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更新日 2026-08-07 節税・経費

社会保険は第二の税金──月額報酬と賞与の配分で、保険料はどこまで変わるか

法人の税金を考えるとき、法人税・所得税・住民税・消費税は誰でも数えます。しかしいちばん大きいのは、たいてい社会保険料です。

協会けんぽの令和8年度の料率で計算すると、健康保険9.90%(全国平均)、介護保険1.62%、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.30%。労使合計でおおむね30%です。これに事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金0.36%が乗ります。

一人社長の会社なら、会社負担も本人負担も同じ財布です。役員報酬600万円なら、年間180万円前後が社会保険料として出ていきます。法人税より重いことが普通にあります。

この記事の結論

  • 社会保険料は労使合計で報酬の約30%(令和8年度・介護保険料あり・協会けんぽ全国平均)
  • 標準報酬月額の上限は、厚生年金65万円・健康保険139万円。ここで頭打ちになる
  • 標準賞与額の上限は別で、厚生年金は1か月150万円・健康保険は年度累計573万円
  • この2つの上限が別なので、月額を下げて賞与に寄せると保険料が下がる帯が存在する
  • ただし役員賞与は事前確定届出給与の届出がないと損金にならない。1円ズレたら全額否認
  • そして年金額・傷病手当金・出産手当金が下がる。保険料だけ見て決めない
  • 年4回以上支給する賞与は「報酬」として標準報酬月額に含まれる。月々に戻すのと同じになる
  • 厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引上げ(68万円→71万円→75万円)

1. まず、料率と負担者を並べる

令和8年度の協会けんぽ(全国平均)と厚生年金の数字です。

保険 料率 負担 かかる対象
健康保険 9.90%(全国平均・都道府県ごとに異なる) 労使折半 標準報酬月額・標準賞与額
介護保険(40〜64歳) 1.62% 労使折半 同上
子ども・子育て支援金 0.23% 労使折半 同上
厚生年金 18.30% 労使折半 標準報酬月額・標準賞与額
子ども・子育て拠出金 0.36% 事業主のみ 厚生年金の標準報酬月額・標準賞与額

健康保険料率は都道府県ごとに違います。自社の支部の率は協会けんぽの保険料額表で確認してください(健康保険組合に加入している会社は組合の率)。

「労使折半だから半分」と考えがちですが、一人社長の会社では会社負担分も自分の会社が払うので、実質は全部が自分のコストです。

2. 上限が2つある──ここが設計の余地

社会保険料は青天井ではありません。標準報酬月額標準賞与額に、それぞれ上限があります。

厚生年金 健康保険
標準報酬月額の上限 65万円(第32等級・報酬月額63万5千円以上) 139万円(第50等級)
標準賞与額の上限 1か月あたり150万円 年度累計573万円

ここが重要です。月額の上限と賞与の上限は別枠です。しかも厚生年金の月額上限(65万円)は、健康保険の月額上限(139万円)よりずっと低い。

つまり、報酬月額が65万円を超える部分については、厚生年金保険料はもう増えません。健康保険料だけが139万円まで増え続けます。

3. 「月額を下げて賞与に寄せる」の理屈

よく語られる手法は、この上限の差を使うものです。

たとえば年間報酬1,800万円を、

  • A:月150万円×12回
  • B:月50万円×12回+賞与1,200万円(年1回)

に分けた場合を比べます。

厚生年金では、Aは毎月の標準報酬月額が上限65万円で頭打ち、Bは月50万円。賞与部分は上限150万円までしか算定されません。Bのほうが厚生年金の対象額は小さくなります。

健康保険でも、Aは標準報酬月額139万円(上限内)、Bは月50万円+標準賞与額は年度累計573万円で頭打ち。やはりBのほうが対象額は小さくなります。

これが「賞与に寄せると社会保険料が下がる」と言われる理屈です。上限の存在自体は法律に書いてある仕組みなので、それ自体が違法ということはありません。

4. ただし、成立させるには条件がある

理屈は成り立ちますが、実行すると次の壁に当たります。

(1)役員賞与は、届出がないと損金にならない

役員に賞与を払っても、事前確定届出給与の届出をしていなければ損金不算入です。届出の期限は「株主総会等の決議の日から1か月」と「事業年度開始の日から4か月」の早いほう。しかも届け出た金額と1円でも違えば、その職務執行期間の支給額が全額否認されます。

社会保険料は下がったが法人税が増えた、では意味がありません。手続きは 役員賞与を経費にする唯一の方法──事前確定届出給与の期限 を必ず先に読んでください。

(2)年4回以上支給すると「報酬」になる

健康保険法・厚生年金保険法では、年3回以下の支給が賞与です。年4回以上支給されるものは「報酬」として標準報酬月額に組み込まれます。

つまり「賞与を4回に分けて出す」は成立しません。月々の報酬に戻るだけです。

(3)将来の年金額が下がる

厚生年金の給付は、標準報酬月額と標準賞与額の両方をもとに計算されます。上限を超えた部分は年金額にも反映されません。

保険料が下がるということは、将来の年金も下がるということです。「保険料を下げた分だけ得」ではなく、「保険料と給付の両方を下げた」というのが正確な表現です。

(4)傷病手当金・出産手当金が下がる

これらは標準報酬月額をもとに計算されます。月額報酬を極端に下げると、病気やけがで働けなくなったときの手当が大きく下がります。

役員は労災保険の対象外(特別加入をしていない限り)でもあるので、ここを削ると実質的に無防備になります。

(5)実態と乖離すれば指摘される

「実質的に毎月の報酬の後払いにすぎない」と見られるような極端な設計は、指摘の対象になり得ます。月額報酬を生活費に足りない水準まで下げて役員貸付金で埋めている、というような形は、社会保険とは別の問題も生みます。

この記事の範囲について
社会保険の適用・算定基礎届・賞与支払届・被扶養者の認定などの手続きは、社会保険労務士および日本年金機構(年金事務所)の領域です。この記事は税務の側から「保険料が税と同じように効く」ことを説明したもので、個別の適用可否を判断するものではありません。実行の前に年金事務所または社会保険労務士に確認してください。

5. 2027年9月から、上限が上がる

厚生年金の標準報酬月額の上限は、2027年9月から段階的に引き上げられることが決まっています。

時期 上限
現在 65万円(第32等級)
2027年9月 68万円
2028年9月 71万円
2029年9月 75万円

高い報酬を取っている会社ほど負担が増えます。いまの前提で組んだ設計は、数年で条件が変わるということです。上限の差を使った設計を採るなら、この予定を織り込んでおいてください。

6. もう1つの手──選択制の企業型確定拠出年金

保険料を下げる方法として、上限の差を使うほかに、給与の一部を確定拠出年金の掛金に振り替えるという制度があります。

掛金部分は報酬に含まれないため、標準報酬月額が下がり、社会保険料も下がります。しかも掛金は会社の損金で、本人にも課税されません。運用益も非課税です。

ただし同じ話で、標準報酬月額が下がる以上、年金も傷病手当金も下がります。また掛金は原則60歳まで引き出せません。

制度の設計・規約の承認は社会保険労務士および運営管理機関の領域です。個人事業主時代の小規模企業共済・iDeCoとの関係は 小規模企業共済・iDeCoの「出口」 を参照してください。

7. 結局、どう考えるか

社会保険料を単独で最小化しようとすると、たいてい別のところで損をします。判断の軸は次の3つです。

  1. 法人税・所得税・住民税・社会保険料を合計して比べる。社会保険料だけ見ない(役員報酬はいくらにするのが得か
  2. 給付の減少を織り込む。年金・傷病手当金・出産手当金は標準報酬に連動する
  3. 手続きの要件を満たせるか確認する。事前確定届出給与の届出、賞与支払届。ここが崩れると法人税で損をする

そして最も大事なのは、社会保険料は稼いだあとに決まるものではなく、報酬の決め方でほぼ決まるということです。だから役員報酬を決める期首の3か月が、社会保険を設計できる唯一のタイミングになります。

まとめ

  • 社会保険料は労使合計で約30%(令和8年度・協会けんぽ全国平均9.90%+介護1.62%+支援金0.23%+厚年18.30%)
  • 事業主だけが負担する子ども・子育て拠出金0.36%が別にある
  • 標準報酬月額の上限は厚年65万円・健保139万円
  • 標準賞与額の上限は厚年1か月150万円・健保年度累計573万円で、月額とは別枠
  • この差を使うのが「賞与に寄せる」設計。ただし条件が4つある
  • 役員賞与は事前確定届出給与の届出が必須。1円ズレたら全額損金不算入
  • 年4回以上の支給は賞与ではなく報酬になる
  • 年金・傷病手当金・出産手当金が下がる。保険料と給付は連動している
  • 厚年の上限は2027年9月から68→71→75万円へ段階的に引上げ

この記事の主な根拠(出典)

  • 健康保険法3条5項(報酬)・同条6項(賞与)/40条(標準報酬月額)/45条(標準賞与額・年度累計573万円)
  • 厚生年金保険法3条1項3号・4号/20条(標準報酬月額・第32等級65万円)/24条の4(標準賞与額・1か月150万円)
  • 全国健康保険協会「令和8年度保険料率」(全国平均9.90%/介護保険料率1.62%/子ども・子育て支援金率0.23%・令和8年4月納付分から)
  • 子ども・子育て支援法(子ども・子育て拠出金率0.36%・事業主負担)
  • 法人税法34条1項2号(事前確定届出給与)
  • 確定拠出年金法(企業型年金)
  • ※保険料率は毎年度見直され、健康保険料率は都道府県ごとに異なります
  • ※出典の各ページは2026年8月7日に確認しました。制度は改正されることがあります

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