払っていなくても今年の経費になる|未払費用の計上漏れチェックリスト(債務確定主義)
節税の話は「何かを買う」方向に偏りがちですが、1円も追加で払わずに経費が増える方法があります。
すでに発生しているのに、まだ払っていない費用を計上する——それだけです。
12月分の外注費を翌年1月に振り込む。12月分の家賃を翌年1月に払う。12月にクレジットカードで買った消耗品の引き落としは翌年1月。これらは全部、今年の経費です。会計ソフトに通帳とカードの明細だけを取り込んでいる人は、ここが丸ごと抜けています。
この記事の結論
– 必要経費は「支払った金額」ではなく「その年に債務が確定した金額」(所得税法37条)
– 債務確定の3要件=①債務が成立、②給付をすべき原因となる事実が発生、③金額を合理的に算定できる
– 計上できる:12月分の外注費・給与・家賃・水道光熱・通信費、12月に使ったクレカ、12月分の社会保険料の事業主負担
– 計上できない:翌年分の前払い、発注しただけのもの、来年やる修繕の見積り
– 国民健康保険料・国民年金は未払計上できない(所得控除は「支払った金額」)
– 固定資産税は3つの計上方法から選べる
– 現金が出ていかないので、節税の優先順位はいちばん上
原則:支払った日ではなく「確定した日」
所得税法37条は、必要経費を「その年において債務の確定した金額」と定めています。
つまり判定するのはお金が動いた日ではありません。
| 12月に外注、支払いは翌年1月20日 | |
|---|---|
| 現金が動いた日 | 翌年1月20日 |
| 債務が確定した日 | 12月(仕事を受けた時点) |
| 経費になる年 | 今年 |
売上側も同じ考え方(発生主義)です。売上だけを発生ベースで計上して、経費は通帳ベース——という状態が、いちばん損をします。売上の年またぎは12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?を参照してください。
債務確定の3要件
所得税基本通達37-2は、次の3つをすべて満たすことを求めています。
| # | 要件 | かみ砕くと |
|---|---|---|
| ① | その年の12月31日までに債務が成立していること | 契約や注文が済んでいる |
| ② | その年の12月31日までに、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること | サービスを受けた/物が納品された |
| ③ | その年の12月31日までに金額を合理的に算定できること | 請求書が来ていなくても金額が分かる |
ポイントは②です。契約しただけ・発注しただけでは足りません。実際に役務の提供を受けた、または物が引き渡された、という事実が要ります。
そして③は「請求書が届いているか」ではありません。単価と数量が決まっていて計算できれば足ります。「請求書が来ていないから計上しない」は誤りです。
計上できるもの(チェックリスト)
12月31日を基準に、以下を1つずつ確認してください。
| 費目 | 具体例 | 計上できるか |
|---|---|---|
| 外注費 | 12月に納品を受けたが支払いは翌1月 | ○ |
| 給与 | 12月分の給与を翌1月10日に支払う(末締め翌月払い) | ○ |
| 賞与 | 12月中に支給額を通知し、翌1月に支払う | ○(通知と支給が要件) |
| 地代家賃 | 12月分を翌1月に支払う(後払い契約の場合) | ○ |
| 水道光熱費 | 12月使用分の請求が翌1月 | ○ |
| 通信費 | 12月分の携帯・回線料金 | ○ |
| クレジットカード | 12月に使った経費(引き落としは翌1〜2月) | ○ |
| 社会保険料(事業主負担分) | 従業員の12月分(納付は翌1月末) | ○ |
| 修繕費 | 12月中に工事が完了、請求は翌1月 | ○ |
| 支払手数料・顧問料 | 12月分の月額報酬 | ○ |
| 利息 | 借入金の12月分の経過利息 | ○ |
| 労働保険料 | 概算保険料のうち、確定した部分 | 一部○(確定精算分) |
クレジットカードは特に漏れます。12月に使ったカード払いの経費は、引き落としが翌年でも今年の経費です。カードの利用明細(利用日ベース)で拾ってください。決済と経費の関係はキャッシュレス売上と支払いの分け方も参考になります。
計上できないもの
| 費目 | なぜダメか |
|---|---|
| 翌年分の家賃・保険料を前払いした | 前払いであって未払いではない。短期前払費用の要件を満たせば別(後述) |
| 来年やる予定の修繕の見積り | 要件②の「事実の発生」がない |
| 発注しただけで納品されていない商品 | 同上 |
| 引当金(賞与引当金・修繕引当金) | 個人事業で認められる引当金は貸倒引当金だけ(貸倒損失と貸倒引当金5.5%) |
| 国民健康保険料・国民年金保険料 | 所得控除であり、実際に支払った金額が対象(所法74条) |
| 小規模企業共済・iDeCoの掛金 | 同じく所得控除。支払ベース |
| 自分(事業主)への給与・家賃 | そもそも経費にならない |
| 生計を一にする親族への家賃・外注費 | 家族に払った家賃・外注費は経費にならないを参照 |
所得控除は「支払った金額」というのが重要です。12月分の国民年金を翌年1月に払っても、控除できるのは翌年分です。逆に、年内に前納すれば年内の控除になります(所得控除の最終チェックリスト)。必要経費と所得控除では、時期のルールがそもそも違います。
固定資産税は3つから選べる
事業用の土地・建物の固定資産税は、計上時期に選択肢があります(所得税基本通達37-6)。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ① 賦課決定があった日 | 納税通知書が届いた年に、年税額の全額を計上 |
| ② 各納期の開始日 | 納期が到来した分だけ計上(4期なら到来分のみ) |
| ③ 実際に納付した日 | 払った分だけ計上 |
どれを選んでもかまいませんが、継続して同じ方法を使うことが前提です。毎年有利なほうへ変えることはできません。
自動車税、不動産取得税、個人事業税なども同じ考え方です。なお個人事業税は、廃業年に特別な取扱いがあります(事業をやめるときの税務)。個人事業税そのものは個人事業税がかかる法定70業種を参照してください。
前払いは逆方向のテクニック
未払計上が「もう発生した分を拾う」のに対し、短期前払費用は「これから発生する分を前倒しする」テクニックです。
| 未払費用 | 短期前払費用 | |
|---|---|---|
| 対象 | すでに役務の提供を受けた分 | これから受ける1年分 |
| 現金 | まだ出ていかない | 先に出ていく |
| 効果 | 毎年続く | 切り替えた年だけ |
| 要件 | 債務確定の3要件 | 通達37-30の2の3要件 |
優先すべきは未払計上のほうです。現金が減らないうえ、毎年効きます。前払いは12月に年払いへ切り替えて経費を前倒しするを参照してください。
この記事は所得税の必要経費の計上時期を扱っています。消費税の仕入税額控除の時期は、原則として課税仕入れを行った日(物の引渡しを受けた日・役務の提供を受けた日)で判定するため、未払計上した経費は所得税と同じ課税期間の課税仕入れになります。ただし、給与・社会保険料・租税公課などはそもそも課税仕入れではありません。従業員への給与・賞与の支給や社会保険の手続そのもの(就業規則、支給日の変更、算定基礎届など)は労働基準法・社会保険各法の領域で、社会保険労務士の所管です。
仕訳と、翌年にやること
12月分の外注費11万円(源泉徴収1万円)を翌年1月に支払う場合。
12月31日(決算整理)
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 外注工賃 110,000 | 未払金 100,000 / 預り金 10,000 |
翌年1月(支払時)
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 未払金 100,000 | 普通預金 100,000 |
翌年に支払ったとき、もう一度経費にしてしまう二重計上が最も多いミスです。支払時は必ず「未払金」を取り崩してください。会計ソフトで通帳を自動取り込みしていると、1月の出金が「外注工賃」として提案されるので、そこを未払金へ振り替えるのを忘れないことです。
源泉徴収が要るかどうかは外注費の源泉徴収は必要?で判定してください。決算整理の全体像は決算整理はなぜ必要?にあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 請求書が届いていないのに経費にしていいのですか。
かまいません。要件は「金額を合理的に算定できること」であって、「請求書が届いていること」ではありません。単価と数量が決まっていれば計上できます。ただし後で届いた請求書は必ず保存してください(書類は何年保存する?)。
Q. 白色申告でも未払計上できますか。
できます。債務確定主義は青色・白色を問わない、所得税法37条の原則です。青色でなければ使えないのは貸倒引当金や純損失の繰越控除などです。
Q. 前年に未払計上を忘れていました。今年の経費にできますか。
できません。経費になる年は債務が確定した年に固定されています。前年分として更正の請求(原則5年以内)を行うことになります。金額が小さければ実務上そのままにするケースもありますが、正しい処理は更正の請求です。
Q. 12月分の給与を1月に払いました。源泉徴収と年末調整はどうなりますか。
源泉所得税は支払った日が基準なので、翌年1月に支払った12月分の給与は翌年の源泉徴収・翌年の年末調整の対象です。経費の計上時期(今年)とズレます。ここは混同しやすいので分けて考えてください。
Q. 事業主借で立て替えた12月の経費も対象ですか。
対象です。事業用口座から払っていなくても、事業のために発生した費用であれば経費です。仕訳は「経費/事業主借」になります。
Q. 未払計上をすると税務署に目をつけられますか。
正しい処理なので問題ありません。むしろやらないほうが所得を過大に申告している状態です。ただし、実体のない未払計上(発注していない工事を計上するなど)は仮装隠蔽になります。証憑を残してください。
Q. どのくらい税金が変わりますか。
経費が増えた分に、所得税率+住民税10%+(該当すれば)事業税5%を掛けた金額です。所得税率20%の人が50万円を未払計上すれば、おおよそ17万円前後変わります(「経費を増やせば税金が減る」は半分ウソ)。
まとめ
- 必要経費は「支払額」ではなく「その年に債務が確定した金額」
- 3要件=債務の成立・事実の発生・金額の算定可能性
- 12月分の外注費・給与・家賃・水道光熱・通信・社会保険料(事業主負担)を拾う
- 12月に使ったクレジットカードは今年の経費(引き落としが翌年でも)
- 国民健康保険料・国民年金・共済掛金は所得控除なので支払ベース。未払計上できない
- 固定資産税は賦課決定/納期到来/実際納付の3択(継続適用)
- 翌年の支払時に二重計上しない(未払金を取り崩す)
- 現金が出ていかないので、節税としての優先度は最上位
- 所得税法37条1項(必要経費。その年において債務の確定した金額)
- 所得税基本通達37-2(債務の確定の判定。①債務の成立、②具体的な給付をすべき原因となる事実の発生、③金額を合理的に算定できること)
- 所得税基本通達37-6(その年に賦課決定のあった固定資産税等の必要経費算入時期の選択)
- 所得税法74条(社会保険料控除。その年において支払った金額)/同76条・77条(生命保険料控除・地震保険料控除)
- 所得税法52条(貸倒引当金)。個人事業で認められる引当金は貸倒引当金のみで、賞与引当金・修繕引当金等は必要経費にならない
- 所得税法183条(給与等に係る源泉徴収は支払の際に行う)
- ※2026年時点の取扱いです
次に読む
👉 12月に年払いへ切り替えて経費を前倒しする——短期前払費用
👉 12月に納品・1月に入金、この売上は今年?来年?
👉 決算整理はなぜ必要?
👉 節税をやる順番——お金が出ていかないものから
👉 経費にできるもの・できないもの一覧