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更新日 2026-07-26 節税・経費

健康診断・人間ドック・ジム代は経費になる?事業主本人の分が落ちない理屈

「フリーランスは体が資本です。健康診断は必要経費ですよね」

気持ちとしては完全に同意します。ただ、税務上は落ちません

理由は「健康が事業に関係ないから」ではありません。福利厚生費という箱が、そもそも従業員のためのものだからです。ここが分かると、ジムもサプリもマッサージも、判断が一発でつきます。

この記事の結論
事業主本人の健康診断・人間ドックは経費にならない。家事費だから
– 福利厚生費は従業員のための費用。一人事業主に「自分のための福利厚生」はない
– 人間ドックは医療費控除の対象にもならない(ただし例外あり)
従業員がいれば健康診断は経費。全員対象・一般的な健診・常識的な金額が条件
専従者(家族)だけの場合は否認リスクが高い
– ジム・サプリ・マッサージ・メガネは本人分は原則アウト

「福利厚生費」の箱には本人が入れない

まず用語の整理です。

福利厚生費とは、事業主が従業員のために支出する費用をいいます。健康診断、慶弔見舞金、社員旅行、忘年会など。従業員の労働環境を整えるための費用なので、事業の必要経費になります。

事業主本人は「従業員」ではありません。自分で自分を雇うことはできないからです。したがって、本人のための支出は福利厚生費になりません。

行き先は所得税法45条——家事上の経費です。

支出 相手
健康診断(従業員) 他人 福利厚生費(経費)
健康診断(事業主本人 自分 家事費(経費にならない)
健康診断(専従者のみ) 生計を一にする家族 否認リスクが高い(下記)

これは出張の日当が本人に出せないのと同じ構造です(出張旅費・日当は経費にできる?)。個人事業主は、自分に対して何かを支給できません。

医療費控除でも拾えない

「経費がだめなら医療費控除で」と考える人がいますが、人間ドック・健康診断は原則として医療費控除の対象外です。

医療費控除の対象は「治療」のための費用であり、予防・健康増進のための費用は含まれないからです。

ただし例外があります。

健康診断・人間ドックの結果、重大な疾病が発見され、引き続きその治療を行った場合は、その健診費用も医療費控除の対象になります。

「見つかっただけ」ではなく「引き続き治療した」ことが条件です。異常なしなら対象外、見つかったが治療していないなら対象外です。

医療費控除の全体像は医療費控除は10万円を超えないとダメ?を読んでください。所得200万円未満の人は基準額が変わります。

従業員がいる場合:落とせる条件

人を雇っていれば、健康診断は経費になります。というより、実施が義務です。

労働安全衛生法により、事業者は常時使用する労働者に対して健康診断を実施しなければならないとされています。この費用は事業者負担が原則で、税務上も福利厚生費として必要経費になります。

経費として認められるための条件は3つです。

条件 中身
全員が対象 一定の要件を満たす従業員全員に受診機会がある。特定の人だけはNG
一般的な健診の範囲 通常の定期健康診断の項目。過度に高額な特別コースは給与とみなされる余地
事業者が直接支払う 医療機関へ事業から支払う。本人に現金を渡すと給与になる

3つめは見落としがちです。「健診代として1万円渡す」は給与です。医療機関に直接支払うか、立替払いの精算という形にしてください。

人を雇うときの全体の手続きは初めて人を雇うときの手続き一覧にまとめています。

この記事で扱う範囲について
健康診断の実施義務の有無・対象者の範囲・検査項目・実施頻度・記録の保存は労働安全衛生法の領域で、労働基準監督署および社会保険労務士の所管です。また、どの検査が治療にあたるか、ある症状に検査が必要かといった医学的な判断は医療機関の領域です。この記事は「支払った金額が必要経費になるか・医療費控除の対象になるか」という税務上の取扱いだけを扱っています。義務の内容は所轄の労働基準監督署等で確認してください。

専従者(家族)だけのとき

「妻を青色事業専従者にしているので、妻の健康診断は経費になりますか」

否認リスクが高いと考えてください。

理由は、従業員が家族しかいない場合、福利厚生の実態がないと判断されやすいからです。福利厚生は「事業主と従業員の間の制度」として運用されて初めて意味を持ちます。家族1人だけを対象に高額な人間ドックを受けさせる形は、生活費の付け替えと見られます。

金額が小さく、一般的な健診の範囲で、社内のルールとして文書化してある——という状態であれば説明の余地はありますが、優先度の高い節税ではありません。専従者への支出の考え方は配偶者を青色事業専従者にすべき?も参照してください。

一覧:健康まわりの費目

費目 事業主本人 従業員がいる場合
定期健康診断 (福利厚生費)
人間ドック (全員対象・一般的な範囲なら○)
インフルエンザ予防接種 (全員対象なら)
スポーツジム・フィットネス (全員が利用できる法人契約なら余地あり)
サプリメント・健康食品
マッサージ・整体・鍼灸 (治療目的なら医療費控除の余地)
メガネ・コンタクトレンズ
市販薬 (医療費控除の対象になるものはある)
慶弔見舞金 (規程があること)
事業主本人の医師賠償・傷害保険

最後の行だけ補足します。事業のリスクに備える保険(賠償責任保険など)は経費になります。一方、本人の生命保険・医療保険は経費ではなく生命保険料控除の対象です。箱が違うだけで、効果はあります(入れ忘れると損する所得控除チェックリスト)。

「本人の健康」に使えるお金はゼロなのか

税務上のルートはありませんが、別の制度で拾えるものはあります。

制度 中身
医療費控除 治療のための費用。年間の自己負担が基準を超えた分
セルフメディケーション税制 対象の市販薬を年12,000円超買った場合(医療費控除とは選択制)
市区町村の健診・がん検診 国民健康保険の加入者向けに、自己負担を軽減した健診がある場合が多い
国民健康保険組合の健診補助 業種別の国保組合に加入していれば補助がある場合がある

とくに最後の2つは見落とされがちです。税金で拾えないものは、制度で拾う——これが個人事業主の現実的な答えになります。加入している市区町村・国保組合の案内を確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 法人にすれば社長の健康診断は落ちますか。
落ちる余地があります。法人では役員も「役員・使用人」として福利厚生の対象になり得るためです(全員対象・一般的な範囲などの条件は同じ)。これも法人化のメリットのひとつではありますが、健康診断のためだけに法人化する意味はありません。

Q. 業務中にケガをしました。治療費は経費ですか。
経費になりません。本人の治療費は医療費控除の対象です。個人事業主は労災保険の対象外ですが、労災保険の特別加入という制度があります(加入の可否は業種によります。所管は労働基準監督署)。

Q. ジムのトレーナーです。自分のジム代も落ちませんか。
原則落ちません。自分の身体づくりは私生活とも不可分だからです。ただし受講したレッスンが業務上の研修と説明できる場合や、撮影・指導のために利用した実績が残っている場合は、部分的に検討の余地があります。

Q. 従業員全員が使えるジムの法人契約は落ちますか。
全従業員が利用でき、利用実態があり、金額が常識的であれば福利厚生費になり得ます。ただし事業主本人しか使っていないなら家事費です。

Q. 予防接種の費用を従業員に現金で渡しました。
給与として課税されます。医療機関へ事業から直接支払うか、領収書に基づく実費精算にしてください。

Q. 健康診断の費用が10万円を超えました。医療費控除に入れられますか。
異常が見つからなければ入れられません。重大な疾病が見つかり、引き続き治療した場合のみ、その健診費用が医療費控除の対象になります。

Q. 経費にならないものを入れてしまっていました。
翌年から外してください。金額が大きい場合は修正申告を検討します。健康関連の費目は税務調査で必ず見られる場所のひとつです。

まとめ

  • 福利厚生費は従業員のための箱。事業主本人はそこに入れない
  • 本人の健康診断・人間ドックは家事費で経費にならない
  • 人間ドックは医療費控除の対象にもならない。例外は「疾病が見つかり引き続き治療した」場合
  • 従業員がいれば健康診断は経費。全員対象・一般的な範囲・事業から直接支払うが条件
  • 現金で渡すと給与になる
  • 専従者だけの場合は否認リスクが高い
  • ジム・サプリ・マッサージ・メガネは本人分は原則アウト
  • 税で拾えない分は、市区町村の健診・国保組合の補助で拾う
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法37条1項(必要経費)/45条1項1号(家事上の経費)/73条(医療費控除)/57条(青色事業専従者給与)
  • 所得税法施行令96条(家事関連費)/207条(医療費の範囲)
  • 所得税基本通達73-4(健康診断・人間ドックの費用。疾病が発見され引き続き治療を受けた場合の取扱い)/36-29(レクリエーション費用等)
  • 労働安全衛生法66条・労働安全衛生規則43条〜45条(健康診断の実施義務。所管は労働基準監督署
  • 租税特別措置法41条の17(セルフメディケーション税制)
  • 国税庁タックスアンサー「医療費控除の対象となる医療費」「使用者が負担する健康診断の費用」
  • ※2026年時点の制度に基づく記事です

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