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更新日 2026-08-05 法人の決算と申告

決算対策には4つの型しかない──「即時償却で全額落ちた」は節税ではありません

決算前に「何か節税策はありませんか」と聞かれたとき、私が最初にやるのは打ち手を4つの箱に仕分けることです。

世の中で「節税」と呼ばれているものは、中身がまるで違うものの寄せ集めになっています。税額の総額が本当に減るものと、払う時期がずれるだけのものが、同じ言葉で語られている。ここを分けないまま「今期は500万円分の対策をしました」と言っても、意味のある会話になりません。

この記事の結論

  • 決算で税額を動かす手段は、①課税の繰延べ ②税額控除 ③所得区分の転換 ④期ズレの正常化の4つに分類できる
  • 税額の総額が本当に減るのは②だけ。①はタイミングを動かすだけで、翌期以降に戻ってくる
  • 「即時償却で全額落ちた」は①。利益が平準化している会社ほど、①の効果は薄い
  • もう1本の軸は「現金が出ていくか」。①は現金が先に出る。④は現金が出ないのに所得が下がる
  • だから着手する順番は④→②→①。③は出口の設計であって、決算期の打ち手ではない
  • 税額控除には調整前法人税額の20%という天井がある。赤字の年は使えない
  • ★否認されたら失敗。役員報酬・退職金の「不相当に高額」で崩れると、設計そのものが飛ぶ

1. 4つの型

何をしているか 税額の総額 代表例
① 課税の繰延べ 損金の前倒し・益金の後ろ倒し。タイミングを動かすだけ 変わらない 特別償却、即時償却、少額減価償却資産の特例、経営セーフティ共済、決算賞与
② 税額控除 法人税額から直接引く。払わずに済む 減る 賃上げ促進税制、投資促進税制・経営強化税制の税額控除、研究開発税制
③ 所得区分の転換 課税の重い所得から、軽い所得へ移す 減ることがある 役員退職金(給与所得→退職所得)
④ 期ズレの正常化 そもそも間違えていたものを直す 本来の額に戻る 前払費用の抜き出し、貯蔵品の計上、償却不足の解消、未払費用の計上

この4つ以外の「打ち手」を、私はまだ見たことがありません。新しい商品や手法が出てきても、分解すればこのどれかに落ちます。

2. ①と②を混同しないこと

中小企業の決算で、いちばん高くつく取り違えがこれです。

「即時償却で全額落ちました」は、節税ではありません。

300万円の機械を即時償却したとします。当期の損金は300万円増えます。しかし翌期以降、この機械からは1円も償却費が出ません。通常の償却なら5年に分けて計上していたはずの300万円を、1年目に全部持ってきただけです。

通常の償却(5年) 即時償却
1年目の損金 60万円 300万円
2〜5年目の損金 各60万円 0円
5年間の損金の合計 300万円 300万円

5年間で見れば、損金の合計は同じです。動いたのは順番だけです。

これが効くのは、利益の山と谷がある会社です。今期だけ大きく利益が出て、来期は落ち着く見込みなら、高い税率がかかる年の所得を下げる意味があります。逆に、毎年だいたい同じ利益が出ている会社では、初年度に前倒しした分だけ翌期の税額が上がるので、通算するとほぼ効果がありません。

一方、②の税額控除は取ったら取りっぱなしです。翌期以降に返す必要がありません。同じ300万円の設備でも、税額控除7%(21万円)は永久に会社に残ります。

だから、設備投資で制度を選ぶときは「特別償却か、税額控除か」が最初の分岐になります。この選択は設備投資で使える2つの制度で扱います。

3. もう1本の軸──現金が出ていくか

型の分類だけでは決められません。現金が出ていくかどうかを重ねると、打ち手の優先順位が見えてきます。

現金が出ていく 現金が出ていかない
税額が本当に減る 賃上げ促進税制(人件費は出る)、設備の税額控除
税額の繰延べ・正常化 設備投資、決算賞与、経営セーフティ共済、保険料 ④前払費用の抜き出し、貯蔵品の計上、償却不足の解消、未払費用の計上

右下の箱、つまり④期ズレの正常化には、現金の支出がありません。そもそも計上すべきだったものを計上するだけだからです。

  • 期末までに役務の提供を受けているのに、請求書が翌月だから計上していない経費(→未払費用)
  • 前期に年払いした保険料・家賃のうち、翌期分がそのまま費用に残っている(→前払費用の抜き出し。これは所得が上がる方向)
  • 期末に残っている切手・収入印紙・消耗品(→貯蔵品)
  • 固定資産台帳と突き合わせていないための償却不足

決算対策は、ここから始めるのが筋です。現金を1円も使わずに、正しい数字に近づきます。しかも④の作業をすると、そもそも着地見込みの利益が変わることが多い。着地が変われば、①や②に使うべき金額も変わります。

順番としては、④で数字を確定させる → ②で使える税額控除がないか探す → ①をいくら使うか決める、になります。

4. ②税額控除には天井がある

「税額控除は取りっぱなしだから最強」と書きましたが、上限があります。

  • 中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の税額控除は、2つ合計で調整前法人税額の20%が上限(控除しきれない分は1年間の繰越し)
  • 賃上げ促進税制も、調整前法人税額の20%が上限(中小企業向けは控除しきれない分を5年間繰越し)

そして、いちばん見落とされるのがこれです。

赤字の年は、税額控除に意味がありません。引くべき法人税額がないからです。繰越しの制度はありますが、繰越期間内に黒字にならなければそのまま消えます。

赤字の年にやるべきなのは④と、欠損金の繰越し・繰戻し還付の判断です。

5. ③所得区分の転換は、決算期の打ち手ではない

③の代表は役員退職金です。同じ会社から同じ人に出す金銭でも、給与として出すか退職金として出すかで、受け取る側の税負担がまったく違います(退職所得は勤続年数に応じた控除があり、原則として2分の1課税)。

ただし、これは決算月に思いついて実行できるものではありません。

  • 支給には株主総会の決議が要る
  • 分掌変更で払うなら、実質的に退職したと同様の事情が要る(→分掌変更の退職金
  • 金額が過大と判断されれば、超える部分は損金になりません(→功績倍率

③は「出口の設計」であって、決算対策の引き出しに入れておくものではありません。数年前から役員報酬の水準と在任期間を積み上げてきた結果として、使えるようになるものです。

6. やってはいけない線引き

節税の話をするとき、私が基準にしている一文があります。

税務否認を受け、それが争訟段階で確定したら、そのタックスプランニングは失敗である。

税額が減ったかどうかではなく、否認されなかったかどうかで判定する、ということです。この基準で見ると、危ないのは「制度の使い方」より「金額と実態」のほうだと分かります。

危ないところ 何が起きるか
役員報酬・役員退職金の「不相当に高額」 超える部分が損金不算入。★設計の前提が崩れる
事業の用に供していない設備の特別償却 供用年度が違うとして否認。→第2回
実態のない決算賞与 損金算入時期の要件を満たさない。→第24回
現物が残っている除却損 除却の事実がないとして否認

★とくに役員給与は、制度を使う前提そのものになっています。役員報酬を高くして所得を圧縮し、その前提で退職金の水準を組んでいたのに、報酬が過大と判断されれば全部やり直しです。役員報酬は1年に1回しか動かせないのも、同じ理由から来ています。

7. 期末までに終わらせないと使えないもの

①と②のほとんどは、期末までに事実が完成していることが要件です。決算が終わってから相談されても手遅れになります。

打ち手 期末までに要ること
設備投資(特別償却・税額控除) ①② 取得かつ事業供用。経営強化税制は計画認定が先
少額減価償却資産の特例 取得・事業供用・損金経理・明細書
経営セーフティ共済 加入と振込による前納
決算賞与 各人別・同時期の通知
不良債権の整理・除却 事実の完成
修繕の実施 ④に近い 工事の完了。修繕費には損金経理要件がなく、期をずらせない
短期前払費用 契約の年払い化と支払い

★1つだけ性格が違うのが修繕費です。修繕費には損金経理要件がないので、「今期は利益が出たから修繕費を計上しておこう」という調整ができません。工事が完了した期の損金になるだけです(→修繕費と資本的支出)。

打ち手を洗い出すタイミングは、期末3か月前の決算予測です。ここで着地見込みを出しておかないと、②の税額控除を取りに行く時間がありません。

まとめ

  • 決算対策は①繰延べ ②税額控除 ③所得区分の転換 ④期ズレの正常化の4つに分類できる
  • 税額の総額が本当に減るのは②だけ。①は順番を動かすだけで、5年で見れば損金の合計は同じ
  • 「即時償却で全額落ちた」は①。利益が平準化している会社ほど効果が薄い
  • ★もう1本の軸は現金が出ていくか。④は現金を使わずに数字が正しくなる
  • だから順番は④で着地を確定 → ②を探す → ①をいくら使うか決める
  • 税額控除は調整前法人税額の20%が天井。赤字の年は使えない
  • ③は出口の設計。決算月に思いついて実行できるものではない
  • ★判定基準は「税額が減ったか」ではなく「否認されなかったか
この記事の主な根拠(出典)

  • 法人税法31条(減価償却資産の償却費)/34条(役員給与の損金不算入)/57条(欠損金の繰越し)
  • 租税特別措置法42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)/42条の12の4(中小企業経営強化税制)/42条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)/67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)
  • 租税特別措置法66条の11(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
  • 法人税法施行令72条の3(使用人賞与の損金算入時期)/法人税基本通達7-8-1〜7-8-5(資本的支出と修繕費)
  • 国税庁タックスアンサー No.5433/No.5434/No.5350
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です。租税特別措置は適用期限と金額基準が繰り返し改正されているため、適用前に当年の内容をご確認ください

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