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更新日 2026-07-26 節税・経費

家族に払った家賃・外注費は経費にならない|所得税法56条を図解でほどく

「実家の1階を事務所にしたので、母に家賃を月5万円払っています」
「妻にデザインを外注して、月10万円払っています」

どちらも経費になりません

支払いが本当に行われていても、契約書があっても、相場どおりでも変わりません。所得税法56条という条文が、生計を一にする親族への支払いを丸ごと封じているからです。

ただし、この条文にはセットになった救済があります。それを知らずに「経費ゼロ」で終わっている人がとても多いので、そこまで含めて整理します。

この記事の結論
生計を一にする親族への支払いは、名目を問わず必要経費にならない(所法56条)
– 家賃・地代・外注費・利息・給料——すべて対象。労務の対価に限らない
– 代わりに、その親族が負担した固定資産税・減価償却費・保険料などは、あなたの経費になる
– 受け取った親族側は、その対価を収入に計上しない
別生計なら56条は適用されない。ただし「別生計」の実態が必要
– 唯一の例外が青色事業専従者給与/白色の事業専従者控除(所法57条)

条文が言っていること

所得税法56条は、3つのことを同時に決めています。

内容
事業主が、生計を一にする親族に支払った対価は、必要経費にしない
代わりに、その親族がその対価を得るために支出した費用は、事業主の必要経費にする
その親族は、受け取った対価を収入に計上しない

つまり「家族の中でお金を動かしても、税務上はなかったことにする」という規定です。そのうえで、②によって「家族が外部に払った実費だけは、事業主の経費として認める」という設計になっています。

なぜこんな規定があるのか。ないと、家族間で自由に所得を分散できてしまうからです。所得税は累進課税なので、1人で1,000万円稼ぐより、4人で250万円ずつのほうが税額は下がります。それを封じるための条文です。

「その他の事由」が広い

56条でよく誤解されるのが範囲です。条文には「事業に従事したことその他の事由により」とあります。

労務の提供に限りません。

支払い 経費になるか
生計を一にする親に払う家賃・地代
生計を一にする配偶者に払う外注費・業務委託料
生計を一にする親族からの借入金の利息
生計を一にする親族に払う給料(届出なし)
生計を一にする親族に払うリース料・使用料
生計を一にする親族への売上原価の支払い(仕入)

「業務委託にすればいい」「家賃という形にすればいい」は通りません。最高裁も、生計を一にする配偶者が独立した事業者(弁護士)として受け取った報酬について、56条の適用を認めています(最高裁平成16年11月2日判決)。相手が独立した事業者であっても関係ないということです。

セットになった救済:親族が払った費用は経費になる

ここが実務でいちばん使える部分です。

56条②により、その親族が「その対価を得るために」支出した費用は、事業主の必要経費に算入されます。

実家の1階を事務所にしている例で見てみます。

扱い
母に払う家賃 月5万円(年60万円) 経費にならない
母が負担している固定資産税のうち事務所部分 あなたの経費になる
建物の減価償却費のうち事務所部分 あなたの経費になる
火災保険料のうち事務所部分 あなたの経費になる
修繕費のうち事務所部分 あなたの経費になる
母が受け取った家賃60万円 母の収入にしない

つまり、家賃を払うのをやめても、経費はゼロになりません。建物にかかる実費を按分して計上できます。

しかも家賃を払わないほうが有利になることが多いです。家賃を払っても経費にならないのに、家計からお金だけが出ていくからです。

按分の考え方は持ち家の場合と同じで、面積按分が基本になります(持ち家でも家賃みたいに経費にできる?家事按分の割合をゼロから決める手順)。

残しておく資料

  • 建物の固定資産税の納税通知書(母宛のもの)
  • 登記事項証明書または売買契約書(取得価額・構造・築年数)
  • 間取り図に事業スペースを書き込んだもの(面積按分の根拠)
  • 火災保険の証券

「生計を一にする」とは

56条が適用されるかどうかは、同居しているかではなく「生計を一にしているか」で決まります。

状況 生計を一か
同居して家計も一緒 該当する
同居しているが完全に家計が別(生活費を分けている) 該当しない場合がある(証明が必要
別居しているが生活費を仕送りしている 該当する
別居していて経済的にも独立 該当しない
単身赴任・進学で別居、生活費は同一 該当する

別居していても該当するのがポイントです。「離れて暮らしているから大丈夫」ではありません。

逆に、完全に独立した子に外注するようなケースでは56条は適用されず、経費にできます。ただしその場合は、

  • 実際に業務を行っている(成果物・作業記録がある)
  • 金額が相場に照らして妥当
  • 契約書・請求書があり、実際に振込で支払っている
  • 生計が別であること(住民票、生活費の負担状況)

を説明できる状態にしてください。書類の形だけを整えても、実態がなければ否認されます。

なお「生計を一にする」は社会保険料控除でも使う概念です。そちらは逆に有利に働く(家族の国民年金を自分の控除にできる)ので、併せて妻や子の国民年金、自分の控除に入れていい?を読んでおくと理解が早いです。

唯一の例外:専従者給与

56条には例外があります。所得税法57条の青色事業専従者給与と、白色申告の事業専従者控除です。

青色事業専従者給与 白色の事業専従者控除
前提 青色申告 白色でも可
手続 届出書の提出が必要(原則3月15日まで) 不要
金額 届出の範囲内で、労務の対価として相当な額 配偶者86万円/その他の親族50万円(上限)
実額 実際に支払った額 実額ではなく定額
条件 6か月超その事業に専ら従事、15歳以上、生計を一 同左

届出を出していない給与は、1円も経費になりません。「実際に払っているから大丈夫」は通りません。

また、専従者にすると配偶者控除・扶養控除が使えなくなります。金額によっては差引きで損をするので、必ず試算してください(配偶者を青色事業専従者にすべき?)。

ケース別まとめ

ケース 家賃・報酬 代わりに経費にできるもの
実家(親名義)の一部を事務所に。同居 固定資産税・減価償却費・保険料・修繕費の按分
実家(親名義)の一部を事務所に。別居で生計も別 家賃そのもの(相場・契約・入金の証拠が必要)
配偶者名義の家に住み、一部を事務所に 同上(固定資産税等の按分)
配偶者に業務を外注 専従者給与の届出を検討
独立した子に業務を外注
親から事業資金を借り、利息を払う 親が銀行に払っている利息があれば、その部分
生計を一にする親族から仕入 その親族が外部に払った仕入原価

よくある質問(FAQ)

Q. 契約書を作って、銀行振込にすれば経費になりませんか。
なりません。56条は支払いの形式ではなく、当事者の関係で適用されます。証拠を整えても結論は変わりません。

Q. 母は年金収入だけです。それでも家賃を収入にしなくていいのですか。
はい。56条③により、受け取った側は収入に計上しません。だからこそ払っても払わなくても税務上は同じなのです。家計としては、家賃を払うぶんだけお金が動くだけです。

Q. 何年も家賃を経費に入れていました。
指摘されれば否認されます。金額が大きい場合は修正申告を検討してください。同時に、入れ忘れていた固定資産税・減価償却費の按分を計上できるので、思ったほど税額は増えないこともあります。

Q. 親名義の建物を、無償で借りています。それでも減価償却費を経費にできますか。
できます。56条②は「その親族がその対価に係る必要経費に算入されるべき金額」を事業主の経費にすると定めています。無償で借りている場合も同じ考え方で、親が負担している固定資産税・減価償却費・保険料の事業使用部分を計上できるとされています。金額が大きくなるので、資料は必ず残してください。

Q. 同居していますが、家計は完全に別です。
理論上は56条の対象外ですが、同居している親族について「生計が別」と認められるのは簡単ではありません。水道光熱費の契約が別、生活費を各自が負担している、食事も別、といった実態と資料が必要です。慎重に判断してください。

Q. 法人にすれば家族への家賃は経費になりますか。
なります。法人は事業主本人と別人格なので、56条の適用がありません。役員の親族に家賃を払う場合も、相場に照らして妥当な金額であれば経費です。ここは法人化の実務的なメリットのひとつです。

Q. 専従者にすると、そのぶん税金は減りますか。
必ずしも減りません。専従者給与を経費にできる代わりに、配偶者控除38万円が消え、受け取る側に所得税・住民税・社会保険の負担が発生することがあります。試算してから決めてください。

まとめ

  • 生計を一にする親族への支払いは、名目を問わず経費にならない(所法56条)
  • 対象は労務の対価に限らない。家賃・地代・外注費・利息・仕入すべて
  • 相手が独立した事業者でも適用される(最高裁平成16年11月2日判決)
  • 代わりにその親族が負担した固定資産税・減価償却費・保険料等は、事業主の経費になる
  • 受け取った親族側は収入に計上しない
  • 判定は同居かどうかではなく「生計を一にするか」。別居でも該当する
  • 例外は青色事業専従者給与白色の事業専従者控除のみ。届出が必須
  • 法人には56条の適用がない
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)/57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等=青色事業専従者給与・事業専従者控除)/37条1項(必要経費)
  • 所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義)/56-1(親族の資産を無償で使用している場合)
  • 最高裁判所 平成16年11月2日 第三小法廷判決(生計を一にする配偶者である弁護士に支払った報酬への56条の適用)
  • 国税庁タックスアンサー「生計を一にする親族に支払う地代家賃等」「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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