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更新日 2026-07-26 節税・経費

不動産を持っている個人事業主の税金|5棟10室・青色65万円・損益通算・土地の負債利子

本業をやりながら、アパートや駐車場を持っている——このパターンは思ったより多くいます。

そして事業所得と不動産所得の両方がある人は、間違いが起きやすいです。青色申告特別控除を二重に取ってしまったり、逆に取れるはずの65万円を取り損ねていたり、赤字の一部が通算できないことを知らなかったり。

私自身、税理士として申告の現場に立ちながら、自分でも賃貸物件を持っています。両方の側から見て、つまずきやすいところを整理します。

この記事の結論
青色申告特別控除は、事業所得と不動産所得を合わせて1回だけ。両方で65万円は取れない
事業所得があれば、不動産が事業的規模でなくても65万円控除は取れる——ここは誤解が多い
– 「5棟10室」で変わるのは、専従者給与・資産損失の全額計上・貸倒損失など
– 不動産所得の赤字は損益通算できるが、土地の取得に係る負債利子は対象外(措法41条の4)
– 建物と土地を一括で借りたときは、利息はまず建物分に充てたものとして計算する
経営セーフティ共済は不動産所得では使えない
不動産の売却は分離課税。事業用の車・機械の売却(総合課税)とは別計算
– 個人事業税は、不動産貸付業として別の認定基準で判定される

まず整理:2つの所得は別々に計算する

事業所得 不動産所得
中身 本業(サービス・物販・製造など) 賃貸による収入(アパート・駐車場・貸倉庫など)
計算 収入 − 必要経費 収入 − 必要経費
決算書 青色申告決算書(一般用) 青色申告決算書(不動産所得用
損益通算 できる できる(一部制限あり

決算書は別々に作ります。同じ帳簿に混ぜてはいけません。会計ソフトでは「部門」や「事業区分」を分けて管理します。

そのうえで、両方の所得を合算して所得税を計算します。

① 青色申告特別控除は「合わせて1回」

いちばん多い間違いがこれです。

青色申告特別控除は、不動産所得・事業所得・山林所得を通じて、合計で最高65万円です。

誤り 正しい
事業所得で65万円 + 不動産所得で65万円 = 130万円 合わせて65万円

控除する順番も決まっていて、不動産所得 → 事業所得 → 山林所得の順に差し引きます。

「事業的規模でなくても65万円」の話

もう1つ、逆方向の誤解があります。

不動産所得だけの人は、事業的規模(5棟10室)でなければ青色申告特別控除は10万円です。

ところが、事業所得がある人は違います。事業所得のほうが事業として行われていれば、不動産が事業的規模でなくても、65万円(または55万円)の控除を受けられます

あなたの状況 青色申告特別控除
不動産所得だけ、アパート1室 10万円
不動産所得だけ、5棟10室以上 65万円(要件を満たせば)
事業所得あり + アパート1室 65万円(要件を満たせば)

つまり、本業を事業として営んでいる人は、副業的な不動産があっても65万円控除が使えるということです。取り損ねている人が多い部分です。

65万円の要件(複式簿記・貸借対照表・e-Taxまたは電子帳簿保存)は青色申告特別控除65万円の条件、金額の区分は65万円・55万円・10万円の違いを参照してください。

② 「5棟10室」で何が変わるか

事業的規模(社会通念上の事業と認められる規模)の目安が5棟10室基準です。

種類 目安
独立家屋 おおむね5棟以上
アパート・マンション おおむね10室以上
駐車場 5台で1室として換算するのが一般的(法令上の明文ではなく実務上の目安)

※あくまで目安であり、最終的には社会通念上、事業と認められるかで判断されます。

事業的規模だと変わるもの

項目 事業的規模 事業的規模でない
青色申告特別控除(不動産所得のみの人) 65万円 10万円
青色事業専従者給与 使える 使えない
資産損失(取壊し・除却) 全額を必要経費 その年の不動産所得を限度
貸倒損失(家賃の回収不能) 全額を必要経費 収入があった年に遡って計算(所法64条1項)
貸倒引当金(一括評価5.5%) 使えない(事業所得限定) 使えない
延納に係る利子税 必要経費になる 同左

専従者給与が使えるかどうかが実務的にはいちばん大きな差です(青色事業専従者給与)。

なお、一括評価の貸倒引当金(5.5%)は事業所得限定なので、不動産所得では事業的規模でも使えません(貸倒損失と貸倒引当金)。

③ 損益通算——ただし土地の負債利子は別

不動産所得が赤字になったとき、その赤字は事業所得や給与所得と通算できます。減価償却費が大きい年には、これが効きます。

ただし例外があります。

土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の損失は、損益通算できません(租税特別措置法41条の4)。

計算のしかた

不動産所得が赤字で、その中に土地取得の借入利息が含まれている場合——

金額
不動産所得の損失 ▲200万円
うち土地取得に係る負債利子 120万円
損益通算できる金額 ▲80万円
通算できない金額 120万円(切り捨て)

※損失の額が土地の負債利子より小さい場合は、損失の全額が通算できません。

建物と土地を一括で借りたとき

多くの場合、アパートの購入資金は土地と建物を分けずに借ります。このとき、

借入金は、まず建物の取得に充てられたものとして計算する

という有利な取扱いがあります。つまり、建物の取得価額を超える部分だけが「土地取得のための借入」とされます。

例:借入5,000万円、建物2,000万円、土地3,000万円
借入のうち建物分=2,000万円
借入のうち土地分=3,000万円
利息のうち土地分(3,000/5,000=60%)が損益通算の制限対象

この計算をしていない申告書をよく見ます。建物比率が高い物件(築浅の木造アパートなど)ほど有利になるので、必ず計算してください。

④ 使えない制度・注意する制度

制度 不動産所得での扱い
経営セーフティ共済 不動産所得の必要経費にできない(事業所得の必要経費。不動産所得だけの人は加入対象外)(経営セーフティ共済
小規模企業共済 不動産賃貸業は原則対象外(事業的規模で「事業」と認められる場合など、加入資格は中小機構の判断)
一括評価の貸倒引当金 事業所得限定
少額減価償却資産の特例 不動産所得でも事業的規模なら使える
青色事業専従者給与 事業的規模のみ

「不動産所得を減らすために経営セーフティ共済に入る」はできません。掛金は事業所得の必要経費です。

⑤ 建物の減価償却——定額法しか選べない

資産 償却方法
建物 定額法(平成10年4月1日以後に取得したもの)
建物附属設備・構築物 定額法(平成28年4月1日以後に取得したもの)
器具備品・機械装置 個人は定額法が法定(届出により定率法も選択可)

「4年落ちの中古で定率法を使って一気に落とす」という話は法人の話です。個人は定額法が法定償却方法で、建物・建物附属設備・構築物は定額法しか選べません

一方、中古で取得すれば耐用年数を短くできる(簡便法)のは個人でも同じです。木造アパート(法定22年)を築22年超で買えば、4年で償却できます。

⑥ 自宅兼賃貸・自宅兼事務所

自宅の一部を貸している、あるいは自宅で本業もやっている——という場合は按分が必要です。

パターン 扱い
自宅の一部を賃貸 賃貸部分に対応する経費が不動産所得の必要経費
自宅で本業 事業使用部分が事業所得の必要経費(持ち家の按分と住宅ローン控除
両方 面積・使用実態で3つに分ける(居住/事業/賃貸)

住宅ローン控除は居住部分だけです。事業・賃貸部分の割合が大きくなると、控除も縮みます。

⑦ 個人事業税は別の基準

個人事業税では、不動産貸付業は法定70業種の1つとして課税されます(税率5%)。ただし課税の認定基準は所得税の「5棟10室」とは別で、都道府県が定める規模基準(住宅なら10室以上/10棟以上、駐車場なら10台以上など)で判定されます。

所得税では事業的規模でなくても、事業税では課税される(またはその逆)ということが起こり得ます。基準は都道府県ごとに異なるので、通知が来たら確認してください(個人事業税がかかる法定70業種)。

⑧ 売ったときは別の世界

何を売ったか 税務
事業用の車・機械 総合課税の譲渡所得(50万円特別控除・5年超で1/2)(事業用の車・機械を売ったとき
土地・建物 分離課税の譲渡所得(別計算・別税率)

不動産の譲渡は分離課税で、所有期間5年(譲渡した年の1月1日時点)で長期・短期が分かれ、税率も違います。総合課税の50万円特別控除は使えません。この記事の範囲を超えるので、売却を検討する段階で個別にご相談ください。

この記事で扱う範囲について
この記事は事業所得と不動産所得の両方がある個人の、所得税・個人事業税の取扱いを扱っています。不動産の譲渡(分離課税)、相続・贈与に伴う評価、賃貸経営そのものの収支判断や物件選定は扱っていません。特定の物件・投資手法を勧めるものでもありません。賃貸借契約の内容・原状回復・立退きは借地借家法の領域で、争いがある場合は弁護士の業務です。不動産の登記は司法書士、建築確認・用途変更は建築士・行政庁の所管です。事業的規模の判定と個人事業税の認定基準は、最終的には所轄税務署・都道府県税事務所の判断によります。

よくある質問(FAQ)

Q. 事業所得が赤字で不動産所得が黒字です。通算できますか。
できます。事業所得の赤字は不動産所得の黒字と通算されます。順序は所得税法69条の定めに従い、経常所得のグループ内でまず相殺します。

Q. 駐車場は何台で「10室」相当ですか。
実務上は5台で1室として換算するのが一般的です。ただし法令に明記された基準ではなく、最終的には社会通念上の判断です。アスファルト舗装や設備の有無、管理の実態も見られます。

Q. サブリース(一括借上げ)でも不動産所得ですか。
不動産所得です。ただし受け取る賃料は保証賃料になり、空室リスクは負いません。事業的規模の判定は、実際の室数で行います(サブリース契約1本だから1室、ではありません)。

Q. 賃貸で使っていた建物を取り壊しました。全額経費にできますか。
事業的規模なら全額が必要経費です。事業的規模でなければ、その年の不動産所得の金額を限度とします(超える部分は切り捨て)。処理は除却損と有姿除却と共通です。

Q. 家賃が回収できません。貸倒れにできますか。
事業的規模なら貸倒損失として必要経費です。事業的規模でない場合は、その収入があった年分に遡って所得を計算し直すという特別な扱いになります(所法64条1項)。

Q. 法人化したほうがいいですか。
所得の水準、物件の規模、相続の予定によります。個人事業と不動産の両方がある場合、どちらを法人化するかという論点も出ます。判断軸は法人化は年収いくらから得?を参照してください。

Q. 消費税はどうなりますか。
居住用の家賃は非課税店舗・事務所・駐車場(施設の利用に伴うもの)は課税です。課税売上高の判定では、居住用家賃は含めません。本業の売上と合算して1,000万円を判定します。

Q. 減価償却費で赤字にして、給与と通算するのは問題ありませんか。
制度として認められた計算です。ただし土地取得の負債利子部分は通算できませんし、赤字を続けると融資審査に影響します(節税しすぎると詰む場面)。また、売却時には減価償却した分だけ帳簿価額が下がり、譲渡益が大きくなります。先送りしているだけという視点も持ってください。

まとめ

  • 青色申告特別控除は、事業所得と不動産所得を合わせて1回(最高65万円)
  • 事業所得があれば、不動産が事業的規模でなくても65万円控除が取れる
  • 「5棟10室」で変わるのは、専従者給与・資産損失の全額計上・貸倒損失
  • 不動産所得の赤字は通算できるが、土地取得の負債利子は対象外
  • 一括の借入は、まず建物に充てたものとして計算する(有利)
  • 経営セーフティ共済は不動産所得では使えない
  • 建物は定額法しか選べない。中古の簡便法は使える
  • 個人事業税の認定基準は所得税とは別(都道府県の規模基準)
  • 不動産の売却は分離課税。総合課税の50万円特別控除は使えない
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法26条(不動産所得)/同27条(事業所得)
  • 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除。不動産所得・事業所得・山林所得を通じて最高65万円。控除の順序)
  • 所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定。おおむね5棟・10室)
  • 所得税法51条1項・4項(資産損失。事業的規模でない不動産所得は、その年の不動産所得の金額を限度)/同64条1項(回収不能等の場合の所得計算の特例)
  • 所得税法52条2項(一括評価の貸倒引当金は事業所得を生ずべき事業に限る)/同57条(青色事業専従者給与。事業的規模が前提)
  • 租税特別措置法41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例。土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分)/同施行令26条の6(借入金がまず建物の取得に充てられたものとする計算)
  • 所得税法施行令120条の2(建物・建物附属設備・構築物の償却方法は定額法)/減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条(中古資産の簡便法)
  • 租税特別措置法28条1項2号(経営セーフティ共済の掛金は事業所得の必要経費)
  • 地方税法72条の2ほか(個人事業税。不動産貸付業の認定基準は各都道府県の定めによる)
  • 消費税法6条・別表第二(住宅の貸付けは非課税)
  • ※2026年時点の取扱いです

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👉 青色申告特別控除65万円の条件
👉 青色事業専従者給与——家族に払う給与を経費にする
👉 事業用の車・機械を売ったとき——総合譲渡所得と50万円特別控除
👉 持ち家の按分と住宅ローン控除
👉 法人化は年収いくらから得?

相談したいとき

👉 税理士の宍倉に相談する(LINE)

この記事の位置づけ

この記事は「+ 1年目・赤字の年・やめるとき」の詳細です。

節税は、やる順番で結果が変わります——コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。

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