役員社宅の家賃、いくら会社に払えば給与課税されないか──99㎡・132㎡・240㎡の3つの線
個人事業のときは、自宅の家賃を家事按分して一部だけ経費にしていたはずです。3割なり4割なり、事業に使っている割合を決めて、その分だけ落とす。
法人になると、この論点はまるごと別の制度に置き換わります。会社が住宅を借り(または持ち)、それを社長に貸す。社長は会社に一定額の家賃を払う。差額は給与課税されない──これが役員社宅です。
ただし「一定額」がいくらなのかを間違えると、差額の全部が役員給与になります。定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらなければ、会社では損金にならず、社長個人には所得税がかかるという最悪の形になります。
この記事の結論
- 判定は床面積から入る。法定耐用年数30年以下なら132㎡以下、30年超なら99㎡以下が「小規模な住宅等」
- 小規模なら、月額の賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額から計算する。時価ではないので、相場家賃よりかなり安くなる
- ★小規模でない住宅では、役員は賃貸料相当額の全額を払う必要がある。「50%でいい」は使用人の社宅の話で、役員には使えない
- 240㎡超は豪華社宅。時価で徴収しないと課税される
- ★現金の住宅手当と、本人名義の賃貸借契約は、社宅ではない。どちらも全額が給与課税
1. なぜ社宅は効くのか──「時価」ではなく「固定資産税の課税標準額」で計算するから
役員社宅の家賃は、その物件の相場家賃を基準にしません。固定資産税の課税標準額を基準にした算式で計算します。
固定資産税の課税標準額は、土地なら公示価格の7割程度の評価額をもとに、住宅用地ならさらに6分の1・3分の1という特例で圧縮された金額です。時価とは桁が違う世界の数字です。
その結果、家賃相場15万円の物件でも、算式で出てくる賃貸料相当額は月5万円前後ということが普通に起きます。会社が15万円払い、社長が5万円を会社に払う。差額10万円は給与課税されない、というのが役員社宅の効きどころです。
個人事業の家事按分と比べると、性質が違うことがわかります。
| 個人事業(家事按分) | 法人(役員社宅) | |
|---|---|---|
| 何を経費にするか | 支払家賃のうち事業使用割合だけ | 会社が払う家賃の全額(法人の損金) |
| 個人側の課税 | ─ | 賃貸料相当額を払っていれば課税なし |
| 割合の根拠 | 面積・時間などで自分で決める | ★算式が決まっている |
| 名義 | 本人 | ★会社でなければならない |
按分割合を自分で決める世界と、算式で一意に決まる世界。法人のほうが、争いになる余地が小さいという言い方もできます。家事按分の考え方そのものは 家事按分の割合をゼロから決める手順 にまとめています。
2. 最初に見るのは床面積──99㎡と132㎡
社宅の計算は3つの区分に分かれ、どれに当たるかで算式がまるごと変わります。入口は床面積です。
| 区分 | 判定 |
|---|---|
| 小規模な住宅等 | 法定耐用年数が30年以下の建物 → 床面積132㎡以下 法定耐用年数が30年超の建物 → 床面積99㎡以下 |
| 小規模でない住宅 | 上記を超え、240㎡以下のもの |
| 豪華社宅 | 床面積240㎡超で、取得価額・支払賃貸料・内外装の状況等を総合勘案して判定 240㎡以下でも、プールなど役員個人の嗜好を著しく反映した設備があれば該当 |
★「木造なら132㎡、マンションなら99㎡」と覚えている人が多いのですが、正確には法定耐用年数で切ります。住宅用建物の法定耐用年数は、木造22年・軽量鉄骨(骨格材3mm超4mm以下)27年・重量鉄骨34年・鉄筋コンクリート47年です。つまり木造と軽量鉄骨は132㎡、重量鉄骨とRC・SRCは99㎡という対応になります。
★区分所有のマンションは、共用部分の床面積を按分して加えたところで判定します。専有面積が95㎡だから99㎡以下、とは限りません。管理規約や登記事項証明書で共用部分の持分を確認してください。
3. 小規模な住宅等の算式と計算例
小規模な住宅等に当たれば、いちばん有利な算式が使えます。法人が所有していても、他から借り上げていても、同じ算式です。
月額の賃貸料相当額 =
① その年度の家屋の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
+ ② 12円 × その建物の総床面積(㎡)÷ 3.3㎡
+ ③ その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
計算例
- 総床面積 90㎡ の鉄筋コンクリート造(法定耐用年数47年=30年超なので、99㎡以下で小規模)
- 家屋の固定資産税の課税標準額 800万円
- 敷地の固定資産税の課税標準額 1,500万円
| 計算 | 金額 | |
|---|---|---|
| ① | 800万円 × 0.2% | 16,000円 |
| ② | 12円 × (90 ÷ 3.3) | 327円 |
| ③ | 1,500万円 × 0.22% | 33,000円 |
| 合計 | 月 49,327円 |
社長がこの49,327円を会社に払っていれば、給与課税はありません。会社が家主に払う家賃が月15万円だったとしても、差額の10万円あまりは課税されないということです。
★②の「総床面積」は、その建物全体の床面積です。社長が住んでいる部屋の面積ではありません。1棟のアパートを会社が持っていて社長が1室に住むなら、②は建物全体で計算します。ここを部屋の面積で計算すると、賃貸料相当額が過少になります。
固定資産税の課税標準額はどこで調べるか
- 自社所有なら、毎年届く固定資産税の課税明細書に載っています。
- 借上げの場合は貸主の情報なので、原則としては貸主に確認します。ただし賃借人も、その物件について自治体で固定資産課税台帳の記載事項の証明書を取れることになっています(地方税法382条の3)。賃貸借契約書などの提示を求められるので、事前に自治体の窓口に確認してください。
★課税標準額は毎年見直され、3年に一度の評価替えで動きます。一度計算したら終わりではなく、評価替えの年には計算をやり直すのが本来です。
4. 小規模でないとき──役員は「全額」を払う
床面積が132㎡(または99㎡)を超えると、算式が変わります。そして、ここに最も多い誤解があります。
| 区分 | 月額の賃貸料相当額 |
|---|---|
| 自社所有 | (家屋の固定資産税の課税標準額 × 12%〔法定耐用年数30年超の建物は 10%〕 + 敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%)÷ 12 |
| 借上げ | 上の算式で計算した額と、会社が家主に支払う家賃の50%の、いずれか多い金額 |
★「賃貸料相当額の50%以上を払っていればいい」というのは、使用人の社宅の話です。役員には使えません。役員は賃貸料相当額の全額を会社に払う必要があり、足りない分は差額が給与課税されます。無償なら全額が給与です。
借上げのところに出てくる「支払家賃の50%」も、役員の負担を半分に割り引くルールではありません。算式で出た金額と比べて高いほうを賃貸料相当額とする、という下限を定めるルールです。方向が逆なので注意してください。
例えば、会社が月30万円で借りている住宅(小規模でない)について、算式で計算した額が月8万円だったとします。このとき賃貸料相当額は、8万円と15万円(30万円の50%)のうち多いほうの15万円です。社長は月15万円を会社に払う必要があります。
★この差が、社宅を選ぶときの実務上の分かれ目になります。同じ家賃帯でも、99㎡以下(または132㎡以下)に収まるかどうかで、社長が会社に払う金額が数倍変わります。物件を選ぶ段階で床面積を見ておく価値があるのは、このためです。
5. 240㎡超の豪華社宅は、時価で徴収する
床面積240㎡超で、取得価額・支払賃貸料・内外装の状況等を総合勘案して豪華と判定されるものは、算式の世界から外れます。時価(実勢価額)で徴収しなければなりません。
★240㎡以下でも、プールなど役員個人の嗜好を著しく反映した設備がある場合は豪華社宅に当たります。面積だけの線引きではありません。
豪華社宅と判定されると、会社が払う家賃と社長が払う額の差額はそのまま給与になります。役員給与として定期同額給与に該当すれば損金にはなりますが、社長個人の所得税と住民税、そして社会保険料の対象になるので、社宅の意味はほぼ失われます。
6. 従業員の社宅は「50%以上」でよい
役員と使用人で扱いが違うところなので、あわせて押さえておきます。
使用人(従業員)の社宅は、小規模な住宅等の算式で計算した賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、差額は給与課税されません。床面積の区分もありません。
| 賃貸料相当額の計算 | いくら徴収すれば課税なしか | |
|---|---|---|
| 役員 | 小規模/小規模でない/豪華の3区分 | ★全額 |
| 使用人 | 小規模住宅等の算式 | 50%以上 |
つまり、賃貸料相当額が月10,000円なら、従業員は6,000円払えば残り4,000円は課税されません。
★社宅規程は、役員と使用人で負担割合を書き分けます。全員一律で「賃貸料相当額の50%」と書いてしまうと、役員分について毎月差額が給与課税されることになります。
★特定の役員・従業員だけに社宅を用意すること自体は問題ありませんが、社内の制度として規程に落としておくほうが説明はしやすくなります。なお、就業規則や賃金規程との整合、社会保険の取扱いは社会保険労務士の領域です。
7. これをやると、制度そのものが使えません
社宅で否認される事例の多くは、算式の計算ミスではなく、そもそも「社宅の貸与」になっていないというものです。
★現金で払う住宅手当は、社宅ではありません
「家賃補助として月8万円支給」は、名目が何であれ給与です。社宅の制度は「会社が住宅を貸す」ことが前提なので、現金を渡した時点で対象外になります。
★本人名義の賃貸借契約も、社宅ではありません
社長が自分で大家と契約している物件について、会社が家賃を負担しているだけ、という形はよくあります。これも社宅の貸与ではなく、社長個人の債務を会社が肩代わりしているという整理になり、負担額の全額が給与課税されます。
契約名義を会社にしておくことが要件です。すでに個人名義で借りている物件を社宅に切り替えるなら、貸主の承諾を得て契約を巻き直す必要があります。貸主が法人契約を嫌がるケースもあるので、切り替えは家賃の見直し時期に合わせるのが現実的です。
★水道光熱費まで会社が払うと、そこは給与になります
社宅の家賃は上の算式で整理できますが、社長個人の水道光熱費を会社が負担すれば、それは経済的利益=給与です。毎月ほぼ定額なら定期同額給与として損金にはなりますが、社長個人には給与課税されます。メーターを分けるか、社長の個人負担にするのが基本です。
8. 社宅以外にも、「現物で渡しているもの」は給与になります
社宅は経済的利益の代表例にすぎません。法人税基本通達9-2-9は、役員に対する経済的利益を12の類型で例示しています。実務でよく出てくるのは次のようなものです。
- 毎月定額の渡切交際費
- 会社からの低利(または無利息)の金銭貸付けの利息相当額
- 個人的な水道光熱費・家事費の法人負担
- 社宅の低額貸与
扱いは2つに分かれます。
| 性質 | 別表四での扱い |
|---|---|
| 定額または恒常的にほぼ定額(毎月定額の渡切交際費、低利貸付けの利息相当額、個人的な水道光熱費の法人負担など) | 定期同額給与として損金になる(ただし個人には給与課税) |
| 臨時的・一時的(役員が個人的に使う資産の購入費用を法人が負担した、など) | 事前確定届出給与・業績連動給与に当たらない限り損金不算入 |
★「損金になるかどうか」と「個人に課税されるかどうか」は別の話です。定期同額給与として損金になっても、社長の給与所得が増えることに変わりはありません。社会保険料も上がります。役員報酬の考え方そのものは 役員報酬を変えていいのは1年に1回、それも期首から3か月まで を先に読んでください。
9. 現場でやること
- 床面積を確認する。登記事項証明書と、区分所有なら共用部分の按分。まず99㎡か132㎡かを決める
- 法定耐用年数を確認する。構造(木造・軽量鉄骨・重量鉄骨・RC)で30年以下か30年超かが決まる
- 固定資産税の課税標準額を集める。自社所有なら課税明細書、借上げなら貸主または自治体の証明書
- 算式で月額を出し、社長の給与から天引きするか、口座振替にする。払っていない月をつくらない
- 契約名義が会社になっているかを確認する。個人名義なら巻き直す
- 社宅規程を作り、役員と使用人の負担割合を書き分ける
- 3年に一度の評価替えのタイミングで計算をやり直す
★いちばん多い失敗は、金額を決めたあと「払うのを忘れる」ことです。給与から天引きする形にしておけば、毎月の処理で自動的に残ります。会社側は受取家賃(雑収入)として計上します。
まとめ
- 役員社宅の家賃は時価ではなく固定資産税の課税標準額から計算する。だから相場家賃よりかなり安くなる
- 入口は床面積。法定耐用年数30年以下→132㎡以下/30年超→99㎡以下が小規模な住宅等
- 小規模の算式は 家屋の課税標準額×0.2% + 12円×総床面積/3.3 + 敷地の課税標準額×0.22%
- ②の総床面積は建物全体。部屋の面積ではない
- ★小規模でないときは、役員は賃貸料相当額の全額を払う。「50%以上でよい」は使用人の話
- 借上げの「支払家賃の50%」は割引ではなく、下限を決めるルール
- 240㎡超は豪華社宅で時価。240㎡以下でもプール等があれば該当
- ★現金の住宅手当・本人名義の契約は社宅ではない。全額が給与課税
- 社宅は経済的利益の一例。定額なら定期同額給与として損金、臨時的なら損金不算入。ただしどちらも個人には課税される
- 所得税基本通達36-40(役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算)/36-41(小規模住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算)/36-47(使用人に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算)
- 法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)
- 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- 地方税法382条の3(固定資産課税台帳に記載をされている事項の証明書の交付)
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一(建物の法定耐用年数)
- 国税庁タックスアンサー No.2600(役員に社宅などを貸したとき)/No.2597(使用人に社宅や寮などを貸したとき)
- ※2026年時点の制度に基づく記事です。固定資産税の課税標準額は3年に一度の評価替えで変わります
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