その副業収入は事業所得?雑所得?|300万円と「帳簿保存」の関係(通達35-2)
「副業の収入が300万円を超えないと事業所得にならない」——この説明を見たことがあるかもしれません。
これは正確ではありません。
令和4年(2022年)10月の通達改正で、判定の軸は「帳簿書類の保存があるかどうか」になりました。300万円という数字は今も出てきますが、それ単独で結論が決まるわけではありません。
区分が変われば、65万円控除も損益通算も純損失の繰越も、まとめて変わります。ここは副業をしている人にとって、いちばん影響の大きい論点です。
この記事の結論
– 判定の軸は帳簿書類の保存(所得税基本通達35-2、令和4年改正)
– 帳簿書類の保存がある → おおむね事業所得
– 帳簿書類の保存がない → 業務に係る雑所得(収入がいくらでも)
– 帳簿があっても、収入が僅少(例年、収入300万円以下 かつ 主たる収入の10%未満)や、営利性が認められない(例年赤字で改善の取組がない)場合は個別判断
– 最終的には社会通念上、事業と認められるか(最高裁昭和56年判決の枠組み)
– 雑所得だと青色申告特別控除・損益通算・純損失の繰越・専従者給与が使えない
– 雑所得でも、前々年の収入が300万円超なら書類の保存義務、1,000万円超なら収支内訳書の添付
令和4年に何が変わったのか
改正のいきさつを短く書きます。
当初の改正案は「副業の収入が300万円以下なら原則として雑所得」というものでした。これに対して7,000件を超える反対意見が寄せられ、最終的な通達は大きく変わりました。
結論として採用されたのが「帳簿書類の保存」を軸にする考え方です。
| 改正案(不採用) | 実際の通達(採用) |
|---|---|
| 収入金額300万円以下 → 原則 雑所得 | 帳簿書類の保存があれば おおむね 事業所得 |
つまり、きちんと帳簿をつけて保存していれば、金額が小さくても事業所得になり得るということです。逆に、帳簿がなければ、いくら稼いでいても雑所得です。
判定表
| 帳簿書類の保存 | 収入金額 | 判定 |
|---|---|---|
| あり | 300万円超 | 事業所得(おおむね) |
| あり | 300万円以下 | 事業所得(おおむね)。ただし下の2つに当たれば個別判断 |
| なし | 300万円超 | 業務に係る雑所得 |
| なし | 300万円以下 | 業務に係る雑所得 |
帳簿があっても個別判断になる2つの場合
① その所得の収入金額が僅少と認められる場合
通達の注記では、例年(おおむね3年程度)、その所得の収入金額が300万円以下 かつ 主たる収入に対する割合が10%未満の場合が例示されています。
たとえば会社員の給与が800万円で、副業の収入が年間50万円というケースです(50万円 ÷ 800万円 = 6.25% < 10%)。
② その所得を得る活動に営利性が認められない場合
例年赤字で、かつ赤字を解消するための取組を実施していない場合です。
「趣味の延長で、毎年赤字を出して給与所得と通算する」という使い方を封じる趣旨です。売上を増やす努力、経費を見直す取組があれば、赤字でも事業性は否定されません。
この2つに当たっても、直ちに雑所得になるわけではありません。「個別に判断する」というのが通達の書きぶりです。
そもそもの判断基準——最高裁の枠組み
通達の上位にあるのは、最高裁昭和56年4月24日判決が示した考え方です。事業所得とは、
自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得
とされています。判断要素を分解すると、次のようになります。
| 要素 | 見られること |
|---|---|
| 自己の計算と危険 | 自分でリスクを負っているか(赤字も自分がかぶるか) |
| 独立性 | 特定の相手に従属していないか |
| 営利性・有償性 | 利益を出す意図があるか |
| 反復継続性 | 継続して行っているか。単発ではないか |
| 社会通念 | 客観的に見て「事業」と言えるか |
| (実務でよく見られる点) | 相当の時間を費やしているか、人的・物的設備があるか、専門性があるか |
帳簿の保存は「事業らしさの表れ」として重視されるようになった、というのが令和4年改正の位置づけです。帳簿さえあれば何でも事業所得になる、という意味ではありません。
区分が変わると何が違うのか
ここが実害の話です。
| 事業所得 | 業務に係る雑所得 | |
|---|---|---|
| 青色申告 | できる(青色申告と白色申告) | できない |
| 青色申告特別控除(最大65万円) | 使える | 使えない |
| 損益通算(赤字を給与等と相殺) | できる | できない(赤字は切り捨て) |
| 純損失の繰越控除(3年) | できる | できない |
| 青色事業専従者給与 | 使える(専従者給与) | 使えない |
| 少額減価償却資産の特例 | 使える(40万円未満の特例) | 使えない |
| 貸倒引当金 | 使える | 使えない |
| 必要経費の計上 | できる | できる(ここは同じ) |
| 減価償却 | できる | できる(ここも同じ) |
| 消費税の納税義務 | 課税売上高で判定 | 同じく判定される |
必要経費が引けるかどうかは変わりません。変わるのは、青色申告に紐づく特典と、赤字の扱いです。
とくに大きいのが損益通算です。副業が赤字でも、雑所得なら給与所得と相殺できません。「副業を赤字にして節税」は、雑所得では成立しないということです。
雑所得でも義務はある
「雑所得なら帳簿は要らない」わけではありません。
| 前々年の収入金額 | 義務 |
|---|---|
| 300万円以下 | 特になし(領収書等の保存は当然に必要) |
| 300万円超 | 現金預金取引等関係書類の保存(5年間) |
| 1,000万円超 | 上記に加え、収支内訳書の添付 |
書類の保存については書類は何年保存する?も参照してください。
実務としてどうすればいいか
答えはシンプルです。
事業所得で申告したいなら、帳簿をつけて保存する。
具体的には次のとおりです。
- 開業届と青色申告承認申請書を出す(会社員が開業届を出すとき、開業届を出さないとどうなる)
- 会計ソフトで複式簿記の帳簿をつける(なぜ帳簿をつけるのか)
- 請求書・領収書・通帳を保存する
- 事業用の口座とカードを分ける
- 赤字なら、改善の取組を記録に残す(営業活動、価格の見直し、新規の取引先)
なお、開業届を出したから事業所得になる、というものではありません。届出は判定の一要素にすぎず、実態が伴っていることが前提です。
この記事は所得区分の判定に関する一般的な考え方を扱っています。事業所得と認められるかどうかは、帳簿の有無だけでなく、活動の実態・継続性・規模・時間の投下など個別の事情を総合して判断されるもので、最終的な判断権は所轄税務署にあります。この記事の内容は特定のケースの結論を保証するものではありません。また、勤務先の副業規程・就業規則に抵触するかどうかは税務とは別の問題です。給与か外注(請負)かという区分は、源泉徴収・社会保険・労働法の全体にかかわる論点で、この記事では扱っていません。
よくある質問(FAQ)
Q. 副業を始めたばかりで、まだ収入が10万円です。事業所得にできますか。
帳簿を保存していれば、おおむね事業所得として扱われます。ただし「収入が僅少」に当たる可能性があり(例年300万円以下かつ主たる収入の10%未満)、個別判断になります。継続して規模を拡大していく意思と実態が示せるかどうかがポイントです。
Q. 会社員の給与が900万円、副業が100万円です。
100万円 ÷ 900万円 = 約11%なので、「10%未満」には当たりません。帳簿があれば事業所得として扱われる方向です。ただし、割合だけで決まるものではありません。
Q. ずっと赤字です。事業所得のままで大丈夫ですか。
「例年赤字で、赤字を解消する取組を実施していない」場合は営利性が否定される可能性があります。赤字でも、改善のための行動を記録に残してください。営業リスト、価格改定、広告出稿、新規取引の記録などです。
Q. 帳簿は手書きでもいいですか。
形式は問われませんが、65万円控除を狙うなら複式簿記が必要です(65万円控除の条件)。会計ソフトを使うのが現実的です。
Q. 過去の年分を事業所得に直せますか。
帳簿書類が実際に存在するなら、更正の請求(原則5年以内)で修正することは考えられます。ただし、後から帳簿を作るのは仮装にあたるおそれがあります。正しくは「今年から整える」です。
Q. 事業所得か雑所得かで、確定申告の要否は変わりますか。
変わりません。給与所得者は給与以外の所得が20万円を超えれば申告が必要です(住民税は20万円以下でも申告が必要)。確定申告が必要な人を参照してください。
Q. 複数の副業があります。まとめて判定しますか。
所得ごとに判定します。デザインの仕事は事業所得、フリマアプリの売却は譲渡所得または非課税、原稿料は事業所得または雑所得——というように、それぞれの性質で分かれます。職種ごとの違いは職業別の税金の違いも参考にしてください。
Q. 雑所得の必要経費は事業所得より厳しく見られますか。
条文上の必要経費の考え方は同じです(所得税法37条)。ただし、実務では事業性が弱いほど、家事関連費との線引きが厳しく見られる傾向があります。
まとめ
- 判定の軸は帳簿書類の保存(通達35-2、令和4年改正)
- 帳簿あり → おおむね事業所得、帳簿なし → 雑所得
- 300万円は絶対の線ではない。「収入が僅少」の例示として出てくる数字
- 帳簿があっても、僅少(300万円以下かつ主たる収入の10%未満)・営利性なし(例年赤字+改善の取組なし)は個別判断
- 上位の基準は社会通念上、事業と認められるか
- 雑所得だと65万円控除・損益通算・純損失の繰越・専従者給与が使えない
- 必要経費と減価償却は雑所得でも計上できる
- 雑所得でも、300万円超で書類保存義務、1,000万円超で収支内訳書
- 事業所得で申告したいなら、帳簿をつけて保存する——これに尽きる
- 所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示。令和4年10月7日改正。その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がある場合は、原則として事業所得に該当する)
- 同通達の注記(帳簿書類の保存があっても、その所得の収入金額が僅少と認められる場合(例年、収入金額が300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満)、その所得を得る活動に営利性が認められない場合(例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない)は、個別に判断する)
- 最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(事業所得の意義。自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務)
- 所得税法27条(事業所得)/同35条(雑所得)/同37条(必要経費)/同69条(損益通算)/同70条(純損失の繰越控除)
- 所得税法232条(業務に係る雑所得の現金預金取引等関係書類の保存義務・収支内訳書の添付。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円超・1,000万円超)
- 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除。事業所得等が対象)
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