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更新日 2026-07-25 起業時の知識第43回

領収書をなくした・もらい忘れた経費はあきらめる?出金伝票と代替証憑の作り方

記帳しようとしたら、あの日の駐車場代のレシートが見つからない。取引先へ持っていった手土産の領収書をもらい忘れた。そして「領収書がないなら経費にできないんだろうな」と、そっと諦める——この諦めが、いちばんもったいないです。

順番を整理しましょう。経費になるかどうかを決めるのは「その支出が事業に必要だったか」という事実です。領収書は、その事実を裏づける証拠のひとつにすぎません。証拠が1種類なくなっただけで、事実が消えるわけではありません。

この記事では、代替になる記録を強い順に並べ、出金伝票の書き方と「否認されにくい形」までまとめます。ただし「領収書代わりに何でも通る」わけではない線引きも、はっきり書きます。

この記事の結論
– 必要経費の判断は事業に必要だったかという事実。領収書はそれを裏づける証拠のひとつ
– 代替の強さは再発行>カード・振込明細>購入履歴メール>IC利用履歴>出金伝票
出金伝票は自分で作る書類なので単独では弱い。手帳・カレンダー等との整合で補強する
– 消費税(本則課税)の仕入税額控除は別ルール。帳簿のみで控除できる特例がある

そもそも領収書が出ない支出がある

紛失した話をする前に、こちらを先に。最初から領収書が発行されない支出は珍しくありません。

支出 代わりに残す記録
電車・バス(ICカード・切符) 利用履歴の印字・ダウンロード、または日付・区間・金額・目的のメモ
自動販売機での購入 出金伝票(日付・場所・金額・用途)
香典・ご祝儀・お見舞い 案内状や会葬御礼+出金伝票(相手・関係性を記録)
割り勘の飲食代 店のレシート(全額分)+自分の負担額と参加者を記録
コインパーキング(発券機のみ) 出金伝票+訪問先を記録
慶弔の花代など現金支払い 手配時のメール・注文控え+出金伝票

香典・ご祝儀はそもそも領収書という概念がない支出です。ここで大事なのは金額の記録より、「誰に・どういう関係で」を残すこと。取引先の代表者の葬儀なら交際費として説明できますが、親族の慶弔は事業とは無関係です。記録の主役は「業務関連性」だと考えてください。

経費になるかどうかの線引き自体に不安がある人は、経費にできるものの一覧経費の基本を先に読むと迷いが減ります。

代替証憑を「強い順」に並べる

紛失した場合、上から順に試すのが効率的です。

手段 強さ 入手のしかた
再発行してもらう ★★★ ホテル・通信・サブスク・ネット通販はマイページから再発行できることが多い。店舗も相談すれば応じる場合がある
クレジットカード・電子マネーの明細 ★★★ 日付・金額・支払先が客観的に残る。Web明細はデータで保存電子取引の検索要件
銀行の振込履歴・通帳 ★★★ 相手と金額が確定できる
注文確認メール・購入履歴画面 ★★☆ ネット購入なら十分に強い。スクリーンショットでも可
交通系ICカードの利用履歴 ★★☆ 券売機で印字、またはアプリでダウンロード
手帳・カレンダー・チャットのやりとり ★☆☆ 単独では弱いが、訪問先や打合せ相手の裏づけとして効く
出金伝票(自分で作る) ★☆☆ 最後の手段。上のどれも取れないときに使う

見ていただきたいのは、多くの支出は「再発行」か「明細」で解決するという点です。出金伝票にたどり着く前に、まずマイページとカード明細を確認してください。特にサブスクや通信費は、探せばほぼ確実に領収書が取れます。

出金伝票の書き方は5項目

100円ショップで売っている出金伝票でも、会計ソフトの摘要欄でも、Excelでもかまいません。形式より中身です。

記入欄 書く内容 例(香典) 例(電車代)
日付 支払った日(後日まとめて書かない) 2026年7月10日 2026年7月12日
支払先 相手・場所 ○○商事 代表者ご葬儀 JR(○○駅→△△駅)
金額 実際に払った額 10,000円 往復 640円
勘定科目 接待交際費/旅費交通費など 接待交際費 旅費交通費
内容・目的 誰と・何のために(ここが本体) 取引先代表者の葬儀参列(会葬御礼あり) △△社訪問(打合せ)

いちばん重要なのは最後の内容・目的です。「交通費 640円」だけでは何も説明していません。「△△社訪問(打合せ)」があるかどうかで、証拠としての価値がまったく変わります。

書くタイミングも大事です。その日か、遅くともその週のうちに。年末に1年分をまとめて作った出金伝票は、見る側からするといちばん信用しにくい書類になります。

出金伝票が「弱い」ことを理解しておく

出金伝票は自分で作る書類です。だから単独では証明力が高くありません。強くするには、次の3点で補強します。

  1. 作成が支出と同時期であること(手帳やカレンダーと日付が整合している)
  2. 他の記録と噛み合っていること(同じ日に訪問先へのメール、カーナビの記録、隣接する交通費のレシートがある)
  3. 金額と頻度が常識的であること

逆に、否認されやすいパターンははっきりしています。

通りやすい 通りにくい
少額(数百円〜数千円)で、領収書が出ない性質の支出 数万円以上の支出を出金伝票だけで処理
発生の都度、日付順に作成されている 年末にまとめて同じ筆跡・同じ様式で大量作成
金額が実額(648円、1,340円など) 「5,000円」「10,000円」など丸い数字ばかり
訪問先・相手・目的が具体的 「打合せ」「資料代」など内容が抽象的
全体の証憑に対して出金伝票がごく一部 経費の相当部分が出金伝票

つまり、出金伝票は「例外を埋める道具」です。日常の記録手段として多用すると、経費全体の信頼性を下げてしまいます。経費で見られやすい観点は経費の注意点にまとめています。

消費税は別のルールで動く

所得税(経費)と消費税(仕入税額控除)は要件が別です。ここを混同すると判断を誤ります。

本則課税(一般課税)で仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。ただし、帳簿への記載だけで控除が認められる特例があります。

  • 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(電車・バス・船)
  • 自動販売機・自動サービス機からの3万円未満の購入
  • 入場券等が回収される取引(映画館・美術館などで券を回収される場合)
  • 従業員等に支給する出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当として通常必要と認められるもの

これらは領収書がなくても、帳簿に必要事項を記載すれば控除できます。電車代や自販機に領収書がないのは、制度側も前提にしているわけです。

一方、簡易課税や2割特例を選んでいる場合は、そもそも仕入側の証憑で納税額を計算しません(売上だけで計算します/2割特例のしくみ)。ただし所得税の経費としての記録は依然として必要なので、「消費税は簡易だから領収書はどうでもいい」ではありません。

二度と困らないための予防策

紛失対策は、意志ではなく仕組みで解決します。

  • 受け取った瞬間にスマホで撮る:後で整理する前提で、撮影だけ先に済ませる。撮影は紛失保険です
  • 財布に「未処理」の定位置をつくる:小さな封筒を1つ入れておき、レシートは全部そこへ。週に1回まとめて処理する
  • 支払いをカードと電子マネーに寄せる:明細が自動で残るので、紛失そのものが起きにくくなります
  • 現金払いは「その場で出金伝票」:現金を使ったらメモアプリに1行残す。あとで転記するだけになります

保管の運用はレシート・領収書の保管を仕組みにするコツに具体的な手順を書いています。

よくある質問(FAQ)

Q. 領収書を1枚なくしただけで否認されますか?
それだけで否認されるものではありません。支出の事実が他の記録で確認でき、事業との関連が説明できるなら経費として扱えます。問題になるのは、領収書のない経費が全体の中で大きな割合を占める場合です。1枚ずつの話ではなく、全体の信頼性の話だと理解してください。

Q. 出金伝票はどれくらいまで使っていいですか?
「〇円まで」という法律上の基準はありません。実務の目安は、領収書が出ない性質の支出と、少額の紛失に限ること。高額な支出は再発行・明細で押さえるべきです。

Q. 電車代は毎回1件ずつ記録が必要ですか?
1件ずつでも、まとめてでもかまいませんが、日付・区間・金額・目的が分かる形にしてください。交通費精算書のような一覧表を月次で作るのが現実的です。ICカードの利用履歴を印字・ダウンロードして添えれば十分に強い記録になります。

Q. 家族に手伝ってもらった分を出金伝票で経費にできますか?
できません。生計を一にする親族へ支払う対価は原則として必要経費になりません(所得税法56条)。青色事業専従者給与の届出をして要件を満たす場合が例外です(配偶者を青色事業専従者にすべき?)。ここは出金伝票の問題ではなく、制度そのものの問題です。

Q. 白色申告でも出金伝票でいいですか?
かまいません。白色申告にも記録と保存の義務があるので、考え方は同じです。青色・白色を問わず、「事実を説明できる記録を残す」という原則は変わりません。

Q. 領収書の宛名が「上様」でも大丈夫?
実務上、少額の支出で認められることは多いですが、屋号または氏名を書いてもらうのが本来です。特にインボイスとして使う請求書・領収書は、宛名(交付を受ける者の氏名または名称)が記載事項なので、レジで一言お願いする習慣をつけたほうが安全です。

まとめ

  • 経費かどうかは事業に必要だったかという事実で決まる。領収書は証拠のひとつ
  • まず再発行とカード・振込明細を探す。出金伝票は最後の手段
  • 出金伝票は5項目、特に「誰と・何のために」を書く。その日のうちに作る
  • 丸い数字・高額・年末まとめ作成は通りにくい。出金伝票は例外を埋める道具
  • 消費税(本則課税)は帳簿のみで控除できる特例がある。所得税とは別ルール
  • 予防は仕組みで。受け取ったら撮る/定位置に入れる/カードに寄せる
この記事の主な根拠(出典)

  • 所得税法37条(必要経費の範囲)
  • 所得税法56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
  • 所得税法148条・同施行規則63条(青色申告者の帳簿書類の備付け・保存)
  • 消費税法30条7項(仕入税額控除に係る帳簿・請求書等の保存)
  • 消費税法施行令49条1項(帳簿のみの保存で控除が認められる取引/公共交通機関・自動販売機・入場券等回収・出張旅費等)
  • 国税庁タックスアンサー「やむを得ない理由で請求書等が交付されない場合」「記帳や帳簿等保存・青色申告」
  • ※2026年時点の制度に基づく

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