個人事業主の節税、やる順番はこれ|お金が出ていかないものから7ステップ
節税の相談で一番多いのは「何を買えばいいですか」です。
順番が逆です。買うのは最後です。その前に、1円も出ていかないのに税金が減る手段が3つあります。
この記事では、効果の大きい順ではなく、手元のお金が減らない順に7ステップで並べます。上から順に潰していくのが、いちばん確実で、いちばん安全です。
この記事の結論
– ①〜③は現金が1円も出ていかない(青色申告/経費の拾い漏れ/家事按分)
– ④所得控除も、すでに払ったお金を申告書に反映するだけ
– ⑤共済・iDeCo・セーフティ共済は出ていくが、あとで戻る
– ⑥何かを買うのは6番目。ここで初めて現金が本当に減る
– ⑦法人化は最後。順番を飛ばして法人化しても効果は出ない
– 全部やっても足りないと感じたら、それは節税ではなく納税資金の問題
全体像:7ステップ
| 順 | やること | 手元のお金 | 効果の目安(課税所得400万円の場合) |
|---|---|---|---|
| ① | 青色申告で65万円控除を取る | 減らない | 約22万円 |
| ② | 経費の拾い漏れを潰す | 減らない | 数万円〜 |
| ③ | 家事按分を見直す | 減らない | 数万円〜 |
| ④ | 所得控除の取りこぼしを拾う | 減らない | 数万円〜 |
| ⑤ | 共済・iDeCo・セーフティ共済 | 拘束されるが戻る | 掛金 × 35% |
| ⑥ | 資産の買い方を工夫する | 減る | 買った額 × 35% |
| ⑦ | 法人化を検討する | 費用がかかる | 規模次第 |
※効果額は所得税20%+住民税10%+事業税5%=35%で計算した目安です。税率の考え方は「経費を増やせば税金が減る」は半分ウソを参照してください。
① 青色申告で控除を取る(効果:約22万円/現金支出ゼロ)
節税で一番効率がいいのは、間違いなくこれです。
65万円の控除は、課税所得400万円の人で約22万円の税金を減らします。しかも現金は1円も出ていきません。ただ申告方法を変えるだけです。
条件は4つです。
- 事業所得(または不動産所得で5棟10室以上)であること
- 複式簿記で記帳していること
- 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付すること
- e-Taxで申告する(または優良な電子帳簿を保存する)
2はハードルに見えますが、会計ソフトを使えば自動で複式簿記になります。自分で仕訳を切る必要はありません。
【2026年時点の注意】令和8年度の税制改正により、令和9年分から青色申告特別控除は「75万円・65万円・10万円」に変わります(55万円の区分は廃止)。75万円を取るには、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存法に従って電磁的記録で保存することが必要とされています。令和8年分(2027年春の申告)は現行どおり65万円です。詳細は国税庁の案内で確認してください。
条件の詳細は青色申告65万円控除の条件は”複式簿記”だけじゃないにまとめています。
まだ青色申告の承認申請を出していない人は、これが最優先です。申請には期限(原則としてその年の3月15日、開業した年は開業日から2か月以内)があり、遅れると1年まるごと機会を失います。
② 経費の拾い漏れを潰す(効果:数万円/現金支出ゼロ)
すでに払ったお金のうち、経費に入れ忘れているものを拾います。新しく買う必要はありません。
拾い漏れが多いのはこのあたりです。
| 費目 | よくある漏れ |
|---|---|
| 通信費 | 自宅のネット回線・スマホ代(按分) |
| 水道光熱費 | 自宅兼事務所の電気代(按分) |
| 支払手数料 | 振込手数料、決済サービスの手数料、ソフトのサブスク |
| 新聞図書費 | 業務関連の書籍、有料メディアの購読 |
| 租税公課 | 個人事業税、固定資産税(按分)、印紙代、自動車税(按分) |
| 損害保険料 | 事業用の火災保険、自動車保険(按分) |
| 荷造運賃 | 発送のための送料・梱包材 |
| 開業費 | 開業前に払ったもの(任意償却でいつでも落とせる) |
とくに個人事業税は忘れられがちです。8月・11月に払った事業税は、翌年の経費になります。
領収書をなくしたものも、あきらめる必要はありません。出金伝票と代替証憑で計上できる場合があります。
費目ごとの判定は経費にできるもの・できないもの一覧を確認してください。
③ 家事按分を見直す(効果:数万円/現金支出ゼロ)
自宅で仕事をしているのに按分していない、あるいは適当な割合のまま何年も放置している——非常に多いです。
按分できる主なものはこれです。
- 家賃(持ち家なら減価償却費・ローン利息・固定資産税)
- 電気・ガス・水道
- インターネット・スマホ
- 車(車両代・ガソリン・保険・車検)
割合は「なんとなく30%」ではなく、面積や使用時間から計算して、その計算過程を残すのが正解です。根拠がある割合は、多少高くても説明できます。根拠がない割合は、低くても指摘されます。
決め方の手順は家事按分の割合をゼロから決める手順にあります。
④ 所得控除の取りこぼしを拾う(効果:数万円/現金支出ゼロ)
ここもすでに払ったお金です。申告書に書き忘れているだけで税金を多く払っている人が、驚くほどいます。
| 控除 | 見落としポイント |
|---|---|
| 社会保険料控除 | 国民健康保険は控除証明書が届かないので自分で集計する |
| 社会保険料控除 | 生計を一にする家族の国民年金を自分が払った分も入れられる |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 共済・iDeCoの掛金 |
| 生命保険料控除 | 新旧の制度で枠が違う。旧制度単独のほうが有利なことがある |
| 医療費控除 | 所得200万円未満なら「10万円」ではなく所得の5%が基準 |
| 寡婦・ひとり親控除 | 該当するのに書いていない人が多い |
| 障害者控除 | 同居していない扶養親族でも該当する場合がある |
チェックリストは入れ忘れると損する所得控除 最終チェックリストと控除チェックリストにあります。
①〜④はここまで、現金が1円も出ていっていません。まずここを全部やってください。
⑤ 共済・iDeCo・セーフティ共済(お金は出るが、戻る)
ここから初めてお金が出ていきます。ただし戻ってくるお金です。
| 制度 | 上限 | 税務上の箱 | 出口 |
|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 月7万円/年84万円 | 所得控除 | 廃業・退職時に退職所得等として |
| iDeCo | 月6.8万円/年81.6万円 | 所得控除 | 60歳まで引き出せない |
| 経営セーフティ共済 | 月20万円/年240万円 | 必要経費 | 40か月以上で全額。ただし解約時に課税 |
3つとも「課税の繰延べ」の性格があります。今年の税金は確実に減りますが、受け取るときに課税されます。それでも有利になるのは、受け取り時の税率が低くなる(退職所得控除が使える)からです。
注意点は共通しています。掛けたお金は当面使えません。資金繰りに余裕がない状態で満額を掛けると、翌年の納税で詰みます。
順番と金額の決め方は小規模企業共済とiDeCo、どっちを先に・いくら掛ける?、年240万円を経費にできる制度は経営セーフティ共済は個人事業主も使えるを読んでください。
⑥ 資産の買い方を工夫する(お金は本当に減る)
必要なものを買う予定があるなら、買い方とタイミングで税額は変わります。逆に言えば、予定がないなら何もしないのが正解です。
| 手段 | 内容 |
|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 青色申告なら40万円未満(令和8年4月1日以後の取得)を一括で経費に。年間300万円まで |
| 一括償却資産 | 20万円未満は3年均等償却。償却資産税がかからないのが利点 |
| 中古を買う | 耐用年数が短くなり、早く経費化できる |
| 買う時期 | 減価償却は月割り。12月に買っても1か月分しか落ちない |
最後の行が重要です。30万円の機材を12月に買って減価償却すると、今年落ちるのは1か月分だけです。少額減価償却資産の特例なら全額落ちますが、これは青色申告が条件です。
改正の内容は30万円未満→40万円未満に拡大、中古の計算は中古の車・機材を買ったときにまとめました。
⑦ 法人化(最後の手段)
①〜⑥をやり切ってもまだ税負担が重いなら、法人化が視野に入ります。
ただし設立費用・毎年の均等割(赤字でも約7万円)・社会保険の強制加入・決算の手間が乗ります。順番を飛ばして法人化しても、②〜④をやっていない人は法人でも同じ漏れを繰り返すだけです。
分岐点の考え方は法人化は年収いくらから得?にあります。
やってはいけない順番
現場でよく見る失敗は、⑥から始めて①をやっていないというパターンです。
| よくある状態 | 何が起きているか |
|---|---|
| 12月に慌てて備品を買う。でも白色申告 | 65万円の控除(約22万円)を捨てて、10万円使って3.5万円の節税をしている |
| 共済を満額掛ける。でも按分ゼロ | 出ていくお金を増やして、出ていかない節税を放置している |
| 節税に成功。でも6月に住民税が払えない | 納税資金を残していない |
3つめが最も深刻です。節税は税金を減らすものであって、ゼロにするものではありません。減った後の税金は必ず払う必要があります。
利益のうちいくらを納税用に残すかは稼いだお金、いくら残せば税金で困らない?で決めてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 全部やっても税金が高いです。
それは節税の問題ではなく、利益が出ているということです。①〜④をやり切った状態なら、あとは「払う」か「⑤で繰り延べる」か「⑦法人化する」しかありません。無理に⑥を増やすと、税金は減っても手元は減ります。
Q. 今年の分はもう間に合いませんか。
①青色申告の承認申請と⑤の掛金は年内が期限ですが、②③④は申告書を作る段階でも間に合います。すでに払ったお金を拾うだけだからです。過去の申告分も、更正の請求(原則5年)で取り戻せる場合があります。
Q. 節税のために売上を来年に回してもいいですか。
だめです。売上の計上時期は「引き渡した日・役務が完了した日」で決まっており、選べません。意図的にずらせば仮装隠蔽と判断されます。
Q. 「経費が少ない」と融資で不利になりませんか。
なります。節税を突き詰めて所得を圧縮すると、融資・住宅ローン・保育園の審査で不利になります。数年以内に借入や住宅購入を予定しているなら、節税を控えて所得を出す判断もあります。
Q. ふるさと納税は節税ですか。
節税ではありません。前払いです。翌年の住民税等が減るだけで、負担は実質2,000円。ただし返礼品のぶん得なので、限度額の範囲でやる価値はあります。
まとめ
- 節税は ①青色申告 → ②経費の漏れ → ③家事按分 → ④所得控除 → ⑤共済 → ⑥資産 → ⑦法人化 の順
- ①〜④は現金が1円も出ていかない。ここを全部やってから⑤以降へ
- 青色65万円控除は約22万円の節税で支出ゼロ。やらない理由がない
- ⑤は課税の繰延べ。掛けたお金は当面使えない
- ⑥は買う予定があるときだけ。予定がないなら何もしないのが正解
- 節税しても税金はゼロにならない。納税資金を必ず残す
- 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)/28条の2(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)/28条(中小企業倒産防止共済の掛金)
- 所得税法37条1項(必要経費)/45条(家事関連費)/72条〜87条(所得控除)/144条・147条(青色申告の承認申請)
- 所得税法施行令96条(家事関連費)/138条・139条(一括償却資産)
- 小規模企業共済法/確定拠出年金法/中小企業倒産防止共済法
- 国税庁タックスアンサー「青色申告特別控除」「一括償却資産」「所得控除のあらまし」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です。令和8年度税制改正により、青色申告特別控除および少額減価償却資産の特例の金額が変わります
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