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更新日 2026-08-07 節税・経費

「定款の事業目的に書いておけば経費になる」は本当か──目的欄と損金性の関係

法人化のアドバイスとして、よくこう言われます。「定款の事業目的はできるだけ広く書いておきなさい。書いてある事業の支出は経費にできるから」。

半分は正しく、半分は間違っています。定款に書いたから損金になる、という関係はありません。一方で、目的欄を整えておくことに意味がないわけでもない。この2つを分けて理解しておくと、無駄に目的を並べずに済みます。

この記事の結論

  • 損金かどうかを決めるのは法人税法22条。「その事業年度の収益に対応する原価・費用・損失」かどうかで判定する
  • 定款の事業目的は、この判定に直接は影響しない。税務署は定款を見て損金性を決めているわけではない
  • 逆に、目的に書いていない事業の支出が、それだけの理由で否認されることもない
  • では何のために書くのか。登記・許認可・銀行・取引先のため。税務ではなく対外的な要件
  • ただし新規事業の支出については、「いつからその事業をやるつもりだったか」を示す材料にはなる
  • 目的を並べすぎると許認可と信用の面でマイナス。20個も30個も書くのは逆効果

1. 損金かどうかは、法人税法22条で決まる

法人税法22条3項は、損金に算入されるものを3つに分けています。

  1. 収益に係る売上原価等の額
  2. 販売費、一般管理費その他の費用の額(償却費以外は債務の確定しているもの)
  3. 損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

ここに「定款に定めた事業目的の範囲内であること」という条件はありません。判定はその支出が会社の事業活動と結びついているかで行われます。

実際の調査で聞かれるのも、定款の話ではありません。「この支出は何のためか」「誰と行ったのか」「売上とどうつながるのか」です。定款を持ってきて「ここに書いてあります」と言っても、それだけで通ることはありません。

2. 目的に書いていない事業をやってもいいのか

会社法上、株式会社は定款で定めた目的の範囲内で権利能力を持つ、というのが古典的な理解でした。ただし判例は目的の範囲をかなり広く解釈しており、目的外の取引が無効になることは実務上ほとんどありません

税務でも、目的に書いていない事業から生じた売上は当然に益金ですし、その原価も損金です。「目的に書いていないから、この売上は課税しません」ということが起きない以上、費用の側だけ否認されるという扱いも整合しません。

つまり、税務の観点だけで言えば、事業目的の記載は損金性を左右しないというのが出発点です。

3. では、何のために書くのか

税務のためではないなら、目的欄は何のためにあるのか。実務では次の4つです。

用途 中身
登記 目的は登記事項。追加・変更するには株主総会の特別決議と変更登記(登録免許税3万円)が要る
許認可 建設業、宅建業、産廃、人材派遣、古物商、旅行業などは目的欄に該当する事業が書かれていることが許可の要件になる
銀行 融資の審査で、資金使途と事業目的の整合を見られることがある。定款にない事業への設備資金は説明が要る
取引先 大企業との取引開始時に、登記事項証明書で事業内容を確認される

このうち許認可は本当に止まります。建設業許可を取ろうとして、目的欄に建設工事の記載がなく、先に定款変更と変更登記をやり直した、というのはよくある話です。

設立時に「将来やるかもしれない事業」を入れておく実務上の理由は、あとから変更登記に3万円かかるからというのが実際のところです。税務のためではありません。

4. それでも、税務で効く場面が1つだけある

ここまで「定款は損金性に影響しない」と書きましたが、間接的に効く場面が1つあります。新規事業の立ち上げ費用です。

まだ売上が立っていない事業のために支出したとき、税務署から「これは事業と関係のない支出(=役員個人の趣味や、家事費)ではないか」と疑われることがあります。飲食業への参入を検討して視察や試作に費用をかけた、というような場面です。

このとき効くのは、次のような客観的な記録です。

  • 事業計画書、稟議書、取締役会や株主総会の議事録
  • 市場調査の報告書、見積書、業者とのやりとり
  • 定款の事業目的に、その事業が追加されている

定款の目的追加は、株主総会の決議と登記を経ています。「思いつきではなく、会社として決めた」ことを示す外形として、他の資料と一緒に出せば説得力があります。

ただしこれはあくまで補強材料です。目的に書いてあるだけで、事業の実体がなければ意味がありません。逆に実体があれば、目的に書いていなくても損金です。順番を逆にしないでください。

5. 目的を並べすぎるとどうなるか

「広く書いておけばいい」を真に受けて、20個も30個も並べるとどうなるか。デメリットのほうが大きくなります。

  • 許認可で不利になることがある。同一の会社で兼業できない業種(例:一部の金融・警備・士業法人)が混ざっていると、審査で説明を求められる
  • 銀行の印象が悪い。何の会社か分からない登記簿は、融資の場面でプラスに働きません
  • 取引先の与信で引っかかる。上場企業の新規口座開設では、事業内容の一貫性を見られます
  • 税務署の目線でも「実体がない」の材料になり得る。書いてあるのに一度もやっていない事業が並んでいると、目的欄の説得力そのものが落ちます

現実的には、いま実際にやっている事業+2〜3年以内に着手する可能性が高い事業に絞り、最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」を置く、というのが標準です。

6. よくある誤解を3つ

誤解1「不動産賃貸業を目的に入れておけば、社宅の家賃が経費になる」

社宅が使えるかどうかは、会社名義の賃貸借契約があり、賃貸料相当額を役員から受け取っているかで決まります(役員社宅の家賃、いくら会社に払えば給与課税されないか)。目的欄は関係ありません。

誤解2「コンサルティング業と書いておけば、書籍代やセミナー代が全部通る」

通るかどうかは職務に直接必要な知識・技術かで決まります。所得税基本通達36-29の2は、役員・使用人に職務に直接必要な技術や知識を習得させるための研修費用を、適正なものに限り非課税としています。目的欄に何を書いても、この判定は変わりません。

誤解3「投資業と書いておけば、自分の株式投資が会社の損金になる」

会社の資金で会社名義の有価証券を買えば、それは会社の資産です。損金になるのは売却損や評価損であって、購入額ではありません。社長個人の投資を会社の名前で行うのは、そもそも別の問題を招きます。

7. 現場でやること

  1. いまの登記事項証明書で目的欄を確認する。設立時のまま放置されていることが多い
  2. 許認可が必要な事業をやる予定があるなら、先に目的を追加する。許可申請の直前に気づくと2〜3週間止まる
  3. やらないと決めた事業は、次の変更登記のついでに落とす
  4. 新規事業に費用をかけるなら、目的追加だけでなく事業計画と議事録を残す。目的欄は補強にすぎない
  5. 経費の判断は目的欄でなく、「売上とどうつながるか」で説明できるかどうかで決める

なお、定款の作成・変更、目的の適否、変更登記の手続きは司法書士の領域です。許認可の要件は各所管庁に確認してください。

まとめ

  • 損金かどうかは法人税法22条で決まる。定款の事業目的は直接は関係しない
  • 目的に書いていない事業の支出が、それだけで否認されることもない
  • 目的欄が本当に必要なのは登記・許認可・銀行・取引先の4つ。とくに許認可は止まる
  • ただし新規事業の支出については、目的追加が「会社として決めた」外形の1つになる(あくまで補強)
  • 並べすぎは逆効果。いまやっている事業+2〜3年で着手するものに絞る
  • 「目的に書けば経費になる」ではなく、売上とどうつながるかを説明できるかが本体

この記事の主な根拠(出典)

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