接待交際費に上限はある?個人事業主は青天井、でも否認される線引き
「交際費は年800万円まで」——よく聞く数字です。
これは法人の話で、個人事業主には関係ありません。個人事業主の交際費に、金額の上限はありません。
ただし喜ぶのは早いです。上限がない代わりに、「事業に必要だったか」の判定は法人より厳しく見られます。理由も含めて整理します。
この記事の結論
– 個人事業主の交際費に上限はない(措法61条の4は法人だけの規定)
– 「1人あたり5,000円(現在は1万円)以下は交際費から除く」も法人だけのルール
– 上限がない代わりに、所法45条の家事関連費で厳しく見られる
– 1人での飲食・家族との食事・友人との会食は落ちない
– 決め手は金額ではなく「誰と・何のために」の記録
– 香典・お祝い金は領収書が出ない。出金伝票+案内状で残す
なぜ「800万円」が個人には関係ないのか
法人税には、交際費を経費にできる額を制限する規定があります(租税特別措置法61条の4)。中小法人なら年800万円まで、またはそれを超えても接待飲食費の50%まで。これを超えた分は経費になりません。
この条文は法人税法の世界の話です。所得税には対応する規定がありません。
したがって個人事業主は、事業に必要な交際費であれば金額の上限なく必要経費にできます。
ここから、有名な「5,000円基準」の誤解も解けます。
1人あたり5,000円以下の飲食費は交際費から除外できる(令和6年4月1日以後は1万円に引上げ)
これも法人の交際費の枠から外すための規定です。個人事業主にはそもそも枠がないので、5,000円でも1万円でも区別する意味がありません。「5,000円を超えたら経費にできない」と思っている人がいますが、間違いです。
上限がない代わりに、入口が厳しい
では何でも落ちるのかというと、違います。個人事業主には所得税法45条(家事上の経費は必要経費にしない)という別の関門があります。
法人が使ったお金は、まず「会社のお金」です。個人事業主が使ったお金は、もともと自分のお金です。だから「これは本当に事業のためか」を、ゼロから説明する必要があります。
判定の軸はひとつです。
その飲食・贈答をしなかったら、売上に影響したか。
| ケース | 判定 |
|---|---|
| 取引先との会食 | ○ |
| 見込み客との商談ランチ | ○ |
| 同業者との情報交換(仕事の話が主) | ○ |
| 外注先へのお礼の食事 | ○ |
| 1人での飲食 | ✗(原則。詳しくは下記) |
| 家族との食事 | ✗ |
| 友人との飲み会 | ✗(相手が取引先でもある場合は要検討) |
| 従業員との慰労会(全員対象) | ○(福利厚生費) |
| 従業員1人との食事 | △(頻繁だと給与とみなされる余地) |
1人での飲食の考え方は一人カフェ代を経費にする「境界線」で詳しく扱っています。「打合せの場所として使った」のか「食事をした」のかで結論が変わります。
決め手は金額ではなく「記録」
否認されるかどうかは、支出の中身より記録の有無で決まることが多いです。
レシートには「日付・店名・金額」しか書いてありません。足りないのは「誰と・何のために」です。これは自分で足すしかありません。
| 残すもの | やり方 |
|---|---|
| 相手の氏名・会社名 | レシートの裏か余白に手書き。会計ソフトの摘要欄でも可 |
| 人数 | 「A社 山田様・佐藤様+自分=3名」 |
| 目的 | 「新規案件の打合せ」「〇〇の納品後のお礼」 |
| 場所 | レシートに記載があればそれで足りる |
たったこれだけです。その場で30秒です。
これを1年分ためると、税務調査で「この会食は?」と聞かれたときに即答できます。逆に何も書いていないと、1年前の飲食を思い出せず、まとめて否認されることになります。
レシートそのものの扱いは領収書とレシート、経費にするならどっち?を参照してください。
交際費と会議費、分ける意味はあるか
法人では、交際費の枠に入るかどうかで税額が変わるため、この区分は重要です。
個人事業主にとっては、税額への影響はありません。どちらの科目でも必要経費です。
ただし分けておくメリットはあります。
- 交際費が売上規模に比べて突出していると、目立つ
- 「会議費」に入れるべきものを交際費に寄せると、実態より交際費が膨らむ
目安として、こう分けておくと説明しやすくなります。
| 科目 | 中身 |
|---|---|
| 会議費 | 打合せの飲み物・軽食、会議室代、打合せ場所のカフェ代 |
| 交際費 | 取引先との会食、贈答、慶弔、接待ゴルフ |
| 福利厚生費 | 従業員全員が対象の慰労会・忘年会 |
| 広告宣伝費 | 不特定多数への景品・キャンペーン |
慶弔費(香典・お祝い金)の残し方
取引先の葬儀に出す香典、開業祝い、結婚祝い。これらは事業関係者に対するものであれば経費になります。
問題は領収書が出ないことです。次で代替します。
- 出金伝票(日付・相手・金額・目的を記入)
- 案内状・招待状・会葬礼状(あれば添付)
- 金額の目安が分かるもの(社内基準を決めておくと説明しやすい)
出金伝票の書き方は領収書をなくした・もらい忘れた経費にまとめています。
なお、親族や友人への慶弔は事業と無関係なので経費にできません。同じ結婚式でも、取引先の社長の子か、自分の友人かで結論が変わります。
否認されやすいパターン
現場でよく見るものを挙げます。
| パターン | なぜ危ないか |
|---|---|
| 毎週金曜の夜に同じ店で1人分の飲食 | 実態が生活費。日常の食事と区別がつかない |
| 相手の名前がどこにも書いていない | 事業関連性を証明できない |
| 家族の人数と一致する4人分の食事 | 家族との食事を疑われる |
| 売上300万円に対して交際費150万円 | 規模に対して不自然 |
| 深夜・休日で相手が個人名のみ | 私的な会食と見られやすい |
| ゴルフ・旅行を伴う接待 | 娯楽性が高く、事業目的の説明が必要 |
とくに接待ゴルフは、プレー費・交通費・飲食まで一体で見られます。相手が取引先であること、商談の内容が残っていることが前提です。
移動を伴う場合は出張旅費・日当は経費にできる?も併せて確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 上限がないなら、いくらでも入れていいですか。
制度上の上限はありません。ただし売上規模との釣り合いは必ず見られます。売上に対して交際費の比率が高い場合、1件ずつ内容を確認されることになります。「上限がない」は「説明しなくていい」ではありません。
Q. 相手の名前を書くのを忘れました。
思い出せる範囲で今からでも書いてください。記憶が確かなうちに補記するのは問題ありません。ただしあとから一括で作文した記録は、日付や筆跡から見抜かれます。習慣にするのが結局いちばん早いです。
Q. 家族が経営する会社の役員と食事しました。
相手が「生計を一にする親族」でなく、実際に取引がある会社なら経費になり得ます。ただし実態が家族の食事なら否認されます。家族への支払いについては所得税法56条の問題もあるので、家族に払った家賃・外注費は経費にならないも確認してください。
Q. 消費税の扱いはどうなりますか。
飲食費・贈答品は課税仕入れとして仕入税額控除の対象になります。一方、香典・祝金などの現金の贈与は不課税です(対価性がないため)。商品券の購入も課税されません(非課税)。本則課税で申告している人は分けて処理してください。
Q. 従業員がいない一人事業でも福利厚生費は使えますか。
使えません。福利厚生費は従業員のための支出です。事業主本人のための支出は福利厚生費になりません。健康診断やジムも同じ理屈です(健康診断・人間ドック・ジム代は経費になる?)。
Q. クレジットカードの明細だけで足りますか。
明細だけでは「何を買ったか」が分かりません。レシートまたは領収書を残してください。カード明細は支払いの記録であって、取引の内容を示す資料ではありません。
まとめ
- 個人事業主の交際費に上限はない。800万円も5,000円(1万円)基準も法人だけのルール
- 代わりに所得税法45条で「事業に必要か」を厳しく見られる
- 判定基準は「それをしなかったら売上に影響したか」
- 1人飲食・家族との食事・友人との飲み会は落ちない
- 決め手は金額より記録。レシートに相手・人数・目的をその場で書く
- 会議費との区分に税額の影響はないが、分けておくと説明しやすい
- 慶弔費は出金伝票+案内状。親族・友人への分は経費にならない
- 香典などの現金贈与は消費税は不課税
- 所得税法37条1項(必要経費)/45条1項1号(家事上の経費)/56条(事業から対価を受ける親族がある場合)
- 所得税法施行令96条(家事関連費のうち必要経費になるもの)
- 租税特別措置法61条の4(交際費等の損金不算入。法人税の規定。定額控除限度額800万円、接待飲食費の50%、1人当たり1万円以下の飲食費の除外〈令和6年4月1日以後支出分。それ以前は5,000円〉)
- 消費税法基本通達5-2-14ほか(対価性のない金銭の贈与は課税対象外)
- 国税庁タックスアンサー「やさしい必要経費の知識」「交際費等の範囲」
- ※2026年時点の制度に基づく記事です
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