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更新日 2026-08-07 消費税とインボイス

1万円未満の領収書にインボイスは要らない──ただし2029年9月30日で終わる「少額特例」の話

インボイス制度が始まってから「1円の領収書まで登録番号を確認しないといけない」という話が広まりました。実際には、一定規模以下の事業者には、税込1万円未満の仕入れについてインボイスの保存を求めない特例があります。

そしてこの特例には終わりの日が決まっています。令和11年(2029年)9月30日です。令和8年度改正で経過措置の割合は組み替えられましたが、この少額特例は延長されませんでした。

この記事の結論

  • 対象者=基準期間の課税売上高1億円以下 または 特定期間の課税売上高5,000万円以下(「または」判定)
  • 対象=税込1万円未満の課税仕入れ。インボイスの保存は不要で帳簿だけで引ける
  • 期間=令和5年10月1日〜令和11年9月30日に行う課税仕入れ。令和8年度改正でも延長されていない
  • 判定は「1回の取引」の税込金額。一商品ごとでも、月まとめ請求書の合計でもない
  • 手続は一切ない。届出も、帳簿への「少額特例」の記載も要らない
  • 免税事業者から買っても全額引ける。7割控除の経過措置ではなく、満額
  • 特定期間の判定に給与等の支払額は使えない(納税義務の判定とは違う)
  • 個人事業者にとって令和11年は「年の途中でルールが変わる年」になる

1. まず、誰の話なのか

この特例が効くのは一般課税(本則課税)で消費税を計算している人です。

簡易課税・2割特例・3割特例は、売上の消費税だけで納付額を計算します。仕入側の領収書は納付額に影響しません(所得税・法人税の経費としては当然必要です)。どの方法で計算するかは2割特例・簡易課税・本則、どれで計算する?にまとめました。

つまりこの記事は、一般課税の人が「この領収書、インボイスじゃないけど引けるのか」で悩む場面の話です。

2. 対象になるのは、どのくらいの規模か

判定 基準 期間の意味
① 基準期間の課税売上高 1億円以下 個人はその年の前々年、法人はその事業年度の前々事業年度
② 特定期間の課税売上高 5,000万円以下 個人は前年1月1日〜6月30日、法人は前事業年度開始の日以後6月の期間

①と②は「または」です。基準期間が1億円を超えていても、特定期間が5,000万円以下なら使えます。

ただし、特定期間の判定に給与等の支払額を使うことはできません。課税事業者になるかどうかの判定(納税義務の判定)では「課税売上高に代えて給与等支払額でもよい」という選択がありますが、少額特例では課税売上高だけです。ここは制度が違います。課税事業者の判定のほうは売上1000万円を超えそうにあります。

新しく設立した法人で基準期間がない課税期間については、特定期間の課税売上高が5,000万円を超えていても適用できます。

3. 令和8年度改正でも延長されなかった

国税庁が公表している「インボイスに関する経過措置の適用期限一覧」を見ると、令和8年度改正で動いたものと動かなかったものがはっきり分かれます。

措置 期限 令和8年度改正
2割特例 令和8年9月30日を含む課税期間 終了。個人のみ3割特例
8割/7・5・3割控除 80%は令和8年9月30日まで→70%→50%→30% 2年延長され、令和13年9月30日まで
少額特例 令和11年9月30日 変更なし

経過措置の割合が組み替わった話は2026年10月から、免税事業者への支払いは7割しか引けないに、2割特例の終了と3割特例は2割特例が終わるに書きました。

少額特例だけ、期限が動いていません。「経過措置がぜんぶ2年延びた」と覚えていると、令和11年10月に足をすくわれます。

個人事業者にとって、令和11年は年の途中でルールが変わる年になります。この特例は「その期間に行う課税仕入れ」を対象にしているので、課税期間の区切りとは無関係に、令和11年9月30日で切れます。

令和11年 1万円未満の仕入れ
1月1日〜9月30日 インボイス不要。帳簿だけで引ける
10月1日〜12月31日 1万円未満でもインボイスの保存が必要

法人も同じです。決算期に関わらず、令和11年9月30日で切れます。3月決算なら令和12年3月期の途中、12月決算なら令和11年12月期の途中で扱いが変わります。

4. 判定は「1回の取引」の税込金額

ここがいちばん間違えられるところです。1万円未満かどうかは、1回の取引の税込金額で判定します。一商品ごとの金額ではありませんし、月まとめ請求書の合計でもありません。

国税庁が示している例で見ると分かりやすくなります。

ケース 判定
5,000円の商品を3日に、7,000円の商品を10日に購入し、それぞれ請求・精算 それぞれ1万円未満。両方とも対象
5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入(合計12,000円) 1万円以上。対象外
1回8,000円のクリーニングを2日と15日に1回ずつ、それぞれ請求・精算 それぞれ対象
月額100,000円の清掃業務(稼働日数12日) 対象外。日割りして1日8,333円とは考えない

「税込」で判定します。支払額に100/110を掛けた税抜金額で比較することはできません。9,900円(税込)はセーフ、11,000円(税込)はアウトです。

実務では、取引ごとに交付される納品書や請求書の単位で見るのが基本になります。月まとめ請求書のように複数の取引をまとめた単位で判定することはできません。逆に言えば、月まとめ請求書が10万円でも、その中身が1回1万円未満の取引の集まりなら、それぞれが対象です。

なお、この「1回の取引で判定する」という考え方は、3万円未満の公共交通機関の特例と同じです。そちらは電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らないにまとめました。

5. 手続は、一切ない

これは覚えておくと楽になります。

  • 届出書は要りません
  • 帳簿に「少額特例」と書く必要もありません
  • 承認も、事前の申請も、何もありません

要件を満たす事業者が1万円未満の仕入れをしたら、そのまま帳簿の保存だけで引けます。帳簿に書くのは、いつもの4項目(相手方の氏名・取引年月日・内容・支払対価の額)だけです。

帳簿に相手方の登録番号を書く必要がないのは、少額特例に限らずインボイス制度全体の話です。ここを過剰に作り込んで事務負担を増やしている例をよく見ます。

6. 免税事業者から買っても、満額引ける

これが少額特例のいちばん大きいところです。

登録していない相手からの仕入れは、原則として引けません。経過措置で一定割合だけ引けますが、令和8年10月からその割合は70%に下がります。

ところが、1万円未満で少額特例の対象になる仕入れは、相手が免税事業者でも全額引けます。70%ではなく100%です。

1万円未満の仕入れ 相手が登録事業者 相手が免税事業者・消費者
少額特例が使える事業者 全額控除 全額控除
少額特例が使えない事業者 全額控除(インボイスの保存が必要) 70%控除(令和8年10月〜。区分記載請求書等と帳簿の保存が必要)

つまり、令和8年10月以降に70%控除の帳簿記載が必要になるかどうかは、規模で分かれます。1億円以下の事業者なら、1万円未満の取引について「7・5・3割控除を受ける課税仕入れである旨」を書く必要がありません。

7. 「少額減価償却資産の特例」とは別の制度です

名前が似ていて混同されますが、まったく別の話です。

少額特例(この記事) 少額減価償却資産の特例
税目 消費税 所得税・法人税
内容 1万円未満はインボイスの保存が不要 一定額未満の資産を買った年に全額経費にできる
期限 令和11年9月30日 令和11年3月31日まで(令和8年度改正で40万円未満・従業員400人以下

減価償却のほうは少額の資産は一括で経費にできるにあります。同じ「少額」でも、金額基準も期限も別物として覚えてください。

8. 終わったあとに備えて、いま決めておくこと

令和11年10月以降は、1万円未満の細かい支出にもインボイスが必要になります。いまのうちにやっておくと後が楽です。

① 継続的に払っている少額の相手を洗い出す
毎月の少額の外注、駐車場代、サブスクなど、繰り返し発生するものから先に確認します。1回きりの支出より優先度が高いところです。

② 登録の有無を、公表サイトで確認して記録しておく
国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認できます。期中に登録をやめる相手もいるので、継続取引は年1回見直す運用にしておくのが安全です。

③ そもそも一般課税を続けるのかを考える
簡易課税なら、この事務は最初から発生しません。売上規模と事業区分によっては、そちらのほうが有利で、しかも事務が軽いという判断があり得ます。有利不利の考え方は簡易課税のみなし仕入率、自分は何種?にまとめました。

④ 帳簿のみで引ける取引を先に押さえる
少額特例が終わっても、電車代・自販機・出張旅費などは引き続き帳簿だけで引けます。こちらは期限のない恒久的な扱いです。→電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らない

範囲注記:この記事は消費税の仕入税額控除の要件を扱っています。個々の取引の判定は契約内容・請求単位によって変わるため、実際の処理は所轄税務署または関与税理士に確認してください。この記事は2026年8月時点の制度に基づきます。

まとめ

  • 対象者=基準期間1億円以下 または 特定期間5,000万円以下。「または」で判定する
  • 特定期間の判定に給与等支払額は使えない
  • 対象=税込1万円未満の課税仕入れ。帳簿だけで引ける
  • 判定は1回の取引。同時購入なら合算、月まとめ請求書の合計では見ない
  • 手続は一切なし。帳簿への記載も不要
  • 免税事業者から買っても満額引ける(70%ではない)
  • 期限は令和11年9月30日。令和8年度改正でも延長されなかった
  • 個人も法人も、課税期間の途中でルールが変わる
  • 「少額減価償却資産の特例」とは別の制度

この記事の主な根拠(出典)

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電車代・自販機・出張旅費はインボイスが要らない|帳簿だけで引ける10類型
2026年10月から、免税事業者への支払いは7割しか引けない
2割特例が終わる──個人は3割特例へ、法人は特例なしへ
2割特例・簡易課税・本則、どれで消費税を計算する?
領収書をなくした・もらい忘れた経費はあきらめる?

この記事の位置づけ

この記事は「3 インボイスが要らない場面を覚える」の詳細です。

消費税は、選び方と期限で税額が変わります——コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。

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