な指標としては、

  • 金融機関との窓口になっている
  • 借入金の保証人になっている
  • 大口取引の決定権を持っている
  • 人事の決定権を持っている
  • 給与・賞与の額の決定権を持っている

逆に、常時代表者の指揮監督を受けており、事業運営上の重要事項に参画していないなら、給与水準が一般の使用人と違ってもみなし役員にはならないとした裁決があります(昭和46年7月17日裁決)。

6. 使用人兼務役員になれない人

部長・課長その他の職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事する役員が使用人兼務役員で、使用人分の給与・賞与は損金になります。

ただし、次の人はなれません。

  1. 代表取締役・代表執行役・代表理事・清算人
  2. 副社長・専務取締役・常務取締役その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
  3. 合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員
  4. 監査役・会計参与など
  5. 同族会社の役員のうち、持株要件をすべて満たす者

5番目がとくに落とし穴です。要件は、①第1〜第3順位の株主グループの累積所有割合が初めて50%超となるグループに属する ②その役員の属する株主グループの所有割合が10%超 ③その役員本人+配偶者等の所有割合が5%超、の3つをすべて満たすことです。

つまり、自分自身は1株も持っていなくても、配偶者など同族関係者が株式を持っていれば該当することがあります。中小同族会社では、社長の親族はほぼ全員が使用人兼務役員になれないと考えたほうが早いです。

また、総務担当取締役・経理担当取締役のように特定部門を統括する者も、使用人兼務役員にはなれません。名刺に「専務」と刷っただけでは2号に当たりませんが、定款や総会・取締役会の決議で職制上の地位を付与していれば当たります。

★もう一つ。使用人兼務役員の使用人分賞与を、他の使用人と異なる時期に支給すると、不相当に高額な部分として損金不算入になります。「他の従業員には夏に払い、役員には未払にしておいて後で払う」は典型的な否認パターンです。

7. 社長の家族への給与は、勤務実態がすべて

役員と特殊の関係にある使用人(役員の親族、事実上婚姻関係と同様の事情にある者、役員から生計の支援を受けている者など)に対する給与・退職給与のうち、不相当に高額な部分は損金不算入です。

否認事例は具体的です。

  • 大学在学中で勤務実態のない代表取締役の長男への給料が、代表取締役の妻が受け取って生活費に充てられていたことから、長男の給与ではなく代表取締役の役員報酬・賞与と認定された(平成4年11月18日裁決)
  • 米国在住のまま入社した代表者の長男に年間250万円超を支給した事例で全額否認(長野地判平成21年3月10日)

★社長の配偶者・子に給与を払うなら、勤務実態を残す(出勤記録・業務内容・成果物)ことが唯一の防御です。

なお、個人事業の場合は制度がまったく違い、生計を一にする親族への対価は原則として必要経費にならない(所得税法56条)という別のルールで動きます。個人事業側の話は 生計を一にする親族への支払い(所得税法56条)配偶者を青色事業専従者にすべき? をご覧ください。法人化すると、この制限がなくなる代わりに役員給与の規制がかかる、という関係です。

8. 現物で渡しているものも役員給与になります

役員に対する経済的利益も役員給与です。渡切交際費、低利の金銭貸付け、個人的な水道光熱費の法人負担、社宅の低額貸与などが該当します。

  • 定額又は恒常的にほぼ定額と認められるもの(毎月定額の渡切交際費、低利貸付けの利息相当額、個人的な水道光熱費の法人負担)は定期同額給与として扱われ、損金になります(ただし個人には給与課税されます)
  • 臨時的・一時的な経済的利益(個人的に使用する資産の購入費用の法人負担など)は、損金不算入です

★また、仮払金・貸付金として処理していても、給与等に充てるための支出や給与への振替は、その時点の給与として源泉課税されます。社長への貸付金が毎月増えていく、という会社は決算前に中身を確認してください。

📌 範囲注記
役員の選任・任期・登記は会社法の話で、役員変更の登記は司法書士の領域です。また、役員報酬の額は社会保険料(標準報酬月額)にも直結しますが、社会保険の手続・適用は社会保険労務士と年金事務所の領域です。この記事では法人税の取扱いだけを扱っています。

まとめ

  • 損金になる役員給与は3類型。中小同族会社の実質的な選択肢は定期同額給与と事前確定届出給与
  • 改定期限は会計期間開始の日から3か月を経過する日まで。1年に1回だけ
  • 手取額が同額でもよい
  • 期中の例外は2つ。臨時改定事由(増減とも可)と業績悪化改定事由(減額のみ)
  • 「一時的な資金繰り」「目標未達」は業績悪化改定事由ではない。国税庁の例は株主への経営責任・銀行とのリスケ協議・経営改善計画への織り込み
  • 過大役員給与は実質基準と形式基準のいずれか多い金額。★昔の議事録の限度額が生きていないか確認する
  • みなし役員は登記簿に載っていない。社長の家族への賞与は全額損金不算入になり得る
  • 同族会社の親族は、使用人兼務役員になれないことが多い(持株要件は本人1株でも該当しうる)
  • 家族への給与は勤務実態の記録が唯一の防御
  • 経済的利益も役員給与。定額なら定期同額給与、臨時なら損金不算入
この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税法34条(役員給与の損金不算入)/36条(過大な使用人給与の損金不算入)/2条15号(役員の定義)
  • 法人税法施行令7条(役員の範囲)/69条1項1号イ〜ハ(定期同額給与・臨時改定事由・業績悪化改定事由)/70条(過大な役員給与の額)/71条1項(使用人兼務役員とされない役員)/72条(特殊関係使用人)
  • 法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)/9-2-12の3(臨時改定事由)/9-2-13(業績悪化改定事由)/9-2-26(使用人兼務役員の使用人分賞与)
  • 国税庁「役員給与に関するQ&A」、タックスアンサー「役員に支給する給与」
  • 平成5年4月19日裁決、平成4年11月18日裁決、昭和46年7月17日裁決、長野地判平成21年3月10日
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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