役員賞与を経費にする唯一の方法──事前確定届出給与の期限は「決議から1か月」と「期首から4か月」の早いほう
「今期は利益が出たので、決算前に自分に賞与を出したい」
法人成りした社長からいちばん多い相談かもしれません。答えはできます。ただし条件が厳しく、しかも期限は決算のはるか前に締め切られています。
役員賞与を損金にする方法は、事前確定届出給与ただ一つです。
この記事の結論
- 届出期限は、①株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日と②会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日
- 新設法人は「設立の日以後2か月を経過する日」という別枠
- ★判定単位は職務執行期間(定時株主総会から次の定時株主総会まで)。その期間中の支給が1回でも定めどおりでないと、支給額の全額が損金不算入
- ★ただし例外あり。当期は定めどおり、翌事業年度に定めどおりでなかった場合は、翌事業年度に支給した額のみが損金不算入
- 届出をしても、支給しないという選択はできる(支給ゼロなら損金もゼロで終わる)
- 同族会社以外の法人の一部には届出不要の例外があるが、中小同族会社には使えない
1. なぜ届出が要るのか
法人税法34条1項が損金算入を認める役員給与は3類型で、そのうちあらかじめ確定した額を所定の時期に支給するものが事前確定届出給与です。
役員賞与を自由に出せてしまうと、期末に利益を見てから金額を決めることで、法人の所得を自在に調整できてしまいます。そこで「払う前に、いくらをいつ払うか税務署に届け出ておくこと」を条件にしました。
だから届出期限は、利益が見えるより前に設定されています。
2. 届出期限──2つの日付の早いほう
期限は次の①と②のうち、いずれか早い日です。
| 期限 | |
|---|---|
| ① | 株主総会等の決議をした日(その日が職務執行開始日の後であるときは職務執行開始日)から1か月を経過する日 |
| ② | その会計期間開始の日から4か月を経過する日(申告期限の延長の指定を受けている法人は指定月数+3か月) |
新設法人は別枠で、「その設立の日以後2か月を経過する日」です。
3月決算の会社の例
- 定時株主総会が6月25日 → ①は7月25日、②は7月31日 → 早いほうの7月25日が期限
- 定時株主総会が5月20日 → ①は6月20日、②は7月31日 → 6月20日が期限
★実務では①のほうが先に来ることが多いので、「期首から4か月」だけを覚えていると落とします。総会が終わったら1か月以内、と覚えるほうが安全です。
変更の届出
いったん届け出た内容を変える場合の期限もあります。
| 事由 | 期限 |
|---|---|
| 臨時改定事由 | その事由が生じた日から1か月を経過する日 |
| 業績悪化改定事由(減額のみ) | 変更の決議をした日から1か月を経過する日(変更前の定めによる支給日がそれより先に到来するなら、その支給日の前日) |
3. ★いちばん怖いのは「1円でもズレたら全額アウト」
ここが実務で最も誤解されているところです。
国税庁の質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定」によると、
- 判定単位は、職務執行期間(定時株主総会から次の定時株主総会まで)を一つの単位とする
- その職務執行期間中に複数回の支給がある場合、そのすべてが定めどおりでなければ、支給額の全額が事前確定届出給与に該当せず損金不算入になる
具体例
届出が「6月に200万円、12月に100万円(合計300万円)」だったとします。
| 実際の支給 | 損金不算入額 |
|---|---|
| 6月200万円・12月100万円(定めどおり) | 0円 |
| 6月200万円・12月50万円(12月がズレた) | ★300万円全額 |
| 6月200万円・12月支給せず | ★200万円(後述) |
12月の100万円だけが損金不算入になるのではありません。6月に正しく払った200万円まで巻き込まれて、300万円全額が損金不算入になります。
「資金繰りが厳しくなったので12月は半額にしよう」という判断が、6月分の200万円まで道連れにするわけです。
★救済になる例外が1つあります
当期は定めどおり支給し、翌事業年度に定めどおり支給しなかった場合は、直前事業年度の課税所得に影響しないため、翌事業年度に支給した額のみを損金不算入として差し支えない、とされています。
事業年度をまたぐケースでは、前の期まで巻き戻されることはありません。
支給しないという選択はできます
「全額アウト」の話と混同されがちですが、届出をしたうえで、まったく支給しないという選択は可能です。支給がなければ、そもそも損金にする金額がありません。所得への影響はゼロです。
つまり実務の作法は、
迷ったら届け出ておく。払える状況になったら定めどおりに払う。無理なら「1円も払わない」。
いちばん危ないのは「減らして払う」。
4. もう一つ、知られていない救済
★届出期限までに届出がなくても、やむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、期限内の届出とみなすことができるという規定があります(法人税法施行令69条7項)。
ただし「うっかり忘れた」で通るものではありません。期限を守ることが前提で、これは最後の非常口だと考えてください。
5. 「届出不要」の例外は、中小同族会社には使えません
条文には、同族会社以外の法人が、定期給与を支給しない役員に支給する金銭給与は届出不要という例外があります(法人税法34条1項2号イ)。
★裏を返せば、中小同族会社にこの例外は使えません。「非常勤役員だから届出は要らない」という説明を見かけますが、それは同族会社以外の法人の話です。
6. 使いどころ──社会保険料との関係
事前確定届出給与を使う実務上の理由として、社会保険料の負担を挙げる説明があります。月々の報酬を抑えて賞与に寄せると、標準報酬月額と賞与の保険料の計算方法の違いから、負担が変わることがあるためです。
ただしこれは、税金の話ではなく社会保険の話です。
📌 範囲注記
社会保険の適用・標準報酬月額の決定・賞与支払届は、年金事務所と社会保険労務士の領域です。保険料の設計を目的にする場合は、将来の年金額や傷病手当金・出産手当金の給付額にも影響します。この記事は法人税の取扱いだけを扱っており、社会保険料の有利不利を判断するものではありません。
税務の側から言えるのは、届出と支給を1円単位で合わせること、そして「賞与が出せる資金があるかどうか」を先に確認することの2点です。
7. 決算前の駆け込みには使えません
事前確定届出給与の期限は、期首から数か月以内です。したがって、
決算が近づいてから「利益が出たので役員賞与を出そう」ということはできません。
決算前にできることと、期首にしかできないことは、はっきり分かれています。この構造は 決算で税金を動かせるのは「決算まで」 にまとめました。役員報酬(定期同額給与)の改定期限も期首から3か月なので、期首の3〜4か月が、役員給与について決められるすべての期間ということになります。あわせて 役員報酬を変えていいのは1年に1回 をご覧ください。
まとめ
- 役員賞与を損金にできるのは事前確定届出給与だけ
- 届出期限は、①決議から1か月と②期首から4か月の早いほう。★実務では①が先に来ることが多い
- 新設法人は設立の日以後2か月を経過する日
- ★判定単位は職務執行期間。1回でも定めどおりでないと支給額の全額が損金不算入
- ★例外:当期は定めどおり、翌事業年度が定めどおりでない場合は、翌事業年度に支給した額のみ
- まったく支給しないのはOK。減らして払うのがいちばん危ない
- 変更届出は、臨時改定事由なら事由発生から1か月、業績悪化改定事由(減額のみ)なら決議から1か月
- 期限徒過の宥恕規定はあるが、あてにしない
- ★「定期給与を支給しない役員は届出不要」は同族会社以外の話。中小同族会社には使えない
- 決算前の駆け込みには使えない
- 法人税法34条1項2号(事前確定届出給与)
- 法人税法施行令69条2項・3項・4項1号(届出期限)/69条5項(変更の届出)/69条7項(宥恕規定)
- 法人税基本通達9-2-14(事前確定届出給与の意義)
- 国税庁 質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定について」、タックスアンサー「役員に支給する給与」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です。社会保険料の取扱いは本記事の対象外です
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👉 法人成り1年目の社長へ|決算から申告までの全体マップ
👉 初めて人を雇うときの手続き一覧
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