損益計算書までは出せた。あとは貸借対照表を出して提出するだけ。——なのに、数字が明らかにおかしい。
現金がマイナス。事業主貸が何百万円。元入金という見たことのない科目がいる。65万円控除には貸借対照表が必須なのに、最後の最後でここに詰まる人がとても多いです。
まず前提を1つ、はっきりさせます。会計ソフトを使っている限り、貸借対照表の左右は必ず一致します。 複式簿記の仕組み上、そうなるように作られているからです。
つまりあなたが直面しているのは「左右が合わない」ではなく、「残高が実態と合っていない」という別の問題です。ここを分けると、原因はぐっと絞れます。
この記事の結論
– ソフトを使っていれば左右は必ず一致する。問題は「残高が実態とズレている」こと
– 症状は3つに絞られる。①現金がマイナス ②預金が通帳と違う ③事業主貸借が異常に大きい
– 元入金=事業の元手。期中は動かさない。年末に自動で振り替わる
– 翌期首の元入金=前期の元入金+所得金額(青色申告特別控除前)+事業主借−事業主貸
– 事業主貸・事業主借は悪ではない。生活費の出入りは正しくここへ入れる
– チェックは発生頻度の高い順に。預金 → 現金 → 売掛買掛 → 減価償却 → 借入金 → 棚卸
元入金は、事業に投じた元手です。法人の資本金にあたるものですが、決定的な違いが1つあります。
元入金は毎年、金額が変わります。
年末に、その年のもうけと、生活費の出入りを吸収して、翌年の元入金になります。式はこうです。
翌期首の元入金 = 前期末の元入金 + 前期の所得金額(青色申告特別控除前)+ 事業主借 − 事業主貸
会計ソフトはこの振替を自動で行います。あなたが期中に元入金を触る必要はありません(開業初年度の初期設定を除く)。もし期中の仕訳に元入金が出てきていたら、それはたいてい入力ミスです。
初年度の期首残高の作り方は開業時の設定編にまとめています(期首残高って何を入れる?)。
| 症状 | 意味 | ほぼ確実に言えること |
|---|---|---|
| 現金がマイナス | 物理的にありえない状態 | 入力漏れか、私費の支払いを現金で処理している |
| 預金残高が通帳と違う | 未入力・二重計上・日付違い | 差額の金額で検索すれば当たりが付く |
| 事業主貸/事業主借が巨額 | 生活費と事業のお金が混ざっている | 間違いではないが、中身の説明が必要 |
このうち現金マイナスが最多です。原因もほぼ1つに決まっています。自分の財布(私費)で払った事業の経費を、「現金」で払ったと入力しているからです。
事業用の現金(手提げ金庫)を持っていないなら、私費で払った経費は次のように入れます。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 私費で消耗品を買った | 消耗品費 3,000 | 事業主借 3,000 |
| 事業の口座から生活費を出した | 事業主貸 100,000 | 普通預金 100,000 |
| 私費で払った経費(現金勘定を使う場合) | 消耗品費 3,000 | 現金 3,000 ← これで現金がマイナスになる |
現金勘定を使わないと決めてしまうのが、実は一番安全です。事業用の現金を物理的に管理していないなら、現金勘定は使わないほうがミスが減ります。
上から順に潰してください。上のほうが圧倒的に多く、かつ下の作業に影響します。
| 順 | 確認すること | よくある原因 |
|---|---|---|
| 1 | 12月31日の預金残高が通帳と一致するか | 未入力の取引、同じ取引の二重入力、年をまたぐ日付違い |
| 2 | 現金残高がマイナスでないか | 私費払いを現金で入力(→事業主借へ) |
| 3 | 期首残高が前年の期末と一致するか | 前年の申告後に修正した仕訳が繰り越されていない |
| 4 | 売掛金・買掛金の残高に古いものが残っていないか | 入金・支払の消し込み漏れ、二重計上 |
| 5 | 減価償却の未償却残高が決算書3ページと4ページで一致するか | 固定資産の登録漏れ、除却の未処理 |
| 6 | 借入金の残高が返済予定表と一致するか | 返済額の全額を利子割引料にしている(元金は経費ではない) |
| 7 | 棚卸を入れたか | 期末在庫の未入力 |
| 8 | 事業主貸・事業主借の中身を説明できるか | 生活費・私費の混在(正しい処理だが、金額の妥当性は見られる) |
借入金の返済額は、元金部分と利息部分に分けます。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 借入金 45,000(元金=経費ではない) | 普通預金 50,000 |
| 利子割引料 5,000(利息=経費) |
返済額をまるごと経費にすると、経費が過大になり、借入金の残高が減らないという二重の誤りになります。返済予定表(償還表)で元金と利息の内訳を確認してください。
事業主貸が大きいと不安になりますが、生活費を事業の口座から引き出しているなら、それが正しい姿です。個人事業主は事業の利益で生活しているので、事業主貸は発生します。
そして年末に、この2つは元入金に吸収されて残高0からスタートします。翌年に持ち越されません。
気をつけるのは中身だけです。
「よく分からないから事業主貸にしておく」を続けると、経費が消えます。分からない取引は、その場でメモを残して後で分類するほうが確実です。
開業日より前に払った家賃・備品・研修費などは、開業費(繰延資産)として資産に計上します。生活費と混ざりやすいところなので、貸借対照表を作る前に切り分けてください。
開業費は任意償却なので、好きな年に好きな金額を経費にできます(開業費は「好きな年に一気に経費化」できる)。貸借対照表には未償却残高が資産として残ります。
なお、10万円以上の備品は開業費ではなく減価償却資産、商品の仕入は棚卸資産です。ここが混ざると4ページの数字が崩れます。
青色申告特別控除の65万円・55万円は、貸借対照表と損益計算書の添付が要件です(租税特別措置法25条の2、所得税法施行規則65条)。10万円控除なら貸借対照表は不要です。
言い換えると、貸借対照表を出せないなら控除は10万円。差額は55万円で、税率20%+住民税10%なら16万円以上の差になります。ここを埋める作業には十分な価値があります。
条件の全体像は青色申告65万円控除の条件、2枚の書類の関係は決算書と申告書は何が違う?で整理しています。
Q. 本当に左右が合わないことはないのですか。
複式簿記で入力している限り、貸借は一致します。表示上ズレて見えるのは、当期純利益(元入金への振替)が反映されていない、集計期間の指定が違う、開始残高の登録が片方だけといったケースです。手書きやExcelで作っている場合は、単純な集計ミスもあります。
Q. 元入金がマイナスになりました。異常ですか。
異常ではありません。赤字が続いた、または利益以上に生活費を引き出した場合に起こります。法人の資本金と違い、元入金はマイナスになり得ます。ただし事業のお金で生活費を出しすぎているサインなので、資金繰りは点検してください。
Q. 前年の期末残高と今年の期首残高が違います。
前年の申告後に仕訳を修正した場合に起きます。前年の確定した数字に合わせるのが原則です。前年の申告自体が間違っていたなら、修正申告か更正の請求で直します。
Q. 現金勘定を使わない設定にしてもいいのですか。
問題ありません。事業用の現金を管理していないなら、私費払いは事業主借で処理するほうが実態に合います。事業用の小口現金を置くなら、必ず出納帳を付けることが条件です。
Q. 事業用口座と私用口座が1つしかありません。
帳簿は作れますが、作業量が数倍になります。口座を分けるのが最短の解決策です。年の途中からでも分けられます。
Q. 貸借対照表を空欄で出したらどうなりますか。
貸借対照表が実質的に無記載だと、65万円・55万円控除が認められず10万円控除に落ちるおそれがあります。数字が不安でも、現金・預金・売掛金・借入金・元入金の主要科目は埋めてください。
Q. どうしても合いません。
差額の金額をそのまま検索するのが最短です。金額一致する取引が見つかれば、それが未入力・二重入力です。それでも見つからない場合は、月ごとに残高を突き合わせてズレが始まった月を特定してください。範囲が1か月に絞れれば、ほぼ見つかります。
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👉 決算書と確定申告書は何が違う?2枚の役割と連動