事業用の口座は分けた。カードも作った。それなのに記帳がややこしい——という相談の多くは、キャッシュレス決済が原因です。
QRコード決済で売上を受け、カード決済で経費を払い、電子マネーにチャージしてコンビニで消耗品を買う。お金の出入り口が5つも6つもある状態です。
整理のコツはひとつだけ。「受け取る(入口)」と「払う(出口)」を分けて考えることです。
この記事の結論
– 受け取りは事業専用に、支払いは1つに寄せる。全部を専用にしなくていい
– 売上は入金された金額ではなく、お客さんが払った総額で計上する。手数料は経費
– 入金は数日〜1か月後にずれる。12月の売上が1月入金なら未収入金で年をまたぐ
– チャージは経費ではない。使ったときに経費になる
– 個人の残高で事業の経費を払ったら事業主借。逆は事業主貸
– 決済アプリの取引履歴やWeb明細は電子取引データ。印刷ではなくデータで保存する
同じ「キャッシュレス」でも、性格がまったく違います。
| 入口(受け取る) | 出口(払う) | |
|---|---|---|
| 例 | PayPay・楽天ペイの店舗用、Square、Stripe、STORES、note・BASEの売上 | クレジットカード、QR決済、電子マネー、デビットカード |
| 記帳の論点 | 総額計上と手数料、入金のタイムラグ | 証拠の残し方、私用との混在 |
| 分けるべきか | 絶対に事業専用にする | 1つに寄せれば兼用でも回る |
| 会計ソフト連携 | 最優先でつなぐ | 事業用口座・カードの次でよい |
入口だけは妥協しないでください。 売上が個人の残高に混ざると、あとから「これは売上、これは友達からの立替返金」と仕分ける作業が発生します。1年分たまると、まず終わりません。
口座を分ける話そのものは事業用の口座って本当に分けなきゃダメ?、屋号付き口座は屋号付き口座はどこの銀行で作れる?にあります。
いちばん多い間違いがこれです。
お客さんが11,000円払った。決済手数料が3.6%引かれて、10,604円が口座に入った。このとき売上は10,604円ではありません。
売上 11,000円/支払手数料 396円
売上は総額で計上し、手数料は必要経費として別に計上します(所得税法36条・37条)。
| やり方 | 売上 | 経費 | 利益 | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| 正しい | 11,000円 | 396円 | 10,604円 | ― |
| 入金額で計上 | 10,604円 | 0円 | 10,604円 | 利益は同じだが売上が過少 |
「どうせ利益は同じでは?」と思うかもしれません。利益は同じです。それでも総額で計上すべき理由が3つあります。
仕訳にすると、こうなります。
| 日付 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 売上日 | 売掛金 11,000 | 売上 11,000 |
| 入金日 | 普通預金 10,604 支払手数料 396 |
売掛金 11,000 |
会計ソフトの自動連携を使うと、入金額だけを取り込んで「売上10,604円」にしてしまうことがあります。連携直後に一度だけ、総額で入っているか確認してください。
キャッシュレスのもうひとつの論点が、入金のずれです。
決済サービスの入金サイクルは即日から翌月末まで幅があり、契約プランや金融機関によっても変わります。自分の管理画面で確認するのが確実です。
問題は12月です。
| 出来事 | 日付 | 計上する年 |
|---|---|---|
| お客さんが決済した | 12月28日 | 今年の売上 |
| サービスから入金された | 1月15日 | (入金は来年) |
売上は引き渡し・役務提供の時点で計上します。だから12月28日の決済は今年の売上で、年末時点では未収入金(または売掛金)として残ります。入金日で売上を立てていると、その分が翌年にずれ込みます。
年またぎの処理そのものは12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?で仕訳つきに整理しています。決済サービスを使っている人は、12月31日時点の「未入金残高」を管理画面でスクリーンショットして残しておくと、翌年の照合が一瞬で終わります。
支払い側でいちばん間違えやすいのが、チャージの扱いです。
電子マネーやQR決済に1万円チャージした。これは経費ではありません。お金の置き場所が変わっただけです。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 事業用口座から1万円チャージした | 前払金(または仮払金) ※経費ではない |
| チャージ残高で3,000円の消耗品を買った | 消耗品費 3,000円 ← ここで経費になる |
| 個人のチャージ残高で事業の経費を払った | 事業主借 |
| 事業用の残高で私物を買った | 事業主貸 |
厳密にやるなら上の表のとおりですが、少額なら簡便法で十分です。個人の残高で払って、都度「事業主借」で処理する。この形なら、チャージの管理そのものが不要になります。金額の大きい支払いだけ事業用のカードに寄せる、という運用が現実的です。
口座が混ざってしまった状態からの立て直しは生活費と事業費が同じ口座で混ざっていたときの立て直し方にまとめています。
判断の基準は「取引の件数」と「あとから説明できるか」です。
| 手段 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 店舗・EC の決済サービス(Square・Stripe・BASE等) | 事業専用が必須 | 売上そのもの。私用と混ざる余地を作らない |
| PayPay等の「受け取り用」アカウント | 事業専用が必須 | 個人の送金と混ざると仕分け不能になる |
| クレジットカード | 事業用を1枚作る | 明細がそのまま帳簿になる(事業用カードの審査) |
| QR決済・電子マネー(払う側) | 兼用でよい | 事業主借で処理。1つに絞るのがコツ |
| 交通系ICカード | 兼用でよい | 事業分だけ抜き出す。定期区間の扱いに注意 |
| デビットカード | 事業用口座に紐づけるなら専用 | 即時引落しで残高照合がラク |
全部を専用にしようとすると挫折します。 入口は専用、出口は1つに寄せる。これで記帳の8割は片づきます。
自動連携は便利ですが、つなぎ過ぎると未処理の山ができます。おすすめの順番はこうです。
ソフトの選び方は会計ソフトはどれを選ぶ?を参照してください。
課税事業者の人は、決済手数料の扱いを一度確認しておいてください。
明細に登録番号が載っているか、消費税額の表示があるかを確認してください。判断に迷う場合は、決済サービスのヘルプに税務上の取扱いが書かれていることが多いです。
決済アプリの取引履歴、サービスからのメール、Web上の利用明細。これらは電子取引に該当します。
紙に印刷して保存するのではなく、データのまま保存するのが原則です。PDFでダウンロードして、日付・取引先・金額が分かるファイル名で残しておけば十分です(電子取引のデータ保存は何をすればいい?)。
決済サービスの取引明細は、ダウンロードできる期間に制限があることが多い点に注意してください。年に1回、確定申告のタイミングでまとめて落としておくのが安全です。
Q. 個人のPayPayで売上を受け取ってしまいました。どうすればいいですか。
受け取った分は売上として計上し、個人の残高に入った事実は事業主貸で処理します(事業のお金を個人が持っている状態)。そのうえで、受け取り専用のアカウントに切り替えてください。過去分は仕方ないので、今からの分を分けるほうが大事です。
Q. 手数料を引かれた後の金額で1年間ずっと売上を立てていました。
決算のときにまとめて修正できます。年間の手数料合計をサービスの管理画面から出し、売上と支払手数料を両建てで増やします。利益は変わらないので、税額への影響はありません。
Q. ポイント還元で買った消耗品は経費になりますか。
ポイントで値引きされた場合、経費になるのは実際に支払った金額です。事業のポイントを使ったなら値引きとして処理するのが基本です。金額が大きい場合は個別に確認してください。
Q. 少額の決済が多すぎて記帳が終わりません。
同じ内容の少額取引は、月ごとに合計して1本の仕訳にまとめる方法が使えます。明細データは保存したうえで、帳簿上は集計仕訳にする形です。ただし取引の内容が分かる資料は残しておいてください。
Q. レシートをもらえない決済(アプリ内課金など)はどうしますか。
アプリの購入履歴やメールの領収通知が証拠になります。それも無い場合は、日付・相手・金額・内容を書いた出金伝票を作ります。
Q. 未入金が続いています。督促のときに気をつけることは?
決済サービス経由なら、まずサービス側の入金ステータスを確認してください。取引先への直接請求で止まっている場合の進め方は「あの入金、まだですか」を言えるようにするにまとめています。
Q. 決済サービスの入金は、通帳では1本にまとまって入ってきます。
それが普通です。入金1本に対して、その期間の売上明細(サービス側のレポート)を対応させて保存してください。会計ソフトの連携を入れると、この突き合わせが自動化されます。
👉 事業用の口座って本当に分けなきゃダメ?
👉 12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?
👉 電子取引のデータ保存は何をすればいい?
👉 事業用クレジットカードの審査は通る?
👉 会計ソフトはどれを選ぶ?