「月次決算」という言葉を見て、不安になった人向けの記事です。
会社では毎月決算をやると聞く。自分もやらないと確定申告で困るのだろうか。でも毎月そんな時間はない——。
結論から言います。個人事業主に月次決算の義務はありません。 ただし、月1回10分だけやっておくと、確定申告が別物になります。
この記事の結論
– 個人事業主に「月次決算」の法的な義務はない。青色65万円の要件でもない
– それでも月1でやる価値があるのは①未処理の消し込み ②残高照合 ③証憑の確認の3つだけ
– 減価償却・棚卸・家事按分は月次でやらなくていい。年1回で足りる
– 残高が合わないときは差額の金額で検索するのが最短ルート
– 3か月に1回は利益と納税額の概算も見る。ここで資金繰りの事故が防げる
– 続けるコツは「日付を決める」「10分で切り上げる」「完璧をやめる」
法律が個人事業主に求めているのは、取引を記録して帳簿を保存することです(所得税法148条ほか)。「毎月締める」という規定はどこにもありません。
よく誤解されるのが、青色申告特別控除65万円との関係です。
| 65万円控除の要件 | 月次締めは関係するか |
|---|---|
| 正規の簿記の原則(複式簿記)による記帳 | 関係しない |
| 貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付 | 関係しない |
| 期限内(3月15日まで)に申告 | 関係しない |
| e-Taxによる申告、または優良な電子帳簿保存 | 関係しない |
要件はこの4つで、月次決算は入っていません(青色申告65万円控除の条件)。
つまり月次の締めは、税務のためではなく、自分のためにやる作業です。だから「やらないと違反」ではなく、「やると得」という位置づけで考えてください。
① 記憶が新しいうちにしか片づかない取引がある
「この5,000円の出金は何だっけ」——1か月前なら思い出せます。11か月前は無理です。記帳の目的そのものについては帳簿をつける本当の意味も参考にしてください。
② 残高のズレは、早いほど直しやすい
通帳と帳簿の残高が1,200円ずれている。今月分だけなら探す範囲は30件です。1年分だと400件になります。同じ作業量とは思えないはずです。
③ 確定申告期の作業が平準化される
2月に11か月分の記帳をするのと、毎月10分ずつやるのとでは、総時間はほぼ同じでも精神的な負担がまったく違います。2月に手が止まる人ほど、この差が効きます。
やることは3つだけです。会計ソフトを使っている前提で書きます。
| Step | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 連携データを同期し、未処理の取引をゼロにする | 5分 |
| 2 | 残高照合——通帳・カード・現金・決済サービスの残高を帳簿と突き合わせる | 3分 |
| 3 | 証憑の確認——今月のレシート・請求書・電子取引データが保存されているか | 2分 |
これだけです。以下、それぞれの中身です。
Step1:未処理をゼロにする
自動連携で取り込まれた取引のうち、勘定科目が決まっていないものを片づけます。迷ったものは「仮払金」などに一度入れて先に進んでください。止まらないことが最優先です。
Step2:残高照合
月末時点の残高を、次の3つで突き合わせます。
現金の残高がマイナスになっている場合は、事業主借の計上漏れがほぼ確実です。個人の財布から払った経費を、帳簿上どこからも補充していない状態です。
Step3:証憑の確認
今月のレシートを1か所に集められているか、メールで届いた請求書やWeb明細をデータで保存できているかを確認します。ここは5秒見るだけで構いません。
Step2で合わなかったときのために、探し方を順番に並べておきます。上から試すと早いです。
| 差額の特徴 | 疑うところ |
|---|---|
| 同じ取引が2件 | 自動連携と手入力の二重計上 |
| 差額がきれいな金額(1,000円・5,000円など) | 入力漏れ。その金額で検索する |
| 差額が9で割り切れる | 桁の入れ替え(1,200と2,100など) |
| 差額が該当取引の2倍 | 借方と貸方が逆 |
| カードだけ合わない | 締め日と引落日のズレ。未払金の計上時期を確認 |
| 決済サービスだけ合わない | 未入金分(入金前の売上)が残高に入っていない |
いちばん強いのは「差額の金額をそのまま検索窓に入れる」です。単純ですが、実務ではこれで6割以上が見つかります。
期首残高そのものが合っていない場合は、元入金の理解が原因のことがあります(貸借対照表が合わない:元入金の考え方)。
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。真面目な人ほど、月次でやり過ぎて挫折します。
| 作業 | 月次でやる? | 理由 |
|---|---|---|
| 減価償却 | 不要 | 年1回、決算のときにまとめて計算すれば足りる |
| 棚卸 | 不要(年1回でよい) | 12月31日時点の在庫を数えるのが本番 |
| 家事按分 | 不要 | 年間の合計に対して割合をかけるほうが正確 |
| 売掛金・買掛金の年またぎ調整 | 不要 | 期末にしかできない調整 |
| 利益の把握 | 3か月に1回でよい | 毎月見ても判断は変わらない |
| 未処理の消し込み | 必要 | ためると復元できない |
| 残高照合 | 必要 | ズレは早いほど直る |
| 証憑の保存確認 | 必要 | レシートは紛失すると戻らない |
年末にしかできない調整の話は毎日ちゃんと記帳しているのに、なぜ年末に決算整理が必要なの?にまとめています。月次と年次の役割分担を知っておくと、月次を軽くできます。
月次を10分に抑えるかわりに、四半期に1回、次の2つを見てください。
① 利益と納税額の概算
売上から経費を引いた金額をざっくり見て、「このペースだと年間いくらか」「税金はいくら残しておくべきか」を確認します。目安の考え方は稼いだお金、いくら残せば税金で困らない?にあります。
② 未入金のチェック
請求したのに入っていないものが無いか。3か月放置すると、督促そのものが気まずくなります(「あの入金、まだですか」を言えるようにする)。
個人事業主の資金事故は、ほぼこの2つです。利益は出ているのに納税資金がないと、売上は立っているのに入金されていない。四半期に1回見ておけば、どちらも手遅れになりません。
3つだけです。
とくに3つめが大事です。1件の分からない取引で止まった結果、その月ごと放置——これが記帳が崩れる最大の原因です。仮払金・仮受金は、そのために存在する勘定科目だと思ってください。
会計ソフトを入れていない人は、まずそこからです(会計ソフトはどれを選ぶ?)。手入力で月次を回すのは、正直かなりつらいです。
Q. 月次決算をやらないと、税務調査で不利になりますか。
なりません。求められるのは帳簿と証憑が保存されていることです。ただし、月次で締めている人のほうが説明が早く済むのは事実です。
Q. 開業したばかりで取引が月5件くらいです。それでも月次は必要ですか。
5件なら3か月に1回でも回ります。ただし証憑の保存だけは毎月確認してください。レシートは失うと戻りません。
Q. 事業とプライベートの口座が分かれていません。月次はできますか。
できますが、時間は3倍かかります。先に口座を分けるほうが早いです。
Q. 未処理をゼロにできない月があります。
翌月に持ち越して構いません。ただし3か月連続で持ち越したら、その原因(取引の種類)を1つ決めてルール化してください。同じ迷いを毎月繰り返しているはずです。
Q. 月次で利益を見ると、毎月上下して不安になります。
個人事業の月次利益は上下して当然です。売上の計上時期と入金がずれ、経費もまとまって出るためです。判断に使うなら3か月〜半年の平均で見てください。
Q. 帳簿を締めたあとに、その月の取引が出てきました。
そのまま追加で入力して構いません。個人事業主の月次締めは社内向けの作業なので、あとから直しても問題ありません。
Q. 確定申告までの全体の流れを知りたいです。
確定申告、記帳が終わったら何をする?に、決算整理から提出・納税までを時系列で並べています。
👉 毎日ちゃんと記帳しているのに、なぜ年末に決算整理が必要なの?
👉 確定申告、記帳が終わったら何をする?
👉 青色申告65万円控除の条件
👉 稼いだお金、いくら残せば税金で困らない?
👉 会計ソフトはどれを選ぶ?