一人社長なら合同会社でいい?株式会社との違いを費用・信用・将来性で比べる
法人化することは決めた。次に出てくるのが「株式会社と合同会社、どっちにするか」です。
「合同会社は安い」とは聞くけれど、信用面が不安。あとから変えられるのかも分からない。ここで数週間止まる人が本当に多い。
先に結論を言うと、税金はまったく同じです。差が出るのはお金(設立費用と維持費)と見え方、そして将来の選択肢の3つだけです。
この記事の結論
– 税金は完全に同じ。法人税も均等割も消費税も、会社の形で変わらない
– 設立費用は合同会社が10万円前後安い(定款認証が不要、登録免許税が6万円対15万円)
– 合同会社は決算公告の義務がない・役員の任期がない。毎年の固定費と手間が小さい
– 信用の差は取引先による。BtoCや少人数のBtoBでは実務上ほとんど問題にならない
– 合同会社は持分が原則相続されない。定款に定めを置くこと
– あとから株式会社に変更できるが、10万円以上+1か月以上かかる
一枚の比較表
| 合同会社 | 株式会社 | |
|---|---|---|
| 設立費用の目安 | 約6〜10万円 | 約18〜24万円 |
| 定款認証(公証役場) | 不要 | 必要(3〜5万円) |
| 登録免許税 | 資本金×0.7%(最低6万円) | 資本金×0.7%(最低15万円) |
| 決算公告 | 不要 | 必要(会社法440条) |
| 役員の任期 | なし | 最長10年。満了ごとに重任登記 |
| 代表者の呼び方 | 代表社員 | 代表取締役 |
| 出資と経営 | 原則一致(出資者=経営者) | 分離できる |
| 意思決定 | 社員の同意(定款で自由に設計) | 株主総会・取締役会 |
| 持分・株式の譲渡 | 原則、他の社員全員の同意 | 定款で制限可能 |
| 上場 | できない | できる |
| 税金 | 同じ | 同じ |
| 社会保険 | 同じ(強制加入) | 同じ |
費用の差はいくらか
具体的な金額で見ます(資本金100万円・電子定款を前提)。
設立時
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 定款の印紙代 | 0円(電子定款) | 0円(電子定款) |
| 定款認証手数料 | 0円 | 3〜5万円(資本金の額による) |
| 登録免許税 | 6万円 | 15万円 |
| 謄本・印鑑等の実費 | 数千円 | 数千円 |
| 合計(目安) | 約6.5万円 | 約18〜20.5万円 |
差はおよそ12万円です。紙の定款にすると、どちらも印紙代4万円が上乗せされます。
毎年
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 決算公告 | 不要(0円) | 官報に載せる場合、数万円/年 |
| 役員の任期満了に伴う重任登記 | 不要(0円) | 登録免許税1万円(資本金1億円以下)+手続き |
| 法人住民税の均等割 | 同じ | 同じ |
見落とされがちなのが重任登記です。役員の任期を10年に設定しても、10年ごとに必ず登記が必要で、忘れると過料の対象になります。合同会社にはこの手続き自体がありません。
なお、株式会社の決算公告は法律上の義務ですが、実務では未実施の会社も多いのが実情です。ただし「義務がある」ことと「やっていない会社が多い」ことは別なので、判断材料としては義務の有無で見てください。
税金は完全に同じ
ここは断言できます。法人税法に「株式会社」「合同会社」の区別はありません。
| 税金 | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 法人税・地方法人税 | 同じ | 同じ |
| 法人事業税・特別法人事業税 | 同じ | 同じ |
| 法人住民税の均等割(赤字でもかかる) | 同じ | 同じ |
| 消費税 | 同じ | 同じ |
| 役員報酬の扱い | 同じ | 同じ |
| 社会保険(強制加入) | 同じ | 同じ |
「合同会社のほうが節税になる」ということはありません。 節税の話は会社の形ではなく、役員報酬の設定や法人化そのもののタイミングで決まります(いくらから法人化がトク?、売上いくらから法人化がトク?)。
法人化で一番効いてくるのは社会保険料です(社会保険料控除は家族の分もまとめて引けるも参照)。この負担も会社の形では変わりません。
信用の差はどこで出るか
いちばん気になるところだと思います。正直に整理します。
実務上、差が出にくい場面
- BtoCのビジネス——一般のお客さんは会社の形をほとんど気にしません
- フリーランス相手・小規模なBtoB——請求書と実績で判断されます
- 金融機関の創業融資——日本政策金融公庫や信用保証協会の制度で、会社の形態を理由に差がつくという扱いは通常ありません。見られるのは事業計画と自己資金です
- 税務・許認可——原則として形態による差はありません
差が出ることがある場面
- 大企業との新規取引——取引先登録の審査で、社内基準として株式会社を求められることがあります
- 採用——求人での見え方。ただし近年は合同会社の知名度も上がっています
- 不動産の賃借——オーナーや管理会社によって反応が違うことがあります
- 将来の出資受け入れ・上場——合同会社には株式がないため、外部から出資を受ける設計がしにくく、上場もできません
要するに、「誰と取引するか」で決まります。取引先候補が決まっているなら、先方に聞くのがいちばん確実です。
会社の設立登記・定款の作成・組織変更の登記手続きは司法書士の業務です。本記事は費用と制度の全体像を税務の観点から整理したもので、具体的な登記手続きや定款の条項については司法書士にご相談ください。また業種ごとの許認可の要件は各所管庁の定めによります。設立費用は資本金の額・電子定款の利用・専門家報酬によって変わるため、金額はあくまで目安です(2026年時点の制度に基づく記事です)。
合同会社が向く人・株式会社が向く人
| 合同会社が向く | 株式会社が向く | |
|---|---|---|
| 事業の相手 | BtoC、個人・小規模事業者 | 大企業、官公庁 |
| 出資者 | 自分(と家族)だけ | 外部から受け入れる予定がある |
| 将来 | 一人〜少人数で続ける | 拡大・上場を視野に入れる |
| 優先すること | 初期費用と維持コストを抑える | 対外的な体裁・信用 |
| 人を雇う予定 | 少人数 | 積極的に採用する |
節税や社会保険の目的で法人を作る一人社長なら、合同会社で十分に目的を果たせます。逆に、「株式会社でないと取引できない」と言われる可能性が具体的にあるなら、最初から株式会社にしたほうが安く済みます。
あとから変えられるか
変えられます。ただしタダではありません。
合同会社 → 株式会社(組織変更)
| 必要なこと | 内容 |
|---|---|
| 総社員の同意 | 組織変更計画の作成 |
| 債権者保護手続 | 官報公告(1か月以上)+知れている債権者への個別催告 |
| 登記 | 合同会社の解散登記+株式会社の設立登記 |
| 費用の目安 | 登録免許税だけで6万円〜+官報掲載費用+司法書士報酬 |
| 期間 | 1か月半〜2か月 |
トータルで10万円台後半から20万円程度、時間も1か月以上かかります。
ここから逆算すると、判断はこうなります。
数年以内に株式会社にする可能性が高いなら、最初から株式会社にしたほうが安い。
その予定が特にないなら、合同会社にして差額を運転資金に回すほうが合理的。
「とりあえず合同会社で、必要になったら変える」は選べる道ですが、そのときに追加で費用と時間がかかることは知っておいてください。
決める前に確認する3つ
① 主要な取引先に聞く
「法人化を考えているのですが、御社との取引で会社の形態が問題になることはありますか」。これで解決することが多いです。
② 許認可の要件を確認する
建設業・古物商・宅建業・人材派遣など、許認可が必要な業種は所管の窓口で要件を確認してください。形態そのものより、資本金額や専任者の要件のほうが重要なことがほとんどです。
③ 商号を先に押さえる
どちらを選ぶにせよ、社名は先に決めます。同一住所での同一商号は登記できませんし、商標やドメインの確認も必要です(屋号を決める前に商標とドメインを確認する)。
よくある質問(FAQ)
Q. 合同会社の代表を「社長」と名乗れますか。
名乗れます。登記上の肩書きは「代表社員」ですが、名刺やWebサイトで「代表」「社長」「CEO」と表記するのは自由です。ただし「代表取締役」は使えません(株式会社の役職名のため)。
Q. 合同会社の持分は相続できますか。
定款に定めがなければ、原則として相続されません。 社員が死亡すると退社事由となり、相続人は持分の払戻しを受けるだけになります。一人社長の合同会社ではそのまま会社が続けられなくなる恐れがあるため、定款に「相続人が持分を承継する」旨の定めを置いてください。ここは合同会社を選ぶうえで最も重要な実務ポイントです。
Q. 一人だけの合同会社で、意思決定はどうしますか。
社員が自分1人なら、自分の判断がそのまま会社の決定になります。株主総会の招集や議事録作成の手間がない分、運営はシンプルです(ただし重要な決定の記録は残しておいてください)。
Q. 社会保険は合同会社でも入る必要がありますか。
あります。法人は社長1人でも強制加入です。ここは形態で変わりません。法人化で手取りが変わる要因の大半はこれです。
Q. 消費税の免税期間は同じですか。
同じです。資本金1,000万円未満なら原則2年間免税ですが、インボイス登録をすれば初日から課税事業者になるので、その効果は実質なくなります(売上1000万円を超えそう)。
Q. 銀行口座は作りやすさに差がありますか。
形態そのものより、事業実態・事務所・Webサイトの有無で見られるのが実情です。どちらでも、事業内容を説明できる資料を用意して臨んでください。
Q. そもそも法人化すべきかで迷っています。
まずは個人事業主と法人、結局どっちが得?から読んでください。会社の形は、法人化を決めたあとの話です。税理士に相談するタイミングは税理士はいつから頼む?にまとめています。
まとめ
- 税金は完全に同じ。会社の形で節税額は変わらない
- 設立費用は合同会社が約12万円安い(定款認証不要・登録免許税6万円対15万円)
- 合同会社は決算公告なし・役員任期なし。毎年の固定費と手続きが小さい
- 信用の差は取引先次第。BtoCや小規模BtoBではほぼ問題にならない。大企業との新規取引では聞かれることがある
- 合同会社は持分が原則相続されない。定款に承継の定めを必ず置く
- あとから株式会社に変更できるが10万円台後半+1か月以上。数年内に変える見込みがあるなら最初から株式会社が安い
- 会社法30条(定款の認証)/440条(計算書類の公告)/332条(取締役の任期)/576条以下(持分会社の設立・社員)/607条(社員の退社事由)/743条以下(組織変更)
- 登録免許税法別表第一(株式会社の設立15万円・合同会社の設立6万円ほか)
- 公証人手数料令35条(定款の認証手数料)
- 法人税法・地方税法(法人の種類による課税上の区別はない)/健康保険法3条・厚生年金保険法6条(法人は強制適用事業所)
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