請求書は出した。でも「あれ、A社の分は入ってきたっけ?」——メールの送信済みフォルダを検索して、通帳を見て、なんとなく大丈夫そうだから閉じる。取引先が3件までならそれで回りますが、5件を超えたあたりで必ず取りっぱぐれが起きます。
原因は記憶力ではありません。「請求した」と「入金された」を別々に記録する場所がない、それだけです。
この記事では、売掛金という考え方を腹落ちさせたうえで、管理表の型と、月末5分で未入金だけを炙り出すルーティンをまとめます。エクセルでもスプレッドシートでも、今日から始められる形にしました。
この記事の結論
– 売掛金=請求書を出したがまだ入金されていない売上。売上の記録とお金の記録は別イベント
– 管理表は「請求書番号・請求日・取引先・請求額・支払期日・入金日・状態」の7列あれば足りる
– 月末は入金明細を見て入金日を埋めるだけ。支払期日を過ぎて入金日が空欄の行=未入金リスト
– 入金額が合わないのはほぼ振込手数料・源泉徴収・まとめ入金の3つ
簿記の言葉としては難しく見えますが、中身はとても素朴です。
売掛金=「もう仕事は終わって請求書も出したけれど、まだお金をもらっていない」金額。 これだけです。
個人事業主の売上は原則として発生主義で計上します。つまり、入金された日ではなく、仕事が終わって請求できる状態になった日が売上の日です。だから帳簿の上では、1つの取引に対して2本の線が引かれます。
| 場面 | 記録の形(借方 / 貸方) | 意味 |
|---|---|---|
| 納品して請求書を出した | 売掛金 / 売上高 | 「売上が立った。回収する権利ができた」 |
| 入金された | 普通預金 / 売掛金 | 「権利がお金に変わった」 |
| 振込手数料が引かれていた | 支払手数料 / 売掛金 | 差引き分を費用として処理 |
| 源泉徴収されていた | 事業主貸(または仮払税金)/ 売掛金 | 先に納められた所得税分 |
ポイントは、入金の記録は「売上」ではなく「売掛金の消滅」だということ。ここを取り違えると、同じ売上を2回計上してしまいます(入金時にもう一度売上を立ててしまう典型的なミス)。
そして、この2本目の線が引かれていない行こそが未入金です。管理表は、この「2本目待ち」を見える場所に置くための道具にすぎません。
凝った表を作ると続きません。次の7列(+メモ)だけで十分です。
| 列 | 入れる内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 請求書番号 | 2026-001 のような連番 |
欠番があると請求漏れが分かる。番号は請求書にも必ず印字 |
| 請求日 | 請求書を発行した日 | 売上を計上する月の判断に使う |
| 取引先 | 社名・屋号 | 表記を統一(「株式会社」を略さない等) |
| 件名 | 案件名 | 同じ取引先から複数案件が来ても区別できる |
| 請求額(税込) | 請求書の合計額 | ここが入金額の照合基準 |
| 支払期日 | 相手の締め・支払サイトに合わせた日 | これがないと遅れに気づけない |
| 入金日 | 実際に入金された日(空欄=未入金) | ここを埋める作業が「消込」 |
| 状態 | 未入金/入金済/一部入金 | 数式で自動判定してもよい |
差額が出たときのために「差額メモ」列を足しておくと、あとで原因を追いやすくなります。
請求書そのものに何を書くかは請求書の記載項目にまとめました。インボイス(適格請求書)は記載事項が法定されているので、番号や税率の書き方はそちらを先に整えてください。
番号は自由に決めてかまいませんが、年ごとの通し連番が最も事故に強いです。2026-001、2026-002……と振っていくだけ。
連番のいいところは3つあります。
取引先が増えてきたら 2026-A社-001 のように相手コードを挟む手もありますが、まずは単純な通し連番で始めるのが挫折しにくいです。
やることは、入金明細と管理表を突き合わせて入金日を埋める、それだけです。
フィルタで「入金日が空欄」かつ「支払期日が今日より前」を絞るだけなので、慣れれば本当に数分です。大事なのは所要時間ではなく、月に1回、必ず未入金がゼロ件かどうかを確認する時点をつくること。
「毎月末」が難しければ、入金日が集中する日の翌営業日(月末締め翌月末払いの取引先が多いなら毎月1日など)に固定するとリズムが作りやすくなります。
照合していると必ず出てくるのが、請求額と入金額のズレです。原因はほぼこの3つに絞れます。
| ズレの正体 | 見分け方 | 処理の考え方 |
|---|---|---|
| 振込手数料の差引き | 数百円だけ少ない | 差額は支払手数料として費用計上(またはあらかじめ「手数料は貴社負担」を取り決めておく) |
| 源泉徴収 | 報酬額の10.21%前後が少ない | 差引かれた分は先に納めた所得税。確定申告で精算する(源泉徴収と請求書の書き方) |
| 複数請求のまとめ入金 | 1件の入金額がどの請求額とも合わない | 複数行の合計と一致するか確認。管理表では該当行すべてに同じ入金日を入れる |
| 消費税の端数 | 1円だけ違う | 相手側の端数処理と噛み合っていない可能性(インボイスの端数処理) |
原稿料・デザイン料・講演料などは源泉徴収の対象になるため、「入金額=売上」ではありません。ここを入金額だけで記帳していくと、売上が過少になり、源泉税の還付も受けられません。
慌てて催促する前に、自分側の確認を先に。順番を間違えると関係を傷めます。
管理表を手で作らなくても、会計ソフトの請求書機能を使えば同じことが自動でできます。
つまり、請求書の発行場所と帳簿を一本にするのが最短ルートです。ソフト選びは会計ソフト比較、記帳の始め方は確定申告の流れ(記帳から)を参考にしてください。
ただし、自動消込は金額が一致した場合に強い仕組みです。振込手数料の差引きや源泉徴収がある取引は、結局は人が見て判断することになります。だからこそ、上の「ズレの正体」を理解しておく価値があります。
Q. 入金された日に売上を計上する方法(現金主義)でもいいのでは?
青色申告者で前々年分の事業所得等が300万円以下の人は、届出をすれば現金主義で計算できます(所得税法67条)。ただしこの特例を選ぶと青色申告特別控除は10万円になります。65万円を取りたいなら発生主義で記帳する必要があるので、結局は売掛金の管理が前提になります。
Q. 12月に請求して1月に入金された売上は、どちらの年?
請求した年(12月)の売上です。12月31日時点で入金がなければ、その分は売掛金として貸借対照表に残ります。年末はここを必ず洗い出してください。年をまたぐ売掛金の見落としは、税務調査でも指摘されやすい定番の論点です。
Q. 結局回収できなかった売上は、経費(貸倒損失)にできますか?
できる場合がありますが、要件はかなり厳格です。相手の法的整理などで債権が切り捨てられた場合(法律上の貸倒れ)、資産状況から全額回収不能と明らかな場合(事実上の貸倒れ)、取引停止から1年以上経過などの形式基準(所得税基本通達51-11〜51-13)に当てはまるかで判断します。「連絡が取れないから」だけでは足りません。個別の判断は税理士に相談してください。
Q. 請求書の控えはいつまで保存が必要?
個人事業主の場合、帳簿は7年、請求書などの書類は原則5年です。ただし消費税の課税事業者は、仕入税額控除のために7年保存が必要になるものがあります。迷うなら7年でそろえておくのが安全です。メールで受け取った請求書はデータのまま保存する必要がある点も忘れずに。
Q. 一部だけ入金されたときは?
状態を「一部入金」にして、残額を管理表に残します。帳簿では入金額分だけ売掛金を減らし、残りは売掛金として残る形です。相手の分割払いの都合なのか、値引き交渉のつもりなのかは、必ず言葉で確認しておきましょう。
👉 請求書に書くべき項目とインボイスの記載事項
👉 請求書の消費税が1円ズレる?端数処理は税率ごとに1回だけ
👉 源泉徴収される報酬、請求書はどう書く?
👉 事業用の口座を分けるべき理由と分け方
👉 freee・マネフォ・弥生、結局どれ?会計ソフト比較