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更新日 2026-07-26 経理と確定申告第38回

在庫は経費にならない?物販・ハンドメイドの棚卸と売上原価の出し方

「12月に30万円ぶん仕入れました。全部経費にしていいですよね?」

売れていれば、いいです。売れ残っていたら、経費になりません。

これは物販・せどり・ハンドメイドで1年目に必ず出てくる論点で、しかも間違えると利益が実際より小さく出ます。翌年に指摘されて修正する、という流れが本当に多い。

この記事の結論
– 経費になるのは売れた分だけ。売れ残りは資産(棚卸資産)として翌年へ持ち越す
売上原価 = 期首在庫 + 仕入 − 期末在庫
– 12月31日時点の在庫を数えて金額を出す(実地棚卸)。数えた日付と過程をメモに残す
– 評価方法を届け出ていなければ最終仕入原価法(いちばん最後に仕入れた単価で計算)
送料・関税・購入手数料は仕入原価に入れる。販売時の送料は経費
– ハンドメイドは材料費+外注加工賃+直接経費で原価を作る。自分の作業時間は原価にならない

まず線引き:この記事が関係する人・しない人

不安をあおられて、関係ない人まで悩んでいることがあります。先に切り分けます。

あなたの仕事 棚卸は必要?
せどり・転売・ネットショップ 必要
ハンドメイド・食品加工・製造 必要(材料と仕掛品も対象)
飲食店 必要(食材・ドリンクの在庫)
美容室・整体(物販もしている) 必要(販売用のシャンプー等だけ)
ライター・デザイナー・エンジニア 不要
コンサル・講師・士業 不要
不動産賃貸 不要(販売用の不動産を持つ場合を除く)

仕入れて、それを売る人だけの話です。サービス業の人は読み飛ばして構いません。年末の決算整理でやることの全体像は毎日ちゃんと記帳しているのに、なぜ年末に決算整理が必要なの?にあります。

なぜ売れ残りは経費にならないのか

理由は「費用と収益を対応させる」という考え方にあります。

売上が立つのは、商品が売れた瞬間です。だったら、その商品の仕入代金も売れた瞬間に経費になるべきだ——これが売上原価の発想です。

まだ倉庫にある商品は、売上を生んでいません。だから経費にもならず、資産として残ります(所得税法47条)。

式にすると、こうです。

売上原価 = 期首在庫 + 当期の仕入 − 期末在庫

「期首在庫」は前年から持ち越した在庫、「期末在庫」は今年から翌年へ持ち越す在庫です。1年目の人は期首在庫がゼロなので、仕入 − 期末在庫だけを考えれば済みます。

数字で見る:飛ばすとどれくらいズレるか

項目 金額
売上 500万円
期首在庫(前年からの持ち越し) 50万円
当期の仕入 300万円
期末在庫(12/31時点) 120万円
売上原価(50+300−120) 230万円
その他の経費 80万円
利益 190万円

もし仕入300万円を全額経費にしていたら、利益は70万円と出ます。実際は190万円。120万円ぶん、利益を小さく申告していることになります。

赤字だと思っていたのに実は黒字だった、というのはこのパターンです。融資や補助金の申請で決算書を出す場面でも困ります。

12月31日にやること=実地棚卸

やることは単純です。数えて、金額を出して、紙に残す

① 数える
12月31日時点で手元にある販売用の商品をすべて数えます。対象は次のとおりです。

数えるもの
販売用の商品 仕入れた商品、完成した作品
原材料 布・革・パーツ・食材
仕掛品(作りかけ) 縫いかけの製品、仕込み中の食品
未着品 代金は払ったが、まだ届いていない商品
預けている在庫 Amazon FBA倉庫、委託販売先にある分

見落とされやすいのが下の3つです。とくに倉庫サービスや委託先にある在庫は自分のものなので、必ず数に入れてください。管理画面から在庫レポートをダウンロードできることが多いです。

② 棚卸表を作る

項目 数量 単価 金額
商品A 30個 1,200円 36,000円
商品B 12個 3,500円 42,000円
材料(革) 8枚 5,250円 42,000円
合計 120,000円

Excelでもスプレッドシートでも構いません。「いつ数えたか」を必ず書いてください

③ 保存する
棚卸表は帳簿書類として保存します。年末に実際に数えられなかった場合は、直近の実地棚卸に年末までの入出庫を加減して数量を出し、その計算過程も残します。保存すべき年数は領収書・帳簿は何年とっておく?にまとめています。

期末在庫の金額はどう出すか

同じ商品を違う単価で仕入れていると、「どの単価で計算するのか」が問題になります。

税務署に評価方法の届出をしていない場合、自動的に最終仕入原価法になります(所得税法施行令99条・101条)。その年の最後に仕入れたときの単価を、期末在庫の全部に当てはめる方法です。

方法 内容 届出
最終仕入原価法 最後に仕入れた単価を使う 不要(法定の方法)
総平均法 期首在庫+仕入の平均単価を使う 必要
移動平均法 仕入のつど平均単価を計算し直す 必要
個別法 商品ごとに実際の仕入単価を使う 必要
低価法 原価と時価の低いほうを使う 必要(青色申告者のみ)

ほとんどの個人事業主は最終仕入原価法で十分です。 いちばん計算がラクで、届出もいりません。

届出を出す場合の期限は、原則としてその年の確定申告期限までです。仕入単価の変動が大きい商売で、期末在庫の金額が大きくズレる場合だけ検討してください。

仕入に含めるもの・含めないもの

これも間違えやすいところです。商品を仕入れるためにかかった費用は、商品の原価に含めます。

費用 扱い
商品の代金 仕入原価に含める
仕入時の送料(自分に届くまでの送料) 仕入原価に含める
関税・輸入消費税(海外仕入) 仕入原価に含める
購入手数料・仲介手数料 仕入原価に含める
販売時の送料(お客さんへ発送) 経費(荷造運賃)
梱包材・段ボール 経費(荷造運賃・消耗品費)
プラットフォーム販売手数料 経費(支払手数料)
倉庫・保管料 経費
広告費 経費

上の4つは、売れるまで経費にならないということです。海外から仕入れて年末に在庫が残っている場合、関税や国際送料も期末在庫の金額に乗ります。

とはいえ、実務では送料や手数料を商品1個ずつに割り振るのは大変です。金額が僅少なら、まとめて経費にしても大きな問題にはなりません。売れ残りが多い商売で、金額が大きいときだけ丁寧にやってください。

経費の全体の線引きは経費にできるもの・できないもの一覧を参照してください。

ハンドメイド・製造の場合

作って売る人は、原価の作り方が少し違います。

原価に入るもの
材料費 布・糸・革・パーツ・レジン
外注加工賃 縫製やプリントを外注した分
直接経費 その製品のためだけに使った型代など
入らないもの 自分の作業時間・技術料

いちばん多い誤解が最後です。自分の手間賃は原価になりません。 個人事業主の労働は経費にならないためです(同じ理由で、自分に給料を払うこともできません)。

作りかけのもの(仕掛品)も棚卸の対象です。「材料をどこまで使ったか」で金額を出しますが、細かく追うのが難しければ材料費ベースで見積もって、その根拠をメモに残す方法で構いません。

売れ残り・値下がり・廃棄

在庫が古くなったときの扱いです。ここは思ったより厳しいので、期待しすぎないでください。

  • 売れないから安く評価する → 原則できません。低価法の届出をしている青色申告者だけの選択肢です
  • 廃棄した → 廃棄した年の経費になります。ただし廃棄した事実の証拠(廃棄業者の明細、廃棄前後の写真、廃棄リスト)を残してください
  • 値下げして売った → 売れた時点で通常どおり売上原価になります。何も特別な処理は要りません
  • 自分で使った・家族にあげた → 自家消費として、通常の販売価額のおおむね70%以上で売上に計上します(所得税法39条)

「在庫を捨てたことにして経費にする」は、証拠がないと通りません。数量と日付を残すことがすべてです。

会計ソフトでの入れ方

年末に1本、決算整理仕訳を入れます。

タイミング 借方 貸方
期首(前年在庫を仕入へ戻す) 期首商品棚卸高 50万 商品 50万
期末(今年の在庫を資産に振替) 商品 120万 期末商品棚卸高 120万

会計ソフトなら「棚卸」の入力欄に金額を入れるだけで、この仕訳を作ってくれることが多いです。ただし金額そのものはソフトが知りようがないので、そこは人が数えるしかありません。

貸借対照表の「商品」の残高が、棚卸表の合計と一致していればOKです。合わないときは貸借対照表が合わない:元入金の考え方も確認してください。青色65万円控除には貸借対照表の提出が必要です(青色申告65万円控除の条件)。

よくある質問(FAQ)

Q. 12月31日時点で在庫がゼロでした。何もしなくていいですか。
棚卸額ゼロとして処理します。ただし「数えた結果ゼロだった」という記録は残しておいてください。何もしていないのか、数えてゼロだったのかは、記録がないと区別できません。

Q. 事務用品や梱包材も棚卸の対象ですか。
販売用ではないので、原則として買った年の経費で構いません。ただし毎年おおむね一定量を購入し、経常的に消費するものという前提です。年末に大量に買い込んだ場合は、その年の経費にできないことがあります。

Q. 仕入代金をクレジットカードで払いました。まだ引き落とされていません。
仕入は商品を受け取った日で計上します。カードの引き落とし日ではありません。年またぎの考え方は12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?にまとめています。

Q. サンプルとして無料で配った商品はどうなりますか。
販売促進のために配った分は、広告宣伝費または販売促進費として経費になります。ただし、身内や自分が使った分は自家消費の扱いです。

Q. 副業レベルでも棚卸は必要ですか。
事業所得・雑所得のどちらで申告する場合でも、仕入れがあるなら売上原価の計算は必要です。規模の大小では変わりません。

Q. 開業1年目で、開業前に買った在庫があります。
開業日時点で持っていた在庫は、期首在庫として計上できます。購入時のレシートを残しておいてください。

Q. 期首在庫の金額が分かりません。前年の申告で棚卸をしていませんでした。
まず前年の在庫を推定して金額を出し、今年の期首在庫とします。前年分の申告を訂正するかどうかは金額の大きさ次第なので、判断に迷う場合はご相談ください。

まとめ

  • 経費になるのは売れた分だけ売上原価 = 期首在庫 + 仕入 − 期末在庫
  • 12月31日に数える。FBA倉庫・委託先・未着品・仕掛品も忘れずに
  • 金額は最終仕入原価法でよい(届出不要)。棚卸表と数えた日付を残す
  • 仕入時の送料・関税・購入手数料は仕入原価、販売時の送料や手数料は経費
  • ハンドメイドは材料費+外注加工賃自分の作業時間は原価にならない
  • 値下がりによる評価減は原則不可。廃棄は証拠を残せば経費、自家消費は販売価額の70%以上
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法37条(必要経費)/39条(たな卸資産の自家消費)/47条(たな卸資産の売上原価の計算)
  • 所得税法施行令99条(たな卸資産の評価の方法)/101条(法定評価方法=最終仕入原価法)/103条(評価方法の届出)
  • 所得税法施行規則102条・所得税法148条(帳簿書類の備付け・保存)
  • 国税庁タックスアンサー「棚卸資産の評価方法」「棚卸資産の取得価額」「商品を自家用に消費した場合」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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👉 12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?
👉 確定申告、記帳が終わったら何をする?
👉 青色申告65万円控除の条件
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