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公開日 更新日 書いた人 宍倉奎次郎(税理士) 節税・経費

回収できない売掛金をあきらめる前に|貸倒損失の3要件と青色の貸倒引当金5.5%

売上は計上した。請求書も出した。でも入金がない。

このとき、多くの人が「回収できないなら売上を取り消せばいい」と考えます。これは間違いです。売上は計上したままで、回収できなくなった分を経費(貸倒損失)にするのが正しい処理です。

そして、貸倒損失にできるタイミングには厳格なルールがあります。「もう払ってもらえそうにないから」という感触では落とせません。

一方で、青色申告ならまだ貸し倒れていない売掛金についても、年末残高の5.5%を先に経費にできる制度があります。こちらは要件が緩く、使っていない人が多い制度です。

この記事の結論
– 売上を取り消すのではなく、貸倒損失として必要経費に計上する(所得税法51条2項)
– 貸倒れが認められるのは3つの場合だけ——法律上/事実上/形式上
– 法律上:民事再生・破産・特別清算の決定、書面による債務免除 → 切り捨てられた額
– 事実上:資産状況からみて全額回収不能が明らか → 全額(担保があれば処分後)
– 形式上:取引停止から1年以上、または取立費用に満たない少額 → 備忘価額1円を残して貸倒れ
– 形式上の貸倒れは売掛債権だけ。貸付金には使えない
– 青色申告なら貸倒引当金=年末の貸金残高×5.5%を計上できる(金融業は3.3%)
– 貸倒引当金は事業所得のみ。不動産所得の一括評価はできない
– 貸倒引当金は翌年に全額戻し入れる(洗替え)

まず:売上を取り消してはいけない

やり方 正しいか
回収できないので、売上をマイナス計上する ×
回収できないので、貸倒損失を計上する ○

売上の取消しが認められるのは、契約が解除された・返品されたなど、売上そのものが無かったことになる場合です。「相手が払わない」は売上が無かったのではなく、債権が回収できなくなったということです。

処理が違うと、消費税の扱いも変わります。取消しは売上のマイナス、貸倒れは貸倒れに係る消費税額の控除という別の規定になります。

貸倒損失が認められる3つの場合

① 法律上の貸倒れ(所得税基本通達51-11)

法律によって債権が消滅した場合です。この場合は、切り捨てられた金額をその年の必要経費にします。

事由 経費にする金額
会社更生法・民事再生法の認可決定 切り捨てられることになった部分
会社法の特別清算に係る協定の認可決定 同上
債権者集会の協議決定(合理的基準による整理) 同上
行政機関・金融機関等のあっせんによる協議決定 同上
債務超過が相当期間継続し、弁済を受けられないと認められる相手への、書面による債務免除 免除した額

書面による債務免除は自分から動けるので、実務でよく使います。ただし「債務超過が相当期間継続していて、弁済を受けられない」という実態が前提です。回収できる相手に対して債務免除をすると、寄附金や交際費とみられます。内容証明郵便など、通知した証拠を残してください。

② 事実上の貸倒れ(所得税基本通達51-12)

債務者の資産状況・支払能力からみて、全額が回収できないことが明らかになった場合です。

ポイント 内容
金額 全額(一部だけ落とすことはできない)
担保物があるとき 処分したあとでなければ計上できない
保証人がいるとき 保証債務の履行を求めたうえで判断する
必要な証拠 破産手続開始決定、行方不明の資料、資産調査の記録、内容証明の不着など

「全額回収不能が明らか」という判定はハードルが高く、感触では通りません。相手が破産した、行方不明で連絡が取れない、といった客観的な事実が要ります。

③ 形式上の貸倒れ(所得税基本通達51-13)

いちばん使いやすいのがこれです。

パターン 要件 経費にする金額
取引停止から1年以上 継続的な取引をしていた相手で、①取引停止、②最後の弁済期、③最後の入金——のうち最も遅い日から1年以上経過。担保物がないこと 売掛債権の額 −備忘価額1円
少額・取立費用倒れ 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が、取立費用に満たない。督促しても支払われない 同上

形式上の貸倒れには3つの制約があります。

  1. 売掛債権に限る。貸付金・立替金・仮払金には使えません。
  2. 継続的な取引をしていた相手に限る(1回きりの取引先は原則不可)。
  3. 備忘価額1円を残す。全額を落とすと処理が誤りになります。

「1年以上放置していた売掛金」は、この規定で処理できる可能性が高いものです。過去の残高をそのままにしている人は、一度棚卸ししてください。入金消込の運用は請求書の入金消込を参照してください。

仕訳と、計上する年

売掛金33万円が形式上の貸倒れに該当する場合。

借方 貸方
貸倒損失 329,999 売掛金 329,999
(売掛金の残高に1円が残ります)

※この1円が備忘価額です。経費にはしません。

計上する年は「事実が発生した年」に固定されます。去年1年以上経過していたのに今年落とす、はできません。気づくのが遅れた場合は更正の請求(原則5年以内)です。

青色申告の貸倒引当金——年末残高の5.5%

ここからは貸し倒れていない債権の話です。

青色申告者は、年末に残っている売掛金・受取手形などの合計額に5.5%を掛けた金額を、必要経費にできます(一括評価)。

項目 内容
使える人 青色申告者で、事業所得を生ずべき事業を営む人
繰入率 5.5%(金融業は3.3%)
対象 年末の売掛金・受取手形・貸付金など(貸金)
手続き 青色申告決算書の該当欄に記載
翌年 全額を総収入金額に戻し入れる(洗替え)

何が対象になるか

対象になる 対象にならない
売掛金 前渡金・手付金
受取手形 保証金・敷金
貸付金・未収入金(事業に係るもの) 仮払金のうち貸金でないもの
立替金(事業に係るもの) 生計を一にする親族に対する債権
すでに個別評価の対象にした債権

「洗替え」の意味

貸倒引当金は、翌年に全額を収入へ戻します。

1年目 2年目 3年目
年末の売掛金 1,000万円 1,000万円 1,200万円
繰入(経費) 55万円 55万円 66万円
戻入(収入) — 55万円 55万円
差引の効果 ▲55万円 ±0 ▲11万円

つまり、効くのは初めて計上した年だけです。2年目以降は、売掛金が増えた分だけ効きます。それでも初年度に55万円が動くのは大きく、しかも現金は1円も出ていきません。青色申告なら必ず使ってください。

売掛金がまったく発生しない業種(現金商売のみ)では使えません。青色・白色の差は青色申告と白色申告の違いにまとめています。

この記事で扱う範囲について
この記事は回収不能になった債権の税務上の取扱いを扱っています。売掛金の回収そのもの——内容証明の作成代理、支払督促・少額訴訟の申立て、債権譲渡、相手方との交渉代理——は弁護士(または認定司法書士)の業務です。税理士が代理して取り立てることはできません。また、相手方の破産手続の進行状況や配当の見込みは、裁判所・破産管財人からの通知で確認してください。この記事の「書面による債務免除」は税務上の要件を説明したもので、法的な債権放棄の効果や書面の書き方については弁護士にご相談ください。

消費税はどうなるか

課税事業者の場合、貸倒れになった売掛金に含まれていた消費税は、貸倒れになった課税期間の売上税額から控除できます(消費税法39条)。

状況 消費税
課税事業者(本則課税) 貸倒れに係る消費税額を控除できる
課税事業者(簡易課税) 控除できる(簡易課税でも貸倒れの控除は適用される)
2割特例を適用 貸倒れに係る税額の控除は適用される
免税事業者 関係なし

控除を受けるには、貸倒れの事実を証する書類の保存が必要です。

赤字になったら

貸倒損失が大きくて事業所得が赤字になった場合、青色申告なら翌年以後3年間繰り越せますし、前年も青色なら前年に納めた所得税を取り戻すこともできます。赤字の年こそ申告する——純損失の繰越控除と繰戻し還付を参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 「たぶん回収できない」という段階で経費にできますか。
できません。3つのいずれかに該当する事実が必要です。ただし、青色申告なら貸倒引当金5.5%で一部を先に落とせます。これが引当金の存在理由です。

Q. 白色申告ですが、貸倒引当金は使えますか。
一括評価(5.5%)は青色申告者限定です。ただし貸倒損失そのものは白色でも計上できます。また、個別評価の貸倒引当金(更生手続中の債権など)は白色でも一定の場合に認められます。

Q. 不動産の家賃が回収できません。同じ扱いですか。
貸倒損失は不動産所得でも計上できますが、事業的規模でない場合は、その債権に係る収入があった年の所得を限度として遡って計算するという特別な扱いになります(所得税法64条1項)。また一括評価の貸倒引当金(5.5%)は事業所得限定で、不動産所得では使えません。

Q. 1年以上経過した売掛金が10年前から残っています。今から落とせますか。
本来は1年経過した年に計上すべきものです。厳密には更正の請求(原則5年以内)の対象で、それより前のものは救済されません。ただし、実態として今も回収可能性を追っていたのであれば話は変わります。金額が大きい場合は個別に相談してください。

Q. 個人のお客様への売掛金(未収)でも形式基準は使えますか。
「継続的な取引を行っていた債務者」であることが要件です。1回きりの取引の相手には原則使えません。ただし、その相手に対する債権が取立費用に満たない少額であれば、もう一方の要件で処理できる場合があります。

Q. 貸倒引当金を計上したら、税務調査で見られますか。
5.5%の一括評価は法令どおりの計算なので、問題になるのは「対象にならない債権を含めていないか」です。前渡金・保証金・生計を一にする親族への債権が混ざっていないか確認してください。もう一つ、同じ相手に買掛金や借入金があるときは注意してください。売掛金のうちその買掛金などと重なる金額は、実質的に債権とみられない部分として5.5%の計算から外します(所得税法施行令145条1項)。

Q. 相手が「払う」と言い続けて何年も経っています。
弁済の意思表示があると、形式基準の「最後の弁済の日」が更新される可能性があります。ただし口約束だけで入金がない状態が1年以上続いているなら、取引停止として整理できる余地があります。事実関係の記録(メール・通話記録)を残してください。

まとめ

  • 回収不能でも売上は取り消しません。貸倒損失として経費にします
  • 認められるのは法律上/事実上/形式上の3つの場合だけ
  • 形式上(取引停止から1年以上)が最も使いやすいです。ただし売掛債権限定、備忘価額1円を残します
  • 事実上は全額回収不能が明らかであること。担保があれば処分後
  • 書面による債務免除は自分から動けるが、実態が伴わないと寄附金扱い
  • 青色申告なら年末の貸金×5.5%を貸倒引当金として経費にできます(現金は出ません)
  • 貸倒引当金は事業所得のみ。翌年に全額戻入れ(効くのは初年度)
  • 課税事業者は貸倒れに係る消費税額の控除も忘れずに
  • 計上する年は事実が発生した年。遅れたら更正の請求

この記事の主な根拠(出典)

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払っていなくても今年の経費になるもの——未払費用の計上漏れ
請求書を出したあと——入金消込と売掛金の管理
決算整理はなぜ必要?
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