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更新日 2026-07-26 節税・経費

赤字の年こそ申告する|純損失の繰越控除3年と、前年の税金が戻る繰戻し還付

赤字の年は、申告してもどうせ税金が0だから——と、確定申告をしない人がいます。

これが一番もったいない選択です。

赤字を申告しておけば、その赤字は翌年以後3年間、黒字から引ける資産になります。さらに前年に税金を納めていたなら、その税金を取り戻せる制度もあります。どちらも申告しなければ消えます

この記事の結論
– 赤字(純損失)は翌年以後3年間繰り越して、黒字から引ける(所得税法70条)
– さらに前年に納めた所得税が戻る「繰戻し還付」がある(所得税法140条)
どちらも青色申告限定。白色は原則使えない
– 繰越控除は赤字の年に期限内申告し、その後も毎年連続して申告することが条件
– 繰戻し還付は、前年も青色期限内申告還付請求書を同時提出が条件
繰戻し還付は所得税だけ。住民税には還付がない(住民税は繰越のみ)
– 繰越と繰戻しはどちらか一方を選ぶ(併用もできるが計算が変わる)
– 赤字申告には国保料の軽減・所得証明・融資対応という副次的な効果もある

まず「純損失」とは何か

事業所得や不動産所得の赤字を、他の所得(給与・雑所得など)と相殺してもなお残った赤字を「純損失」といいます。

ステップ 内容
① 各所得を計算 事業所得 ▲300万円、給与所得 100万円
損益通算(所得税法69条) ▲300万円 + 100万円 = ▲200万円
③ 残った赤字 = 純損失 200万円

つまり、会社を辞めて開業した年に赤字が出れば、在職中の給与から源泉徴収されていた所得税が還ってくることがあります。これは繰越以前の、その年の話です。

なお、損益通算できる所得は限られています。事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の赤字だけで、雑所得の赤字は通算できません。副業が雑所得だった場合、赤字は切り捨てです(その副業収入は事業所得?雑所得?)。

① 純損失の繰越控除——3年間持ち越す

青色申告者は、純損失を翌年以後3年間繰り越し、各年の黒字から差し引けます。

1年目 2年目 3年目
所得 ▲300万円 150万円 250万円
繰越控除 ▲150万円 ▲150万円
課税所得 0 0 100万円
繰越残高 300万円 150万円 0

古い年の損失から順に使います。3年で使い切れなかった分は切り捨てです(法人の10年繰越に比べると短いのが個人の弱点です)。

3つの条件

# 条件
赤字の年に青色申告書を、期限内に提出していること
その後の年も連続して確定申告書を提出していること
損失申告用の第四表(損失申告用)を添付していること

②が落とし穴です。間の年に「所得が0だから申告しなくていい」と思って申告しないと、繰越が切れます。黒字が出ていない年でも、必ず申告してください。

また、繰越控除は所得控除より先に、所得金額から引きます。基礎控除や社会保険料控除を引く前の段階です。そのため、繰越損失で所得を0にすると、その年の所得控除は使わずに消えます節税しすぎると詰む場面)。

白色申告でも繰り越せるもの

白色申告は原則として純損失を繰り越せませんが、例外が2つあります。

  • 変動所得の損失(原稿料、著作権使用料、漁獲など)
  • 被災事業用資産の損失(震災・風水害・火災等による事業用資産の損失)

この2つに限り、白色でも3年間の繰越が認められます。裏を返せば、通常の営業赤字は白色では1円も繰り越せません。これが青色申告を選ぶ最大の理由の1つです(青色申告と白色申告、何がどう違う?)。

② 繰戻し還付——前年の税金を取り戻す

こちらを知らない人が非常に多いです。

今年赤字が出たら、前年に納めた所得税を返してもらえます。

前年 今年
所得 400万円 ▲200万円
納めた所得税 約37万円 0
繰戻し還付を使うと 所得を 400 − 200 = 200万円 として再計算
前年の税額(再計算後) 約10万円
還付される所得税 約27万円

※税額は概算です。実際は所得控除の額によって変わります。

繰越が「将来の税金を減らす」のに対し、繰戻しは「過去の税金を今すぐ現金で取り戻す」制度です。資金繰りが苦しい年に効きます。

4つの条件

# 条件
前年分について青色申告書を提出していること
本年分の申告も青色申告書で、期限内に提出すること
その申告書と同時に「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出すること
前年に納付した所得税があること(0なら戻るものがない)

②の期限内申告は絶対条件です。1日でも遅れると繰戻し還付は使えません(繰越控除のほうは、期限後申告でも一定の場合に認められる余地がありますが、繰戻しは厳格です)。

③も重要で、あとから請求書だけ出すことはできません。確定申告書と同時に提出します。

繰戻しと繰越、どちらを選ぶか

繰戻し還付 繰越控除
効果 今すぐ現金が戻る 将来の税金が減る
前提 前年に税金を納めている 将来黒字になる
対象 所得税のみ 所得税+住民税
期間 前年1年分 翌年以後3年
税率 前年の税率で戻る 将来の税率で減る

判断の軸は税率資金繰りです。

  • 前年の所得が高く、今後は低そう繰戻し(高い税率で戻る)
  • 前年の所得は低いが、来年から伸びそう繰越(高い税率で減らせる)
  • とにかく現金が要る繰戻し

なお、純損失の一部だけを繰り戻して、残りを繰り越すこともできます。

住民税には繰戻し還付がない

ここは押さえてください。

繰戻し還付は所得税だけの制度です。住民税に還付はありません。住民税では、その純損失は翌年以後3年間の繰越として扱われます。つまり、繰戻し還付を使っても住民税側の繰越は残ります。

一方、繰越控除を選んだ場合は所得税・住民税の両方で効きます。

赤字申告のもう1つの効果

税金が0でも、申告することで得られるものがあります。

効果 内容
国民健康保険料が下がる 所得が確定しないと軽減判定が受けられない。未申告だと軽減が適用されないことがある(国民健康保険料は下げられるか
所得証明・課税証明が出る 保育園、住宅の入居審査、各種給付金の申請で必要
融資・補助金の申請 決算書の提出を求められる。3期分が定番
予定納税の減額 前年の実績で来る予定納税を減額申請できる(予定納税とは
国民年金の免除・猶予の判定 所得が基準になる

「赤字だから申告しない」は、これらを全部捨てることになります。

事業をやめる年の赤字はどうなるか

廃業する年に大きな赤字が出ても、翌年以後に黒字が無ければ繰越は使えません。この場合こそ繰戻し還付の出番です。

また、廃業後に生じた費用については、廃止した年またはその前年の必要経費に算入できる規定があります(所得税法63条)。詳しくは事業をやめるときの税務を参照してください。

この記事で扱う範囲について
この記事は所得税・住民税における純損失の取扱いを扱っています。国民健康保険料の軽減判定・減免の可否、国民年金保険料の免除申請の可否は、市区町村および日本年金機構の所管であり、判定基準も自治体によって異なります。融資審査における赤字決算の評価は金融機関の判断です。なお、繰戻し還付の請求があった場合、税務署は還付の可否を調査したうえで還付します(所得税法142条2項)。これは通常の手続であり、直ちに税務調査を意味するものではありませんが、赤字の内容について確認を受けることはあります。帳簿と証憑を整えたうえで請求してください。

手続きの実際

繰越控除を使う年

  1. 確定申告書に加えて第四表(損失申告用)を作成する
  2. e-Taxまたは書面で期限内(原則3月15日)に提出
  3. 翌年以降も毎年、必ず申告する(黒字が出ていなくても)
  4. 黒字が出た年は、第四表で繰越損失を控除する

繰戻し還付を使う年

  1. 前年分が青色申告であることを確認
  2. 「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を作成(国税庁サイトに様式あり)
  3. 確定申告書と同時に期限内に提出
  4. 税務署の調査を経て還付される(数か月かかることがあります)

納付・還付の実務は確定申告の納税方法も参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字の年に青色申告特別控除65万円は使えますか。
青色申告特別控除は、所得金額を限度として控除します。赤字の場合は0円です。控除によって赤字を大きくすることはできません(青色申告特別控除65万円の条件)。

Q. 繰越控除の申告を1年忘れました。復活できますか。
連続して申告書を提出していることが条件なので、原則として繰越は使えなくなります。期限後でもよいので必ず提出してください。すでに期限を過ぎている場合も、早く出すほど救済の余地があります。

Q. 給与所得もあります。赤字は給与と相殺できますか。
できます。事業所得の赤字は給与所得と損益通算できます。会社員が副業で事業所得の赤字を出した場合、源泉徴収された所得税が還付されます。ただし、事業と認められない規模・態様であれば雑所得とされ、通算できません。

Q. 繰戻し還付を使うと税務調査が来ますか。
還付請求があると税務署は還付の可否を調査します(所得税法142条2項)。これは制度上の手続で、必ず臨場調査になるわけではありません。ただし赤字の理由を説明できる資料は用意しておいてください。

Q. 2年前の赤字を繰り戻すことはできますか。
できません。繰戻しは前年分に限ります(前々年以前には遡れません)。ただし震災等の特例が設けられることがあります。

Q. 事業をやめた後に、繰り越した損失は使えますか。
その後に他の所得(給与など)があれば、繰越控除は使えます。ただし連続して申告書を提出していることが条件です。事業をやめても申告を続けてください。

Q. 減価償却をあえて計上せず、赤字を小さくできますか。
個人事業の減価償却は強制償却です。法人と違い、任意に計上しない選択はできません(開業費・繰延資産は任意償却が可能です)。融資対策で「償却を止める」ことはできない、と理解してください。

Q. 繰越損失があるうちは、ふるさと納税やiDeCoは無駄になりますか。
所得が0になる年は、所得控除も税額控除も使い切れずに消えます。ふるさと納税の限度額も下がります。繰越がある年は、こうした支出を控えるという判断もあり得ます(節税しすぎると詰む場面)。

まとめ

  • 赤字は申告して初めて資産になる。しなければ消える
  • 純損失は翌年以後3年間繰り越せる(青色限定
  • 前年も青色なら、前年の所得税を取り戻す繰戻し還付が使える
  • 繰戻しは期限内申告+還付請求書の同時提出が絶対条件
  • 繰戻し還付は所得税だけ。住民税は繰越のみ
  • 繰越を続けるには、毎年連続して申告すること
  • 白色で繰り越せるのは変動所得と被災事業用資産の損失だけ
  • 赤字申告には国保料の軽減・所得証明・予定納税の減額という効果もある
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法69条(損益通算)
  • 所得税法70条(純損失の繰越控除。青色申告書を提出した年に生じた純損失を翌年以後3年内の各年分の総所得金額等から控除。連続して確定申告書を提出していること)
  • 所得税法70条2項(白色申告者の被災事業用資産の損失・変動所得の損失に係る繰越控除)
  • 所得税法140条(純損失の繰戻しによる還付の請求。前年分について青色申告書を提出しており、本年分の青色申告書を提出期限までに提出し、同時に還付請求書を提出すること)
  • 所得税法142条2項(還付請求があった場合、税務署長は調査し、還付し、または理由がない旨を通知する)
  • 地方税法(住民税には繰戻し還付の制度がなく、繰越控除により処理される)
  • 所得税法49条(減価償却費は強制償却)/同50条(繰延資産の任意償却)
  • ※2026年時点の取扱いです

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この記事の位置づけ

この記事は「+ 1年目・赤字の年・やめるとき」の詳細です。

節税は、やる順番で結果が変わります——コース全体のどこにあたるかは、全体像のページで確認できます。

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