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更新日 2026-08-07 節税・経費

社長個人の支出を、どこまで会社に寄せられるか──住居・車・旅行・服・食事・装飾品・自己投資の7項目

法人節税の話でいちばん語られるのが、これです。「社長個人の生活費を、会社の経費にする」。

結論から言うと、寄せられるものと寄せられないものは、かなりはっきり分かれています。そして寄せられるものにも、ほぼ例外なく「形を整えていること」が条件として付きます。

ここでは代表的な7項目を、通る/条件つき/通らない、で並べます。

この記事の結論

  • 寄せられる:住居(社宅)・自動車(社用車)・自己投資(職務に直接必要なもの)
  • 条件つき:旅行(視察・出張)・食事(補助と会議費の枠内)
  • ほぼ寄せられない:服・装飾品
  • 共通の条件は3つ。契約や名義が会社であること/規程などの形があること/実態の記録があること
  • 失敗のほとんどは金額のミスではなく、そもそも制度に乗っていない(本人名義、現金支給、記録なし)
  • 寄せられなかった分は消えるのではなく、役員給与になる。会社では損金にならず個人には課税、という最悪の形になりうる

1. 住居 ── 寄せられる(社宅にすれば)

自宅の家賃は、法人でいちばん効く項目です。会社が住宅を借りて社長に貸し、社長は会社に賃貸料相当額を払う。この金額は時価ではなく固定資産税の課税標準額から計算するので、相場家賃よりかなり安くなります。差額は給与課税されません。

家賃15万円の物件で、社長が会社に払うのが月5万円というのは普通に起きます。個人事業の家事按分(3割・4割)とは効き方が違います。

条件は「会社名義の賃貸借契約であること」。社長個人が借りている物件の家賃を会社が払っているだけ、という形は社宅ではありません。全額が給与課税されます。現金の住宅手当も同じです。

床面積の判定(99㎡・132㎡・240㎡)と計算式は 役員社宅の家賃、いくら会社に払えば給与課税されないか にまとめました。

2. 自動車 ── 寄せられる(社用車にすれば)

車両本体(減価償却費)、ガソリン、保険、車検、駐車場、自動車税。会社名義で取得し、業務に使っていれば損金です。

個人事業では走行距離や使用日数で按分していましたが(仕事とプライベート兼用の車、どこまで経費?)、法人では会社の資産として持ち、私的利用がある場合にその部分を給与課税する、という組み立てになります。

押さえておくことが3つあります。

  • 名義は会社。個人名義のまま経費だけ会社で落とすのは通りません
  • 私的利用が主なら給与課税。通勤と業務にほとんど使っていない高級車は、経済的利益として給与になり得ます。運行記録を残すのが実務です
  • 高額でも「業務に使っていれば」損金になり得る。車種や価格だけで否認されるわけではありません。ただし業務上の必要性を説明できることが前提です

中古車の耐用年数の話(いわゆる「4年落ち」)は 中古の車・機材を買ったとき耐用年数はどうなる? を読んでください。法人は定率法が法定なので、個人事業とは効き方が違います。

3. 旅行 ── 条件つき(業務の遂行上必要な部分だけ)

「視察旅行にして経費で落とす」は、条件が細かく決まっています。法人税基本通達9-7-6以下が海外渡航費の扱いを定めていて、考え方は国内旅行にも通じます。

通達 内容
9-7-6 業務の遂行上必要で、通常必要と認められる部分に限り旅費。超える部分は原則として役員・使用人への給与
9-7-7 業務上必要かどうかは目的・旅行先・経路・期間を総合勘案。観光渡航の許可を得て行う旅行/旅行業者の団体旅行/主として観光目的の同業者団体の団体旅行は、原則として該当しない
9-7-8 親族や業務に常時従事していない者を同伴した費用は、その役員への給与。例外は身体障害の補佐人、国際会議への配偶者同伴、通訳や専門家の同伴
9-7-9 業務の旅行と業務でない旅行を併せて行ったときは期間の比等で按分。ただし直接の動機が商談等なら、往復の旅費は業務分として先に控除してから按分する

要するに、「旅行に行ったついでに取引先に寄る」は通らず、「取引先との商談のために行き、ついでに観光した」は往復分が通るということです。順番が結果を変えます。

残すべき記録は、旅程表、訪問先と面談者、商談や視察の報告書、現地で撮った資料。旅行後に作るのではなく、行く前に目的を書いておくのが確実です。

4. 服 ── ほぼ寄せられない

スーツも、バッグも、靴も、原則として経費になりません。法人でも同じです。

所得税基本通達9-8は、非課税になる制服等を「専ら勤務場所のみにおいて着用する事務服、作業服等」としています。つまり私生活で使えないものだけです。制服、作業服、白衣、店舗の統一ユニフォームは通ります。

「客先に着ていくスーツは仕事のためだ」は、事業に必要であると同時に私生活でも着られるので、按分の物差しがありません。個人事業でも法人でも結論は同じです(スーツ・服・美容代は経費になる?)。

会社が買って役員に渡せば、その金額が役員給与になります。定期同額給与に当たらなければ損金にもなりません。

5. 食事 ── 条件つき(枠が3つある)

食事は「全部ダメ」でも「全部OK」でもなく、3つの枠のどれかに入るかどうかで決まります。

条件 上限
食事の支給(福利厚生) 本人が価額の半分以上を負担し、会社負担が月7,500円以下(消費税抜き) 月7,500円
残業・宿日直の食事 残業または宿日直を行うときに支給するもの 無料で支給しても課税されない
会議費・交際費 取引先等との飲食。1人あたり1万円以下なら交際費から除外できる(令和6年4月1日以後の支出) 制度上の枠

ここは制度が変わったところです。食事の支給の非課税枠は月3,500円ではなく7,500円になっています(令和8年4月時点の国税庁タックスアンサーで確認)。古い解説が残っているので注意してください。

そして社長が1人で食べる昼食は、どの枠にも入りません。会社が払えば給与です。交際費は相手がいる支出であって、社内飲食費は1万円基準の対象外です(交際費か、会議費か、福利厚生費か)。

6. 装飾品・美術品 ── ほぼ寄せられない(ただし例外の入口がある)

時計、宝飾品、ブランド品。これらは事業への供用が説明できません。会社の資金で買えば、原則として役員給与です。

一方で美術品には、減価償却資産になるかどうかの明確な線があります。法人税基本通達7-1-1は、取得価額が1点100万円未満の美術品等を原則として減価償却資産として扱うとしています(平成27年1月1日以後の取得)。100万円以上でも、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」は減価償却資産です。

つまり応接室や店舗に飾る100万円未満の絵画は、器具備品として償却できます。ただしこれは「事業の用に供している」ことが前提で、社長の自宅に置いてあるものは対象になりません。

7. 自己投資 ── 寄せられる(職務に直接必要なら)

ここは法人がはっきり有利になる項目です。

所得税基本通達36-29の2は、会社が業務の遂行上の必要に基づき、役員または使用人に職務に直接必要な技術・知識を習得させ、または免許・資格を取得させるための研修会・講習会の出席費用や大学等の聴講費用として支給する金品を、適正なものに限り課税しないとしています。

個人事業では「いま持っている資格の維持は経費、新しい資格の取得は経費にならない」という線が強く出ていました(資格取得費・セミナー代・書籍代は経費になる?)。法人の場合は「職務に直接必要か」で判定するので、線の引かれ方が違います。

とはいえ、社長個人の趣味的な学びは通りません。判断の材料は次の3つです。

  • 職務との直接の関連。その知識・資格がないと業務が回らないか
  • 金額の適正さ。相場からかけ離れていないか
  • 社内の扱い。他の役員・従業員にも同じ機会があるか(役員だけの制度は指摘されやすい)

8. 7項目の一覧

項目 寄せられるか 条件 外したときどうなるか
住居 会社名義の賃貸借契約+賃貸料相当額の徴収 全額が役員給与
自動車 会社名義+業務利用の実態と記録 私的利用部分が経済的利益=給与
旅行 業務の遂行上必要な部分のみ。同伴者分は不可 業務外部分が給与
× 専ら勤務場所でのみ着る制服・作業服なら可 給与
食事 半額負担+月7,500円以内/残業食事/会議費・交際費 給与
装飾品 × 美術品は1点100万円未満なら償却できる(事業供用が前提) 給与
自己投資 職務に直接必要な技術・知識・資格 給与

9. 共通する3つの条件

7項目を並べると、通るものには共通点があります。

  1. 契約・名義が会社になっていること。社宅も社用車も、ここで決まります
  2. 形(規程・議事録・稟議)があること。旅費規程、社宅規程、研修規程。制度として存在していることが説明になります
  3. 実態の記録があること。運行記録、出張報告書、旅程と面談先。あとから作るのではなく、その場で残す

失敗の大半は、金額の計算ミスではありません。そもそも制度に乗っていないのです。個人名義の契約、現金の手当、記録のない支出。この3つが揃うと、金額をいくら精密に計算しても意味がありません。

10. 外したときのコストは二重になる

寄せられなかった支出は、単に「経費にならない」だけでは終わりません。役員給与になります。

  • 定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらなければ、会社では損金不算入
  • 同時に、社長個人には所得税・住民税
  • さらに社会保険料の対象にもなり得ます
  • 源泉徴収漏れがあれば、不納付加算税と延滞税

会社と個人の両方で課税される形になるので、「ダメ元でやってみる」の代償は思ったより大きくなります。線を引いてから使ってください。

まとめ

  • 寄せられる=住居(社宅)・自動車(社用車)・自己投資(職務に直接必要なもの)
  • 条件つき=旅行(業務の遂行上必要な部分のみ・同伴者は不可)・食事(月7,500円の枠/残業食事/会議費)
  • ほぼ無理=服・装飾品。美術品は1点100万円未満なら償却できる
  • 食事の非課税枠は月7,500円(3,500円は古い数字)
  • 旅行は「商談のついでに観光」なら往復分が通り、「観光のついでに商談」は通らない
  • 通る条件は会社名義・形(規程)・実態の記録の3つ
  • 外すと役員給与。会社で損金にならず、個人に課税という二重の損になる

この記事の主な根拠(出典)

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