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更新日 2026-07-26 起業時の知識第58回

持ち家でも家賃みたいに経費にできる?持ち家の家事按分と住宅ローン控除の「両取り」注意点

家事按分の記事は、たいてい賃貸を前提に書かれています。「家賃の30%を経費に」という説明です。

では持ち家はどうなるのか。家賃を払っていないから、経費はゼロなのか。

そんなことはありません。ただし賃貸とは考え方がまったく違いますし、住宅ローン控除を使っている人は、按分を増やすと損をすることがあります。ここが持ち家いちばんの落とし穴です。

この記事の結論
– 持ち家でも建物の減価償却費・借入金の利息・固定資産税・火災保険料などは按分して経費にできる
ローンの元本返済は経費にならない。経費になるのは利息部分だけ
– 住宅ローン控除は居住用割合で按分される。事業用が10%以下なら控除は満額
事業用が50%を超えると、住宅ローン控除そのものが使えない
– 按分を増やすと経費は増えるが控除は減る。税率が低い人ほど、増やすと損になりやすい
– 控除の期間が終わったら、按分を見直す価値がある

持ち家で按分できるもの・できないもの

まず全体像です。賃貸の「家賃」に相当するものが、持ち家では複数の費目に分かれます。

費目 按分して経費に 補足
建物の減価償却費 持ち家で最も大きい。土地は対象外
借入金の利息 事業使用割合に対応する部分
借入金の元本返済 借金を返しているだけ。経費ではない
固定資産税・都市計画税 通知書の金額を按分
火災保険料・地震保険料 事業用部分は経費、居住用部分は地震保険料控除へ
マンションの管理費 按分して経費
修繕積立金 取扱いが分かれる。金額が大きい場合は個別に確認
修繕費 事業スペースだけの工事なら全額のことも
水道光熱費・通信費 賃貸と同じ考え方
土地の減価償却 土地は減価しない

元本と利息を分ける——ここだけは絶対に間違えないでください。返済額が月10万円で、そのうち利息が2万円なら、按分の対象は2万円のほうです。返済予定表(償還予定表)に内訳が載っています。

経費の線引き全体は経費にできるもの・できないもの一覧にまとめています。

建物の減価償却の出し方

持ち家の按分で金額が一番大きく、そして一番ややこしいのがここです。

手順は3つです。

① 建物部分の取得価額を出す
売買契約書に土地と建物の内訳が書いてあればそれを使います。書いていない場合は、消費税額から逆算する方法(消費税は建物にだけかかる)や、固定資産税評価額の比で按分する方法があります。

② 住んでいた期間の減価を差し引く
ここが見落とされがちです。買ってすぐ事業に使い始めた場合を除き、それまで住んでいた期間の分だけ価値が減ったものとして計算します(所得税法施行令135条)。

計算は、法定耐用年数を1.5倍した年数の旧定額法で行います。木造住宅なら22年 × 1.5 = 33年です。

③ 事業に使い始めた後は、通常の耐用年数で償却する

具体例で見ます。

項目 金額・条件
建物の取得価額(木造住宅) 2,000万円
住んでいた期間 5年
非業務期間の減価(2,000万 × 0.9 × 0.031 × 5年) 279万円
事業に使い始めた時点の未償却残高 1,721万円
事業供用後の償却費(2,000万 × 0.046) 年92万円
事業使用割合10%なら経費 年9万2,000円

年に9万円。家賃の按分に比べると地味に見えますが、これが13年、22年と続きます。しかも現金は1円も出ていきません。

減価償却の基本的な考え方は10万円のパソコンは一括経費?減価償却?も参考にしてください。

本題:住宅ローン控除との関係

ここからが持ち家特有の話です。

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、居住用の家に対する制度です。事業に使っている部分は居住用ではないので、控除の対象から外れます。

事業使用割合 住宅ローン控除
10%以下 満額使える(居住用割合が90%以上なら全部を居住用として扱ってよい)
10%超〜50%未満 居住用割合の分だけに減る(事業30%なら控除は70%)
50%以上 控除そのものが使えない(床面積の2分の1以上が居住用であることが要件)

3つめは特に重要です。「経費を増やしたい」と考えて事業用スペースを広く取ると、住宅ローン控除がまるごと消えます。年10万円を超える控除が消えるのですから、按分で取り返せる金額ではありません。

そして1つめ、10%以下なら満額というルール。これが実務上の分岐点になります。

数字で比べる:按分10%と30%、どちらが得か

同じ家で、按分割合だけを変えて比べます。

前提:按分できる年間費用の合計が136万円(減価償却92万+ローン利息30万+固定資産税12万+火災保険2万)。住宅ローンの年末残高2,500万円、控除率0.7%で年17万5,000円の控除。

事業10% 事業30%
経費になる金額 13.6万円 40.8万円 +27.2万円
住宅ローン控除 17.5万円(満額) 12.25万円 −5.25万円

経費が27.2万円増えます。この経費が減らしてくれる税金は、その人の税率次第です。

所得税率 経費増による節税(住民税10%込み) 控除の減少 差引
5% 27.2万 × 15% = 4.08万円 −5.25万円 −1.17万円(損)
10% 27.2万 × 20% = 5.44万円 −5.25万円 +0.19万円(ほぼ互角)
20% 27.2万 × 30% = 8.16万円 −5.25万円 +2.91万円(得)
33% 27.2万 × 43% = 11.7万円 −5.25万円 +6.45万円(得)

税率が低い人ほど、按分を増やすと損になります。

理由は単純です。住宅ローン控除は税額から直接引く制度(税額控除)で、経費は所得を減らすだけ(所得控除に近い効き方)だからです。所得税率5%の人にとって、1万円の経費は1,500円の節税にしかなりません。一方、控除は1万円がそのまま1万円です。

所得控除と税額控除の違いは入れ忘れると損する所得控除 最終チェックリストでも整理しています。

判断の順番

以上をふまえると、順番はこうなります。

  1. まず「事業10%以内」で説明がつくかを考える——つくなら、控除は満額のまま経費も取れる
  2. 10%を超えるなら、上の表で試算する——税率が20%以上なら按分を増やす価値がある
  3. 50%は絶対に超えない——控除が全部消える
  4. 控除の期間(13年など)が終わったら、按分を見直す——ここからは経費を増やすほうが有利

4つめを忘れる人が非常に多いです。控除が終わった年から、按分割合を実態に合わせて引き上げられないか検討してください。ただし割合を変える年には、変えた理由(部屋の使い方が変わった等)を説明できる状態にしておくことが前提です。

根拠の残し方は賃貸と同じ

按分割合の作り方そのものは、賃貸でも持ち家でも変わりません。面積按分が基本で、時間按分を併用します。

  • 間取り図に事業スペースを書き込み、面積を測って割合を出す
  • その紙(またはPDF)を保存しておく
  • 割合を変えた年は、変えた理由をメモに残す

割合の決め方は家事按分の割合をゼロから決める手順、盛りすぎを避ける考え方は“盛りすぎ否認”を避ける割合の決め方、はじめての人は家事按分がはじめてでも分かる考え方を参照してください。車も同じ発想で按分します(車の経費はどこまで?)。

よくある質問(FAQ)

Q. 家は配偶者の名義です。私は按分できますか。
自分が所有していない建物の減価償却費やローン利息は、原則として自分の経費になりません。生計を一にする親族に家賃を払っても経費にできない(所得税法56条)のと同じ考え方です。一方、その家にかかる水道光熱費などは、実際に負担していれば按分できます

Q. 親名義の実家で開業しました。
上と同じで、建物にかかる費用は原則として経費にできません。ただし固定資産税や修繕費を自分が実際に負担している場合の扱いは状況によって異なるので、金額が大きいなら個別に確認してください。

Q. 住宅ローン控除の初年度は確定申告が必要ですか。
必要です。個人事業主は年末調整がないので、2年目以降も毎年、確定申告で適用します。必要書類は控除チェックリストにまとめています。

Q. これまで按分していませんでした。今年からやっていいですか。
問題ありません。実態に合った割合で今年から計上してください。過去の分をさかのぼりたい場合は、更正の請求という手続きがあります(原則5年)。

Q. 減価償却をせずに何年か過ぎてしまいました。
個人の減価償却は強制償却です。計上しなかった年の分をあとの年にまとめて計上することはできません。気づいた年から正しく計算し、未償却残高は本来の計算どおりに管理します。

Q. 将来この家を売ったとき、影響はありますか。
あります。マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は居住用部分だけが対象です。ただし居住用の割合が90%以上であれば、全部を居住用として扱ってよいとされています。ここでも「10%」がひとつの目安になります。

Q. 賃貸から持ち家に引っ越しました。経費はどう変わりますか。
家賃の按分が無くなり、代わりに減価償却・ローン利息・固定資産税の按分に置き換わります。金額の出し方は変わりますが、割合の考え方(面積按分)は同じです。

まとめ

  • 持ち家でも減価償却費・ローン利息・固定資産税・火災保険料・管理費は按分して経費にできる
  • 元本返済は経費にならない。返済予定表で利息だけを抜き出す
  • 建物の減価償却は、住んでいた期間の減価(耐用年数1.5倍の旧定額法)を差し引いてから始める
  • 住宅ローン控除は事業用10%以下なら満額50%以上なら使えない
  • 按分を増やすと経費は増えるが控除は減る。所得税率5%〜10%の人は、増やすとむしろ損
  • 控除の期間が終わったら按分を見直す。ここからは経費を取るほうが有利になる
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法45条(家事関連費)/49条(減価償却費)/56条(事業から対価を受ける親族がある場合)
  • 所得税法施行令96条(家事関連費)/135条(非業務用資産を業務の用に供した場合の減価の額)
  • 租税特別措置法41条(住宅借入金等特別控除。床面積の2分の1以上が居住用であること等の要件)/同通達41-29(居住用部分の割合が90%以上である場合の取扱い)
  • 租税特別措置法35条(居住用財産の3,000万円特別控除)/同通達31の3-8
  • 国税庁タックスアンサー「住宅借入金等特別控除」「減価償却のあらまし」「やさしい必要経費の知識」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です。住宅ローン控除の控除率・控除期間・借入限度額は、住宅の種類と入居年により異なります

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