12万円のパソコンはその年に全額経費で落とせない?減価償却と少額減価償却資産の特例の使い分け
開業した年に、12万円のノートパソコンを買った。当然その年の経費だ。そう思って会計ソフトに「消耗品費 120,000円」と入れようとして、手が止まる。「あれ、10万円を超えると「減価償却」っているんだっけ?」
そのとおりです。取得価額が10万円以上のものは、原則その年に全額を経費にできず、数年に分けて経費化(減価償却)します。ただし個人事業主(青色)には、40万円未満なら全額その年に落とせる特例があります(2026年3月31日以前に買ったものは30万円未満)。問題は、10万・20万・40万という3つの線を、どう使い分ければ得なのか。ここを整理します。
この記事の結論
– 10万円未満……全額その年の経費(消耗品費)。減価償却は不要
– 10万円以上20万円未満……「一括償却資産」で3年均等償却も選べる(償却資産税がかからないメリット)
– 40万円未満……青色申告なら「少額減価償却資産の特例」で全額その年に経費化(年間合計300万円まで)
– 利益が出ている年は全額計上、赤字の年はあえて分けて償却——タイミングで有利不利が変わる
まず全体像:金額でルートが分かれる
同じ「備品を買った」でも、取得価額(税込・税抜は経理方式による)でルートが分かれます。
| 取得価額 | 使える方法 | ざっくり |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費で全額経費 | 迷わず全額。減価償却しない |
| 10万円以上20万円未満 | ①通常の減価償却/②一括償却資産(3年均等)/③少額特例(青色・全額) | 選択肢が3つ |
| 20万円以上40万円未満 | ①通常の減価償却/②少額特例(青色・全額) | 青色なら全額もOK |
| 40万円以上 | 通常の減価償却(耐用年数で分割) | 原則、分割一択 |
12万円のパソコンは、真ん中のゾーン。「全額その年に落とす(少額特例)」か「3年に分ける」か「耐用年数4年で分ける」かを選べる、ということです。
それぞれの方法をやさしく
① 通常の減価償却(耐用年数で分ける)
もっとも基本の方法。国が資産ごとに決めた「法定耐用年数」で、少しずつ経費にします。個人事業主は原則定額法(毎年同じ額)です。
- パソコン……法定耐用年数4年
- カメラ……5年
- 応接セット・事務机(金属製)……8〜15年
- 軽自動車……4年、普通自動車……6年
例:12万円のパソコンを1月に購入(耐用年数4年・定額法)→ 1年あたり3万円を4年かけて経費化。
② 一括償却資産(10万円以上20万円未満/3年均等)
20万円未満なら、耐用年数を無視して3年で均等に償却できます。12万円なら毎年4万円ずつ3年間。
このルートの隠れたメリットが「償却資産税(固定資産税の一種)の対象外」であること。通常の減価償却資産は、一定額を超えると翌年以降に償却資産税がかかりますが、一括償却資産はかかりません。
③ 少額減価償却資産の特例(40万円未満/全額その年に)
青色申告の個人事業主なら、取得価額40万円未満のものを買った年に全額経費にできます(租税特別措置法28条の2)。ただし年間の合計は300万円までです。40万円未満になったのは2026年(令和8年)4月1日以後に取得したものからで、3月31日以前に買ったものは30万円未満で判定します。
12万円のパソコンなら、これを使えばその年に12万円まるごと経費にできます。いちばんシンプルで、利益が出ている年には有力です。
「どれが得か」は「その年の利益」で決まる
ここが本題です。全額落とせる特例が常に得とは限りません。
利益がしっかり出ている年
→ 少額特例で全額その年に経費化。今年の税金を大きく減らせます。
赤字、または利益がごくわずかな年
→ 全額落としても、そもそも減らせる税金が少ない。むしろ耐用年数で分けて翌年以降に経費を残す方が、来年黒字化したときに効いてきます。
つまり、「今年の所得をどれだけ圧縮したいか」で選ぶのが正解です。開業初年度で赤字なら、あえて分割して「経費の貯金」を来年に回す、という戦略もあります。
見落としがちな2つの論点
中古で買った場合は耐用年数が短くなる
中古のパソコンや車は、法定耐用年数ではなく使用可能な残り年数を見積もります。簡便法では次のように計算します。
- 法定耐用年数の全部が過ぎた中古 → 法定耐用年数 × 20%
- 一部が過ぎた中古 → (法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20%(1年未満切捨て、2年未満は2年)
例:4年落ちのパソコン(法定4年)→ 4×0.2=0.8 → 2年(最低2年)。中古は償却が早く終わる=経費化が早い、と覚えておくと得です。
年の途中で買ったら「月割り」
通常の減価償却は、使い始めた月からの月割りです。10月に買って12月まで使ったなら、その年は3か月分だけです。
ただし一括償却資産(3年均等)と少額特例(全額)は月割り不要です。これも、年末に買った資産の扱いで差が出るポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q. 8万円のパソコンなら?
10万円未満なので、迷わず全額その年の消耗品費です。減価償却の話は出てきません。
Q. 「取得価額」は税込?税抜?
あなたの経理が税込経理なら税込、税抜経理なら税抜で10万・20万・40万を判定します。免税事業者は通常、税込で判定します。
Q. 少額特例(40万円未満・全額)は白色でも使える?
使えません。青色申告の中小事業者等が対象です。白色は原則、通常の減価償却になります。青色のメリットの一つです。
Q. 40万円ちょうどのカメラは特例を使える?
使えません。特例は「40万円未満」。40万円ちょうどは対象外で、通常の減価償却になります。39万円台までがボーダーです(2026年3月31日以前に取得したものは、29万円台までがボーダー)。
Q. 特例を使うのに手続きは?
その年の青色申告決算書で少額減価償却資産として経費計上し、明細を残すことが要件です。会計ソフトなら「少額減価償却資産の特例」を選んで登録すれば自動で処理されます。
まとめ
- 10万円以上は原則、その年に全額経費にはできず減価償却
- 10万未満=全額 / 20万未満=3年均等(一括償却)も可 / 40万未満=青色は全額(特例・年300万まで)
- 利益が出ている年は全額、赤字の年は分割で残すのが有利
- 中古は耐用年数が短くなり、月割り(通常償却のみ)に注意
- 判定は自分の税込/税抜経理に合わせる
この記事の主な根拠(出典)
- 租税特別措置法28条の2(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例。取得価額40万円未満・年間合計300万円まで。2026年3月31日以前の取得は30万円未満)
- 所得税法施行令138条(少額の減価償却資産=10万円未満)・139条(一括償却資産=20万円未満・3年均等)
- 国税庁タックスアンサー No.2100(減価償却のあらまし)/No.5404・耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)/中古資産の耐用年数(耐用年数省令3条)
- ※少額特例は適用期限が延長されてきた措置のため、最新の適用年度を要確認
- ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります
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