その修理は経費?資産?──20万円→3年周期→60万円→10%→7:3 の順で機械的に判定する
工事や修理の請求書が来たとき、今期の経費で落とせるのか、資産に計上して何年もかけて償却するのか。
金額が大きいほど税額への影響も大きく、しかも税務調査で指摘されやすい論点です。個人事業にも法人にも同じように起きるのに、体系的に整理された解説が意外と見当たりません。
判定は、上から順に見るのがコツです。
この記事の結論
- 判定は上から順。①20万円未満 →②おおむね3年周期 →③明らかか →④60万円未満 →⑤前期末取得価額の10%以下 →⑥災害 →⑦7:3基準 →⑧実質判定
- ★この順番を飛ばして先に60万円基準を見ると、不利になります
- ★60万円基準・10%基準は「区分が明らかでないとき」しか使えない
- ★基礎控除ではない。超えたら支出額の全額について適用がなくなる
- ★「前期末における取得価額」は「前期末の帳簿価額」ではない。ここは調査で頻繁に指摘される
- 修繕費には損金経理要件がない。支出した年に全額を落とすべきもので、期をずらせない
1. まず定義
資本的支出とは、
- その資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
- その資産の価額を増加させる部分に対応する金額
をいいます。両方に該当する場合はいずれか多い金額が資本的支出です。
平成19年4月1日以後に行った資本的支出は、新たな減価償却資産を取得したものとして扱い、減価償却で費用配分します。
★ちなみに、建物の増築や構築物の拡張・延長は、資本的支出ですらなく「建物等そのものの取得」です。
通達が挙げている例示です。
| 資本的支出の例 | 修繕費の例 |
|---|---|
| 建物の避難階段の取付等、物理的に付加した部分の費用 | 建物の移えい又は解体移築の費用(解体移築は旧資材の70%以上を再利用し、移築後の建物に以前との同一性が認められるものに限る) |
| 用途変更のための模様替え等、改造又は改装に直接要した費用 | 機械装置の移設費用(集中生産等のための移設を除く) |
| 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えに要すると認められる費用を超える部分 | 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するための地盛り費用 |
| 現に使用している土地の水はけを良くする等のための砂利・砕石等の敷設費用 |
2. 判定フロー──上から順に見る
① 一の修理・改良等に要した費用が 20万円未満 か?
→ YES なら 修繕費(法基通7-8-3(1))
↓ NO
② おおむね3年以内の周期で行われることが、
既往の実績その他の事情から明らかか?
→ YES なら 修繕費(法基通7-8-3(2))
↓ NO
③ 明らかに価値を高める/耐久性を増す支出か?
├ 明らかに資本的支出 → 資本的支出
├ 明らかに修繕費(通常の維持管理・き損の原状回復) → 修繕費
└ 明らかでない ↓
④ その金額が 60万円未満 か?
→ YES なら 修繕費(法基通7-8-4(1))
↓ NO
⑤ その固定資産の 前期末における取得価額の
おおむね10%相当額以下 か?
→ YES なら 修繕費(法基通7-8-4(2))
↓ NO
⑥ 災害に伴う支出で、原状回復又は被災前の効用の維持のためか?
→ YES なら 修繕費(法基通7-8-6)
↓ NO
⑦ 継続適用を条件に、割合区分(7:3基準)を使うか?
「支出額の30%」と「前期末取得価額の10%」の
いずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出(法基通7-8-5)
↓ 使わない
⑧ 実質により判定する
★この順番が重要です。20万円未満基準と3年周期基準を先に検討しないと不利になります。①②は「明らかに資本的支出であっても修繕費にできる」強い基準だからです。いきなり③の実質判断から入ると、本来使えたはずの救済を自分から捨てることになります。
3. 形式基準を使うときの5つの落とし穴
★★1. 60万円基準・10%基準は「区分が明らかでないとき」しか使えない
フローの④⑤は、③で「明らかでない」と判定されたものにだけ適用されます。
たとえば賃貸物件のリフォームで、壁紙の張替え(修繕費)とトイレの温水洗浄便座化(資本的支出)を一緒に発注した場合。この2つは区分が明らかなので、「合計しても取得価額の10%以下だから全部修繕費」は通りません。
★★2. 基礎控除ではない
60万円や10%を超えたら、その基準額まで修繕費にできるわけではありません。支出金額の全額について適用がなくなります。
65万円の工事なら「60万円が修繕費で5万円が資本的支出」ではなく、65万円全額について④の判定が使えなくなるということです。
★★3.「前期末における取得価額」を「前期末の帳簿価額」と取り違えない
正しくは、
取得価額 + 取得時から前期末までの資本的支出の金額の合計額
です。減価償却が進んだ後の帳簿価額ではありません。圧縮記帳を適用した資産なら、圧縮後の金額+資本的支出です。
★この誤りは税務調査で頻繁に指摘されます。帳簿価額で計算すると分母が小さくなり、10%基準を通らなくなる(=本来使えた救済を落とす)ことも、逆に基準を誤って広く使ってしまうこともあります。
★4.「おおむね10%」は10%台まで
11%台になれば範囲を超えます。「おおむね」に大きな幅はありません。
★5. 20万円判定の単位と期間
- 判定単位は「一つの計画に基づく同一の固定資産への支出額の合計額」。一の設備が2以上の資産で構成されるときは一の設備を構成する個々の資産ごと
- ★工事自体が2以上の事業年度にまたがるときは、各事業年度ごとに要した金額で判定する。しかし、工事は1回で支払いだけが2期に分割されただけなら、合計額で判定する。ここを逆にすると否認されます
- 3年周期は「個々の資産ごと」に判定する。設備全体では3年ごとでも、前回は甲機械・今回は乙機械なら適用がありません
- 「既往の実績」は自社の実績でよく、業界一般の実績である必要はありません。親会社の実績を使うなら、それを使える理由が第三者にすぐ分かることと、実績を証する資料が必要です
4. 7:3基準の実例
区分が明らかでなく、④⑤にも当てはまらない場合の最後の手段が割合区分による方法です。継続適用が条件です。
「支出額の30%」と「前期末取得価額の10%」のいずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出とする
設例
7年前に建てた建物の外壁改装工事(建築後はじめての塗り直し)、工事費5,800,000円。その建物の前期末の取得価額は37,988,996円。
- 前期末取得価額の10% = 3,798,900円
- 支出額の30% = 5,800,000 × 30% = 1,740,000円
- 1,740,000 < 3,798,900 → 少ないほうの1,740,000円が修繕費
→ 修繕費 1,740,000円 / 建物(資本的支出) 4,060,000円
★なお、7:3基準で資本的支出として処理した金額に対応する除却損は計上できません。
5. 災害があったとき
| 支出 | 扱い |
|---|---|
| 被災資産の原状回復のための支出 | 修繕費 |
| 被災前の効用を維持するための補強工事、排水又は土砂崩れの防止等 | 修繕費経理を認める |
| 上記以外で区分が明らかでないもの | 30%を修繕費、残額を資本的支出とする経理を認める |
判定単位は、建物は1棟ごと、機械及び装置は1台又は1基ごと、工具・器具及び備品は1個・1組又は1揃いごとです。
★注意点が2つ。
- 評価損を計上した固定資産は、災害の特例の対象外になります。評価損を計上すると、以後の支出はすべて資本的支出です
- ★被災していない建物の耐震補強は資本的支出。被災した建物の耐震補強(二次災害の回避)は修繕費。この差は大きい
📌 範囲注記
災害に関する国税庁のFAQは災害ごとに発出されます。実際に適用するときは、その災害についての最新のFAQをご確認ください。
6. 資本的支出をした後の償却
資本的支出は「新しい減価償却資産を取得したもの」として償却します。ここにも間違えやすい点があります。
| 論点 | 取扱い |
|---|---|
| 適用する耐用年数 | ★残存年数ではなく、現に適用している耐用年数。10年の資産を7年経過後に資本的支出をしても、3年ではなく10年で償却する |
| 支出年度の償却限度額 | ★月数按分する。本体部分と資本的支出部分の二本建てで計算しないと償却超過になる |
| 平成19年3月31日以前取得資産(旧定額法・旧定率法等) | 取得価額に加算できる |
| 200%定率法どうしの合算特例 | 双方が200%定率法なら、翌事業年度開始時の帳簿価額の合計額を取得価額とする一の資産にできる。★いったん合算したら分離できない |
| 賃借資産への資本的支出 | その資産の耐用年数。更新できない賃借期間の定めがあり、かつ有益費請求・買取請求ができないなら賃借期間 |
| 少額減価償却資産の特例 | ★資本的支出には原則として適用できない。ただし規模の拡張・単独資産としての機能の付加など、実質的に新たな資産を取得したと認められる場合は適用できる |
| 建物附属設備・構築物 | 平成28年4月1日以後、定額法一本化 |
★もし資本的支出を修繕費として経理していた場合は、「償却費として損金経理した金額に含まれる」ものとして扱われます。つまり償却超過額として加算・留保になるだけで、簿外資産にはなりません。別表五(一)に残高が立って、翌期以降に少しずつ解消していきます(別表四と別表五(一)のつながり)。
★一方、新規取得資産を修繕費として経理した場合は扱いが違います。少額(おおむね60万円以下)又は耐用年数の短いもの(3年以下)に限って償却費として損金経理したものと扱われ、該当しなければ簿外資産となり減価償却できません。修理と取得を混ぜないことです。
なお、少額減価償却資産の金額基準そのものは 30万円未満の特例 と 少額減価償却資産40万円、中古資産の耐用年数は 中古資産の耐用年数と簡便法 にまとめています。
7. 場面別の判定
賃貸物件のリフォーム
| 工事 | 判定 |
|---|---|
| 経年劣化・汚れ・破損がひどい壁紙や床の張替え | 修繕費(著しく品質・性能の高いものに取り替えたのでなければ) |
| キッチンのガス機器の取替え | 新たな資産の取得ないし資本的支出 |
| トイレの温水洗浄便座化 | 新たな資産の取得ないし資本的支出 |
★取得価額の10%以下であっても、区分が明らかなので60万円基準・10%基準は使えません。
ソフトウエア
| 内容 | 判定 |
|---|---|
| 障害の除去、現状の効用の維持(バグ取り、ウィルス除去、法改正対応の必要最小限の修正) | 修繕費 |
| 新たな機能の追加、機能の向上(バージョンアップ) | 資本的支出 |
| 仕様を大幅に変更して新規に製作 | 取得価額(新たなソフトウエアの取得) |
★見積書・作業指図書で内容を残しておくことが唯一の防御になります。
その他
- ★耐用年数が経過していても、一般と同様に判定します。「もう償却済みだから全部修繕費」は誤りです
- 中古の機械・建物を取得して、事業供用前に手入れ・外壁塗装・雨漏り修理をした費用は、修繕費ではなく取得価額になります
- ★修繕費には損金経理要件がありません。支出した事業年度に全額を損金算入すべきもので、期をずらすことはできません。前期のものを当期に落とすことはできず、前期について更正の請求をすることになります。減価償却とは正反対の性質です(決算調整事項と申告調整事項)
- 屋根の全面葺替えなど、部分的に除却を伴う工事では除却損を計上します。計上しないと建物の帳簿価額が過大(架空資産)になります
8. 現場でやること
判定を有利に、かつ安全に進めるためにやることは3つだけです。
- ★工事前の写真を撮る──着手前の状態が判定の根拠になります
- ★1台ずつ、1棟ずつで管理する──判定単位が明確になります
- ★業者に工事明細を求める──「一式」の請求書では区分できません。明細がないと、区分が明らかなものまで一括で資本的支出にされかねません
とくに3番目は、工事の発注時に伝えておくかどうかで結果が変わります。請求書が来てからでは間に合わないことがあります。
まとめ
- 判定は上から順。①20万円未満 →②3年周期 →③明らかか →④60万円未満 →⑤前期末取得価額の10%以下 →⑥災害 →⑦7:3 →⑧実質
- ★①②を先に見る。飛ばすと不利になる
- ★④⑤は「区分が明らかでないとき」しか使えない
- ★基礎控除ではない。超えたら支出額の全額について適用がなくなる
- ★「前期末における取得価額」=取得価額+前期末までの資本的支出。帳簿価額ではない
- 「おおむね10%」は10%台まで
- 工事がまたがる→年度ごとに判定/支払いだけが分割→合計で判定
- 7:3は「支出額の30%」と「前期末取得価額の10%」の少ないほうが修繕費。継続適用が条件
- 被災していない建物の耐震補強は資本的支出、被災した建物の耐震補強は修繕費
- 資本的支出の償却は★現に適用している耐用年数で、支出年度は月数按分の二本建て
- ★修繕費に損金経理要件はなく、期をずらせない
- 現場でやることは写真・1台ずつ管理・工事明細の3つ
- 法人税法施行令132条(資本的支出)/55条(資本的支出の取得価額の特例)/59条1項(事業年度の中途で事業の用に供した減価償却資産の償却限度額)
- 法人税基本通達7-8-1・7-8-2(資本的支出と修繕費の例示)/7-8-3(少額又は周期の短い費用)/7-8-4(形式基準)/7-8-5(割合区分)/7-8-6(災害の場合)/7-8-6の2(ソフトウエア)/7-8-9(耐用年数経過後の判定)/7-5-1(償却費として損金経理した金額の意義)
- 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-2(資本的支出の耐用年数)/1-1-4(賃借資産への資本的支出)
- 租税特別措置法通達67の5-3(資本的支出への少額減価償却資産の特例の適用)
- 国税庁タックスアンサー「資本的支出と修繕費」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です。上記通達の金額基準・割合基準は2026年7月時点で改正されていません
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